ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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運命

マーニャとフュリーの家系は代々女性は天馬騎士として、男性は優秀な魔道士を排出する名門であった。時には王族との婚姻関係がある程でパメラやディートバ、クブリも数代追えばふたりと血縁関係であるだろう・・・。

その本家がマーニャ達の親の世代で2人の女の子が出来て間も無く両親が流行病で命を落としてしまったのだ。後継が産まれず親戚も同様に男子に恵まれなかった事でお家取り潰しを迎え、2人は幼くして貴族階級を剥奪され遠い親戚に預けられようとしていた。

ラーナは使用人の様に惨めな末路を悲観し王族の反対を押し切ってまで2人を城へ迎え入れたのである、ラーナもまたかつては2人の遠い血縁関係、黙って静観などできなかったのだ。レヴィンの良き友となってくれる事を期待し、三人を分け隔てなく育て今や自分の娘とまで思える程愛おしく感じていた。

 

マーニャはそのラーナの為なら自分の命を賭ける事に後悔などは微塵もなかった。シレジアの騎士として、ラーナに対する恩と義の為になら喜んで死地に向かおう、そう心を決めて天馬騎士の道へと進んだのだ。

まさに今その決意を示す時なのだ・・・、クロードから運命を聞いたマーニャは喜びに震えていた。マーニャはその運命の中では最後まで命を賭けて戦場に臨んでいた事が何よりも誇りである、そして悔やまれるのが敗走している事であった。その運命を変えて必ずラーナとクロードの心を救いたい、彼女はそうまで考える様になっていた。

 

バイゲリッターとの決定的に不利であった激戦は、クブリの機転を効かせた魔法援護で互角へと変貌したのである。それはその激戦が始まる数分前の事であった。

 

『クブリ、ブリザードはやはり砂漠では使えないのですか?』

 

『残念ながら、イード砂漠はシレジア国外なのでセティ様の力が及びません。大気変化を起こす遠隔魔法は発動しないでしょう。』

 

『では、大気変化は出来なくても風だけなら遠方地に引き起こす事は出来ないかしら。』

 

『風を起こすくらいなら出来なくは無いですが、敵を仕留められる様な物では有りませんよ。・・・あっ!』クブリはマーニャの意図に

気付いた。砂塵による目眩し、でもそれは双方共に障害になり戦闘になどなる筈が無い、そうクブリは思っていた。

 

『大丈夫です、私達は冬の雪嵐の中でも戦える訓練を人馬共々訓練しています。

私達よりも弓を扱う騎士達の方が目に頼った戦いをしているはず、そこを突けば必ず勝機は見えてきます。』

 

『わかりました、早速準備に入ります。・・・懸念ですが、勝手が慣れない魔法な上に魔力が枯渇しかかっている者もいます。奴らの視界を完全に奪う程の支援は一回と思って下さい、その合図もマーニャ様にお願いしたいと思います。』

 

『わかったわ。発動はぎりぎりまで引き付けます、私の合図無しに発動はしないでね。』

 

 

このやり取りで得た作戦は功を奏し、どちらが勝利してもおかしく無い程肉迫していた。接近戦に持ち込めた天馬騎士の方が機動に優れ、弓を下手に放てば味方に当ててしまう恐れもありバイゲリッターの動きは明らかに低下していた。数的不利でもあった天馬騎士だがそれすらも並ぶ程の活躍にマーニャは味方を讃え鼓舞していった、これで運命を変えられる。その希望の光が一筋見えようとしていた、この瞬間までは・・・。

マーニャはとうとうバイゲリッターを束ねるアンドレイを捉え、銀の剣が彼の眼前を一閃する。辛うじてアンドレイは馬の背にも関わらずスウェイバックし難を逃れるが髪を切り裂かれて落馬する。

マーニャは再び旋回してアンドレイへ迫ろうとするが高度を取った為、取り巻きが牽制の射撃で大きく回り込む事となり追撃は出来なかった。アンドレイはその隙に再び馬上に戻りマーニャを恨みがましく睨み付けた。

 

「あの女!よくも俺の髪を!俺の弓で引き摺り下ろして、女に生まれてきた事を後悔させてから殺してやる!!」バッサリと眉上から綺麗に前髪を落とされ無様な醜態を晒したアンドレイの怒りは怒髪天を衝く程であった。

 

「お、落ち着き下さい。このままでは奴らの思う壺、ここは撤退を・・・。」

 

「馬鹿者!ここは砂地の足場だぞ、敵前で背を向けても不名誉で死ぬだけだ!!・・・この視界の悪さを利用する、全員陣形をとり直せ!!」アンドレイは頭に血は上っているが戦局は見据えている、視界の悪い戦にそれなりの作戦を見いだしつつあった。

 

 

 

「みんな!魔力が落ちてきているぞ!!もう少し頑張ってくれ!!」クブリは取り巻きの魔道士を達を必死に奮い立たせるが既に数人の魔道士は肩で息をしており性も根も尽き果てていた。シルヴィアが必死に魔法の踊りで疲労を回復させてもすぐにバテてしまいマーニャの期待する程の砂塵を起こせていない・・・、このままでは全容を視認されれば勝ち目はない。そんな中でクロード神父は二度目のリザーブを放ちマーニャ隊の生命を繋ぎ止めていたこの二つの支援がなければマーニャ隊は既に瓦解していただろう。

しかし魔力は体力のように鼓舞してどうにかなるものではない、精神は弱れば魔法の奇跡は鳴りを潜めてしまうのだ。シルヴィア自身も体力と知らず知らずの内に魔力を使って他者の体力と精神力を回復させている、クロード神父と二人魔力が尽きればマーニャの命運も危うくなる・・・。

マーニャ!早く倒してくれ!!

彼女がひかない今、願う事は皆同じであった・・・。

 

 

 

彼らの想いと裏腹に時間はなかなか経過しなかった、1分がこんなに長く感じとは・・・。既に魔力は尽き果ててクブリもシルヴィアも既に立っていることも出来ずに静観するしかなかった、クブリは歯を食いしばって己の未熟さを痛感していた。

クロードのみもう数える事をやめるくらいリザーブを使用して彼女達の命を繋ぎ止めているのだ、この内戦からクロードもかなりの魔力を使ってきてはずなのにその無尽蔵とも思えるその魔力の強大さに敬服する。

賢者の称号を賜り、自他共にシレジアを代表する魔道士に辿り着いたと思ったがそれはちっぽけで浅はかな自惚れでしかなかったのだ・・・。これだけの力を持ちながらクロードは悩み苦しむ姿を何度となくみていたが、ようやくその一端が見えたような気がしていた。

強大な力を持っていても、運命を変える事は出来ずにいつしかその力に失望した結果が今のクロードがあるようにクブリは思ってしまった。だからこそマーニャはそのクロードを後押ししているように感じた・・・。

 

祈るようにリザーブを放出していたクロードの目が突然開かれる、その顔に生気はまるで感じない・・・。聖遺物である杖が手から離れ数歩よろよろと歩み・・・。

 

「マーニャ!ダメです!!それ以上は行ってはなりません!!」クロードはあらん限りの声量を発したのだ、その悲壮な叫びは遠く砂漠に響いていくが既に運命の時が訪れようとしていたのである・・・。

 

 

 

「かはっ・・・!」マーニャは不意に自身の胸に手を当てる・・・。一本の矢がプレートメイルを突き破って深々と刺さったのだ、すぐ様溢れ出た血が肺に溜まりマーニャは吐血する。

ぐらりと平衡感覚を失うとファルコンの背から、堕ちた・・・。

遠目から見れば彼女の身体はまるで小さな小鳥が羽を失ったかのように小さなシルエットが放射物を描くように、夕方の空を舞っていた。

クロードはすぐ様、落とした聖杖で招聘魔法を発動させる。意識を失った彼女ならば意識で跳ね除ける事はない、だが絶命していれば彼女をここへ飛ばす事は出来ない。

生きていてくれ!クロードは荒れる心を必死に押さえつけて招聘を完成させた。彼女の身体は砂漠に落下する前にクロードの腕に優しく抱かれた・・・。

 

「神父様・・・。」

 

「マーニャ!今回復させますからね!!」クロードはすぐ様リカバーの準備に入るが、マーニャはその杖に手を添えて首を振る。

 

「心臓を、貫いているわ・・・。」

 

「そ、そんな・・・。」クロードは言葉を失うが、マーニャはかすかに笑っていた。

 

「なぜ、生きているのでしょうね・・・。きっとブラギ様が運命を抗ったご褒美に神父様とお話しする時間を下さったのかもしれませんね。」マーニャの言葉にクロードは手を握り涙を伝わらせて無言で頷いた。

 

「神父様、あなたの言う通りになりましたね。・・・やっぱり、凄い人です。」

 

「何を言うのです、マーニャあなたの方が余程強き御仁です。運命を最期まで抗ったあなたの方が聖戦士を語るに相応しい方です。」クロードの言葉にマーニャは一筋涙を流した。

 

「嬉しい・・・。神父様に褒められたのなら、もう私は思い残す事はありません。フュリーの産まれてくる子供を一度抱いてあげたかったけど、仕方ありませんね・・・。さようなら、クロード様・・・・・・生きて、くだ・・・。」彼女は消えていくように言葉を終わらせ、全身の力が抜けて行く。

 

クロードが叫んだと同時に、戦場では大きな暴風が発せららた。神秘の緑風が砂漠に立ち起こりバイゲリッターはその中で、消し飛んで行く・・・。

 

「あ、あれは・・・。フォルセティ、レヴィン様がお使いなられたのですね・・・。」クブリは砂漠に起きる風の奇跡をマーニャの亡骸を見ながら呟いた。

レヴィン様はフォルセティを与えられたが、使いこなせていなかった。その強大な魔力に翻弄され抑え込む事も出来なかったのだが、マーニャの一件でその力を使いこなせる事になったのだろう。かけがえのない犠牲を伴って・・・。

 

 

 

クロードはマーニャの亡骸をそっと砂漠の上に置く、手を胸の前で組ませると聖遺物を握りしめその力を解放させ始めた。

 

「クロード様?な、何を・・・。」クブリが呟いた瞬間クロードの瞳が金色に輝くと、杖をマーニャに翳して先ほどのフォルセティよりも上回る凄まじい魔力が発せられたのだ。

その黄金の魔力は体から溢れ出し、杖が見た事もないくらいの眩さを発し出す。

クブリもあたりの魔道達もその圧倒的な魔力に吹き飛ばされ尻餅をつく、なんとかその奇跡を垣間見ようと砂塵で荒れ狂う中心を見ようと必死に追いかけていた。

 

「あ、あれがクロード様の聖戦士の力・・・、最大顕現まで昇華すれば死者すらも蘇生する唯一の魔法・・・。」

 

「じゃ!じゃあマーニャさん助かるの!!」シルヴィアは涙に濡れた頬をぬぐいながらクブリに食らいつく。

 

「わかりません、私は伝承を見返していてもバルキリーの杖が死者を生き返らせた例を見た事がありません。」

 

「お願い!マーニャさんを生き返らせて!!クロードさん!!」シルヴィアはその場で祈りを捧げる、クブリは彼女の健気さに頰が少し緩んでしまう。彼女の清らかな祈りはまるでクロードと同じ様で、神話に出てくる一節のような神々しさに溢れていた。

彼女の体からもクロードと同じ様に金色の瞳が発現し、わずかな魔力がクロードを後押しするかの様である。

 

「シルヴィアさん、貴方は一体・・・。」クブリの直感が脳内で一つの可能性を生みつつあった。

 

 

 

私は馬鹿だ・・・、なぜ今まで気づかなかったのだろうか?

クロードは魔力を解放しながら心で叫んでいた。

私は人生ずっと悩んでいたその答えを手にしていたのに・・・、かけがえのない人を失った瞬間に理解するなんて・・・。私は大馬鹿者だ!!

彼女の生きる道の先に私の答えがあったのだ。彼女の言葉一つ一つが私の答えであったのに、私は聞いている様で聞いていなかったのだ。

彼女の強さ、健気さ、優しさ、厳しさ、そして愛おしさ・・・。

彼女の正しい心が、一点の曇りのない心がこの絶望の運命を変えて行く一石だったはずなにのに、私は取りこぼしてしまったのだ。

 

ブラギ神よ・・・、この大馬鹿者を少しでも憐れむ気持ちが、慈悲があるのなら・・・。我が声を聞き入れてくれ!!

 

私の命に変えても、彼女を救いたいと言えば彼女は怒るだろう・・・。だから!私の今までの信仰の全てを賭けて、彼女を救ってくれ!!

 

クロードはさらに黄金に光る魔力を放出して祈りを捧げる、無意識に発せられるその詠唱はまるで歌の様で砂漠の空気を震わせる様に響く。この声に辺りの者達は心を鼓舞され、失われた魔力が再び蘇る様に体に力が入って行く。

 

「こ、これは?」へばっていた魔道士達が起き上がり変化する体に戸惑いをかくせない。

 

「聖歌だ。正しき戦いを讃え、味方する者に勇気と魔力が呼応する。敵対する者はその勇ましさに震え、戦慄すると言われている。」

 

「レヴィン様・・・。」

 

「クブリ、済まなかった。俺が未熟なばかりにお前達には迷惑ばかりかけてしまった。」

 

「いえ・・・。マーニャ様は助かるのでしょうか?」

 

「・・・クロード神父は答えを見つけた様だ、きっと歴代のブラギの代弁者とは違う結果になると信じている。」

 

「・・・!では、やはり・・・。」

 

「一度も成功した事はなかったそうだ・・・、聖戦の伝承では黒騎士ヘズルがリカバーも効かぬほどの瀕死を初代ブラギ様が癒した事が一番の貢献だったらしい。今回は完全に死者となっているが、クロード神父はやり遂げると俺は思っている。」

 

「・・・はい、信じましょう。私もブラギに祈りを捧げます。」クブリの言葉にレヴィンは力強く頷く、後からやってきたマーニャの天馬部隊もこの地に降り立つと同じ様に両膝を地につけ胸に手を組んで祈りを捧げていた。

シルヴィアは祈りからクロードの歌に合わせて踊り始めた、その踊りはどこか神々しく発する魔力が黄金の衣装に着替えたかの様である。

 

絵師がいればこの姿を描きたくなるだろう、この歴史に刻まれる大業に皆が奇跡を共有する。クロードの歌が止み、シルヴィアが踊りのフィナーレを見せた時、マーニャはゆっくりを瞼を開け起き上がったのである。クロードはすぐ様彼女を支えて肩を貸したのだ。

その瞬間、歓声と悲鳴が起き上がり戦場とは思えない雰囲気を発していた、失われた希望が息を吹き返し再び運命に立ち向かう聖戦士の誕生に、世界が震えた瞬間であっただから・・・。

 

 

「マーニャ、よく帰ってきてくれました。あなたの強い意志がこの地は戻る事を許されたのですよ。」

 

「でも、私の為に聖杖が・・・。」クロードの持つ聖遺物は死者蘇生に全ての力を失い、光の粒子となって掻き消えていく・・・。もうクロードの世代に聖遺物は姿を表す事はないだろう、言い換えればマーニャを助けた為に他の人を救う術を失った事になる。

 

「いいんです。あなたがここに帰ってきてくれた事が、私の願う運命だったのですから。」クロードはマーニャに笑い、翠の髪と頰に手を添えて言う。

 

「私と共に運命を共にして下さい、最後まで私も出来ることから足掻いて抗っていきます。あなたの言葉が、私の指針です。」

 

「神父様・・・いえ、これからはクロードと言わせてもらいますね。」

 

「はい!なんなりと・・・。」二人の絆はより強く輝いていくのである。

 

マーニャをすくった奇跡が遠い未来、運命を切り開いたこの事象により絶望となったユグドラル大陸を救う一端となる事を誰もが知る由はないのである。




感情移入してしまいました。
自分で描いているのに、こうして文字として起こしますと情景を想像してしまいうるっとしてしまいました・・・、年取りましたねー。

マーニャを助けるシーンは脳内では聖戦の系譜で使われている悲しいシーンに出てくるBGMが流れてました。

ご感想がありましたら、是非お願い致します。

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