ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

78 / 107
更新が遅くなりましたすみません。
三月の期末で忙しい時にファイアーエムブレムヒーローズに手を出してハマり、睡眠と休日を削ってしまいました。
四月になり、繁忙期を乗り越えましたので再び再開したいと思います。


明暗

「何だって!マーニャ隊が砂漠へ?」リューベックへ転移したレヴィンはザクソンへ引き返そうとしているベオウルフから事情を聞いてイード砂漠へと急ぐ、彼女の考える事はおおよそであるが検討がついていた。負ける気はしないが先導して退路を確保する為に名乗り出たんだろう・・・。

 

「俺にも、パメラやディートバを引き離したのはこれが目的か・・・、マーニャの奴め。」レヴィンは戦場へと疾走する、フォルセティを得たレヴィンの走る速度は常人を遥かに凌駕していて彼のお付きの魔道士達はとうに振り切れており独走していた。砂塵を引き起こしながら疾走するレヴィンは穏やかでありながら気持ちは焦っていた、動揺する気持ちを必死に抑え、戦場へと急ぐ。

徐々に視認できつつあるマーニャ隊はグランベル騎士団の回生を狙う作戦にまだ気づいていなかった。

 

「不味い、奴らも捨て身の賭けに出ている。迂闊に飛び込めばマーニャ隊は・・・。」レヴィンは騎士団の作戦を先読みできていた。

視認が怪しいならマーニャ隊がとどめを狙う突撃の瞬間、至近距離まで引きつけての一斉射撃に切り替えていた。

 

彼方からマーニャ隊を諌める声が聞こえる中、レヴィンは必死にフォルセティを発動させようと懸命になる。

魔力を発動させるが、訓練と同じで魔力が荒れ狂う暴風に変わるばかりでとても使い物にならない、レヴィンは自身の風に吹き飛ばされてしまう。

 

「なぜ俺には使えない!俺に何が足りないんだ!!」砂地に両腕を叩きつけてその場で苦悩する、時間か惜しいレヴィンは再び走り出しながら自身を責める。頭を砂地に打ち付けた時不意に母親であるラーナの言葉が思い出したのだ・・・。

 

「レヴィン、風の聖戦士は風のように穏やかに流れ世界を暖かく導く存在です。

決して自分の為に風を起こすのではなく人々の悲しみを知り、人々の為に使いなさい。その気持ちがあれば自ずとあなたの血が、フォルセティの力を正しく導くでしょう。」

何度反芻してもこの事態を切り開く事に繋がるのか・・・、レヴィンは必死に母の言葉を考え続けた。

 

「マーニャ、生きて欲しい!何よりフュリーの為に・・・、お前が死ねばフュリーの血縁はいなくなるのだぞ!!」レヴィンは歯を食いしばって言い放つと再び疾走を始めた。

 

 

「放て!!」アンドレイの号令と共に天馬騎士を限界まで引きつけた至近距離からの一斉射撃を行なった。

この強弓に天馬騎士は夥しい被害を受ける事となる。天馬を貫いて騎士にまで被害が出る程の者であり、さらに半数近くの騎士が天馬を失い地面に叩きつけられ、その中の数人が命を失う事となった。

マーニャは間一髪難を逃れたが、アンドレイの執念は本物であった。

あの突撃の中でマーニャの存在を認識し、追撃の一撃を見舞ったのである。

マーニャはその必殺の一撃を受け、地に落ちようとしていた。

 

「ふはははは!堕ちろ!そして死ね!!」狂気に狂うアンドレイ、マーニャを失った事で瓦解する天馬騎士は戦意を急速に衰えていくがバイゲリッターの追撃はまだ終わらなかった。

 

「今度こそ止めだ!堕ちろ蚊トンボ供!!」アンドレイの号令が再び始まる、上空に向けて標準を合わせた時緑風の暴風が現れたのだ。

 

「な、なんだこの風は!?」

 

「アンドレイ様、あちらです!!」

 

すぐ先にはレヴィンがいた・・・、その表情は怒りではなく悲しみに満ちた表情である。それとは裏腹にまとう魔力は優しく微風が彼を撫でており、まるでレヴィンに風が意志を持って慮っているかのようである。

 

「これが風の奇跡フォルセティか・・・、優しく温かい・・・。」

レヴィンはマーニャを失った喪失感で心が張り裂けそうになるが同じく悩み苦しんでいる聖戦士がマーニャを回収してくれた、彼なら必ずマーニャを救ってくれる。なぜか確信をしていたのだった。

今はこのフォルセティを解放した時こ自身の心境の変化に身を委ね、力を正しく使う事に集中していたかった。

 

「な、なんだ・・・。あいつは・・・。」アンドレイはレヴィンの異質さに驚きを隠せない、配下の一斉掃射の弓が一本もレヴィンに届かないのだ。彼を守るようにまとう風が矢をレヴィンから守り、叩き落とされていた。

 

「あ!あれはシレジアのレヴィン国王です!!国王自らここまで・・・。」アンドレイの側近が看破すると、彼は狼狽する。

レヴィンは聖戦士の直系・・・、父親のリングから散々に聞かされた言葉がある。

 

「聖遺物を持つ聖戦士とは戦うな、持たざる者は死しかない。」彼の心の中には殺害した父親の教えが未だに残っていた。末っ子として生まれた為に嫡男であるはずなのに彼が聖弓イチイバルを扱う事は出来ず、父は姉であるエーディンにブリキッドの生存を信じて弓を託してイザークに出陣した、アンドレイが父に殺意を覚えたのはその時だった。

彼は行軍中にランゴバルドとレプトールが不穏な動きを察知する。彼は心の闇に侵食された事でレプトール達の思考と似通った立場になり、父はおろかバイロンやクルトよりも先読み出来たのだ。

 

マリクル王子とバイロンとクルトの会談会場をランゴバルドが襲撃すると尾行していた部隊からの情報を受けて、アンドレイは同日の同時刻に父を抹殺したのだ。

レプトールもランゴバルドもアンドレイを非難する事は出来ない。彼は二人の弱みを握りながらも自身の弱みを見せる事で、ある種の運命を共有した者達となり、帰国してからも互いに互いの傷を埋め合う抜き差しならぬ存在になったのであった。

その巧みなアンドレイの立ち位置によりシアルフィ家は裏切り者のレッテルを貼られて没落し、嫡男であるシグルドは国外亡命となり、シアルフィ家と親交が深かったユングヴィはアンドレイの巧みな政治手腕でお咎めなし、当主になり得たのだった。

順風に事を進めていたアンドレイであったが不穏な事を耳にする。エーディンがブリキッドを見つけ出し、イチイバルの弓を引けたというのだ。彼女がもしグランベルに帰国すればアンドレイの今までの事は水泡に帰してしまう。

彼はシレジアの内乱中に2人を抹殺する事のみを考え、シレジアの反乱軍からの応援要請が出されるや否や出し渋りを考えるレプトールを他所に出陣したのだ。

 

 

 

レヴィンはまだ聖遺物を扱いきれていないと聞いていたが、この雰囲気を見るにそうとは思えなかった。

アンドレイは父の言葉を否定し強弓を引き絞りレヴィンへと放った。バイゲリッターを率いる当主の弓は強力で風の保護を受けているレヴィンでも止める事は出来ず、初めてレヴィンは身体を動かして回避した。

 

「シレジアのレヴィン国王とお見受けする!!私はユングヴィ家当主のアンドレイだ、シレジア国王とは露知らず誤射してしまった事は謝罪しよう。」

 

「いかにも・・・、貴殿達は如何様でシレジアに入国を画策している?これ以上先に進むのであれば相応の覚悟をしていただく事となるぞ。」

 

「我らはマイオス公から内乱鎮圧の要請を受けて馳せ参じた!それを天馬騎士をけしかけるとは如何なる了見であるのかお聞かせ願いたい。」

 

「マイオス公こそ内乱の首謀者である、彼の要請でここに来られたのであれば引き返していただきたい。」

 

「ならば!彼の首を持ってそれを証明してもらおう!!我らもシレジアとの義によって馳せ参じて、これほどの無礼を受けては納得出来ぬ。」

 

「無礼、だと?

アンドレイ公、無礼なら貴殿とグランベルにある。我が母はシグルド公子に擁護する書簡を送っているが一切の返答はなく、交易もグランベル側から一切を止められたままだ。それを今更義によって馳せ参じたとは勇み足にも程があるのではないか?」

 

「レヴィン王!!口が過ぎるのではないか、そのような挑発をすればどうなるのか知っての事か!!」

 

「どうなるというのだ?アンドレイ公、貴殿は我が天馬騎士団を蚊トンボ呼ばわりした無礼者だ。今更貴殿に取り繕う必要もない、シレジアの怒りを受けて見るんだな。」

 

レヴィンは本格的にフォルセティに魔力を送り出す・・・。

優しく彼を包んでいた風はみるみるうちにアンドレイを敵視したように荒々しく吹き荒れ始めた。徐々に突き刺さるような強い風がアンドレイを襲い始め、馬上にいることすら困難になる。ましてや弓など弾ける状態ではなかった。

 

「てっ、撤退を・・・。」今度こそ不味いと判断した側近はアンドレイに再度提案するが、その言葉は遅くレヴィンの魔法は完成する。

 

「フォルセティ」突き出された右手を合図に緑風の暴風がバイゲリッターを襲う、その嵐をゆうに超える風の暴力は砂上に立つ者全てを飲み込み払っていく・・・。

 

 

「ここまで、とはな・・・。」レヴィンはその聖遺物の強大さに改めて感心してしまう。

レヴィンの感覚的に言えば室内に入り込んだ蝿を手で追いやる程度の気持ちであった。殺すつもりはなく、この場から退散してもらう気持ちで使ったフォルセティは遥か後方までバイゲリッターを吹き飛ばす事となった。

レヴィンの目前には綺麗に掃除されて砂地のみとなっていた。

 

「マーニャ・・・。」レヴィンは精神を集中させ、マーニャの元へと転移するのであった。

 

 

 

 

「久しぶりだね、レーガン・・・。風の噂で君が暗殺者になっている噂を聞いた時は耳を疑ったけど、ホントなんだね。」

レーガンの身振りや装備品を見てデューは語りかける、レーガンはただデューの言葉に無言で見るのみであった。

地下坑道では相手の存在は捉えても表情は読み取れない・・・、灯は互いに持つ光源のみである。それでもデューの夜目はその存在をレーガンだと思っていた。

 

「デューさん、お久しぶりです。変わってないようで何よりです。」

 

「君は随分と変わってしまったようだね・・・。」

 

「・・・デューさん。ここは黙って退いてくれませんか?

俺はあんたを殺したくない・・・。」レーガンは短刀を抜いてデューに威嚇する、殺気は出ていないがその短刀の見事さに気を緩めれば一瞬で絶命させられるのであろう・・・。

 

「やめなよ、レーガン・・・。その怪我で僕に勝てると思ってるの?」レーガンはセイレーン襲撃の際にレイミアからの渾身の一撃を受けて深手では無いが腹部を負傷している。普段では徐々に回復するのであるが、黒曜石の剣は魔力を断つ特殊な素材で出来ている為暫く回復が始まりそうになく、帰還を余儀なくされていた。

 

「変わったのは姿形だけではない、強さは本当に・・・。」ここまで言った途端彼は姿を消す、デューはその超反応を微かな気配のみで読み取り頭上からの一撃を風の剣で受け止めた。激しい剣戟が響き、火花が散る。

デューはすぐ様体を変えてレーガンの足が着地する寸前で再度打ち込み、押し切って距離を取らせた。

 

「その視界から消す技術も短刀術も僕が教えたものだよ、僕が見切れないとでも思った?」デューが珍しく怒りを露わにしている、風の剣を振りかざすとレーガンに真空の鎌鼬が襲いさらに腹部へ痛手を与えた。

 

「がはっ!!」レーガンは吹き飛ばされて闇へと消えていき、気配も消える。再び闇に紛れて暗殺術を駆使するつもりだろう・・・。デューは再び精神を研ぎ澄ます。

 

一時の静寂が訪れる・・・、しかし互いの精神は極限まで緊張を強いられていた。何処からか滴る水が岩を穿つ音まで聞こえてくるほどに2人の服擦れする音すらなかった、互いに移動しているのにも関わららずである。

 

「!!」デューはレーガンを捉える、痛みで一瞬口内でくぐもらせた喘ぎをデューは見逃さない。その場からジャンプしてレーガンに上段からの切り込みをする、レーガンも空気を切り裂いて迫るデューに感知し短刀二本で受けとめて静寂が一転し激しい剣戟が鳴り響いた。

力比べとなり2人の動きは硬直する。

 

「何年振りですか・・・、ガネーシャを追われてデューさんと別れたのは・・・。」

 

「6年だよ、まだレーガンは子供だったからね。」

 

「デューさんは盗賊にまで身を落として俺たちを食べさせてくれた、あんたがいるから俺たちは飢えずに生き延びる事ができた。感謝している。」

 

「まさか、そのレーガンが暗殺者になっているとは思わなかったけどね。」

 

「デューさん、俺はもうあんたの言う通り暗殺者さ。この手で何人もの人を闇に葬った事か・・・。これも生き延びる為だ。」レーガンは身体を半身ずらしてデューの体勢を崩すと前のめりになった腹部に膝を叩き込んだ。

 

「ぐっ!」デューは腹部の激痛に耐えながら懐から閃光弾を放ち、レーガンの視力を奪う。その間にデューは距離をとって風の剣を振りかざした、再び風の刃がレーガンを襲うが見事な跳躍でかわしてデューへ飛びかかった。

デューは風の剣を握り直した芸劇の体勢をとるが、レーガンは腹部に溜まった血をデューの目へと狙いを付けたのだ。デューは咄嗟にその血糊を左腕で振り払って難を逃れるが、レーガンはそのあいだにデューの背後を取った。暗殺者に背後を取られる事は死へ直結する、デューは冷たい汗をかきながら死の刃が命の刈り取りから防ごうと知恵を絞る。

 

一時の時間が流れるが、その冷たい刃はデューを貫く事はなかった・・・。背後から感じ取れるのは殺気も闘気もなく、穏やかに流れる気配だけである。

 

「暗殺者が情に流されるようなら一流とは言えないね、それとも心の何処かで否定しているんじゃないか?自分は暗殺者ではなく、剣士だと・・・。」

 

「・・・デューさん、俺はあんたに恩義を感じている。

あんたを殺したくはない。力の差はわかっただろう、黙ってシレジアから退いて下さい。」デューは振り返ってレーガンを見据える。彼もまた殺気はなく、むしろ慈しむような眼を向けていた。

 

「レーガンがどのような経緯で暗殺者に身を落としたのか、僕には想像も出来ない。やむを得ない事情があったかもしれない・・・、僕が盗賊に身を落とした事と同じかもしれないね。

でもレーガン、僕も今はシレジアのカルトと行動してから一介の盗賊から剣士になろうとしている自分に気が付いたんだ。

カルトの為に剣を振るい、金策を得る為に敵の懐を奪い、内偵をする・・・。彼の闇を担うと誓ったんだ、この剣に掛けてね。だから、僕も退く訳にはいかない。」デューはカルトの闇の一つである風の剣を譲り受けたのはその決意の表れである。ブリギットとの一騒動を聞いたデューはブリギットに釈明するが、彼女の闇もまた深く修復する事は出来ないでいた。

そんな中でも風の剣はデューの手元に戻し2人の架け橋になる為に、カルトとブリギットの闇を払う為にデューは呪いの対象となる風の剣を振るい続ける事を決意したのだ。

 

レーガンは悲しみの表情を一瞬映し出すがすぐさまもとの顔に戻る。もとに戻ったその顔は暗殺者になる前の、デューがイザークで見た剣士を志しているレーガンの希望に満ちていた時の顔であった。

どちらが倒れるかわからないが最後を看取るにしても剣士として屠りたい、倒されたい・・・。その決意がレーガンを暗殺者から剣士へと立ち戻らせたのだろう。

今まで一度も使っていない、背中にある長剣を抜いてデューと対峙しようとしていた。

禍々しい殺気はなく純然たる闘気を発し、デューは肌で感じ取る。

 

「さよなら・・・、レーガン!!」デューは風の剣を持ち直し、告別の言葉を口にするのであった。




デュー

シーフファイター

LV 25

力 18
魔力 10
速 27
技 28
運 29
防 15
魔防 10

追撃 太陽剣 値切 盗む

ガネーシャ族長の長男。ガネーシャはイザークに淘汰された時、まだ幼いレーガンやレイミアを連れて逃走する所をホリンに見つかるが見逃してくれたお陰でイザークから出奔する事が出来た。
その後、ミレトスで盗賊稼業をしつつ彼らの面倒を見ながら各地を奔放していた。
そんな折にイード砂漠で、ある盗賊団の溜めていた財産を狙って潜入していた時に恩人であるホリンと出会い、行動を共にする。彼が古戦場の砦での再会は偶然ではない事は確かである。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。