ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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更新が遅くなりましてすみません。
感想で御催のメッセージを頂きましたて奮闘しました、ヒーローズが原因で遅れてます。
イベントが多すぎですよ、あのゲーム・・・。


ガネーシャの剣士

幼少の頃のデューは、血気盛んなガネーシャの剣士達を相手にしても一歩も引かない剣技を携えていた。体格は貧弱、腕力もないデューがどのようにして剣士として歩んだいたのか、彼を知らない者は首をかしげるだろう・・・。

イザークの秘技である太陽剣を巧みに使って相手の疲労を誘う、体力を奪い傷を押し付けるその秘技で長期戦に持ち込み、彼のペースで戦われるといかに一流の剣士であっても打ち負かす事は出来なかった。

早くより自分の持ち味を生かし、相手攻撃手段を封殺する事がガネーシャで生きるデューの戦い方であった。

 

戦い方が潔くない為、父親にも気に入られなかったが彼にとってはそんな事は気にもしなかった。勝ってしまえば負けた剣士の言い訳はそれ以上に見苦しく、卑屈にしか聞こえない。強者こそが物を言うガネーシャではそんな事は大したことではない、少年にして大人顔負けにガネーシャの町を肩で風を切るデューを幼き時のレーガンは憧れを抱いていたのは言うまでも無いだろう。

 

太陽剣は三大秘技の中でも特に扱いが難しい剣技と言われている、それを若くして会得したデューを周りは認めざるを得ないのであった。

闘気を速度に変えるのが流星剣、力に変えるのが月光剣、そして闘気を武器に乗せ身体の接触時に相手の体力を奪うのが太陽剣・・・。闘気を身体向上に使うのが通常の使い方であるのだが、武器に乗せる手段は格段に難しい・・・。心の内を高揚させ身体能力をあげる闘気の中で、太陽剣は心を静かに保ちつつ闘気を内に秘め、繊細な操作で剣に乗せないと発動しないからである。

その難しさと消耗の大きさより秘技は常に発動させるのではなく、ここ一番のタイミングを見つけた時に爆発的に高めて一閃する事を先人は考案し、必殺剣へと昇華させて言ったのである。

 

 

シレジアの北部の山脈、坑道内では同郷の二人が全てを晒して雌雄を決する戦いへ望んでいた。

レーガンは背中にある長剣を握る、デューは通常の剣よりやや短めの、ショートソードと中間くらいの風の剣を持って構える。

レーガンはデューよりも体格は大きく筋力も凌駕している、しかしデューの持ち味はそこにないことを何よりも理解し警戒していた。

レーガンは長剣を鞘ごと左手で持ち、納刀されたままの剣の柄を右手で握ると構えを取る。重心を低く保ち、デューを見据えた。

 

「納刀したままの構え、抜刀剣か・・・。剣閃は読めるし、躱されれば二の太刀は無い捨て身の必殺剣・・・。それがレーガンの剣士としての戦い方なんだね。」デューはすぐ様その構えから導き出された戦い方を看破するが、レーガンは表情を崩すことなくデューを見据え続けていた。

 

「剣士として相手を認め、一対一の戦いで幾度となく使ってきた。・・・それでも今までこの太刀を躱されて敗北した事はない、この意味わかりますよね。」レーガンのその言葉の前からデューは認識していた、その脅威に額から頰に汗が流れ落ちる。予測される剣閃、そして躱されれば大振りの空振りからその後の体勢は完全に無防備となってしまう。それでもここまで生き残り、勝ち続けて必殺剣とまで昇華されたのであればただの抜刀剣ではないのだろう。なによりレーガンから放たれる闘気はイザークに伝わる三つの必殺剣に使用する直前に放たれる闘気と遜色はなかった。

 

(この迫力、まるでホリンやアイラと並ぶ程だ・・・、これはまずい。)

デューは即座に技量を推し量りイメージを作り出す、一流の剣士は相対すれば相手の技量も判断できてしまう。それが勝ち負けに直結するわけではないがその直感が働かなけば戦場では生き残れない。

逃げる訳にはいかない時、デューもまたその必殺剣を頼りに生き延びてきた。

デューもまた、闘気を最大に風の剣へと力を込める。

 

「無駄です。新月剣は全てを闇へ誘う一撃必倒の剣、デューさんの持久戦を得意とする太陽剣では勝ち目はありません。」

レーガンの忠告の通りあの抜刀剣・・・、彼の新月剣を破るには最大速度を誇る流星剣か、彼の剣を破壊しても推進する月光剣くらいしか思いつかなかった。

 

「そうかもしれない・・・、でもねレーガン。僕もこの太陽剣一つでここまで生き残ってきたんだよ。」デューは一つ笑顔を作って構える。

この言葉を最後に二人は言葉は発する事なく己を高めていく・・・。私怨はない、ただお互いの立場が違うだけで剣を交えなければならない状況に二人は運命を受け入れて臨み始めていた。

 

デューが動く!その疾風の早さに二流の剣士では迎撃できないだろう、直線の動きではなく複雑なフェイントや緩急をつけた独特な足運び、体捌きに翻弄される筈である。

だがレーガンはまるで動じなかった、彼は自ら目を閉じデューの闘気を読んでいた。目で捉えず闘気が自身の刃の間合いに入った瞬間に抜き放つ奥義・・・、フェイントに惑わされる物ではなかった。

先手を譲り、後手からの返しの一撃であるレーガンの新月剣は確実にデューを補足した。デューが複雑な体捌きでレーガンの左側面に回り込んで振るわれた風の剣が腹部を狙っていた事を察知し、レーガンはそのまま鞘走りに長剣を抜きながら体をその場で高速に一回転しながら振り抜いたのである。

左側面からの攻撃からの反撃では、半歩退いて左回りに90度回れば対処できるのにレーガンは鞘から抜いた剣の速度を落とさないために右方向から回りデューを攻撃したのだ。その見事な速度にいつものデューでは一溜まりもなかっただろう。

 

レーガンはデューの風の剣の位置も把握していた、デューの胴は長剣で横薙ぎに一閃され腹部と胸部を境に切り離されたと確信していたが手応えがそれを拒否していた。金属に打ち込まれたその手応えに彼は目を開けて確認する。

 

「なっ!」レーガンの目は驚愕に瞳孔が開かれる、デューの左手にある剣は風の剣ではなかった。カルトから譲り受ける前から持つショートソードが握られていたのである。

横薙ぎからの攻撃にデューは咄嗟にもう一方の剣を腰から引き抜いて辛うじて受ける事に成功したのだ、腕力の足りないデューはショートソードが砕かれる恐れがあったのでその場で跳躍してショートソードを力点に側方宙返りを敢行しその不可解な体制のまま右手の風の剣を振り抜いていた。風の剣はレーガンを下から切り上げ、負傷した腹部に深刻な一撃となった。

 

「くっ!」レーガンは腹部からさらに血液を溢れさせ、その場に崩れる。

デューもまたその不可解な体勢から撃ち放った一撃の為、着地など考えておらず肩から落ちてしまい負傷する。頭部も打ったのか、立ち上がった時には顔にまで流血が滴っていた。左肩を抑えながらレーガンの元へ歩んでいく・・・。

 

「まさかあれを防ぐなんて・・・、完敗です。」レーガンは立ち上がる事を諦め、見下ろすデューに賛辞を送る。

 

「少し前までの僕なら、間違いなく僕が負けたていただろうな・・・。」デューは左手に握られていた自分の剣を見つめて答えた、風の剣を手に入れて使い古されたこの剣を帯刀することすらやめようとしていたがそれを制したのはカルトだった。

デューは新たに彼に感謝するつもりで風の剣を丁寧に納刀し、元の場所へ戻す。

 

 

 

まだそれはこの内乱が大きくなる少し前に遡る・・・。

ブリキッドが風の剣を修復した事によりこの剣が養父を斬殺した物であり、殺した人物がカルトと知って彼に凶行した翌日、デューは夫としてカルトに謝罪に訪れた日の事であった。

 

「カルト、気にする事はないよ。

ブリキッドもきっと頭ではどこか理解しているよ、ただ本人を前にして感情を抑えきれなかっただけだと思う。それに・・・、カルトが無抵抗の人間を斬殺するなんて僕は信じないよ。何らかの事情があったと僕は信じる。」

 

「デュー・・・。」カルトはまだ痛ましい姿で、何より気力が弱っていた。昔の事情とは言えそれを罵られたのだ、体よりも心に負ったダメージの方が大きいのであろう。それでもカルトは立ち止まらないとデューは信じ、慰めの言葉よりも彼を信じると言い切った。カルトもまたデューの真意を掴み取り、一つ頷いて返す。

 

「カルト、あの風の剣を僕に貸してくれないだろうか?」カルトの机の上に置かれた剣を見つめて彼に言う、少し驚いた表情を見せてデューの言葉を待った。

 

「実は、あの剣の修復代に高くついたんだよ。折角今から活躍してもらおうと思ったらあんな事になってブリキッドが突き返したと聞いたものだからちょっと、勿体なくてね。」デューは照れながらそう言った、カルトは勿論彼の言葉はそこにない事を知っている。

カルトを気にして選んだ言葉がこれだったんだろう、手先は器用なのに言葉は不器用なデューに愛嬌を感じてしまいカルトはデューと出会って初めて微笑みを見せた。

 

「いや、この剣は俺が自ら忌み嫌って海に投げ捨てた剣だ。これをブラギの塔で見つけた時点でデューの物だ、俺に許可を取るまでもない・・・。デューに使ってもらった方がいいだろう、是非頼む。」風の剣をデューに渡してカルトは一礼する、デューは照れながら受け取り腰に据える。

 

「剣が二本もあったら動きにくや、この剣はもうお役ごめんかな?」

 

「そんな事はない、その剣は今までデューが死線を共に潜り抜けた剣ならまだ君を守る為に働いてくれる。」カルトはデューが鞘ごと腰から引き抜いたそのショートソードを制してそう言った。

 

「そうだ。デューほど手先が器用なら二刀使いになればいい、君のトリッキーな動きにさらに読みづらくなる。」

 

「二刀使い?それは難しいよ、単純に一刀より二刀の方が強くなる訳ではないよ。」剣士の国出身のデューはそれをよく熟知していた。

 

「そうだろうな・・・、でも左手に握る剣は相手の右手に持つ初動の動きを先読みして止めれば弱い力でも封殺できて自身の右手が活きてくる。左利きの利点を俺が教えてやるよ・・・、傷が癒えてからになるけどな。」カルトはそう言ってもう一度笑う。

 

「カルトは左利きだったね、じゃあやってみようかな?」デューの言葉にカルトは外したショートソードを再度渡して元の腰へと戻っていくのであった。

 

 

 

「あなたが二刀使いに・・・。あなたの素質なら可能でしょうね、デューさんをよく見ている方です。」腹部を抑えながら立ち上がるレーガン、鮮血が止めどなく滴り命の危険を感じる程である。デューは制しようとするがレーガンは首を振って拒否する。

 

「デューさん聞いてください・・・、教団の狙いはセイレーンです。

マンフロイ大司教はマイオスを操ってディアドラと言う女を攫うつもりです。」

 

「・・・それが君達教団の目的?」女性を攫う為にこのな大規模な計画をして来たとは、デューは理解できず聞き返す。

 

「そうです、俺たち末端には内容は教えられていませんがある二人を教団に引き入れることができれば教団は完全復活すると言われてます。デューさんは急いでセイレーンに戻ってください。」吐血混じりにレーガンは言う、デューは彼を救おうと戸惑いを見せるがレーガンは拒否するだろう。彼の目は完全にイザークの頃の澄んだ瞳に戻っていた、それ故にデューは悲しみを襲う。

 

「レーガン、ありがとう!君もきっと傷を癒して戻って来てね。歓迎するから!」デューは笑顔で彼に別れの言葉をかけると、一歩後ずさりする。

 

「デューさん!あなたが僕たちを孤児院に入れた後、姿を消した理由は知ってます。あの施設も俺たちを受け入れるほどの余裕はなかった、だからあんたは自ら口減らしに孤児院を後にして盗賊に落としてまで孤児院に仕送りをしていたんだ。

それなのに俺たちはあなたを誤解して恨んだ時期もありました、・・・本当に申し訳ありません!」

レーガンは一礼しデューを見送る。失血も多く、立っていることすら辛いはずなのに彼は最敬礼してデューを見送ろうとしているのだ。

デューの瞳から熱いものが伝った。

 

「レーガン、お前は本当に馬鹿だなあ・・・。」そう言うとデューは振り返る事なく疾走する。これ以上留まればデューは彼の意思に反してしまう、剣士の誇りとしてそれは勝者も敗北者もどちらの誇りを失ってしまう行為と幼少から教えられている彼らにとっては禁忌であった。

デューは疾走する、その引き返す道に涙の目印をつけている事をデューは知らないのだろう。悲しみをこらえて疾走するデューは振り返る事なく出口に向かうのだった。

 

 

見送ったレーガンはその場に倒れこんだ、意識が遠のいていく・・・。

「レイミア、お前は生きろよ。さっきはすまなったなあ・・・。」うわ言ように吐くと、遠ざかる意識の中で謝罪する。

 

「幸せになってくれ、レイミア・・・。」そう呟くとレーガンの薄れゆく意識の中で不思議な体験をする。彼女が一般の服を着て、髪を結い、一人の男と食事をとっている光景が浮かんできたのだ。

レーガンは驚いた後、にっと笑う。彼女の幸せを垣間見れただけで安心したのだ。

全身の力が抜けていき、ついに首を上げることすらできなくなる。意識が死神に刈り取られるように抜けていき、力尽きていった。

ガネーシャの若き剣士は、その不遇な運命を最後の最後で断ち切り生き絶えたのであった。

 

 

リューベックではベオウルフ達の傭兵部隊が再び攻略に向けていた。

一時は撤退をしていたが、イード砂漠のバイゲリッターを退けた事で進軍を開始したのだ。地下坑道の増援もありえるが後続にはレヴィン王も加わりこちらに向かっている、全部隊の士気は最高潮まで上がっていた。

再び勢いを増したシレジアの混成部隊、リューベックの反乱軍はいよいよ追い詰められる事となった。この事によりドノバンの怒りと動揺がマイオスへと向けられていた。

 

「マイオス公!このままでは落ちてしまう。バイゲリッターのほかに増援はないのか!!」

 

「役に立たない連中だ、リッターとはいえ父親を殺して掠め取ったアンドレイでは玩具程度にもならぬな。」マイオスは階下から迫る怒号を忌々しく聴きながら吐き捨てる。

 

「父親殺し?アンドレイ・・・!」その言葉に流石のドノバンも聞き捨てられず反芻する。なぜシレジアで幽閉されていた人間が知り得る情報なのか・・・、今更ながらどうやってグランベルの軍部とつながってコンタクトしたのか謎が生まれてきたのである。そのドノバンの表情にマイオスはようやく気づいたのかと言いたげににやりと笑う。

 

「き、貴様は一体・・・!」ドノバンは狼狽えながら後ずさる、マイオスは聖杖を取り出して魔法を使用し始める。その魔法陣は転移の魔法、ドノバンは気付かず攻撃魔法と思い距離を取る。

 

「ここは任せたぞ、生き延びたらまた会おう。」この言葉にようやくドノバンは気付き詰め寄るが、マイオスは光の彼方へと消えていった。彼の悔恨の叫びと共にシレジア軍が部屋に突撃したのはほぼ同時であった。




レーガン
アサシンファイター

LV 35
力 23
魔力 7
技 36
速 32
運 15
防 15
魔防 10

追撃 必殺 待ち伏せ 盗む

ガネーシャの剣士、落日のガネーシャでデューと共に落ち延びた一人。元は礼儀正しい人物であったがロプト教団の暗殺者となり破滅的な性格に成り果てていた。
彼が名付けていた新月剣は、必殺と待ち伏せのスキルを応用した物であります。

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