ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

82 / 107
何とか月一話に漕ぎ着けました。
転勤になりお世話になった顧客への挨拶回り、引き継ぎを無くす為の残務処理、連日の送別会で疲労はピークです。
送別会直後のホルマリン漬けになった脳と変わらない状態で書きましたのでかなり怪しいところがあると思います、確認しましたがもう何が何やら・・・。
前置き長くてすみません、よろしくお願いします。


マイオス公爵

リューベックの激戦を終えたシレジア軍と傭兵騎団は、一夜明けて主力の面々が早速今後の動きについて軍議を行なっていた。リューベックはやはり要の地である為、戦力を残さねばならないがどの程度を予想し、残りをシレジアに戻すのかを決めあぐねていた。

現在リューベックにいる要人はジレジア軍より天馬騎士団のパメラとディートバ、昨夜のドノバンの情報で山中や地下坑道に潜む戦略はないとの情報を受け取り彼女達は最寄りのリューベックへ帰還する、マーニャの戦線離脱がリューベックへ戻る一因となっていた。

そしてレヴィン王と賢者となったクブリと魔道士隊、傭兵騎団のベオウルフ。そして紛れ込んで行動するアイラに、エッダのクロード神父がこの場に現れて議題を行なった。

複雑に絡まった波状に押し寄せる一連の事象がロプト教団による奸計とわかった今、安直な行動は奴らの次の一手に絡み取られる可能性がある。慎重な対応をとらざるを得なくなっていた。

議論が出し尽くされるが結論が出ず皆が押し黙る中、レヴィンは大胆に発言する。

 

「リューベックを捨てる。全軍ザクソンを拠点に、セイレーンへ行けるだけの戦力を集めて向かおう。」レヴィンの発言に皆が彼に注視する。

これだけ何度も苦労を重ねてようやく手中にできたリューベックを棄てて、ザクソンまで下げるというのは極めて異論の中でも異論の発言であった。

 

「山中に増援はない。よってここへ攻め入る輩はいない、元の通り国境警備に必要な人員のみ残して国内の処理に全てを使う。」

 

「しかし、それでは再びグランベルから要らぬ干渉があるやもしれません。ここはもう少し慎重に・・・。」クブリは王に進言するが、彼の目はそれを否定していた。クブリはその先を言うことができずレヴィンの発言を待った。

 

「みなシグルド公とカルトを救いたいのだろう、私も同じだ。

またグランベルから干渉があれば今度こそ国家間戦争として受けて立つ。リューベックなど民間人はとうに避難しているし、被害など取るに足らん。それを口実にこちらから出撃すればいい。」レヴィンはスパッと言い捨てた、彼は表には出さないがかなり苛立っている事がシレジアの人間には分かっていた。それでも進言したクブリは周りを異論を汲み取るように進言して会議の早期決着をつけるようにしたのである。一通りの沈黙が場を支配した事により会議は終了され、ザクソンへ戻るのであった。

 

 

 

カルトが転移した場所、それはシレジア城であった。

ディアドラがこのシレジアで移動したのはセイレーンかシレジアしかない。セイレーンには前線部隊と分断された後続部隊を警戒して手薄になったシレジアでディアドラをさらう計画に切り替えたのだろうとカルトは判断する。シレジアの中庭に突然現れて驚く衛兵を余所に、すぐ様探知魔法でディアドラを探る。ここでなければ彼女を見つけられる可能性がぐっと低くなる、祈りを込めながら彼女の魔力の感知を急いだ。

(・・・・・・いた!)目を開けるなり城内を走る、その場所に嫌な予感を感じつつカルトはその場に急いだ。

城の一階、一番奥の広間・・・。それは王が座する執政の中心地がこの度の決戦地と化していた。カルトはその場所に辿り着いた時、衛兵が必死に扉を叩いて叫んでいる姿を目撃する。

 

「どうした!」

 

「カルト様!!突然とびらが全て閉じられまして開けることができません。」衛兵は斧まで取り出して破壊せんとしているが、扉は傷一つつけられないでいた。

 

「どくんだ!魔力で封印されている。」カルトはその魔力の解除に扉に手を当てて探り出した。

(波長がまるで合わせられない・・・、俺が来ることが織り込みの対策だな。)カルトは焦る気持ちを抑えながら解除魔法を試みるが、まるで靄のかかったようなその魔力をとらきれずにいた。自身の盲点、いや無意識の中で苦手としている波長で施されているのであろう。

額に汗を滲ませながらその作業を急いでいた。

 

 

封印されし扉の中、玉座の間ではディアドラとフードを深く被った長身の男が対峙していた。フードの男は眠らさせているセリスを抱き、ディアドラを牽制している。ディアドラもまた聖杖を持ち隙を伺っているがフードの男は微塵も隙を出さず、動けずにいる・・・。

二人は長くこの硬直を続けており、この間にいるラーナを始め近衛兵達は突然の来訪者に未だに状況を掴めずにいた・・・。

ただこのフードの男が来襲した時に、初めに斬りかかった近衛兵は混乱魔法を受けて大暴れし、後から現れたディアドラが解除魔法で我を取り戻した。この魔法のやりとりに二人に割って入る者はすっかりいなくなっていたのだった。

 

「さあディアドラよ、大人しく我に従え。さすればこの子の命は保障しよう。」フードの男はこの場で初めて声を発する。ディアドラの目は息子であるセリスしか見ていない、この場においてもそれは同じであった。ようやく頭を上げてフードの男を見据え彼女も発する。

 

「セリスを返してください。」

 

「ならば従え、こちらに来るんだ。」

 

「行きます・・・。ただし、セリスの身の安全を確保して下さい。セリスをラーナ様にお渡しさえしてくだされば、私は抵抗するつもりはありません。」ディアドラは毅然と答える。彼女が恐れているのは約束の反故のみでありセリスを必ずシグルドの元へ連れて帰る、それが彼女の原動力であった。

 

「約束は守る、だからこちらに来るのだ。悪いようにはしない・・・。」

 

「信用できません、あなた達はロプト教団の者ですね?子供狩りをする教団が子供をあきらめるとは思いません。セリスを返してからそちらに行きます。」ディアドラの強い意思がフードの男の怒りを買う、セリスにナイフを突きつけて強硬策に出た。

 

「これでも、行かぬと言うのか?」

 

「・・・・・・。」ディアドラはそれでも弱気を見せなかった。彼女もまたナイフを出して自身の喉元に突きつけ、フードの男が逆に追い込んだのだ。

 

「セリスを傷つけるような事をすればその前に自刃します、あなたの狙いはセリスではなく私のはずです。

抵抗はしませんのでどうかセリスにだけは手を出さないで下さい。」

ディアドラの決意の目がフード深く被る男の目を射抜いた。彼女がここまで気丈な人物であるとは思ってもなかったフードの男は狼狽えた。

 

「わかった・・・。ラーナ、この子を取りに来い。」フードの男はラーナ王妃を指名し、セリスを渡す要求を聞き入れた。

ラーナはディアドラに目配りし、頷くとフードの男の元まで歩きセリスを受け取る。

 

「あなた、マイオスね。こんな事してカルトをまた困らせる気?」ラーナは言うなりセリスを右手で抱き、空いた左手でフードを払った。

フードから現れた人物はラーナが言った人物そのものであった。

 

「ちっ!吹き飛べ!!」マイオスは一度ラーナを両手で締め付けると左手をかざしてウインドでラーナを撥ね除けた。

 

「ラーナ様!!」ディアドラは叫び、ナイフを首元へ近づける。

ラーナは壁面に叩きつけられるが、子のセリスを守るようにしておりセリスはまだ夢の中であった。ラーナは笑顔で無事を伝える。

 

「さあ、約束だ!ディアドラよ、運命の時は来たのだ。」マイオスはディアドラに詰め寄り彼女の腕を掴む。引っ張られるようになったディアドラは抵抗を見せてその場で踏みとどまり、マイオスを見据える。

 

「ほう、約束を反故にするのはそちらであったか・・・。お前の母も禁忌を破ったが、親子揃って強かな事だ。」

 

「なぜ?あなたが知っているの?私の母を・・・?」

 

「知っているさ・・・、シギュンの事もお前の父親の事もな。」マイオスの言葉にディアドラは動揺を見せた。視線が泳ぎ、たちまち先程の強さが消え失せていく。

 

「知りたければ我と共に来るがいい、本当の自分を見て本質を掴むといいだろう・・・。」

 

「・・・なんと言われようと私はいきません。あなた達の狙いは私の血、渡すわけにはいきません。」気丈にも反抗するが、先程よりも明らかに弱っている。森の長老達ですら知らない自分のルーツを知る唯一のチャンスにディアドラは揺れ動いた、マイオスはそれを見逃さない。

 

「バサーク!!」マイオスの混乱魔法でディアドラは正気を失う、彼女は必死に抵抗するが魔力の強大さにディアドラすらも太刀打ちできなかった。ディアドラは頭を抑えて呻き、最後はマイオスの手刀を首元に受けてその場に倒れた。マイオスはディアドラの掴む手を引き上げての身体を手中に収める、後は転移魔法でこの場から引き上げればよい。だがマイオスに慢心は無い、出口の扉を見据えて邪悪に笑う。

 

「くくく・・・。来たか、カルトよ。」封印されし扉が開かれカルトがゆっくりと侵入する、その顔には険しい皺を眉間に寄せて忌ま忌ましさを露わにしていた。

 

「親父・・・。」

 

「カルト、よく来たな。早く儂を殺していれば、こんな事にはならなかったのにな。」マイオスは狂気に顔を歪ませて笑う。

 

「・・・・・・誰だ、お前は?」カルトの言葉はまるで噛み合わない、いや聞いてもいなかった。彼はその違和感からその一言しか浮かんでこなかった。

 

「・・・・・・。」

 

「誰だと聞いている。答えなければそれでもいいが、親父の体は返してもらうぞ。」カルトは白銀の剣と魔道書を出して臨戦体勢をとる。

 

「ふははは・・・。マイオスはとっくに儂が精神を食い殺して出てこれまいよ!ここで儂を殺してもその前に精神から解き放てばお前の父親が死ぬだけだ。無茶はするものでは無いぞ!!」

 

「それがどうした?お前は親父の精神を食い尽くしているなら知っているだろう、俺たちは親子と呼ぶには怪しいくらいの関係とな!!」カルトはライトニングをマイオスに放つ、マイオスは咄嗟にディアドラを抱きかかえて跳躍するが2人分の荷重がかかっている。カルトはマイオスのさらに頭上に跳躍し、マイオスの頭を蹴り付けディアドラを空中で抱きかかえて奪還した。着地しすぐ様近衛兵に彼女を渡すと、壁面に叩き付けられたマイオスに注意を払う。

 

「立て!親父の体にいても容赦なんてしないぞ!!後悔させてやるくらいだ。」カルトは白銀の剣を一閃すると倒れたマイオスに突進するが、マイオスの身体から暗黒の魔力が吹き出したちまち瘴気が濃くなって行く。暗黒魔法を使う者の特徴とも言えるこの瘴気にカルトは対抗して浄化の魔法を展開した。

 

「儂の暗黒魔法が・・・。」マイオスは驚愕する、一時とはいえ暗黒魔法を浄化し無効化する術など無かった。いや、そんな研究をしている者などいなかったと言った方がいいのだろう。

度重なる暗黒魔法を数多く受けて来たカルトは研究し、対抗策を練ってきたのだ。今まで闇の中で暗躍していたロプト教団は長く表に立ってしまった事により存在を露見され、襲撃される度にカルトは強く光を発するようになり、とうとう暗黒魔法を抑え込む秘術まで編み出してきたのである。そしてカルトの迫る白銀の剣がマイオスの右脇を深く抉った。

 

「ぐあああ!」マイオスの声とは違う本体の声が響きわたる。白銀の剣を抜かんとするが、カルトは右膝蹴りで倒れ込ませてさらに剣先を捻るとマイオスから再び叫び声が響いた。

 

(まずい!このままではこやつと心中してしまう・・・、ここは引かねばならぬ・・・。)

 

マイオスに潜む存在はとうとう引かねばならない所まで追い込まれていた。自身の本体ならまだまだ手はあるが、マイオスの身体では精神本体を憑依させていても力は発揮しきれない。焦りを覚え、脱出をするために精神の解放を行い出す。

 

(どこへ行くのだ?マンフロイ・・・、お前は俺と一体なのだろう?)

 

(貴様!まだ生きていたか!?)

 

 

 

突き立てられた白銀の剣で大人しくなっていたマイオスは目を見開いて再び暴れ出す、カルトは四肢を押さえ込んで白銀の剣を突き立てた。

 

「ぐあああ・・・。そうだ、カルト!一気に突き立てろ!!」吐血混じりに声を発するはマイオスの声、カルトはその変化に瞳を見つめた。

互いに至近距離で目が合うのは久々であった、それこそマイオスの内乱を抑え込み彼を追い詰めた時以来である。まるであの時の続きとばかりの状況にカルトも脳裏に様々な物が浮かび上がった。

 

「カルト!今すぐとどめを刺せ!!・・・俺の中にいるマンフロイを押さえ込んでいる!ここで殺せば奴も死ぬ筈だ!!」マイオスは突き立てられた白銀の剣を自身の腕で心臓にめがけて切り裂き始める。徐々に、徐々に向かうその剣先は脇腹から胸部の境界部である横隔膜まで達しようとしていた。

 

「お、親父!!」カルトから吐かれた言葉に、マイオスは笑みを浮かべる。口からは大量の血液を吐き最早喋ることは出来ないだろう。

瞳の色が失い始め光を失う、言葉も目も失いマイオスが伝える言葉も視線もなくなるが心臓へ向かう剣のみが彼の意思をカルトへ伝えていた。マンフロイを殺す事、この世の厄災を断つ事が今までカルトに行ってきた贖罪の清算と踏みマイオスはこの瞬間を待っていたのだ。

カルトはその事に察し涙する。

父親の最期は、子供に伝える最後の教育・・・。カルトはシレジアの書庫にあった文献で読んだ一文を思い出す、それはカルトの人生で最もくだらないと思っていたが今それは愚かだと思っていた父親が実行しようとしているのだ。

カルトはその意思を準ずる覚悟を決めた。我ら親子でマンフロイを、殺す!!

 

「親父、セーラ母さんによろしくな。」カルトは一言呟く、マイオスの口が動くが肺に血が溜まっており声は発せない。顔色は紫に染まりチアノーゼを起こして意識も朦朧としている筈、それでも口元の動きは止まらない。唇を読み理解したカルトは、一気に振り抜いた。

マイオスの身体から白銀の剣が鮮血と共に抜かれ放たれた時、マイオスの身体は一度痙攣してから動かなくなった。

 

 

 

カルトは意識を失っていた。

ほんの一瞬であったがその間随分時間が経った感覚を覚えるが我に返った時、血だまりに沈む父親を見た。あれだけ意識を失う前にあった喪失感はもう既になく、頭は次の思考に移っていた。

ディアドラとセリスの無事を確かめる為辺りを見渡す、ラーナ様が2人を介抱している姿を見たカルトは安堵する。玉座の間は慌ただしく、白昼にあった惨劇の収集に動き出し始めていた。

 

「ラーナ様!ご無事で何よりです。」カルトはラーナよりセリスを受け取り、無事を確かめる。

 

「ええ・・・。しかしマイオスは、一体どうしてしまったのでしょうか?」

 

「親父は・・・、乱心したのでしょう。私には理解できません。」伏せ目がちに答えるカルトにラーナはそれ以上は物申す事は無かった、ただ彼を自身の胸に寄せて彼の心中を慮り癒しを与える。

 

「ラーナ様・・・。」

 

「頑張りましたね、カルト・・・。お休み・・・。」ラーナの優しい言葉にカルトの意識は再び失っていくのであった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。