ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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この回で外伝を終えさせて頂きますが、シグルドの代での最後の外伝となります。

明るい題材が少ない小説ですが、さらに重くなっていきます。
不愉快を感じる方もいるかもしれませんが、その辺りも含めましてご意見をいただけますと幸いです。


ヒーローズなどで、聖戦の系譜がピックアップされたからかな?
聖戦の系譜関連の二次小説がでてきたように感じます。20年の月日を超えて、新たな発想の二次創作が増えてうれしく感じます。


枯草

「はっ!・・・ふっ!!・・・たあっ!!」早朝のレンスターで素振りをするマリアンは日課の訓練を淡々と行なっていた、相方のファイアードラゴンであるシュワルテは首を背に預けてその姿を眠そうな目をしたまま見つめている。

一通りの訓練を終えたマリアンは朝露に濡れる長剣を一振りすると鞘に収めて、シュワルテの鱗に手を当てる。

 

「ごめんね、遅くなって・・・。そろそろ行きましょうね。」シュワルテの背にふわりと飛び乗ると待ちきれないとばかりに大空に舞った。

マリアンも慣れており、全く落ちる様子はない。トップスピードに乗ったシュワルテの背に悠々と歩いて鐙に両足を固定し、彼の食事へ同行する。その光景をレンスター城のバルコニーから見上げるフィンは、すっかり名物となったマリアンの飛び立ちを見送った。

 

「見事な飛行ね、まさかレンスターでドラゴンナイトの飛翔を見られるなんてね。」

エスリンはまた乳飲み子のリーフを抱き、足元をチョロチョロと動き回るアルテナの手を掴んでキュアンの元へ訪れた。

 

「彼女はその中でも特異的な使い方だけどね、ドラゴンナイトよりドラゴンフェンサーの方がしっくりくるよ。」キュアンはアルテナを抱いて高く持ち上げると楽しく笑うアルテナの頭を撫でた。

 

「ドラゴン乗りの剣士?・・・確かに彼女の戦い方はトラキアの竜騎士とは違いますが・・・。」

 

「この間のマンスター地方であったトラキアとのいざこざで彼女が加勢に入ったのだがとんでもなかったよ・・・。上空から突然ドラゴンごと突っ込んできたかと思えば、地上兵をクッションに頭上から剣を突き立てて着地して・・・。地上では剣士として暴れまわり、囲まれたら跳躍してドラゴンの背に逃れて窮地を脱し、炎のブレスを浴びせる。ドラゴンナイトが来ればここでもまたドラゴンからドラゴンへジャンプして敵ドラゴンに飛び乗って切り捨てる・・・。あんな破天荒な戦い方は見た事がない。」キュアンはその時の光景を思い出すだけで身震いを起こしていた、エスリンは夫の姿を見て絶句する。

 

「トラキアが真似してこない事だけ祈ります・・・、しかしカルト様は型破りな方ですね。一般であったマリアンをここまで育成するなんて・・・。」エスリンもまたこの度の戦乱で感じた感想を述べる。

 

「そうだな・・・、彼の考案する戦は斬新すぎて私には計り知れん。シグルドに協力してくれている事に心強さを感じるよ。

マリアンと一緒に来ているオイフェも刺激されているのか、フィンとの訓練でとうとう一本取ったそうだ。」

 

「まあ、フィンもかなり力をつけてますがその彼から取るなんて・・・。ファンには久々に訓練をつけてあげないといけませんね。」エスリンの目に光が宿りキュアンは嗜める。彼女は普段は大人しく慎ましいのだが、訓練となると人が変わってしまうところがキュアンにも恐怖を感じる・・・。エスリンといい、マリアンといい、いつの世も女性の強さを垣間見てしまう。

 

「エスリン・・・、静かに聞いて欲しい。」キュアンはいつになく真剣な表情で妻であるエスリンへ向き直った。

 

「・・・ええ、どうされましたのですか?」

 

「シレジアで起こっていた内乱は終結したらしい、シグルドもカルトも無事だそうだ。」キュアンからマリアンとオイフェには口止めしていたシレジア情勢をエスリンへ伝えた。

 

「まあ、それは良かったです。兄上が内乱で危うくなるような方ではありませんが、一先ず安心しました。

・・・それだけではないのですよね。」エスリンの言葉にキュアンは一つ頷いた。

 

「ああ・・・。シグルドは私達には伝えないつもりだろうが、近日グランベルに攻め登るらしい・・・。」

 

「えっ!!兄上が!?」キュアンはもう一つ頷いた。

 

「あちらに密かに置いてきた情報部隊がもたらしてくれた正確な情報だ、君のお父上はイザークの奥地で生存していたらしい。生き証人である父上の直筆の書状を持って身の潔白を訴えるつもりだ・・・。」エスリンの顔色がみるみると悪くなる、連れてきたアルテナが不安そうになりエスリンは彼女を抱きしめた。

暫しの沈黙が流れる中、キュアンは意を決してエスリンに続きを語る・・・。

 

「シグルドを孤軍にさせる訳には行かない、明朝私もグランベルへランスリッターを率いて向かう。」

 

「あなた・・・。」キュアンの決意を感じたエスリンは慌てて立ち上がる、その戦いは死地へと向かう戦いである事はエスリンにも感じ取れた。

グランベル公国のアズムール王に直訴するのである、グランベル国内の全ての戦力が阻むであろう・・・。幸いにもイザークへ戦力が幾分か裂かれているとはいえ唯では済まない。辿り着く事さえ叶うかどうかである、そんな戦地をキュアンは友の為、兄の為に向かうと言うのだ・・・。エスリンは固唾を飲んでしまう。

 

「全軍とは行かないがな・・・。トラキアが常々こちらを狙っている、油断は出来ない。」

 

「ええ、わかっています。そんな中で兄上に加勢をしていただけるなんて・・・、感謝します。」エスリンは頭を下げる、キュアンはその妻の肩に手を当てて首を振った。

 

「エスリン、君の兄上を死なせはしない。それに俺達三人は誓いを立てている、その想いは未だに褪せる事はない・・・。シグルドの為にも、エルトシャンの為にもこの誓いは誰一人として違ってはいけないんだ。」

 

「・・・はい。あなた、兄をよろしくお願いします。・・・あなたも絶対に戻ってきて下さい。」

 

「ああ・・・、必ず戻る。二人を頼んだぞ・・・。」二人は抱擁する。

 

「でも、あなた・・・。途中まで同行させて下さい。」

 

「!!危険だ、ここで待っててくれ。」

 

「ここは譲れません、お願いですから見送らせて下さい。」エスリンの強い要望にキュアンは困惑するのである。

最後には承諾し、途中で引き返す事を条件にしたのである・・・。エスリンの微笑みにキュアンはやれやれといった表情であるが、この判断に彼らの命運を迫られる事となっていくのである。

 

 

オイフェは駆ける、天翔けるドラゴンを追って・・・。

常に目標に据える彼女との距離は縮まるどころか更に空けられるかのようであった。ようやく最近騎馬を御する事ができ、フィンから一本を取る事が出来ても、マリアンは更に前に進んでいるように感じる。

この歯痒さを未だに抱いたオイフェはひたすらに騎馬をかける。

彼がマリアンの居場所に着いた時にはシュワルテは大物を狩り終えて食している所であり、彼女は骨を砕く音を睡眠材料として寝入っていた。

オイフェは腰に吊るした鉄の剣を構えて彼女な近く・・・、例え麗しい彼女でも寝入りを不用意に近づけば命はいくつあっても足りない。オイフェはそれでも彼女に近き、肩に触れようとする・・・。

 

ガキィ!!

 

マリアンの淀みなき抜刀からの抜き打ちをオイフェは剣を切られる事なく受けた、すぐ様体勢を入れ替えて彼女の一撃をいなす。

 

「やった!マリアンの一撃を止めました!!」オイフェは感極まり、今はそばにいない主人に報告するかのように変えを高らかにあげた。

マリアンはその言葉に不機嫌になり、オイフェを二の太刀で峰打ちにする。

 

「うわっ!」その剣閃にオイフェは尻餅を付き、シュワルテの食事は再開する。

 

「・・・オイフェ、いい加減に私をだしに自分の成長を測らないでくれない?睡眠を妨害されて結構迷惑しているのですよ。」

 

「すみません、でも・・・マリアンもいい訓練になってない?」オイフェは立ち上がりながら笑顔で言い放つが、マリアンの表情は曇ったままである。

 

「それなら徒歩で近づく事ね・・・、既に1キロまえから捉えてましたよ。」

 

「・・・本当に?」

 

「本当よ、馬の蹄の音は結構まえから地面を通して聞こえるのよ。」マリアンは抜いた剣を再び鞘にしまうとシュワルテの腹部に身体を預けて休息をとる、マリアンの手招きもありオイフェも更に習う。

 

レンスターは深い秋であった・・・。夏の活動期を終えた動植物は冬の準備に入る頃、様々な物を食する人間にとってこの時期は実りの季節である。レンスターも毎年恒例の収穫祭があり、街ではその準備の真っ最中であるだろう。

育ち盛りの二人は既にお腹の虫が騒ぎ出す頃、オイフェは懐から乾パンを取り出し竹筒の水と共にマリアンへ渡す。

マリアンは受け取ると水を一口含み、オイフェに戻した。

 

乾パンを片手に立ち上がるとマリアンはひと伸びし、風のたなびく丘の真ん中へと歩みだした。オイフェは赤くなりながらマリアンの口をつけた竹筒の水を含むと、同じように彼女の元へ歩む。

少し離れるだけでシュワルテの食事の音は消え、風の吹く音が支配していた。

 

二人はレンスターの一望できる丘で無言で見つめていた。ふとオイフェはマリアンは横目で盗み見るが彼女の瞳はどこまでも遠く北の空を見つめるだけであった。

 

「マリアンは、シレジアに戻りたいの?」

 

「シュワルテは寒い所は苦手だから、可哀想でしょ。」

 

「うん・・・。でも、マリアンもカルト様のそばにいたいでしょ?」その言葉にマリアンは眉を少し動かす。オイフェは失言であったと頭では理解しているが、聞かずにはいれない感情が渦巻いており制御出来ずでいた?

マリアンはすぐ様、優しい表情となりオイフェの揶揄いを優しく薙ぎ払う。風で乱れた髪を左手で直すとオイフェに満面の笑みで持って答えた。

 

「カルト様には伴侶となったエスニャ様がいます、彼女がいる限りカルト様はもう迷われる事はないでしょう。私は彼女にはできない事をなすだけです。」

 

「それは・・・、マリアンにとってなんだい?」

 

「カルト様を害なすものを全て排除する事です。その為なら私は命も惜しくない、喜んで修羅の道へ参りましょう。」その剣を少し抜いて鞘なりの音と共に誓う。

 

「マリアン・・・。」決意の目を他所にオイフェは優しく願う、彼女に安息を場を与えてくれる事を心静かに悟られずに祈るのである。そんなオイフェの心配を他所に、マリアンもまたオイフェに優しい瞳へと変わり語りかける。

 

「でもね、オイフェ・・・。あなたには生きててもらいたいの、あなたもシグルド様の為なら死ぬ事も厭わないと思っているでしょ?でもあなたはバルトの血を継いでいるし、私よりも歳下・・・。

戦う事だけではない、あなたにしか出来ない事があると思う。」

 

「そんな!マリアンと僕は二歳も違ってないのに、たったそれだけでマリアンだけが死地に赴くなんて!!」オイフェの言葉にマリアンはくすりと笑っていた、オイフェはカマをかけられたと判断し咄嗟に口を塞ぐ。

 

「やっぱり、あなたも知っていたのですね。」

 

「はい・・・、レンスターの部隊から盗み聞きました。

シグルド様は近日の内に決死の行軍を行う事を・・・、私は明日にでも出立してシグルド様と共に参加したいです。」オイフェの目は決意の物であった、恐らく彼を無理に止める方が危険を感じたマリアンは一つ頷いた。

 

「分かったわ、一緒に行きましょう。そしてシグルド様の大業を成就させましょう。」マリアンはオイフェの手を掴んで硬く握手する、オイフェもまたその握手に左手を添えて一つ頷いた。

 

「キュアン様なら恐らく今日か明日辺りにシグルド様と合流しようと出立の準備をしている筈です、それを付けていきましょう。」オイフェの提案にのるマリアンであった。

二人は再び小高い丘から伸びる草原を見つめる・・・、秋の冷たい風を受けてすっかり色の変えた草原は、カサカサと乾いた音を立ててたなびいていた。しばし見つめる二人はその先にあるシレジアを見据えていた。

今はただ仕える主人に逢いたい、その気持ちのみが大きく膨らんでいた。マリアンのよぎる不安は枯れていく草原が揶揄するかのようである・・・。

 

 

 

「ははうえー。」

利発な金髪の幼子であるアレスは、グラーニェの手を掴んで話しかける。

レンスターの爵位を持っているグラーニェはラケシスと共にアグストリアから亡命し、フィンの厚意もあり城内までとはいかないものの、城のすぐ近くの館でアレスと共に生活をしていた。時折フィンと妻のラケシスも訪問し、話し相手にもなってくれるので不自由はなく暮らせる待遇に感謝していた。

グラーニェの両親のいるマンスターへ帰郷しても良かったのだが、ラケシスを心配しての配慮であった。今や心配はなくなったがレンスターに帰った当時は相当の落ち込みで、側にいなければならないと思った次第である。

今、ゆったりと部屋で冬に備えてのアレスの編み物を作っている最中にアレスの声であった。

 

「どうしたのです、フィン殿に剣の稽古をしていたのではなかったのですか?」

四歳になるアレスはここに着くなり、剣の稽古と教養を身に付けさせる為に勉学はラケシス、武術を時折尋ねるフィンにお願いしていたのである。そのアレスが武術の時間であるが自室に戻ってきた形であった。

 

「フィンさんは、急用ができて帰ってしまいました。」

 

「そ、そう・・・、よほどのことなのですね。・・・アレス、いらっしゃい。」グラーニェは息子を抱き寄せんとしたが、アレスは寄ってくる様子はなかった。

 

「アレス?」

 

「父上は・・・。負けたのですか?」

 

「えっ?」

 

「父上は・・・、戦争で負けて死んでしまわれたのですか?」アレスの目はかつての父親のように鋭く母親の目を見据えた。

 

「いきなり、どうしたのです?誰かに聞いたのですか?」グラーニェが問いただすとアレスは首を横に降る。

 

「もう、何年も父上は迎えにきてません。父上はもう帰ってこないのですか?」アレスの言葉を聞いてグラーニェは逆上しそうになる。父親を信じない子供に折檻をせんと手のひらに力を込めるが、アレスの鋭い目は父を信じない目ではなかった。その瞳には力があり、事実を確認せんとしているように感じたグラーニェは平静を取り戻した。

 

「あなたのお父上は戦死してしまいましたが、負けてはいません。」

 

「死んだけど、負けてない?」アレスの幼い頭では理解できない、グラーニェは、アレスをそっと抱き寄せた。

 

「そうよ・・・。だって、あの人は私たちを生きてここまで流してくれたもの・・・。それにあの戦いで最も大事な戦友を守り、最大の難敵を命を懸けて倒したそうよ。命を落としたけど、これ以上の武勲なんてないわ・・・。

アレス、あなたのお父上は誰よりも勇敢で、強い騎士だったのよ。あなたにはその血が受け継がれている、今はここで力をつけてね。」

 

「ははうえ・・・、お話してくれてありがとうございます。

僕はきっと強くなってお父上の意思を継いでアグストリアに帰ります。父上の剣を見つけ出して、父上の成したかった事をやってみます。」アレスはグラーニェに頭を下げて退出するのであった。

 

幼きアレスは、既に若き獅子へと目覚めようとしていたのである。


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