ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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久々の投稿になりすみません、新年明けてようやく初めの投稿です。
締めの細部で矛盾にならないように考えてますと時間だけが悪戯に過ぎてしまいました。


砂漠

マリアンは未だにカルトが消えて行った空間を見つめ、手には自身の頭に飾ってある瑪瑙の髪飾りと同じ物を手にしていた。涙がとめどなく流れてさらに悲しみが溢れてくる・・・。

 

「うわあああ・・・。」床に伏せるとそのまま泣き崩れた、命をかけて守りたい主人を守れない自分に深い悔恨が押し寄せて心を壊していくようであった。

 

「辛いな、大切な者を失うというのは・・・。」マリアンの背中に大きく温かい手が添えられ、優しくてゆっくりと、諭すような声が響いた。マリアンは押し寄せる感情を止めてその御仁へ向き直る。

 

白髪の髪に、長年の苦労が顔の皺としてあちこちに刻み込まれた壮年の騎士であった。しかし気品は失っておらず、その目は暖かいものであった。マリアンはその目に惹かれ、落ち着きを取り戻していく・・・。

 

「あ、あの・・・。あなたは?」

 

「これは失礼、さっきまで馬の従者をしていたのだが、君の泣き声を聞いた物でな・・・。心配になって幌の中に失敬させてもらった。」

 

「あ、すみません。私人目もはばからずに・・・。」

 

「大丈夫じゃ、幸いこの馬車は荷物用となって乗っているのはもう一人の従者と、私達と、オイフェだけだ。」確かに辺りを見渡すと乱雑に積み上げられた物品が所狭しと幅を利かせている。マリアンは滑り込みにリューベックへ辿り着いたので、積荷用でしか対応できないでいた。オイフェはまだ意識を取り戻しておらず、深い眠りについたままであった。

 

「名乗るのが遅くなってしまったが儂はバイロン、シグルドとエスリンの父親だ。

エスリンと孫のアルテナを救ってくれてありがとう。」マリアンはその言葉にビクッとしてしまう。アルテナはともかくエスリンは遺体となっての帰還である、誰かに恨み言を言われても仕方がないのであるが今の所誰にもその様な言葉を投げかけられる事は無かった。その優しさが今はマリアンにとって辛かった。再び涙が溢れ出す。

 

「大切な者を守れないのは辛いな・・・。儂もクルト殿下を守る事が出来ず、イザーク国内で抵抗し続けたが辛い記憶ばかりだ・・・。家臣も一人、また一人と倒れ最後には儂しか残らなかった。それでも儂は生き残りシグルドに聖剣を託す事が出来た。

・・・年端のいかない君が儂と同じ経験をするなんて、世の中は残酷な物だ。」涙を流すマリアンを宥めるように背中に添えられた手に心の拠り所を求めてしまっていた。

 

 

 

二人はしばらく無言の時をすごしていた、馬車の定期的に響く振動のみが辺りを支配していた。ようやく心が落ち着いたところでバイロンが次の言葉を紡いだ。

 

「どうじゃ?ティルナノグに落ち着いたら、アルテナを鍛えてみんか?」

 

「えっ?私が、ですか?」マリアンは突然の提案に驚く。バイロンはそれに頷いて返す。

 

「私に、そのような大役が務まるのでしょうか?私は一般人です。彼女のような方にお教えするような物はありません。」

 

「身分など今から行くティルナノグには不要な物だ、それに蛮族間の諍いに巻き込まれる事も多い。女子供も自衛のためなら戦いに出るような場所、アルテナが受け継いだゲイボルグも馬が無ければまともに振り回す事も出来ないだろうがティルナノグには騎馬など何頭も飼育しているわけではない。」

 

「で、では私は何を・・・。」

 

「あの竜をアルテナに託す事は出来ないだろうか?君のその足では戦場に出る事は出来ないが、君の技術を後世に残していく事も次の世代には大切な事だ。これからマリアンはマリアンにできる形でカルト殿を支えてやるといい。」

 

「・・・・・・。」マリアンは押し黙ってしまう。いままで戦場の前線に出てこそ自分がカルトに恩返しすることしか出来なかったが、歳を重ねて得た教訓を話すバイロンの言葉はマリアンに再び希望を照らし出す。

マリアンもう今生においてカルトの前に見(まみ)える事は不可能と分かっている、だからこそ次を見据えなければならない。バイロンもその心の内を知ってるからこその、彼なりの示しを彼女に送ったのだ。

 

「バイロン様・・・。」マリアンの掠れた声にバイロンは頷く、マリアンはその大いなる父性にバイロンの胸にそっと頭を寄せるとバイロンは優しい笑みを湛えて彼女をそっと抱いた。頭を撫でる手が大きく暖かい、マリアンは逆の手をそっと持ちまじまじと見つめる。

 

「バイロン様の、その優しさと強さがシグルド様に伝わったのですね。そして次のセリス様へ・・・。

カルト様はシグルド様の優しさが危ういといつも気を揉んでありました。でもシグルド様の人柄に周りは惹かれ、足りない物は周りが埋めていくと言われておりました。カルト様もその一人です・・・。」マリアンの独白にバイロンは無言で頷いていた、まるで実の娘の話を聞きいるように優しい雰囲氣が包み出す。

 

「私達は次のセリス様にも、同じように互いに互いを埋め合えるような子供達を育成しないといけない事がよくわかりました。それもカルト様の意思と私は思います。

・・・バイロン様のご提案、謹んでお受けいたします。」

 

「ありがとう・・・、マリアン。

でも君はもう一つ忘れてはならない事がある。」バイロンはそっと彼女を引かせて目を合わせる、マリアンは首を傾げてわからないといった感じであった。

 

「女性としての幸せを掴む事だ。」

 

「・・・・・・考えてもいませんでした。私は剣で生きて、剣で全うしようとしか思ってなかったので・・・。

なりより、こんな足では私に好意を持つ人なんていないでしょう。」

 

「ここにとっくに目が覚めてるのにタイミングがなくて起きられないオイフェなど、見所があるのだがな。」バイロンの言葉に寝ているはずのオイフェはびくっと反応する。二人のジト目に当てられ暫くは硬直していたが、観念して起き上がる。

 

「す、すみません・・・。盗み聞きするつもりはなかってのですが・・・。」もそもそと起き上がり、バツが悪くて仕方がないオイフェにマリアンは自然と笑みを浮かべた。

 

「バイロン様、それは承服できません。

オイフェにはもっと相応しい女性が現れるでしょうし、私はもう誰も支えてあげることはありません。」

 

「そ、そんなことはありません!!」オイフェがその言葉を遮った。

二人の目はオイフェの発言で向けられる、再び窮地に陥るオイフェであるか固唾を飲んでのまれないようにこぶしを握った。

 

「マリアンは未熟な僕を守りながらみんなを救ったんです、僕は何も出来なかった・・・。だから、今から僕に寄りかかって下さい。

今はそれしか出来ませんが、これから・・・必ず・・・。」再びオイフェのことばが詰まるが、その度に拳を握る。

 

「きっと、マリアンが幸せになるように僕が支えて見せるから!」

握った拳を胸にドンと打ち付けて自身を鼓舞するかなの様に言い放つ、対してマリアンは呆ける。様々な感情が吹き荒れるマリアンはオイフェの気持ちを考えて返す事もおぼつかない、その葛藤にオイフェはもとに戻っていく。

 

「・・・僕、何か変でしたか?」オイフェは混乱した頭が急速に冷えていく・・・。

 

「・・・ううん、ありがとうオイフェ。あなたの心意気には感謝しているわ・・・。今は色々とありすぎて整理ができないの、あなたのその気持ちにまだ私は応じる事は・・・。」項垂れるマリアンにオイフェは自身の未熟さを再び感じ、奥歯を自然と噛み締めていた。

 

今のオイフェには、全てが足りなかった。

シグルドやカルトのように言葉を実行する力、バイロンのような経験値からの説得・・・。羨望し、先人に追いつかんとがむしゃらに訓練したがそれでも追いつかない自分に落胆する。

 

しかし、オイフェには彼らにもない可能性を秘めている事も確かである。若者はその経験値の無さから自分の進むべき道を見失い、挫折を味わった者がもがき苦しみながら新たな道を切り開くのである。

バイロンはオイフェを見てそう感じていた。シグルドのように血統には劣るが彼の知性と悩み踠いて活きた教訓がその伸び代を伸ばしていき、必ずセリスを助けると信じていた。

バイロンもまた、残る力を注ぎ込むべき道を見つけていたのだった。

 

 

 

 

シグルド軍がバーハラに向けてイード砂漠を沿うように進軍する。

リューベックより南の砂漠地帯は中立地域であるが、さらに南方にあるオアシスの町フィノーラはグランベル領である。

外敵からの侵入を守るためにヴェルトマーの前公爵がこの地を治め、ロートリッターを配備して侵入者に慈悲なき天空からの火球を降り注ぐ拠点となっているのであった。

そのメティオが、シグルドの進軍している先へと落ちたのである、

 

隕石の落下と揶揄するその魔法は本当の隕石ではなく、大気の燃焼物質を集めて摩擦熱で発火させ敵頭上に落とすものである。

本当に宇宙に彷徨う隕石を呼び寄せる魔法なら、世界を滅ぼす禁術となる筈であるだろう。

それでも凶悪なその魔法にシグルド軍は色めき立つ、それは威嚇として打たれたものであるがその効果は絶大であった。

 

「これ以上進めば間違いなく頭上に落としてくるな。」カルトは空を仰いで口走る、並走するアゼルは静かに頷いた。

 

「ここは見晴らしがいいし、湿度も低いからメティオには絶好の条件だよ。ここを守護する魔道士は命中精度も高い・・・、どうするの?カルト。」

 

「メティオを何度か遠目で見ていたが、対象物として落とされるとかなりの威力だな。」直撃すれば一体何人の命が落とされるのか、考えただけで寒気を襲った。冷たい汗が砂漠の暑さと相反して以前の汗と混ざっていった。

 

「おそらく、高台から自身の身を守りながらメティオを使うのだろう。天馬騎士や竜騎士が現れたらリターンで帰還する対策を講じている筈、こうなれば・・・。」

 

「こうなれば?」カルトを覗き込むアゼルは、あのとんでもない悪戯を考えている時に出る表情と読み取った。嫌な予感しかしないアゼルは代わりに冷たい汗が出始める。

 

「アゼルは、メティオで奴等を迎撃できるな?」

 

「う、うん・・・。連続には使えないけど魔力全部つぎ込めば3発は打てると思う。」

 

「神父様を読んでサイレスの杖で何人か無力化してもらえばなんとかフィノーラまで行けそうだな、そうそう何十人とメティオの使い手はいないだろ?」アゼルに確認を促す。

 

「僕がいた時はフィノーラは交代制で6人だった。」

 

「アゼルが一発お見舞いして、神父様には二人ほどサイレスで無力化してもらおう、・・・残り三人か・・・。」ぶつぶつと考えているがどう考えても無茶か皮算用にアゼルが制止する。

 

「まっ、まってよカルト!メティオなんて小さい標的になれば当たらない可能性もあるし、そもそも6人という数字も怪しいよ!し損ねたら一巻の終わりだよ。」アゼルの正論にカルトは意外な顔をしていた、それは唖然とはまた当てはまらない表情であった。

 

「アゼル、俺たちはそれだけの確率の低い賭けをしてるんだぜ。・・・もしこの戦いをギャンブルして掛けてるいる奴がいるとするなら、俺なら全財産負ける方にするね。」

 

「・・・・・・。」もっともであった、ただでさえ女子供すらも戦場で戦うような軍なのに、この行軍ではそれすらもイザークへ逃がしたのだ。シレジアの助力も先を考えて断り、子供たちの世代のために必要な武器も物資も彼らに託したこの軍には予備の蓄えなど一つもないのである。

 

「ここでバックアップやフォローなど考えるな、俺たちは最小限の力で最大限のパフォーマンスを続けなければバーハラどころかフィノーラにもたどり着かないのだぞ。」

 

「そうだった、ごめんカルト。僕の認識がまだ甘かったようだ、許してくれ。」

 

「はははっ、気にするな。それでも諌めてくれるアゼルには感謝してるんだぜ。

・・・フィノーラで全力を出す訳なにはいかないからな、アゼルには一発だけで抑えてもらう予定なんだよ。」

 

「それじゃあ、足りなくてメティオが落ちてくるよ。」

 

「大丈夫さ、手段は講じてあるさ。」カルトの軽口にアゼルは無性な不安にさせられてしまうのである。

 

 

 

シグルド軍は既に決死を覚悟している。先程のメティオで当初は未知の攻撃に騒然としたが立て直しは思いの外早く、砂漠をゆっくりと進みだした。

暑い・・・、雲ひとつない晴天と干からびるような乾燥に個々で用意していた水はどんどんと消費されていった。

さらに歩くと先程落ちたメティオの窪みが姿を現し、その威力に唸る声を抑えられずにいた・・・。

ここから先は奴らの射程範囲となる事が明確にされており、火と死の砂漠へと変貌するのである。

一度立ち止まるとカルトの頷きにシグルドは頷き返す。一度休息の号令があがり、待機を命じたのだった。

 

「どうしたんだ、進まんのか?」相変わらず女性の声だが独特のテノールの声量がカルトとシグルドにかかる。二人はカップに入れた水を舐めるように大事に飲みながら、その主へと向きなおる。

砂漠を渡る為の装備に変えたアイラは、日差しを避ける為に体の全てを白い外套で多い目だけが鋭くこちらを見据えていた。

 

「ここからはそれなりの準備が必要で、いま前線に持って来させているところだ。」シグルドはカップの水を飲み干すと、騎馬に括り付けている袋へとしまい込んだ。

 

「後方にあった、あのデカブツか・・・。砂漠の砂に呑まれながら必死に持ってきているあれが何の役に立つんだ?」アイラはカルトの水を奪うと、口をつけているにも関わらず気にするそぶりもなく飲み干した。

デューはくすくすと笑い、エスニャは機嫌が悪そうにそっぽを向く。

 

「陽動くらいにはなるだろうし、うまくいけば御の字さ・・・。

後は土台の不安定さと、砂漠の砂でどこまで作動してくれるかだな?」カルトはすっとぼけて言うとアイラのイライラは募っていく。

 

「小賢しい頭ばかり回していると、今に計算が追いつかなくなるぞ。私ならあんな火玉なんぞ、疾走して走り抜けてやるぞ。」挑発するようにカルトへ吐き捨てる。

 

「頼りにしてるよ、でもあのデカブツを試してからでも遅くないだろ?」カルトの向ける先にそのデカブツが現れだした。

数十人もの人夫が、シーツにかけられたデカブツをコロや人力でここまで押してきたのである。代わる代わるここまで押し続けてきたそのデカブツは号令とともにセットされた。

足元の良い場所を見つけ、木材を何重にも重ねて台座に固定された。

 

「なんなんだ?これは・・・。」アイラはその実態の見えない姿に興味を示すが、シーツはまだ開帳されない。

半開きの状態で人夫が入り込み、仕込みをしているようであった。

 

「砂が入ると使えなくなるそうだから使うギリギリまでシーツは外せないんだ。さて、一勝負といこうじゃないか!!」カルトはこぶしを自分の掌に打ち付けると、初めのギャンブルへ勝負をかけるのであった。




余談ですが・・・
2015年4月に投稿したときにアイラの声はアルトより低いテノールと解釈したのですが、ヒーローズで出てきたアイラの声が私のイメージ通りでしたので嬉しかったです。それに強くて綺麗ですからね、シャナンが羨ましいー。

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