ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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暗い、辛い、描きたくない・・・。
最近進まないのは私の精神力がヘタレだからです。
言い訳ばかりですみません。


フィノーラの町で・・・。

フィノーラはかつてはダーナと同じで完全な自治区であった。

小さなオアシスに構えるこの地は、行商人が落とす外貨で細々と暮らす事でしかない地である。

イード砂漠は完全なる不毛地帯である上にどこの国にも属さない事から、犯罪者が逃げ込み集まる温床の地域と化している。自治区であるフィノーラは度々襲われ住民が多数被害が出るようになった。

ダーナなどの大きな自治区は観光資源などがあるので、自衛の為に傭兵や自治団が存在しているが、小さなオアシスがあるのみのフィノーラはそうはいかない。賊に襲われる度に悲しみに見舞われていたのであった。

その疲弊に耐えかねたフィノーラはヴェルトマーの前公爵であるヴィクトル卿へ嘆願し、この地の平定を願い出たのである。

ヴェルトマーにとってのこの地の平定など散財する事になり反対意見しかなかったのだが、ヴィクトル卿はフィノーラの平定に乗り出したのだ。その提案に家臣たちは驚き、動揺した事であろう・・・。

ヴィクトル卿はその頃妻を娶り、幸せの絶頂期であった。フィノーラ平定の裏に、別地を手に入れて窮屈な国内よりもフィノーラで妻と共に羽根を伸ばそうとして思っていなかった。

頭を悩ませた配下は、この地を軍事訓練の場として使用するとバーハラ王家に釈明したという・・・。

 

その後、フィノーラにヴェルトマー兵が駐在するようになりフィノーラは格段に住みやすい土地へと変わっていった。税収は課せられ多少窮屈になったが、オアシスの街という事でグランベル領土から休暇のをとる憩いの場所へと変貌したのであった。

年中暑いこの地域で、豊富な水量があるフィノーラは水浴びがいつでも行える絶好の地となり、貴族達は別荘地として選ぶのであった。

 

 

そのフィノーラがヴェルトマー領になって初めて戦火が及ぶかもしれないと住民は混乱の境地であった。

この地を守るヴァハはすでにロードリッターを配備し、メティオをシグルド軍に威嚇攻撃を放って進軍を諦めさせようとしたが部下の報告では撤退した様子はなかった。

フィノーラ内のヴェルトマー軍駐在の砦の屋上でヴァハは部下からの交信を待ちつつ、自身の射程内に入ればメティオの打ち出す準備に入る。精神を集中し、高める・・・。

本日も砂嵐がなく乾燥している、訓練通りに行なえば大きく外す事はない。ヴァハにとって敬愛するアイーダ将軍に害なす者は例外なくこのメティオで粉砕してきた、例えその軍にアルヴィス卿の弟がいようが躊躇する事は皆無である。

そんな中で砂混じりの不穏に風にヴァハの精神は少し乱される、閉じていた目を開けて辺りを見渡すがいつもと変わらぬ風景であるが言い様のない不安を胸によぎった。

 

《各自報告せよ、シグルド軍はどうなっている。》配置に就かせたロードリッターの精鋭魔道士に伝心を送る。

 

《こちら、配置D!!AからCの方位が破られました!!敵の魔法封じによりAからC沈黙し、こちらは・・・ああっ!!》

D配置にいる魔道士からの伝心が途絶えた時、空に燃え盛るメティオではなく岩石が舞っていた。それも一つではなく、三つの岩石である。

各々が放物線を描きながら複数ある高台めがけて射出されており、魔道士めがけてではなくその足場を狙っての物であった。

乾燥した空気に遠巻きに太鼓の音を聞くかの様に、鈍い音がここフィノーラにまで響いた。

「な、なんだ。何が起こっている・・・。」ヴァハは戸惑いを隠せないでいた。

 

 

 

シグルド軍は歓声が上がる、衝撃音と共に騎馬等はシグルドを先頭にフィノーラへと突撃を開始する。

彼らは後方の支援を信じて突き進み、カルトは後方に指示を飛ばす。

 

デカブツのシーツを取り払われて出てきたのはアグストリアで使われていた大型の射出機材である。

アグストリアは他国の魔道士の遠距離攻撃に苦しめられた過去の経験から技術を磨き、それに準ずる遠距離射出軍備に精を出していた。

その中の一つにシューターと言われる射出装置を各種開発していたのであった。

アグストリアとの同盟で、その技術提供を受けたシレジアでは鉱物を遠方に飛ばすシューターに興味を持った。

シレジアの鉱石の中には軽くて割れると鋭利な破片となる物や、比重が重くて威力の大きい物まで豊富に産出する為、兵器としてもってこいであった。

その巨大な射出装置を数点に分解してここまでもってくる発想をカルトは提案したが、砂地のイード砂漠では足場が安定しない、砂埃が駆動部分に入り込むので数回の射出の度に洗浄しなければ精度が落ちる。などをカルトはシレジアで結成したシューター部隊と協議してその対策を想定して準備していた。

 

「すまないな、君達を巻き込んでしまって・・・。シューターの射出が終わったら機材を破壊してすぐに本国へ帰還してくれ。」慌ただしく射出する射出技師長にカルトは頭を下げて労いと謝罪する。

 

「何をおっしゃるのです!我らセイレーン射出技団はカルト様の命で結成された団です、カルト様の用命に背く事など誰一人いません。

例えレヴィン王が引き止められても同行します。

・・・それに、この技術を受けられてから港の守備も上がり海賊の侵入は一度もありません。シレジアの玄関は安泰になり、国も豊かになりました。

カルト様、この戦いが終わりましたら必ず戻ってきて下さい!あなた様はシレジアの至宝でございます!!」技師長は敬礼する。

 

カルトはかつて、セイレーンで船の射出装置の技師であった彼を説得し、慣れない他国の図面から射出装置を作り出した。風雪と低温で稼働しない装置に独自のシューター技術を編み出し、ついにシレジアでも使える射出装置を開発した。

そして突然の乾燥地域で、テストなしの実戦配備にも対応してくれたのだ。

 

「ありがとう。レヴィンが許してくれるかどうかはわからないが、この戦いが終わったら許しを乞いにシレジアに戻ろう。

・・・頼んだぞ!」カルトは前衛部隊においつかんと馬を駆る、砂漠に足を取られて速度が落ちるが今は体力を少しでも温存したい。

出来るだけ馬での進行を行うカルトであった。

 

 

前衛ではフィノーラを守護するヴェルトマーの混成部隊が応対するがその数は少なかった、今のシグルド達を相手には出来ないだろう。

攻撃の要であるメティオを扱う魔道士の半数が既に無力化してしまい、さらに残りの魔道士は射出装置に向けて遠距離魔法を使用しているので迫る騎馬部隊に回せる魔道士は少ない。

メティオを使われてその一つがシアルフィの部隊と傭兵騎団に被害が出るが速力は落とさない。第二撃が打たれる前にフィノーラへたどり着いて接近戦に持ち込まなければ全滅もあり得る、犠牲となった一段が作った好機を逃せば彼らに申し訳が立たないだろう。

彼らの無事を祈りつつ先頭を駆るシグルドは勇猛と突進した。

 

とうとうフィノーラの護衛騎士と剣を交えたシグルドは一刀の元に斬りふせる。父から譲り受けたティルフィングは何度となく鍛治に出してすっかり復元しており、その切れ味は凄みを増していた。斬り伏せられた騎士は痛みを感じることなく絶命しており、聖剣の慈悲からくるものであろうかと思える程であった。

後に続くシアルフィのアレクとノイッシュ、ベオウルフとレックスなどの騎馬部隊がシグルドの先制に勢いづき怒号と共になだれ込む。

 

後方から撃たれる弓に気を止めずに前進するレックス、彼の血筋から続く不死身の由来通りの圧倒的防御能力は、戦場では狂戦士さながらの惨状であった。鉄の斧と手斧と貧弱な装備である筈だが、彼が扱えば凶悪な武器へと変貌していた。

 

ベオウルフの大剣捌きにフィノーラの騎士団も戦慄する。馬上で扱うには非常に不利な大剣を巧みな切り返しと、下半身と上半のよく噛み合った身のこなしで不利を感じることはなかった。

斬りかかる敵兵の長剣はまともに受ければ砕かれ、そのまま斬り伏せられて行く・・・。彼はまだまだというが、彼を慕う部下たちには既に先代を超えていると見ていた。

 

ノイッシュとアレクも負けてはいない、彼らは個々として圧倒的な戦闘力は2名には及ばないもののシアルフィ騎士団としての連携攻撃は侮れない力を発揮していた。ベオウルフの先代団長であるヴォルツはアレクとノイッシュ、アーダンの連携により打ち倒した功績を持つのである。

ミデェールの後方より放たれる支援の弓攻撃も非常に間が絶妙であり、先陣の助けにとなっていた。

 

 

ヴァハはフィノーラに迫る怒涛の勢いのシグルド軍にかつてなく戦慄する。初めのメティオの打ち出しには成功するが、第二撃の詠唱中に魔法封じを仕掛けられてその抵抗で精一杯であった。

クロード司祭のサイレスは非常に強力で、これに対抗できるものなど数少ないだろう。ヴァハはまだ術中にははまっていないが、その押さえ込みに耐えかねていた。

 

(ヴァハ、貴方だけでもヴェルトマーに戻りなさい、もうシグルド軍の勢いを止めることはできないでしょう。)

ヴァハの頭に伝心魔法が飛び込んだ。それは敬愛し、尊敬し、いつかは自分もなし得たい将軍職への羨望の対象であるアイーダであった。

 

(アイーダ様!このような失態申し訳ありません。私はもう用済みでしょうか?)作戦失敗に咎を受けるのだろうと考えたヴァハの気持ちを悟ったのか、クスリと笑う声がアイーダから漏れた。

 

(これは作戦失敗ではないわ、撤退よ。あなたはそんな事を考えずに帰ってらっしゃい。ヴェルトマーにとってあなたを失う事は今後大きな損失になる、こんな所で討ち死になど考えずに私の元でもっと働きなさい。)アイーダの言葉にヴァハは陶酔する、気持ちが緩んでクロードのサイレスに屈してしまうのでないかと思う程であった。

 

すぐ様ヴァハとその一団であるロードリッターはヴェルトマーへと撤退し、クロードに縛られた魔道達は招聘魔法で回収されていく・・・。

彼らの撤退と温存は、後の悲劇の幕開けへと繋がっていく事をシグルド達は知らない。ここで彼らを根絶しておけば・・・、後に自責の念へと変わる一因であった。

 

 

シグルド達はたった数時間で騎馬部隊を制圧し、フィノーラへと駐屯する。街の人々は警戒するがシグルド達は略奪を行う賊ではない。

すぐ様町長の元へ向かい、その意向を確認に向かった。

 

「カルト公、どうだろう・・・。彼らは少しの駐屯を許してくれるだろうか?」街中はシグルド軍を恐れて家に引きこもってしまっていた。同じグランベルとは思えない程で、時折奇異な視線を受ける事もある程である。

 

「賢い町長なら事を荒立てずに用事を済ませたら早々にお引き取り願うと言われるだろうが、ヴェルトマーの小飼となっていたら多少のトラブルは覚悟しておいた方がいいな。」カルトもまたその訝しげな視線に不愉快を感じながらシグルドに意見を述べた。

 

「・・・できればここで物資の購入と、休息ができればいいのだが。」

 

「代価を払えば喜んで出してくれる、そこは大丈夫だろうが町長が入軍を許してくれるかどうかだな。」シグルドは無言でカルトの言葉に相槌を打った。

 

二人が町長の住む館に訪問し、二人は客室へと言われたがまだ戦いの熱が冷めやらぬ服装のままである、シグルドの服には血糊と泥が混じるこの状態で一般の客室に通される事に遠慮した。

その場で武器は全て外し、町長室へ入室する。

 

「シアルフィのシグルドです。町長、物々しい入室に対する非礼をまずは詫びたいと思います。」シグルドは深く頭を下げ、カルトも同じ詫びを口にする。

 

「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。

不幸中の幸い一般人には被害がありませぬ故、私としては問題がないのですがシアルフィの方々は本国に対して厳しい対応を迫られるでしょう。これからはどうなさるつもりですか?」町長の話にカルトが口火を切る。

 

「ありがとうございます、私たちとしてもフィノーラを戦火にするわけにはいきません。すぐにでも出立したいのですが、砂漠の行軍で疲労が出ております。

本日だけでも宿泊する施設と、軍備を整える為の商人を紹介して欲しいのですが・・・。」

 

「わかりました、至急手配しましょう。有り余る物資とは程遠いですが満足できる分は賄えると思います。

武器の方はお満足頂けないと思いますが、一度足を運んでみてはどうでしょうか?」

 

「ありがとうございます、正直受け入れてくださるとは思いませんでした。助かります。」町長の言葉にカルトは少し突っ込んでみた、彼の胸中を引き出すために自身の本音を入れてみたのである。

 

「わしらは住民にさえ危害がなければどこの軍が駐留しようがお客様には変わりませんよ。今はグランベルのヴェルトマー領預かりでありますが、彼らがこの地を一時とはいえ放棄をしたのなら今は以前の自治区と変わりません。ならは我らは自治区としての領分を果たします。」町長は一つ笑みを湛えてカルトの意に答えるかのように伝えた。

(この街は強いな・・・、どこかの領土に収まってもそこにもたれかかる事なく自治の意識が根付いている。)

カルトの感想であった。

 

「そうそう、あなた達の前にも砂漠で戦いがあったみたいで一人の騎士が運び込まれたんですよ。相当の重傷を負っていたのですが、気力でここまで辿り着いたんです。

シグルド殿、あなたの軍にエスリンという女性がいらっしゃいませんか?」

 

「エスリン・・・!?私の妹です。」シグルドの言葉に一堂が凍りついたように一瞬固まった。

 

「な、なんと・・・!シグルド殿、その騎士にあって下さい。もしかすると・・・。」シグルドとカルトは町長の言葉に頷き走り出す町長の後を追っていた。

 

三人はこの館にある別館へ急いだ。

別館は医師と薬師が駐在する診療所になっており、その騎士はそこで生死を彷徨っているとの事であった。痛みと失血で意識を保つ事も難しいはずなのに彼は強靭な意志で保ち、命を繋いでいるそうであった。

シグルドは確信していた、部屋に入るなり彼の名前を叫ぶ。

 

「キュアン!私だ、シグルドだ!!」

 

「・・・・・・。」

 

「キュアン王子!!」カルトはすぐ様リカバーをかける、途端に白い光が彼を包み込んだ。

 

「・・・・・・・・・シグルドか、無事に、フィノーラまで、これたのだな。」

 

「ああ、君達のお陰でここまで来れた!!」

 

「そうか、よかった・・・。エスリンは・・・、アルテナは無事か?それに・・・、マリアン、とオイ、フェは?」

 

「・・・無事だ、みんな君の働きで元気にしているぞ。早く体を直してティルナノグに会いに行こう!!」

 

「そう、だな・・・。寝ているわけには、いかないんだが・・・。安心したら、眠たくなってきた・・・。シグルド、一眠りするから、待って、くれ・・・。」

 

「だ、駄目だ!キュアン!!しっかりしろ、私には君が必要なんだ!起きてくれ!!」シグルドはキュアンを抱きしめる。

 

「だい、じょうぶだ。少し・・・眠るだ、けだ。シグルドを、残してはいけない。エルトシャンの・・・。」

 

カルトはリカバーを中断する、もう手の施しようがない事は初めの治癒で判断した。気持ちは続けたいのであったがまだこの戦いは先があるし、何が起こるかわからない・・・。カルトは続ける事は出来なかった。シグルドに首を振って意志を伝え、カルトは肩を震わせた。

 

「キュアン王子、あなたの優しさと強さを私は忘れません。どうか心穏やかに・・・。」カルトはシグルド以外の者全てを連れて退出する。ドアを閉める前に一礼し、冥福を祈るのだった。

 

シグルドの声なき悲しみが部屋を包み込み、夕闇に暗転していく。

これからこのような悲しみが続いていくのであろう、それでも抗い難い運命に立ち向かわなければならない。

カルトの握る拳と食いしばる口から鮮血が滴っていたのであった。


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