ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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カルトの魔道書、正体は・・・。


ダーナの砦

カルト達は再びイード砂漠に足を踏み入れていた、先日踏破したばかりの劣悪環境に再び逆戻りすることは人の命がかかっているとはいえかなりの躊躇がある。

意思でその後ろめたい気持ちを断ち切り今日も前進していた、リボーの街を出てもう三日なろうとしている。

カルトの自身の魔力探査によるとダーナよりさらに南の地点、アルスターに近い場所で強い反応を見せたのだ。カルトの能力を信じ三人は交わす言葉もなく、先を急いでいた。

 

フュリーは上空からホリンはカルトの警戒が鈍っている周辺を護衛しつつ、夜はカルトの魔力回復に務めさせる為に夜番は交代で行っていた。

その甲斐もあり三日目の昼過ぎに、奴らの潜伏場所と思われる地点にたどり着いたのだった。

 

かつての聖戦で使われていた拠点地なのだろうか、砦と言うにはあまりにもひどく風化し朽ち果てている建物であった。砂漠にあるとはいえ、その劣化は加速を増しており現在は邪教とも言える物どもを匿えるようには到底思えなかった。

 

「カルト、ここなの?」

 

「ああ、反応によるとここになる。建物はともかく、ここからはかなり禍々しいしい魔力を感じるぞ。」フュリーはカルトのその言動にかなりの危険を察知した。今までイザークの警戒網もすり抜けて偵察隊もホリンを除いて全滅しているのだ、そんな連中の拠点にいまから入り込むとなると三人無事に帰れる根拠など一切ない。

 

「フュリーやはりここは引き返せ、室内では天馬が使えない。天馬の加護がなければ魔法防御は人並みになる、危険だ。」カルトは再度リボーでの忠告を口にした、フュリーはみるみるうちに表情を歪ませる。

 

「どうして!それならホリンさんも同じはずよ、私だけここで諦めるなんて自分自身許せない!」

 

「ホリンは一度連中と一線交えて危険性と対処を心得ている、俺は魔道士として奴らにアプローチできるがフュリーにはその両方がない。引き返すのが駄目ならせめてここで待機していてくれないか?」

カルトの珍しい懇願にフュリーは困惑した、ここで彼の迷惑をかけるべきではないと思っているがもう一つの可能性を示唆していた。カルトはここで命をかけてまで彼女の救出をするのではないかという事だった。

 

 

レヴィン王子からはカルトの護衛として拝命されている、カルトは私が国外に手引きするだけと思い込んでいるが実はそういうことだ。本心を言ってもよかったのだが、レヴィン王子からは出来るだけその事は本人に言わないようにも忠告されていた。

 

カルトはことごとく私に本国帰還を口にするのでその事を伝えてこのまま同行するように言ってもいい、しかし彼はそれを知るとおそらく私をまいて監視から解放する姿勢を見せるとふんだのだ。

 

フュリーのジレンマが言葉を遮るが、カルトのいう現場待機が譲歩できる提案と受け止め私は了承するのだった。

 

「わかったわ。カルトにホリンさん、絶対に帰ってきてね。」不本意ではあるがカルトの意見を聞き入れる。フュリーの精一杯の笑顔にカルトも答えた、彼女は握手を求める手に応じ握り返す。その笑顔を見つめた時に視線がぶつかり、絡み合う。

 

「ああ必ず、帰る・・・!!!!・・・・・・。だから、シレジアで待っていてくれ。」

 

「カルト・・・。」フュリーの消え入る声が罪悪感と共に俺の右手に強く残る。彼女は必死に意識を保ち、自身のみぞおちに入ったカルトの拳を握った。

動揺しないホリンもここでは、さすがに驚いたのか俺の名を呼びこの後の行動を見張っていた。

 

「すまないフュリー、君はここで万が一にも倒れる訳にはいけない。レヴィンのそばで支えてやってくれ、俺に何かあってもシレジアを頼んだぞ!」

ついに自身で立っていられなくなったフュリーの肩を抱き寄せ伝えた。彼女は一雫の涙を流し、何といったかわからないが唇が空を囁いて眠りにつくのであった。

 

 

カルトは心配している天馬の背にフュリーを乗せて鐙に固定させる。

 

「すまないがシレジアまで頼む、フュリーがここへ戻ると言っても必ずレヴィンの元に送り届けてくれ。」

天馬はその言葉を理解したのか定かではないが、私の方に一度首を乗せて小さく嘶いた後空をかけていくのであった。

 

「まさか、ここで強引にシレジアに帰してしまうとは・・・。」

ホリンは一部始終を見届けてから、感想の一言を述べる。

「この場面ではないからこそできる芸当だよ、フュリーにはシレジアでもっとふさわしい仕事がある。それを優先させただけさ。」

 

「ふっ!そういうことにしておこう、鈍感な事は戦場において大事なことだからな。」ホリンは一つ笑うが、すぐに真剣な面持ちになり背中の大剣を確かめるのであった。

 

 

 

私は目を覚ました、日常で毎朝見る天井に今は違和感を覚える・・・。

どうしてだろうか・・・、微睡みの中で自問する。

体を一つ捻じり水差しから水をカップに注いで飲み干すと頭が鮮明になってきて状況を一気に理解した。

私はカルトに不意の拳を鳩尾に受けて気を失ったのだ、いても立ってもいられない気持ちに襲われたところにマーニャが入室した。

 

「気分はどう?」

 

「ねっ!姉さん!!私・・・私は・・・。」

 

「落ち着いて、私たちはわかっているから。」

 

「私達?」フュリーは複数形の言葉にすぐ理解したのか、ベッドから降りて敬礼の姿勢をとった。

マーニャの視線の先、ドアの向こう側で視線合図を受けて入室して来るのは麗しい王子のレヴィンがいたのだ。

 

「フュリー、体は大丈夫か?しばらく休養するがいい。」

 

「しかし、レヴィン様!私は。」

 

「マーニャが言っただろう、わかっていると。

昨夜、気を失ったお前を天馬が背中に乗せて帰還したんだ、カルトの手紙付きでな。」

 

レヴィンは手紙をフュリーの前に差し出して手渡した、フュリーは手紙を開いて文字に目を走らせる。

そこには彼の想いと決意、そしてフュリーの職務放棄を擁護する内容が溢れるようにしたためられていた。フュリーは言葉を失い、代わりに溢れ出る物は涙のみになってしまった。

 

「フュリー、君の国外初任務は成功だ。休養があければ君を天馬騎士部隊長として働いてもらうぞ。」

 

「そっ、そんな!私はこの任務をやり遂げられませんでした。カルト様にも温情でこのような立場にあるだけで・・・。」

 

「カルトは人情はあるが、過大評価も過小評価もしない男だ。ここに書いている内容はあいつの素直な文面だよ。だからフュリー、自信を持ってくれ。

それに、ここに必ず救出して戻って来ると書いてある。あいつの実力を知っているフュリーならこの中で一番信じてやれるのではないか。」レヴィンの言葉にフュリーは再び涙する、もうあちらでは結果が出ているだろう。

救出か、死か・・・。祈ることもできなかったフュリーにはあとは信じることしかできないのだ。

 

「フュリー・・・。」マーニャがいたわるように手を肩に当てて労う。妹の成長を喜ばしく、その初任務の対象であるカルトが無事でいることを姉も信じた。

 

「たっ、大変です!」

天馬騎士団の一人が突然入室した、彼女はマーニャの部下であり普段は国境警備を主として行っている者だ。

 

「どうした?」

 

「こっ!これはレヴィン様、申し訳ありません。」

 

「気にしなくていい、それよりも火急のようだが。」

「はっ、では申し上げます。イザークが・・・・・・・・・。」

 

「な、なんだって!!」三人に驚愕の表情が浮かんだ、そしてカルトの無事を祈るだけであった。

 

 

 

カルトとホリンは時間をかけて周囲を捜索し、正面からの入り口一点のみとなっていた。

正面には一見は誰もいないように感じるが、カルトの感応魔法で入り口に踏み入ると奴らの探知魔法にかかることがわかり、夜に側壁より忍び込む事にした。

朽ち果てそうな外観をよそに内部は手入れをしている様子があり、ますます怪しさを感じるが内部には人の気配も生活感もなかった。

おそらく偶然迷い込んだ者に接触しないようにしている可能性があり、隠し通路などを確認する必要がある判断した。

足音も合図も最小にして捜索をしているがなにせ夜である、見分けがつかず作業能率は悪かった。

 

「カルト、どうする?朝まで待つか?」

 

「これ以上待つわけにもいかないな、できれば奴らの方から出てきてくれればいいのだが入口の警戒網にかかれば侵入は厄介になる・・・。やはり地道に探すしか・・・!!」

俺はホリンの手を引いてすぐ横の部屋に入り身を潜めさせた、先ほどより探知魔法を使用しながら進んでいたのだが入口の魔法にかかった奴がいたのだ。

おそらくその警戒でどこからか奴らが出て来る可能性があるので身を潜めたのだった。

 

「う〜ん、ここにお宝がありそうな気がしたんだけどなんにもなさそうだなあ。最近ついてないなー。」

のんきな声が響き渡り拍子抜けした、偶然迷い込んだ盗賊が警戒網の魔法にあっけなくかかり隠密行動を阻害する形になってしまった。

しかしこれはチャンスにもなりえるかもしれない、彼を陽動させれば奴らが出てきた道を辿れば彼女を見つけられることができるかもしれないからだ。

彼女の髪飾りの反応は地下からしている、どこかに隠し階段などがあり、出てきてくれれば・・・。

 

「あっ!!ここ隠し階段だ!おったから、おったから♩」

なんだってー!!あの盗賊あっけなく見つけやがった、悪運がないのかあるのかどちらにしても恐ろしい奴・・・。

 

二人はその声をする方に近づき確認すると、確かに発見していた。

この砦の貯蔵庫に大きな水瓶がありそこがそのまま階段になっているのだ、中底をその盗賊は開けたようですぐ横に転がっていた。

 

「どうする?さっきの声のした盗賊、確実に殺されるぞ。」ホリンは耳打ちするが、正直困ってしまう。

盗賊と言っても声の感じからまだ幼いように感じる、ここで見捨てて陽動に使うほど俺は外道ではない。

だが、正攻法では俺たちも相手の数が多ければやられてしまうだろう。

 

「とりあえず、奴の後をついてやつらの出方を見よう。数が多いなら逃走を優先して奴らに奇襲をかける、数が少ないなら一気にケリをつけよう。」ホリンは一つ頷いて、盗賊を追いかけた。

無邪気な盗賊は警戒するそぶりもなくどんどん奥へ進んでいく、内部は簡単な石の畳で舗装はしているがほとんど洞窟のようで所々に簡単な部屋がある程度であった。

盗賊は次々に部屋に入りお宝の物色をしており、時折何かを見つけたような声が聞こえてくる。

地下の部屋を少し覗くと、ここには多少の生活をしている様子が見て取れた。しかしながら必要最低限のものしかなく、普通の物なら生活をしていた後のように感じる。

ここが彼女のように攫われた人の受け入れ場所なのだろう、こんな悪環境に閉じ込めるなんて奴らはやはり許せる物ではなかった。

 

「わあああ!」盗賊の声が響き渡る。

俺とホリンは急ぎつつ、できるだけ音を立てないように奥の部屋に向かった。

魔法探知の方向も同じ向きである。おそらくそこに奴が、リボー郊外で死体を操っていた本体と合間見えることになると覚悟をしていた。

盗賊と、彼女を助けて逃げることは可能だろうか、必死に思案を始めていた。

 

 

「神聖な儀式の間にまで入り込むとは、汚らしい盗賊めが!ここで始末してくれる!」

 

「びっくりしたー、こんなところでなにやってるの?」少年は虚をつくためなのか、天然なのか少し素っ頓狂な台詞をついて後づさる。

 

「盗賊風情が私の儀式を説明しても無駄な事だ、死ね!」

少年は部屋から飛び出してきた、危機察知能力は高いようで逃げの一手を踏むようだ。

二人はそばの部屋に身を潜めて奴の出方を待った。

しかし、この騒ぎのなか出てきたのは一人だけであった。何処かに出ているのか初めからこの施設の使用者は一人なのか、しかしこれはチャンスである。

一人なら二人でかかればなんとかなるかもしれない。

 

どのみちこのままではあの盗賊は無事ではすまない、カルトはホリンを奇襲要員として飛び出した。

盗賊の前をふさいで彼を止める、助けるがここで一緒には戦ってもらおうという気持ちはあった。

 

「ウインド!」

突然の魔法攻撃にも関わらず、少年と相対した者は自身の魔法で相殺させた。

黒いローブで身を包み、悪趣味な杖と黒い魔道書を胸に抱いた老人であった。

 

「貴様は、あの時の。くくくく、わざわざ殺されに来たか。」

 

「拐かした人たちを返して貰おうか。」

 

「あの子なら奥で眠っているぞ、それ以外はもう儀式に使わせてもらった。」

やはり、そうだったか。カルトは舌打ちをして予想道りの結果に忌々しく感じた。

 

かつてロプト教団とロプトウスの化身であったガレは子供達を火炙りにして絶望を与え、自身の力を増していった。

現在はロプトウスの血が絶えた今、儀式によって自身の力を維持や増大させているのであろう。

 

思考を巡らせているところにローブの老人は言葉を続けた。

 

「あの時は事情もあり引かざるをえなんだか、ここを知った以上生きては帰さぬ。貴様が風の使い手なら勝ち目はないぞ、おとなしくするなら一思いに殺してやるぞ。」

 

「確かに、暗黒魔法とは相性が悪い。」

 

その瞬間にホリンは側面から飛び出して必殺の突きが老人の体を指し貫いた。

 

「ぐはあああ!」

 

「物理攻撃は今回効くだろ。」鮮血が飛び散り、老人の体がのけぞった。

ホリンは剣を一気に引き抜いて相手の様子を窺った、この相手は普通の人間ではない。

これで絶命してくれればいいが、不穏な魔法の使い手であるこの老人には最大の警戒が必要である。

 

老人から、黒いオーラが立ち込め包んでいき傷がみるみるうちに塞がり癒されて行った。

やはり一筋縄ではいかないようである、カルトもすかさず攻撃に入っていた。

 

「エルウインド!!」

老人は宙に浮き上がり、猛烈な風の刃に切り刻まれた。

 

「無駄だ!」

老人の黒いオーラがエルウインドを無効化し、体に傷つけられた攻撃も塞がってしまう。

 

「ふ、儀式を済ませる前なら殺せていただろうがな・・・。少し遅かったようだな。今の攻撃が最大の攻撃なら、もう儂を殺せる術はないぞ。」

さらに老人は黒いオーラを増していき、ゆっくりと迫ってきた。

 

「ヨツムンガンド!」

老人の暗黒魔法が一気に膨れ上がり、負のオーラが辺りを包み込んだ。

悪霊のような魂が聞き取れない呻きを発しながら襲いかかってくる、まるでいままで奴が殺してきた恨みを自身に取り込みそれを他者にぶつけるような忌々しい魔法のように感じる。

カルトはホリンにタックルし、攻撃を一手に受けた。

体の生気を奪われていくような感覚が襲いかかり、肉体を削ぎ落としていくような痛みを受ける。

 

「あああああ!!」俺も魔道士による魔法防御を持っているが想像をこえる攻撃魔法でその場に倒れた。

老人は止めとばかりに次の魔法の準備に入る。

盗賊の少年とホリンは老人に剣を突き立てるが、一向に通らない。鮮血は飛び散っているが老人の体力を奪っているようには見えなかった。

そのまま三人ともさっきの魔法でカタをつけようとしているのだろう、俺も瀕死だが魔法防御を持たない彼らが受ければ一撃で絶命してしまう。

俺は必死に奮い立たせる、俺もホリンもここで終わっていい男ではない。レヴィンをシレジアの王にする為にもここで倒れるわけにはいかない!

よろよろと立ち上がり、一つの案を思い出し立ち上がる。

老人は二人の剣の受けていて魔法が中断されている。ホリンと盗賊は突き立てた剣をさらに突き立てて苦痛を与えているのだ。

 

「ええい!邪魔をするな。」

オーラを攻撃的に放射させて盗賊は吹き飛ばされた、ホリンは必死に剣にしがみつきさらに剣を捻じる。

ホリンがくれた時間、無駄にはできない。懐から魔道書を取り出し背表紙に入っていた手紙を抜き取る。

 

「ファイアー」魔法と共に魔道書を焼き払った。

手の上の魔道書はみるみるうちに焼けていくと一つの奇跡が発生した。魔道書が突然強烈な発光と共にカルトの体も光の中に消えていくのをホリンは見た。

まるで魔道書と共に別の何かに生まれ変わってしまうかのような、神々しい光だった。

 

「あ、あの光は!やめろ!」

先ほどまでの負のオーラは光に消されていき、あれほどの攻撃を受けて平気な顔をしていた老人はその光に苦痛をあげていた。

 

「カルト、君は一体・・・。」

ホリンはただ、その光景を眺めることしかできないのであった。




魔道書の秘密は次回になります。

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