ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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回想なので早く終わらせる予定でしたが、なかなかボリュームが大きくなってしまいました。
あと2話くらいの予定でしたが、多分3話になりそうです。


血族

トラキア軍は夜の帳が下りる間も無くレンスターの反撃をもらう。

砂煙を巻き上げながら猛進するレンスター自慢の騎馬部隊は砂地で足を取られる事も気にせず全速でこちらに突撃をかけていた。

視認が遅れた事も有るが、やはりトラキア軍は心の何処かにレンスターがこちらにチャージを仕掛けて来ることは無いと踏んでいた心理を巧みに付いた要因が大きいのだろう・・・。

簡易な木柵を設置していたが破砕音と共に吹き飛び、野営地に侵入を許してしまう・・・。

 

たちまちトラキア軍は数騎は空に飛び立ちドラゴンナイトの本分を果たすことに成功するが、出足の遅れた者は白兵戦でしか応戦できなかった。そうなれば釣り上げられた魚の様に、レンスターの前に後陣を配する事しかできなかった。

その僅かな数騎の内一騎がキュアンのゲイボルグの前に地へと臥せてしまう。

 

「行けるぞ!南へ駆れ!!速力を落とすな!!」キュアンの激が飛びランスリッターは常に方向は南へと向かいながら襲い来るトラキア兵に対処する。

辺りは途端に血煙漂う戦場と化し怒号が飛び交った、乗り手がいないドラゴンはその恐慌に辺りを旋回する様に主人を探して飛び回るだけで無力化されていく・・・。

 

マリアンはオイフェの馬から飛び降りるとランスリッターが苦戦している数騎のドラゴンナイトを倒す為に走りでる。

急降下するタイミングに合わせて大きく跳躍し、ドラゴンの背に強引に飛び乗った。

 

「なっ!なんだと!!」ドラゴンナイトの更に頭上に飛び上がったマリアンはそのまま後方の尾翼近くに降り立つと剣を一振りして挑発する。騎士は腰の剣を握るとマリアンに横薙ぎ一閃するが更に低く沈み込んだマリアンに下から斬り上げた、その深い踏み込みからの一撃に騎士は致命的な一撃を受ける。

 

「がっ!」吐血混じりに退き、まだ倒れんとばかりに剣を振り上げるがマリアンは既に次の動作を取っていた。騎士は振り上げた剣先にマリアンの姿はなく動作を止めてしまう、背後に回ったマリアンはそのまま一閃し首が宙を舞った。騎士はその場で膝から崩れるように倒れ、ドラゴンの背から堕ちた・・・。

主人を失ったドラゴンは荒れ狂い出す、彼女は即座にその場から跳躍し砂地の深い場所へと降り立った。下半身が埋まらないように着地の瞬間に膝を上手く畳んで上半身をひねり、回転とステップを使って足場の衝撃を流すと受け身を取って全身で緩和させる。

すぐさま起き上がり辺りの状況を確認するとランスリッターは初戦での戦果は上々であり、トラキア軍を浮き足立てて前線を突破するという大胆不敵な策は功を奏していた。

ランスリッターは無理に仕掛けず、斬り合いもそこそこに馬の速力を落とさない事にしか集中していない。トラキア兵も戦いに擬した逃走を察しているが指揮官が号令もまともにかけられていないこの状況では深追いはせず、防衛に徹することしかなかった。

全ての心理を読み取ったオイフェの判断にマリアンは満足すると足を南へと走り立てる。向きを変えて走り出したその速度は、砂地とは思えない速度となり進路の妨害となるトラキア兵のみ打ち倒しながら逃走する。

今はマリアンは殿に近いところまで遅れている。徒歩でトラキア兵の場所で孤立すればマリアンとて無事では済まない、まだ場が混乱している内にランスリッターの元に戻らなければ・・・。

マリアンが急ぐ中、一本の槍がマリアンの進行方向に横薙ぎ一閃が走る。その振りの鋭さにマリアンは冷や汗混じりに前転宙返りを決めて紙一重とも言える一閃を躱した。

着地もおぼつかず、自身の速度を持て余して砂地に跡を引くラインが数メートルに渡って伸ばされた。

 

「キュアンの部隊に女剣士がいるとは、この目で見るまでは信じなかったぞ。」マリアンはその声の主へと向き直ると、1人の男が不敵にも軽装で槍一本のみを持って佇んでいた。

軽装どころかまともな装備は手に持つ槍のみ、鎧も着込まずきている服は就寝用の出で立ちそのものであった。その視線に気づいたのか、男は長い髪を一度まとめるように左手で手櫛のように流すと不敵な笑みと共に語る。

 

「これは失礼、まさか夜襲をする度量がキュアンにあるとも思えずぐっすりと寝ていたところでな・・・。私が貴様らが探しているトラバントだ。」

 

「!!・・・。」マリアンは手に持つ長剣を握り直して精神を集中させる。直感が正しければ、まずこの男には勝てない・・・。胸の中で警鐘を鳴らしていた。

 

「どうした?私を殺せばもしかしたらレンスターに逃げ延びるかもしれんぞ、この混戦で私の側近も出撃してしまったからな。」トラバントはマリアンに挑発する、それにこちらの思惑も看破されていることを示唆する事によりマリアンを一層混乱させたのだ。まだ言葉の駆け引きにならないマリアンは焦りを生ませた。

 

「あなたは・・・。」ポツリと呟くマリアンにトラバントは意表を突かれ、マリアンから紡ぎ出される言葉に注視してしまった。

 

「こんな事までしてレンスターを手中に収めたいのですか?騎士としてキュアン王子と真っ向から戦わないのはなぜですか!」

 

「・・・トラキアを好きなだけ罵るがいい、私にはやるべき事があり失敗は許されぬ身だ。お前達に理解してもらう必要もない・・・。

さあ、行くぞ!!」

トラバントは槍を振りかざすとマリアンに迫る。

おそらくあの長さの槍は馬上槍にあたる長さ、徒歩では向かない槍であるにも関わらず信じられない速度で振り回す。

マリアンは襲いくる槍の刺突を長剣で捌くが、間合いを詰める隙もなく追い詰められる。砂地による足場の悪さが反作用するのはマリアンの方であり、トラバントは一向に戦力が落ちる様子はない。

マリアンは足を使った戦術に対して、トラバントはドラゴンナイトの特性故に上半身を主とした戦いが多い。現にトラバントはゆっくり歩を進めながら強靭な上半身からの斬撃と刺突を繰り出す。

その鋭い波状攻撃をなんとか身のこなしと剣のいなしのみで回避しているが、打開する術がないといつかはその重攻撃の餌食となってしまう。なんとか間合いに食い込み懐を狙うマリアンだが、トラバントの槍の引き込みと乱撃の巧みさに阻まれる。

そして攻めあぐねているうちにトラキア軍にも捕捉され、トラバントに兵が集まりだした。

 

「王!ご無事ですか、後は我らが!」

 

「かなりの手練れだ、1人ではかかるなよ。・・・剣士殿すまぬが時間切れだ、惜しかったな。」トラバントは不敵な笑みを湛えながらその場を退場する。彼は戦闘する出で立ちではない、おそらく戦支度に一度戦線を離れるつもりなのだろう。

 

「うおおお!」マリアンは歯軋りし、あたりのトラキア兵に襲いかかる。トラバントが本格的に戦線に戻って来られればレンスター軍の脅威となる、ここで足止めをしなければ・・・。闘争心を再び点火させ、ここに駆けつけた8名のトラキア兵を屠って再びトラバントに再戦を挑む、そう結論付けた。

その鬼気迫る迫力にトラキア兵は戦慄する、恐怖からまだ心身の整いもなく槍を突き出すがそんな攻撃につかまるマリアンではない。半身捻りで紙一重で躱すと胴切り一閃で1人を葬り、その場に倒れた兵の頭部を使って跳躍する。

次に狙いを付けた兵の間合いを一気に潰し、着地する。

「う、あわああー!」再び槍の刺突を繰り出すがマリアンは沈み込んで躱し、背後から襲ってきた別のトラキア兵の剣よりも早く下から切り上げてると返しの剣で先に攻撃したトラキア兵を袈裟斬りで斬り伏せる。突然三人があっという間に斬られ、残るトラキア兵5名は囲むよう警戒する。

 

「そこを、どけえー。」苛立つマリアンは強引に突破を計った。

トラキア兵に一太刀剣を合わせると回し蹴りを浴びせて転倒させ、横から槍の刺突を剣で弾く、起き上がろうとするトラキア兵の胸部を刺し貫いた。

「ぎゃああー。」不意に突かれたトラキア兵は凄惨な悲鳴と共にその場で尽きる。

 

「な、なんて女だ・・・。」槍を弾かれたトラキア兵はその剣鬼のようなマリアンに槍先が震えだす、マリアンは剣を一振りするとそのトラキア兵に悠然と歩んで間合いを詰めだすと、恐怖は最大となり悲鳴に似た声と共に突進し、残りの3名もあわせて槍で持って突進する。

マリアンは一番近場にいた悲鳴をあげながら突進するトラキア兵の槍をかわして胸部を刺し貫くと、そのトラキア兵から剣を抜く事と残りの突撃を回避する為に腹部を蹴って3名の突撃にけしかけた。

 

「あ、ああ!ぐふっ!」哀れなトラキア兵はマリアンの胸部の刺突でも致命傷であったのに、仲間の槍を背後から受けさらなる致命傷を負って絶命する。

 

「な!」三人の狼狽を他所に、マリアンはその内の1人を駆け抜け際の一撃で首が飛ぶ。そしてそのまま逃走を計った。

トラバントを追いかけるには時間がかかり過ぎ、さらにこの騒ぎで新手がやってくる可能性がある。トラバントの追撃を諦めた彼女はその場を後にする、後方から残りの2名の声が聞こえるが彼らは充分に戦慄している。本気で追ってくることはないだろう。

砂地の浅い場所を目で追いながら全力で走る。殿の部隊に追いつき、事の説明とトラキアの追撃部隊の迎撃の為に・・・。

 

 

トラキア本陣の野営地を突破したマリアンは息の続く限り走り抜けて数少ない遮蔽物である岩石に背中を預けると、竹筒の水を飲んで呼吸を整えた。火照っているが体を冷やすわけにはいかず、外套で寒気から身を守る。

そろそろ日が昇る、トラキアのドラゴンナイトが本格的な追撃が始まってしまえばこの辺りも安全とは言えない。

呼吸が整い、再び走り出そうと立ち上がろうとしたがマリアンの脚は拒否し再び地べたに戻ってしまう。

 

「あ、あれ?」再び足に力を入れるが筋肉が悲鳴をあげていた。

なれない砂地での戦闘と逃走に予想以上足を酷使していた事に気付いてなかったのだ。

必死に足を揉み、疲労物質の排出を試みるがその希望とは裏腹に東の空が明るくなり始めた。

 

東の空から太陽の輝きが見せ始めてもマリアンの足は一向に言うことを聞いてくれなかった・・・、初めは常にマッサージを行なっていたが続けると次は腕力が失われてしまう、腕力を失えば剣を振る事が難しくなる。そのジレンマがあり、とうとうの彼女は自然の回復に身を委ねる事にした。

胸にある竜笛を吹けばシュワルテは来てくれる・・・。

でもここで吹けばトラキアの竜にも感知されるので自ら位置を知らせる様な物である、握りしめた竜笛を手放すと溜息をついた。

 

「私はここまで、なのか。」天を見上げて独白する。

トラバントにも一矢報えずでは悔しい、このまま追撃部隊のドラゴンに食い破られるのか?槍で蜂の巣にされるのか?

それとも・・・、捉えて拘束され、身体を蹂躙される事もありえる。あれだけ奴らの仲間を惨殺して来たのだ、復讐に滾った者がいてもおかしくない。散々辱めを与え、拷問にかけられて殺される・・・。

その想像にマリアンは寒気を覚えた。最悪の事を考えてマリアンは自決用の毒を持っている・・・、それが腰にある事を確かめた。

やってくるのは敵か、味方か・・・。マリアンは気温の上昇と共に冷たい汗をかき続けるのであった。

 

 

悲運にもやって来たのはトラキア軍であった、その数は3騎でその内の1騎はあのトラバントである。

マリアンは立ち上がり剣を抜いて応戦に臨む、竜笛を吹きシュワルテの到着まで自身の命が繋がっている事を信じて・・・。

暑い。まだ日が出て1時間ほどなのに、緑と遮蔽物が少ない砂の大地ではあっという間に温度が上がる・・・、夜は熱を失えば輻射熱であれだけ温度が下がるのに・・・。

マリアンは既に一部が欠け、損傷が広がりつつある鋼の長剣に今一度命運を掛ける。予備の剣は背中に背負う心許ない鉄の剣のみ。

 

「また会ったな、何人か犠牲になるとは思っていたがあの場を切り抜けるとは思ってなかったぞ。レンスター軍は何処に逃げた?

素直に吐けば命の保証は約束しよう。」トラバントは低空まで高度を下げマリアンに交渉する。

 

「私も知らないわ。例え知っていてもあなたに口を割る事はしません。」マリアンの言葉にトラバントは笑みを讃える。

 

「キュアンめ・・・。こんないい女を使い捨てにするとは、奴もなかなか残酷な奴だ。」トラバントはまたあの槍を取り出すと戦闘体勢に入る、部下達も参戦する体勢をとるがトラバントは手で制した。

昨夜の襲撃でドラゴンナイトを撃退させた情報がトラバントにも入っており、無駄に部下を減らす事はせず自ら先陣を切るつもりである。

マリアンもそれに察しいよいよ追い詰められた、おそらくさっき竜笛を使った事もあり緒戦のドラゴンフェンサーは彼女と断定している筈・・・、ドラゴンの救援の前に手を抜かずに一気に勝負をつけにくる事になる。

 

「これは私自身の決断よ!キュアン様には関係ない!!」

 

「ほう?キュアンとお前は因縁があるのに、義理立てとは殊勝なものだ。」トラバントの言葉にマリアンは意表を突かれる、この男は何を言っている。

 

「私を拐かすつもりか?時間の無駄です!」構えるマリアンにトラバントは一向に戦う姿勢を見せない。

 

「昨夜お前と直接相対してようやく疑念から確信した。悪い事は言わん、今からでも私と共にトラキアに付け。お前が我が軍を殺す度に後悔する事になる。」トラバントはドラゴンを地上に降り立たせると、背から降りた。首元を少し撫でるとドラゴンは忠誠するように頭を垂れた。

 

「お前がうばったシュワルテと心は交わしているか?」トラバントの話にマリアンはすっかり心を奪われており、呑まれていく。

 

「・・・おそらく、あなたが言うようにシュワルテの心を感じていると思います。」

 

「ドラゴンナイトは、誰1人として心は交わしていない。

あくまでドラゴンに従属して彼らの意思を尊重して飼育し、その見返りで戦いに参加してもらっている契約のようなものだ。

・・・もし心を交わせる事が出来たなら、お前はダインの血族となる。」

 

「・・・嘘だ!私はイザークのスラムで育った、トラキアにいた記憶もない。」長剣の構えを解き、トラバントの話にみるみるうちに聞かざるを得なくなってきていた。

 

「俺の親父もまた傭兵で各地を回っていた・・・。そこで拵えた子供かもし知れぬし、遠縁の分家から派生したのかも知れぬ・・・。

どちらにしてもお前はトラキアの血を持つ者には違いないだろう、どうだ?今からでもこちらに付け、今断ればここで死ぬだけだ。」

マリアンの心は混乱する、もし前者であるならトラバントとは母親の違う兄妹の可能性でもある。確かに私は物心ついてから父親など見た事ない、母親に聞いても死んだとしか言わなかったが家に遺品も弔う墓にも言った事がない。

突然の自身の存在にマリアンは呑まれていくのであった。




マリアン

ドラゴンフェンサー
LV25

剣B

HP 45
MP 0

力 23
魔力 0
技 25
速 28
運 17
防御 15
魔防 2

スキル 追撃

鉄の剣
鋼の長剣
カルトの髪飾り(祈りのスキル付与)

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