ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻)   作:Edward

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非常に遅くなりましてすみません。
去年の西日本を台風を襲って以降、仕事が落ち着きませんでした。
今は増税前の駆け込み需要から人手不足などなど・・・。
次も更新もどうなるかわかりませんが、私は止める事はしません。


卑劣

キュアンとの再会と永眠にシグルドは小さな葬送式を行った・・・。

この大陸では一般では埋葬を執り行うが、ここは敵地の為それは躊躇い火葬へと切り替えた。

火葬前に彼のひと束の髪を貰い受けると、クロード神父の祈りの中で木棺に、薪と炭などを組み込みに火がかけられた。

夜の砂漠による冷えた風が炎を受けて巻き上がり熱を持つ、シグルドは上空に上がる煙をずっと見続けていた。

 

「シグルド公・・・。」カルトは横に立ち彼にかける言葉を考えたが、何も出てくることはなかった。シグルドはまだ煙のみを見ており、暫く動くことはない。

薪の爆ぜる音と、時折火花を散らしながら巻き上がる上昇気流。参列する仲間のすすり泣きを聴きながら、シグルドはその重い口を開いた。

 

「私は、今になって行軍を躊躇っている。私が進めばさらに大事な人を失う・・・。わかっていた、誓ったつもりだが・・・、こうも続くとな。」炎が投影された瞳をカルトに向けるが、その瞳の光は弱く輝くのみであった。

 

「・・・キュアン王子の死を見て悩み苦しむ事に意味があると思う・・・。そうして自問自答を繰り返した答えが、真実の答えにたどり着くと信じてるよ。」

 

「カルト・・・。」シグルドは少し解れた顔をカルトに向ける、彼も相当長くから苦しみ這い回るかのように出た答えは重みがあることを知っているのだろう。エスリンからカルトの生い立ちを聞いていたからこそ、カルトの言葉に重さを感じた。

シグルドに慰める言葉も、励ましの言葉もなく、彼の心理を肯定したのである。

 

「産みの苦しみ、そうなるように尽くすのみ・・・、か。」シグルド言葉にカルトは頷いた。

 

「俺は、お前の信じる道を信じる。例え後世の人が我らを罵り、嘲笑われたとしても・・・だ。

だからシグルド、悪いが君は最後まで悩み苦しんでくれ・・・、その苦しんで出した答えを信じて皆従軍してくれるだろう。」

カルトの言葉はシグルドを追い詰める事になると知っている。しかし、これは彼にしか出来ない事であることを指し示していた。

義務でも権利でもなく、彼の人柄一つで決死の行軍を可能にしているのだ。シグルドの想いが全てを物語り、作られていくこの軍はもはや統率では言い表せられる物ではなかった。

シグルドの解れた表情が再び引き締まる、カルトの一言に再び思う所があるのかカルトに顔を向けると重苦しい口を開いた。

 

「出立前、カルトの言った真実は間違いはないか?」

 

「・・・ああ、信じたくないがまず間違い無いだろう。多少推察している部分があるが、そう結論付ければ全てが繋がる。」カルトは大きく頷いて肯定した。

 

「ならば、我らは逆賊の汚名を着せて闇に葬られるだろう。戦力も、政治も、私達に勝てる見込みはないぞ。」シグルドの言葉にカルトは大きく頷いた、再び薪が爆ぜて暗闇に一瞬の閃光が瞬く・・・。

 

「勝ち負けなら、我らは既に負けているだろう・・・。だがシグルド、あんたは勝ち負けする為にここまで登って来たのか?違うだろう、私達は運命を切り開く為にここまで来たんだ。・・・それは勝ち負けで決まるものではない。」

 

「・・・運命か、クロード神父を苦しめ続けたその言葉が私にも降りかかるとはな。

彼は信じる道に新たな運命を切り開く道を見出した、残念だが私はまだ見出せてはいない・・・。」シグルドは俯いたが、カルトはその背中を盛大に叩く。その突然の肺への刺激にその場でむせてしまう。

 

「俺は!お前を信じる!!だからお前も俺を信じろ!!」シグルドは驚いたように目を丸くする、対するカルトの笑顔に自然と笑みがこぼれた。

 

「ごほっ!ごほっ!!・・・カルトも随分と崩れたものだな、口が悪いと言っていたがここまでとは・・・。」一通りむせたシグルドだが、一筋の涙をこぼしていた。

 

「お前が俺と友の契りをするからだ、後悔するなら今のうちだぞ。」カルトはそう言って手をひらひらさせながら立ち去るのであった・・・。頰を伝った涙を拭うとシグルドは天を仰ぎみる。天に散った二人の友・・・、そして妹に改めて別れを告げるのであった。

 

 

火は冷えた空気を吸ってさらに大きくなっていく・・・。祈りの参列にクロード神父とエーディンが対応しているが、キュアンの人柄に触れた諸侯たちは静かに一礼していった。

神父は祈りの歌を炎に捧げ続け、エーディンは祈りを行う人と共に所作を行なっていた。ブリキッドは自分が最前につくと妹と共にキュアンの冥福を祈る・・・。

 

「私はキュアン殿とあまり面識はないが、エーディンは世話になったのだろう?」

 

「はい・・・、ヴェルダンに連れ去られた時はシグルド様と共に真っ先に駆けつけてくださった御仁です。シグルド様と共に戦って下さらなかったら私は今頃どうなっていたか・・・。」

 

「そうか・・・。なら私も恩人と言える人だな、私も彼らがいなければ・・・。」

 

「そうです、お姉様。今ここにいる人々がいなければどうなっていたのかわかりません。でも私達はここまで共に生きて来れた。それは一つの喜びでもあります。」エーディンとブリキッドは列から離れて会話を行なっていた、ブリキッドなりにエーディンを励ますつもりであったがそれは不要な物と思いその場を離れようとするがエーディンは姉の服を摘んで阻止をした。

 

「・・・どうした?参列の場に長く離れていては駄目だろう。」諌めるがエーディンの憂いの表情は解かれる事はなかった。しばしの沈黙を破るエーディンの言葉にブリキッドは眉をしかめる・・・。

 

「カルト様を、今でも許す気にはならないのですか?」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「お姉様とカルト様の事は知っております、でも・・・。カルト様のご事情も知っているのでしょう?

お二人の諍いは、あまりに悲しすぎます。」

 

「エーディン・・・。」

 

「私の我が儘です、お聞き入れてくださいませんか?」エーディンの優しくも強い意志の目にブリギッドの方が目線をそらしてしまった。それは彼女の中にも本質を見極めたい、冷静に話をして見たいという気持ちはあった。

 

「私は、心の中ではあいつを許している・・・。だがそれを認めた時、あの時の悔しさをどこにぶつけたらいいのだろうか・・・。あいつの父親か?それともシレジアにか?」

 

「・・・どこにもぶつける必要はありません。義父上にお姉様は幸せに生きていると報告すればきっとお喜びになり、供養になります。」ブリキッドの強く握りしめた右手をそっと包み込むようにエーディンは両の手で握る。エーディンの優しさがブリキッドの怒りを別の方向へと変えていった、ブリキッドの心に暖かい春風が胸を撫でたように心地よく響く。

 

「親父の最期の顔はひどく穏やかだった。あの時親父はきっと誰かを恨むとか、仇をとって欲しいとかは思ってなかったと思っている。・・・聖戦士ウルの血を引き、イチイバルの継承者となったが、その前に私は海賊の掟の中で過ごしてきた。仲間の仇を取る事は当然と教えられてきた・・・、その生き方を簡単に変える事は出来ない。」ブリキッドは俯き、拳を握って口を閉ざす。彼女もまた特異な環境で過ごし、本当の素性がわかった事で苦しめられているのである。貴族としての在り方を根底から覆す境遇で過ごした彼女は、内包する想いがまるで相反するようになっていた。

 

「お姉様・・・、今はカルト様と一緒に戦いましょう。そして全てを終わらせてから、ゆっくり話しましょう。きっとお姉様なら分かり合える筈ですから・・・。」

 

「・・・そうだな、その時は間に入ってくれるか?二人で話したらまた、シレジアの時の様になりそうだ・・・。」ブリキッドの一言にエーディンは笑みを浮かべて頷いた、自分のことの様に嬉しそうに笑う彼女にブリキッドは救われる。ブリキッドは肩を寄せて妹をそっと抱きしめる。

 

「さあ、エーディンもど・・・。」ブリキッドはエーディンの体を引き離したその手に激痛が走る、鮮血がエーディンの法衣を赤く染める。

エーディンは姉の左手の甲に矢が射抜かれていたのを見た、苦悶の表情を浮かべながらその矢を強引に引き抜くとブリキッドは射出された方向を凝視する。デューほどではないが彼女もまた海賊としての技量の中で目が効いた、岩場に人影を確認するとエーディンの前に立ち警戒する。

いつのまにか話し込みながら葬送式より随分離れてしまっており、この騒ぎに気づく様子はない。ブリキッドは唇を噛んで不注意を呪った。

 

「これはこれは、エーディン姉様のとなりにおられるのはブリキッド姉様ではないですか?生きておられたのですね。」フードを落として二人の前に現れたのは二人の弟であるアンドレイである。

 

「貴様!」

 

「姉上達には悪いが死んでもらう、反逆者に加担した姉上達がいればユングヴィの名が地に堕ちる。」

 

「黙れ!貴様こそ父上を殺し、薄汚い謀略の限りを尽くした恥知らずが!!」ブリキッドは護身用の短剣を引き抜いて応戦する、儀礼用の服装では弓を持つことが出来ない、自身をさらに呪ってしまう。

 

「ふふふ、こんな岩場まで離れてくれるとは思わなんだ・・・。砂漠の砂と風はよく音を吸収してくれる、多少騒いでも気付くまい。」アンドレイは不敵な笑みとともに豪華な装飾を施した弓で、鷲の尾が立派な弓矢を番うと

 

「それに、さっきの1射で左手の甲側やられては弓は引き絞れまい。死ね!」強弓が砂漠の乾き冷えた空気を弾くかのような響音がブリギットを襲う。エーディンを庇いながら後ろに退き、頭を即座に低くする為に倒れこみながら距離を取る。第一矢は免れたもののアンドレイ必殺の連続射的にブリギットは、さらにひねりながら退がる。

 

第2的はブリギットの左腕を射抜き、さらに出血が広がる・・・。

苦悶の表情を浮かべてアンドレイを睨み、エーディンを庇いながら距離を取った。

 

「その目だ・・・。父上も、ブリギット姉様も、なぜその目をする!その目は憐みだろう?この後に及んでまだ俺にその目を向けるか!!」アンドレイは苛立ちを二人の姉にぶつける。

 

「・・・わからないのかい?そのままの意味だよ、あんたを哀れとしか思ってないね!」

 

「なんだと!」

 

「自分の猜疑心に駆られて自滅する奴なんて憐みしかないよ!私の影に怯えて父上を謀殺し、次は自分の保身の為に私たちの暗殺・・・。あんたは聖戦士ウルの血を汚す大罪人だ!!」ブリギットの言葉に激昂したアンドレイは再び怒髪天を突くかのように怒りを吹き上げた。

周りが見えなくなった彼にはエーディンの危険を知らせる声は届かない・・・。

彼の頭上に見える銀に輝く一振りの剣が、闇夜を切り裂く一閃となりアンドレイの左腕に降り落ちた。

 

「!ぎゃあああー。腕が、俺の腕が・・・。」肘先に落ちたその剣はアンドレイの腕を切断し、砂漠に突き立てられる。

闇夜から現れたデューはいつになく冷たい目をしてアンドレイに冷笑する、そしてその手に持った剣をブリギットを投げて渡した。

 

「これで不意打ちはおあいこだよ、お互い剣で決着をつけるといいよ。」

 

「・・・お前ってやつは、どう見てもおあいこにはなってないだろう。」ブリギットは左手の甲と左上腕への射的による物に比べればアンドレイの左腕に切断とは桁外れにダメージが違う。

アンドレイは必死にとっさに腰に吊るしたレイピアを使って弓の弦を切り裂いて腕に巻き、止血を急ぐ・・・。かりにこの戦いを生き延びたとしても、あの傷口から化膿して壊死がすすむ可能性もある・・・。

 

「お互い弓も使えないし、獲物は同じなんだから恨みっこなしで・・・。」デューは倒れたエーディンを起こしあげると、アンドレイの治療へ向かおうとする彼女を制止する。

 

「お、おのれ・・・。盗賊崩れのダニが!!」アンドレイは抜きはなったレイピアを振り回しながら突き進む、ブリギットは護身用の自身の剣からデューの渡された剣に持ち替えてその突きを跳ねあげた。

 

「アンドレイ!私達を殺してユングヴィの公爵になりたいのだろう?その程度の腕では私は殺さないよ。」

 

「う、うるさい!この蚊トンボが!!」跳ね上げたレイピアを再度握り直すと、ブリギットの心臓めがけて突き出すがブリギットは傷ついた左手で握りしめて止める。エーディンが小さな悲鳴を上げて顔を背けた。

 

「・・・浅いねえ・・・。父上の覚悟も、エーディンの悲しみも、あたしの怒りとも比べたらあんたの底は浅すぎるんだよ!!」ブリギットの怒りの表情にアンドレイは怯んだ、その表情が大きく歪むほどのブリギットの右の拳が炸裂する。

剣を逆手に持ち柄を握り込んだ右フックにアンドレイは鼻から大量の血を吹き出し口から何本も歯が飛んだ、左頬は内から外から血が滲み出して真面目な素顔を晒す。

 

「立て!アンドレイ!!姉さんがきっちり引導を渡してやる。」逆手に持った剣を順手に持ち直すと顔面を抑えてうずくまる首に振り上げた。

 

「姉様!!」エーディンが声を上げるがブリギットは首を振る。これは以前から話し合っていた事の決定事項、ブリギットは当主としてこの弟に断罪を行わなければならない・・・、そう決めていた。

アンドレイも断首を逃れようと、不意に立ち上がって抵抗を試みるがすぐ様反応したブリギットは体当たりをひらりとかわすと蹴りが左脇腹に突き刺さる。

次は肋骨をおられたアンドレイは再び悶絶して倒れこむ、次はデューがそのまま麻袋を顔から被せて後ろ手に縛ると肩を押さえ込んで首を差し出させた。

 

「やめろ!俺はユングヴィの当主だ!姉上達には譲らんぞ!!」暴れるアンドレイにデューは折れた肋骨の上を拳打する、呼吸もできない程の激痛が走り大人しくなる。

 

「・・・見苦しいぞアンドレイ、お前も軍人なら覚悟を決めるのだな。・・・辞世を述べる時間くらいはやるぞ・・・。」

荒い呼吸を繰り返すアンドレイは、徐々に大人しくなると、ポツリと呟いた。

 

「スコピオ・・・、父の仇をとってくれ。」刹那、ブリギットの刃がアンドレイの首を刎ねた・・・。

エーディンは祈り捧げ、ブリギットはただ無口に血糊のついた剣を一振りする。

彼女はここでようやく手にした剣が、あの風の剣である事を知った。デューが咄嗟に渡しただけのようにも思えるが彼は二刀使い、意図を持って渡したとしか思えない・・・。そっと彼の横顔を見るが、アンドレイの遺体の処理をしていてその表情は読めないでいた。

カルトもまた肉親の恨みを募らせながら振るっていたこの剣に何を思って投げ捨てたのか、今少し理解を示したのであった。


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