ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者(上巻) 作:Edward
秘宝
シアルフィ軍の凱旋に揺れている最中、デューはヴェルトマーに留まっていた・・・。凱旋式でヴェルトマーの全軍は儀仗兵として送り出ししていること時は城が手薄になる、この機を狙って城へ侵入したのである。
城内部を熟知しているアゼルから大体の情報を得ていたデューは、警備兵の宿舎から屋根伝いに本城なら侵入するルートを選び、中庭へ侵入することが出来た。
辺りには非戦闘員の行き来があったが、切れ目を狙うと屋根から飛び降りて庭の手入れされた木々の死角に飛び込んだ。
(ふー!いくら手薄とはいえ、警備が行き届いてるなあ。)
担いだ袋に降下した時の天蚕糸などをしまいこんであたりを警戒した。
(しかし、あの人もとんでも無い事をおいらに頼むなあ・・・、アゼルさんもそれに乗るなんて・・・。)
心の中で文句を言いながら次の侵入路を確認する。狙いはアルヴィスの私室、そこに入って疑わしき品々を持ち帰る事となっているがデューにとってどれが疑わしいかわからない。
その時は持てるだけ根こそぎ持ち帰ってほしいと頼まれた時は断りたかった。しかしアゼルまで懇願するので渋々了承したのだが、デューのやる気は低かった・・・。
(しかし、これって見つかったら即殺されそう・・・。)
デューはブルッと身を震わせる。やる気はないがリスクは高い、手抜きなどする気はないが今一度気を貼り直すのであった。
中庭から公族の居住する最上階に上がる階段は一つのみ、流石に手薄になっているヴェルトマーとは言ってもここの警備は緩まない。
階段はおろか一つ下のフロアには歩哨もいる上に巡回の間隔も短い、デューは回廊からの侵入を諦めて再び外壁からの侵入を試みた。
再び天蚕糸を風に乗せて城壁に絡ませると、巧みに凹凸を掴んでは次の天蚕糸を使って上の階を目指していく・・・。
眼下に見えるのは儀仗兵の敬礼し、シアルフィ軍がその間を悠然と進軍する姿・・・。最後尾辺りがまもなく出立するだろう。
まずい、彼らが出てしまいしばらくすれば本城に戻ってくる・・・。
それまでに最上階に侵入しないと監視が通常に戻ってしまう、今でも誰かが上を見上げたら即警戒になりそうな状況にデューは再び身を震わせる。
デューは数度の天蚕糸捌きでようやく最上階のバルコニーの一角に絡み止め這い上がった、すぐさま中の部屋の様子を確認し人の有無の確かめる。
(いる・・・。)
何には身分の高い者が2名。親子だろうか、婦人とその息子らしき者が談笑していた。
バルコニーから外壁の周りを探るが、ここから再び別の部屋からの侵入はできないわけではないが時間がかかる。隙を見てこの部屋から侵入するしかない・・・。デューはアゼルに書かせた大まかな城の間取りと、太陽の位置から推測してアルヴィスの私室を確認する。
ここから決して遠くはない、この部屋を隠密に制圧してアルヴィスの部屋に入る。デューは決行の時を伺った。
「母上、今日は城の外で何をやってるのですか?」
「あなたは何も知らなくていいのよ、この城の兵隊さんに任せておけば大丈夫だからね。」
「はい!僕も大きくなったらロートリッターの一員になれるように頑張ります。」
たわいのない会話をしている親子である。デューはバルコニーから天井裏に侵入し二人の真上まで忍び寄り、そっと針でねじ込むように小さな穴を開け、そこから1センチくらいの大きさまで広げる。できるだけ穴をあける際の切り粉が出ないようにゆっくり、そして段階的に広げては止めてを繰り返す。時間をかけてようやく開けた穴から再び天蚕糸を取り出してティーカップへ垂らし、懐に忍ばせていた小瓶の封を開けて天蚕糸に伝せる・・・。
二人の視線がテーブル上にないタイミングを狙ってゆっくりと瓶の内容物をティーカップに入れる事に成功し、時を待つ・・・。
10分程経過した時、下の会話が途切れて暫くした頃・・・。下の様子を確認し二人がテーブルに突っ伏して寝ている姿を見るなり天井口を開けて床に飛び降りる。瞬間に天井口を閉じ床に着地も音を立てない盗賊の技、デューの技量の高さに驚く・・・。
さらに親子にそれぞれ毛布を肩あたりから被せる事も、第三者が不審と思わさない為の演出である。
部屋から廊下への辺りを警戒しつつ飛び出す、警備兵にすぐさま遭遇するもジャンプして天井に張り付いて気配を殺す。ここでも全ての動作が無音である・・・。
アルヴィスの私室に到着するなりすぐさま鍵開けに入る。ここの警備は特に間隔短いとアゼルから言われている、流石のデューも緊張の汗が流れ落ちる・・・。
(複雑だ・・・。)
シレジアで、アグストリアで魅せたデューの鍵開けスキルを持っても前述二ヶ所とはまるで感触が違う・・・。
はじめの数秒で鍵の技法と形式を割り出し、最短での解除を可能とするデューでも形式を割り出したが技法の違いに違和感を感じた。
焦りが汗となって伝う・・・、いままでの知識を総動員してこの技法の解明を急いだ。
鍵師の腕は盗賊に破られない技法、盗賊はその技法を上回る解除技術。相反する両者の存在はお互いを高め合っているのである。
デューはさらに一本針金を差し入れてようやく理解する。
通常の鍵はノブを回す、押すの動作に技法を用いてロックするが、これにはノブの動作にも仕掛けがある!デューがそれに気づいた時、かすかな足音がデューの三半規管に届いた。
デューは急ぐ、ノブを触り鍵穴からの反応を探りながら手応えを頼りに可能性を潰していった。足音はもうそこまで、間に合わないと感じたデューは風の剣を一閃する。
突風が廊下を突き抜けて足音のする警備たちのけたたましい声が響く。
「な、なんだ!この突風は!」
「だれか窓を開けたな!」
「散れ、窓を探すんだ!」
このやりとりで刹那の時間を得たデューは解除に成功し、内部に足を踏み入れた。
(すごい!ここにあるの全部お宝だよ!なにを取ってきたらいいんだ?)デューは特製の油をカバンから取り出すと細い麻縄を垂らして火をつける、小さな火が熾り辺りを臙脂色に照らす。
異国の家具、古美術クラスの家財が散りばめられ、クローゼットには多様な儀礼服から訓練服まで多様にあった。
まさに、休息用から会談用、公務用としての目的を達成できる私室である。
(目的を忘れそうだった・・・。)
私室内は三つの区画に区切られていて、公務用と思われる執務室と資料としての書斎が一体となった部屋があった。その部屋に入り、デューは部屋を物色する。
デューの物色から数分でこの部屋の違和感、間取りに対してこの執務室と私室の間に小さな空間の存在に気づく。
書斎の本棚の奥には小さな部屋がある、移動式のレールがついた本棚をゆっくり動かして奥を見てもその部屋は出てこない。
壁を叩き、反響を確かめても、たしかにこの奥には空間がある。
デューは丹念に調べていくと、仕掛けはレールにあった。
本棚を両側に追いやった後戻ってこないように足で操作する杭があるのだが、その杭を手で外すと鍵のような形状をしている。壁を探ると小さな穴を見つけ、差し込むと壁は少し奥へ開いた、その杭をノブにして扉のように開けていくと秘密の部屋は姿を表すのであった。
そこには小さなテーブルに一つの箱があった、箱には何も仕掛けはないのに開ける事は出来ない・・・。
デューはこの不思議な箱が、あの人が言っていた秘宝と感じたデューは即座に脱出を図る。
廊下へ戻ろうとした時、おぞましい雰囲気を感じた。廊下に通じるノブを手にした時、背後から邪悪な気配を感じてノブから手を離し振り返る。
「小僧、いい勘であったぞ・・・。ドアを開けていたら腕が溶け落ちていただろう。」低く、温かみなど一切ない無慈悲な声がデューの心を捉える。とっさに風の剣を抜き放ち、声の主を睨む。
「今、ここの空間は儂の闇魔法で覆わせてもらった。儂を殺さぬ限り出る事は出来ぬ・・・。」デューはちらりとノブを見る、たしかに黒い霧がこの部屋全体を覆っており触れるのは危険と感じた。
「痛みで叫んでもいいぞ、今この空間は閉鎖された・・・。音も漏れ出る事はない。小僧には依頼主をはいてもらわなければならぬからな。」暗闇からようやく視認できる距離になった時、その姿に見覚えはあった。
ダーマ南の砦でカルト、ホリンと共に死闘を演じたあの闇の魔道士と同じローブと冠をつけていた。奥に潜む顔はうかがえないが、ほかの闇魔道士と格が違う事はよくわかる。
(まずい・・・、このままでは殺される。)
デューの経験と知識が自身の死を覚悟する。
高位の闇の魔法を使う魔道士はまともな攻撃では倒れない。時間が経てば自然と回復する上に、魔法の威力は自然現象を引き起こす魔法と違って肉体と精神を蝕むような物が多い。例え倒しても、その後ヴェルトマー城の者に捕らえられてしまうだろう。
「く、来るな・・・。焼くよ。」デューは手元にある小瓶の照明を箱に近づける。瞬間的に奴らもこの箱を持ち出すことに警戒してるはず、交渉を用いようとした。
「くはははは・・・。それは封印を施されている、燃やすくらいで破壊できるものではない。」
「くっ、やるしかないか。」風の剣を持ち、デューは決意する。
「そうだ、もっと絶望しろ。その絶望が儂らに血肉をもたらす。」魔道士から瘴気を放つが如く、闇の魔力が吹き出していく・・・。
『デュー、ご苦労様です。ここであなたを死なせてはカルトに怒られてしまいます。』
デューの脳に直接働きかける声に依頼主と悟る。
「神父様!」デューは救いの声を上げた。
その瞬間、デューの眼前に魔法陣が出来上がりクロードが現れる。
このような絶望的な状況にも関わらずクロードの顔は穏やかで、デューの頭をそっと撫でると笑みで返した。
「よくたどり着きましたね、私では到底無理でした。
・・・ここからは私に任せて下さい。」クロードは聖杖を床を叩くと魔道士に向き合った。
「エッダのクロードが・・・。黙って祈りだけを捧げていればいいものを、儂の結界をくぐり抜けてここまでくるとはな・・・。」
「ええ、彼にあらかじめ宝具を忍ばせておきました。結界が張られようとも内部にあれば私の魔法で転移できます。」
「おいら、そんなのもらったっけ?」クロードはデューの尻尾髪に手をやると括っているゴムに手をやった。
「これが宝具?」
「そんな所です。」クロードは悪戯っぽく笑うと魔力の放出を始める。
「聖杖しか使えぬお前が、儂を倒せると思ってか。」ヨツムンガンドを完成させると闇の瘴気が吹き出し、クロードを襲う。
クロードは聖杖一閃させると、瘴気は霧散し無へと帰っていく。
「おっしゃる通り私は攻撃魔法はありません、ですが私には私なりの戦い方があります。それを見せましょう。」クロードは聖杖を振りかざすと目の前に虹色の霧が輝き出す、クロードの小さな詠唱が繰り返すたびに霧の濃さは増していき、輝きも目が眩むほどになる。
「混乱、睡眠、沈黙魔法を併せた合成魔法です。これに屈服した者は完全に無力化し、精神を封印します。
・・・貴方達がこれをもらうとどうなるか、お分かりですね?」
「き、貴様!儂の秘密をしっているのか!!」魔道士は後ずさる、先程までの威勢は吹き飛んで狼狽していた。
「随分と時間がかかりましたが、カルトが得た情報と合わせましてようやくあなた達の正体がわかってきました。対策方法も、ね。」クロードは杖をかざすと虹色の霧は一気に魔道士へ迫る。
その魔力に対抗するが、クロードの魔力はカルト以上そうそう抑え込むことなど出来ない。魔道士は苦痛に呻き、その場で崩れる。
「こ、こんな事が!こんな所で・・・。」必死に魔力に対抗するがクロードの手は緩まない、リザーブを十数回を超えてもまだ枯渇しない魔力量と魔力の質が他の追随を許さない。耐えることなど誰にもできないだろう・・・。
「戦いは好みません、ですが運命を切り開く戦いを避ける訳にはいきません。マーニャの想いを背負って杖を持ち、私は戦う事を選んだ。この世界の運命の為にも、退くわけにはいきません。」クロードは更に魔力を増幅させる。
「や、やめろ!」闇の魔道士は悶絶し、伸ばした皺だらけの手はついに床に力なく落ちた・・・。
「し、死んじゃったの?」
「いえ、この肉体の中で魂を封印しただけです。」
「???」
「ふふっ、デューには知らなくていい事ですよ。お忘れなさい。」クロードはにこやかに言った途端、苦悶の表情を浮かべる。
クロードの腹部に皺だらけの腕がはえていた、後ろを見ると先程と同じフードを被った男がいた。
「ごほっ!な、なぜ・・・。」吐血とともに吐き出す、闇魔道士はフードの奥から見える口は凶悪に歪んでいた。
「残念だったな、あらかじめ別の入れ物をもう一つ用意していたのだよ。儂を倒した時に、この封印の空間が解けなかったのを見逃したのがお前の運の尽きよ・・・。」
「な、なるほど・・・。私の不注意と、言ったところか・・・。ならば、次の手を打とう!」クロードの瞳が力を持ち魔力を増大させる、闇魔道士は腕を抜こうとするが抜けない。
「ぬ、抜けん!貴様、何を企む!!」
「デュー、今から大魔法を使います。その瞬間にこれを使いなさい。」クロードはデューに手渡したのはリターンリング、そしてデューの持つ箱にそっと触れ、魔力を施す。
「・・・神父様。」デューは悲愴な顔を見せてクロードの心配をするが、全く気にすることもなく笑顔を見せる。
腹部を貫かれてながら、闇魔道士が必死にもがいているなか、クロードはその場を全く動く様子もなく魔力の放出を続けていた。
「何も心配いりません、デューはその箱をカルトの元に持って行きなさい。・・・それがあなたの使命なのでしょう。」
「!・・・・・・。」
「あなたが何者なのか、知る由も無いですが、感謝致します。・・・今まで私たちを導いてくれたことに、・・・人は神に愛されていた。
・・・私はそれを知れただけで充分です。」クロードは一粒の涙をこぼし、最期の魔法を唱える。
「や、やめ・・・。」叫ぶ事も許さずクロードの最期の慈悲が闇魔道士を包んだ。
鮮烈な閃光が迸る・・・。
闇の結界は瞬間に蒸発するかのように消え失せる。
その途端部屋は大きな閃光と振動がヴェルトマー全体に行き渡り、城内が騒然とした。
アイーダ将軍はクロード達が戦っていた時からアルヴィスの私室を開けようとしていたがビクともせず、内部にその音すら聞こえてこなかった。その閃光と地響きで転倒するが、起き上がり再びドアを手にした時にはすんなりと開いたのだ。
そっと内部を見渡すが、人影はなく争った形跡もなく、いつもの部屋であった。飲みかけのワイングラスも机の上にあり、変わっていない・・・。
ただ一つ、秘密の部屋の箱だけはデューにより持ち去られていた。
ヴェルトマーの郊外でクロードの冥福を祈る、その顔はいつものデューではなかった・・・。