生まれ変わったら世界七大美色のブルー担当でした   作:日本茶

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第二話:オセロット=サンローラン

 まるで大量のダイナマイトを焚き火の中に投げ込んだかのごとき、大爆発。

 いや、そんな爆発がおこったと錯覚させるような勢いで蹴破られた鉄扉が天井に突き刺さり、遅れて響いた轟音と共に丸ごと砕け散った。

 ぱらぱらと部屋の中に降り注ぐコンクリートと鉄の破片。その鉱物の雨粒たちの向こう側にいたのは、片足を振り上げたままの姿勢で立っている一人の女だった。

 

 一流モデルが裸足で逃げ出すプロポーションと褐色の肌。身長は目測175cm前後で私より10cmは高い。長い足に短い胴をきらびやかに覆うのは王宮で着るような派手なドレス。色は全てを燃やし尽くすような赤で、煽情的な曲線を描く足の先で輝くピンヒールはおそらく純金製。両腕にも見るからに上等な純金で作られた意匠のブレスレット。

 そしてそれら豪華絢爛な装飾品たちに負けないだけの魅力を帯びた、そのまま宝石店に売り出せそうな純銀のロングヘアと黄金の瞳。年はぱっと見で十八歳から二十代前半。一つの欠点もない整いすぎた容貌で、健康美タイプっぽいから背徳美タイプの私とは系統が違うが、レベルは同じくらい。私はナルシストではないが自分が綺麗な顔をしているという自覚こそ大いにある。

 そこだけ昼間のように明るい圧倒的なオーラを放つその女は、突然のことに固まっている子供たちを見下ろしてウインクと共に言い放った。

 

「もうしばらくお待ちなさい。アタクシ今から華麗に舞わせていただきますわ」

 

 言うが早いか、ずっと上げていた足を下ろしてかつかつと部屋の中に入ってくる女。今から幼女を犯そうと意気込んでいたロリコンとそれを笑って見ていたおっさんの二人は、女が目の前で足を止めた瞬間やっと我に返った。どうやらあまりの美女っぷりに見惚れていたらしい。

 慌てて立ち上がるロリコンが構えたのはさっきまで幼女のドレスを切り裂いていたナイフ。隣のおっさんはピストルを胸ポケットから取り出し銃口を女に向けている。

 しかし褐色の女はそんなおっさんどもに怯える様子もなく、その後ろ、あられもない姿で涙を流し震える姉とそれに抱きつく妹の幼女姉妹を見て舌打ちを一つ。

 

「ゲスが。吐き気がしますの」

「き、貴様! 一体どうやってここに入ってきた! 外には銃を持った何人もの見張りが――」

 

 最後まで言い切る前におっさんが地面へと強烈なスピードで倒れこむ。コンクリートの地面がえぐれてその中に人型に沈み込むおっさんの体。その後頭部には、いったい何ジェニーするのかわかったもんじゃない褐色女のブランドものピンヒール。目にも止まらぬ神速の踏み潰しだ。

 「ひっ」と小さな悲鳴をあげてロリコンが後ずさりする。右手に持ったナイフの刃先がかたかたと揺れている。武者震いではない、純粋な恐怖から生じる震え。本能が対峙する相手を格上だと認めてしまったのだろう。一度そうなってしまうと、再び戦う気になるのは難しい。

 そんなロリコンに呆れた様子で一瞥をくれたあと、背後に回っての手刀であっさりと気絶させる。ものの数十秒でおっさん達を無力化した女に内心賞賛の拍手を送りつつも、しかし私は気になっていたことを聞いた。

 

「なあ、おねーさん。外にいた武装済みのおっさん達はどうしたんだ?」

「え? ああ、あれですの。そうですわね。絶でやり過ごしてしまったから、さっき扉を蹴破った音を聞きつけてすぐここに来ると思いますの。アタクシのダンスはこれからですわよ!」

 

 絶という言葉の意味はわからなかったが、どうやら外のおっさん達を片付けてくれたわけではなかったようだ。相手が恩人だとは理解しつつもその事実に思わず苦い顔をする。あれだけの人数が銃をぶっ放してこようとも、傷一つ作らずに制圧できるだけの自信と力量がこの女にはあるのだろう。

 けれども周囲の子供たちはどうだろうか。手枷足枷くらいなら私が引きちぎってやれるが、だからといって弾丸飛び交う室内で死を回避できるだけの身体能力を持っているようには見えない。私が抱えて守りきれるのはせいぜい三人までだ。

 遠くの方からばたばたと数十人分の足音が聞こえてくる。せめてあと一分もあれば、入口とは反対側の壁に穴を開けて子供たちを無傷で逃がしてやれたのに。この音の大きさならあと十秒と立たないうちにここへやってくるだろう。

 

 RPGのお姫様よろしく天井から鎖でぶら下がる手枷に拘束されていた両腕を、ふっと短く息を吐いて引き下ろす。次いで自由になった両腕で割り箸のように足枷を真っ二つに折る。いともたやすくゴミクズへと姿を変えた鉄の拘束具をそこら辺に放り出して、私は立ち上がった。

 ぐるりと周囲に視線を巡らす。いまだ自由を奪われたままの子供たち。こいつらを無事に連れ帰るために、私も手負いになる覚悟くらいは決めておこう。

 

「あら。坊や、自力でどうにかできたんですのね。顔が良いから連れてこられた非力な美少年の一人だと思ってましたの」

「オリヴィエ=ガルヴィーノだ。連れてこられた理由は容姿に加えてもう一つ。で、おねーさんの名前は?」

 

 これから武装集団とドンパチやろうってのに、褐色女は相変わらず余裕の笑顔で優雅に腕組みをしている。しかし私の自己紹介に対してふふんと勿体付けるように一息おくと、豊かな胸の谷間から細長い棒を取り出しながらあちらも名乗り上げる。

 

「オセロット=サンローランですわ! 呼び捨てにしてくれて構いませんのッ!」

 

 歯をむき出しにした好戦的な笑みでそう叫び、女、オセロットは取り出した棒を部屋の入口に向かって振りかぶった。いや、棒ではない。棒の先に細長い鮮やかな色をした布がついている。新体操選手が競技に使うリボンスティックだ。

 強度なんてあったもんじゃないはずのそのリボンスティックを鞭のようにしならせ、飛んできた閃光弾を女は武装集団に向かって打ち返す。パッと凄まじい光であたりを染め上げる閃光弾に、それを投げた犯人であろう銃を持ったおっさん達がうめき声を上げる。思わず腕で目を覆うおっさん達。そんなおっさん達を気遣うことなどもちろんなく、オセロットは体重の乗った踏み込みとともに部屋の外へと躍り出た。私も続いて駆け出す。

 

激しい乙女の狂愛宣言(ラブコールガール)、ファーストデコレーション!」

 

 まばゆいばかりの閃光の中で女が叫ぶ。

 次の瞬間、オセロットの真っ赤なドレスが何故か純白に変わった。

 

「――は?」

 

 いちばん近い位置にいたおっさんをぶん殴って壁にめり込ませながら、私は思わずそう声を漏らす。

 わけがわからねえ。謎の合言葉みたいなものを口にしたとおもったら、いきなり宝塚みたいなドレスがウエディングドレスに変貌を遂げたんだ。これで驚かない奴のほうがどうかしている。

 しかしこの光の中で目が利くのは私とオセロットだけだ。既に弱まってあと一秒ほどで消えるだろう光だが、輝度が元通りになっても目が使い物になるまでにも数秒かかるはず。戦う身としてはありがたいが、この驚きを誰とも共有できないのは少し残念だ。そう思いながら二人目のおっさんと三人目のおっさんを同時に昏倒させた瞬間、オセロットの姿が私の視界から消えた。

 瞬き一つぶんほどの一瞬の間。そんなごくわずかな間をあけた直後、気づけば私の目の前にバラバラに分解された銃の残骸たちが散らばっていた。

 

「お、俺たちの銃が――ぶべぼっ!?」

「なんだこの女、ぐふっ!」

「ぐはぁっ!!」

「うぐぅ!」

「あぎゃあぁぁ!!」

 

 やっと視力が回復してきたらしいおっさん達は、しかしだからといって起死回生の一手を打つわけでもなく、次々とオセロットの活躍によって地に沈んでいく。相手の数など関係ないとばかりに力強く、素早く、縦横無尽に駆けては跳んで薙ぎ倒し、ワルツでも踊るような軽やかさで攻撃を繰り出すその姿。ウエディングドレスという衣装も相まって目の前の光景がどこか現実離れして見える。

 

 私はどうやらオセロット=サンローランという女を誤解していたようだ。

 子供に被害がいってもいいから好き放題して暴れたいというわけではなく、好き放題に暴れ回ろうとも子供たちを無事に開放できるだけの自負があったのだ。

 「おーほほほほほほ!」と高笑いするその様は、ディズニー映画のワンシーンに出てくるような典型的な女王様。気づけば私が倒したおっさんは三人だけで、残り五十人あまりのおっさん達はオセロットが一人で片付けてしまっていた。

 

 築き上げた死体(気絶しているだけ)の山の上、玉座に君臨する女帝がごとき態度で足を組んで頂上に座るオセロット。いつの間にかその服装はさっきまでの真紅のドレスに戻っていた。どういう原理か銃を真っ二つに引き裂いていたリボンスティックを胸の谷間にしまいなおす。

 そのまま視線を地上に佇む私へと移し、右手の人差し指を私に向けた。

 

「オリヴィエ=ガルヴィーノ、で良かったですわよね。この指先に何か見えるか聞いてもいいかしら?」

「……いや、何も見えない。それどころかアンタの気配も感じづらい」

「ふむ……念は使えないようですわね。それなしであの身のこなし。お見事ですの」

「念?」

「その話は後でいたしましょう。とりあえず、あちらにいらっしゃる可愛いお子さんたちを逃がしてからでも」

 

 そう言って、頂上のおっさんを踏み台に飛び降りる。細いピンヒールで音も立てずに着地したオセロットは、そのまま部屋に戻ると私よりも楽勝な様子でぽきぽきと枷を折って回っていた。

 「ありがとうございます」と口々にお礼を言って、涙をぬぐいながら去っていく子供たち。さっきロリコンに服を刻まれていた幼女のために自分のドレスを破いてその子の体に巻きつけるオセロット。

 色々あった混乱を鎮めるために、私は小さく溜息を吐いた。

 

「念ね……うすうす勘づいてはいたけど、やっぱりここはそういう概念の存在する異世界ってことか」

 

 何はともあれ、詳しいことはオセロットに聞かねばわからない。

 私が生まれ変わったこの世界にはいったい何が存在するのか。さらに深まるその謎を解き明かすために、私は彼女と話をすることに決めた。

 

 さて。前世も含めて人生初、いい女とおしゃべりする時間のために口説き文句を考えるとしよう。

 

 

 

 




オセロット=サンローランの発の一つ。

《激しい乙女の狂愛宣言――ラブコールガール》
魔法少女のごとく変身、パワーアップする能力。魔法少女ものにありがちな二段変身も可能。
一番目の変身『ファーストデコレーション』では、煌びやかなウエディングドレス姿に変わる。加えて普段の三倍の身体能力を得ることができるが、変身を解除したあとは一分間につき一時間は絶の状態になる。
二番目の変身『セカンドデコレーション』では、普段の十倍の身体能力を得られる代わりに変身を解除したあと一分間につき丸一日も絶の状態になる。おまけでウエディングドレスが一番目の変身よりもゴージャスになって頭にティアラが乗る。
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