第一話より少し前の時間軸から始まる独白。
アタクシがこのHUNTER×HUNTERの世界に連れてきていただいたのは、ちょうど四年前。アタクシがまだ十六歳の頃でしたわね。
連れてきたいただいたというよりも……正確にいえば連れ戻していただいたのかしら。アタクシの前にとつぜん現れた神様いわく、アタクシの魂は元々こちらの世界に生まれる予定だったらしいですもの。
それを間違えて元いた世界に生んでしまったお詫びにと、身体能力を格段にアップする補正と容姿の変更というサービスをつけて下さいましたわ。
逆にいえばそれ以外のサービスはない。
初めのうちは苦労しましたわよ。なにせ戸籍もありませんし、まっとうな職業にはつけないから走って天空闘技場を目指しましたもの。そこで実践経験を積みながらお金を貯めましたわ。
ハンター文字は一覧表を暗記するレベルのファンだから何も問題ありませんでしたの。それよりも念をゆっくりと瞑想でおこすのが大変でしたわ。テレビの情報を見る限り原作ハンター試験の四年前だったから、その時までには念を使えるようになっておこうと努力しましたの。
ゴンやキルアには及ばないものの才能はあったみたいで、四年もたった今ではいっぱしの使い手になれましたの。でも体術のほうはまだまだ未熟で。ぶっちゃけ身体能力でカバーしているのが現状ですわね。でも習っていた社交ダンスを応用した戦闘スタイルは中々トリッキーでやりずらいと評判は良いんですの。
まあ、そんな話はおいておいて。
どうせなら受験番号1番を狙ってみようかと、アタクシはハンター試験の会場にだいぶ早く向かっておりました。
事前にきっちり情報屋に大枚叩いて仕入れた情報と原作の情報は一致。どうやらアタクシがこちらの世界に戻ってきたことによる大幅な改変は無さそうだと安堵の溜息を吐き、例の定食屋に入ろうとしていた時でしたわ。
「ちょっと待ってくださいリーダー!」
「あぁ? 何だよ。さっさと連れてきたガキども運ばねーとバレんだろうが」
「連れてきた子供たちよりよっぽど金になるのを見つけたんですって! ほら!」
そんな会話が店脇の路地裏の奥から聞こえてきましたの。
かなり潜めた声で、おそらくアタクシ以外の人にはまったく聞こえていませんわ。
いるのは男の三人組。一人はリーダーと呼ばれるだけあって偉そうにタバコをぷかぷか吹かしていて、残る二人は下っ端といったところでしょうか。その下っ端たちがちょうど人間の子供くらいのサイズをしたものを布にくるんで抱えておりますの。それと同時に深海のように美しい青色の玉をリーダーに手渡しましたわ。
透き通っていながらも氷壁めいて揺ぎ無く冷たい深みを宿したその丸い石を見て、リーダーは目を大きく見開きましたの。
「こりゃあ、碧玉石じゃねぇか! 一粒で数億はくだらねぇ宝石の最高峰……こんな上物どこで手に入れた!?」
「公園でぶっ倒れてたこのガキの顔の近くに散らばってたんです。男だけどやたらと色っぽい綺麗なツラしてますし、何よりキルケゴール族なんて生かしていたぶればいくらでも碧玉石を生み出す金の成る木だ! こいつもオークションにかければ上手くいくと数兆の金が動きますよ!」
「でかした! おい、とっととアジトにずらかるぞ!!」
まるで宝くじの一等賞でも当たったような、いえ、それ以上に興奮した様子で男達は足早に去って行きましたわ。
あきらかに犯罪臭の漂う言動。さすがに放っておくわけにはいかない。アタクシはハンター試験の1番の番号札を諦めて、アタクシの最も得意とする“絶”であの三人組を尾行することにいたしましたの。
途中で車に乗ったので、サイドミラーに映らないように走って追いかけましたわ。それで十五分くらいたった頃でしたかしら。あきらかに怪しい建物というか、どんよりとした廃墟のようなビルが一つだけ建っていましたの。
人型の布を担いだままその中に入っていく奴らにアタクシもついて参りましたわ。途中で何人もの銃を持った男達とすれ違いましたけれど、アタクシほとんど天井に張り付くような状態で移動していたのでバレませんでしたの。
アタクシの絶なら普通にすれ違っても愚鈍な相手には気づかれないと思いますけれど。念のため、ですわ。
建物内にいる人数を素早く把握してから再びさっきの男達の気配を円で探ると、鉄の扉の向こう側に二人分の気配を感じましたの。さっきの“キルケゴール族の子供”を抱えたままここに入ったのなら、他の子供たちもここに一緒にいるはずですわ。
「もしもし、誘拐されたお子さんたち。こちらにいらっしゃいますの? いるなら下がっていてくださいまし。この扉、これよりアタクシが蹴破らせていただきますわ」
挨拶がわりに宣言して、結構な勢いで扉を蹴り上げましたの。
力加減を間違えてしまったみたいですわ。天井に刺さった扉が砕けて、ちょっと視界が悪いですの。
そんな悪い視界の中、蹴りを入れた体勢のまま部屋の中に視線を移すと――そこには怖気が走るほどの美少年がいましたわ。
彼がそこにいるだけで異質であるような、絶世の美少年。一瞬、現実感を失いそうになりましたの。
肩にかかった黒髪は素晴らしく、絹色を一本ずつ梳いたかのような滑らかさ。職人が幾重にも手をかけた工芸品のような顔立ちには、性別問わず振り向かせてしまいそうなほどの濃密な色香が漂っている。髪と同じ漆黒の瞳はすっと切れ上がっており、まつ毛が長い。一際目を引いた肌は神々しい雪色。女のアタクシでさえ目を奪われる妖艶さは、いっそ末恐ろしいですの。
アタクシよりも小柄でしなやかな体が纏う衣服は男物の着物に羽織。木綿っぽい生地からして安物でしょうけれど、彼の肌の上では高級品に見えますの。人形めいて整っていながら、醸し出す雰囲気はそこいらの娼婦よりも生々しいそれですわ。かといって女々しいわけではなく、ただただ艶かしい。淫猥と上品を兼ね備えた不思議な空気の持ち主。
その部屋には他にも可愛い子ちゃんや美人さん達がたくさんいますけれど、最も浮世離れしているのは彼でしたわ。ただ色っぽいだけの相手には数多く会ったことがあっても、目に見えるほどの色香を放っていたのは彼だけですもの。
っと、危ない危ない。思わず見惚れておりましたの。
あの少年も他の子たちも、よく見れば鎖や枷で拘束を受けてますわ。さっさとここにいる二人と外の奴らを片付けてハンター試験に戻らなければなりませんの。
座り込んでいる子供たちにウインクを飛ばして足を降ろす。
「もうしばらくお待ちなさい。アタクシ今から華麗に舞わせていただきますわ」
きっとアタクシの美貌に我を忘れていたのでしょう、呆然としていた二人組が慌ててナイフを構えてきましたわ。アタクシと系統は違えど、美しさという意味ではあの少年にも負ける気はいたしませんの。彼が陰性の美少年ならアタクシは陽性の美女ですわ!
後ろの奴も銃口をこちらに向けてきた。まあ、この距離なら発砲されても避けきれますわね。なんて思いながら、男達の足元を見ると、生きたアンティークドールのような可愛い子ちゃんがほとんど裸で身を震わせて泣いておりましたの。抱きついているのは妹さんかしら。地面に布地が散らばっているのを見て、アタクシ一瞬で事態を理解いたしましたわ。
「ゲスが。吐き気がしますの」
「き、貴様! 一体どうやってここに入ってきた! 外には銃を持った何人もの見張りが――」
ゴミ虫が何かほざいてやがりましたが、しったこっちゃありませんわ。アタクシの脚線美に踏み潰されて地に這いつくばっているのがお似合いですの。
もう一人を残してあっさり気絶してしまいましたけれど、残ったほうも大した男じゃありませんわね。すでに戦意喪失してますわ。背後にさっくり回り込んで、あっさり手刀で解決ですの。
「なあ、おねーさん。外にいた武装済みのおっさん達はどうしたんだ?」
音域の高い、艶を含んだ少年の声でしたの。
その正体はアタクシが先ほど賞賛したばかりの彼で、よく見ればこの年にしてはかなり強そうなことに驚きましたの。本気出せばあんな鎖どうにかできそうなものですけれど、何か理由があって繋がれたままなのかしら。
彼の質問に答えながら、アタクシ心の中で反省。念使いでなければ負けないだろうという一種の驕りが生まれていたようですの。これで彼が暗殺者か何かなら、死にはしないまでも深いの一撃もらってましたわ。
アタクシのたてた物音にやっと反応したらしく、複数の足音が近づいてまいりましたわ。それに少し遅れる形で少年が自分の拘束具をばっきばきに粉砕しましたの。残念、何かで縛られている様が妙にセクシーでお似合いでしたのに。
「あら。坊や、自力でどうにかできたんですのね。顔が良いから連れてこられた非力な美少年の一人だと思ってましたの」
「オリヴィエ=ガルヴィーノだ。連れてこられた理由は容姿に加えてもう一つ。で、おねーさんの名前は?」
思わず白々しい反応をしてしまいましたわ。
ふむ、少年の名前はオリヴィエとおっしゃるのですね。さっきのした男が言っていたやたらと色っぽいキルケゴール族の子供はこの子で間違いないですの。この部屋でそういうジャンルの容姿をしているのはオリヴィエだけですわ。
あちらも名前を教えてくれたことですし、アタクシも戦闘態勢と平行して教え返すとしますの。
「オセロット=サンローランですわ! 呼び捨てにしてくれて構いませんのッ!」
武器であるリボンスティックを思い切り振りかぶり、背後に迫っていた物体を打ち返す。てっきり手榴弾くらい殺傷力のあるものかと思いきや閃光弾。せっかくの商品を傷つけるのはやはり避けたいのでしょうと、そう思いながらこの機を逃さず追撃ですわ。
「
袖や裾を真っ赤なフリルで飾ったオーダメイドのドレスが正純無垢なウエディングドレスへとモデルチェンジ。同時に私の身体能力は平常時の三倍にまでアップいたしますわ!
後ろで敵の殲滅を手伝ってくれているオリヴィエからわけが分からないとでも言いたげな声が聞こえてきましたけれども、そんなの関係ありませんわ。さっさと片付けなきゃ試験に間に合いませんの。それに一分この状態でいると、後で一時間ほど絶になってしまいますもの。
さっき殴った相手が悲鳴をあげる頃には次の相手を殴り終わっている。というようなハイスピードで男達を気絶させまくったあと、ちょっと格好つけるためにわざと積み上げた男達の上で演技ががった座り方をして、右手の人差し指をオリヴィエに向けますの。
念で「下着の色は何色ですの?」とセクハラ文章を書く予定でしたけれど、よく考えたらアタクシまだ絶の状態でしたわ。うっかりしてましたの。さっきあの子を見た時にオーラは一般人と同じ状態だったから念能力者ではないと思いますけれど……失敗を表に出すのも格好悪いから意味ありげな顔でもしておきますの。ぐすん。
でもまあ、この子の才能と将来性はアタクシの目から見ても抜群ですわ。身のこなしも文句なしですし、まあ、何であの程度の男達に誘拐されていたのかは疑問ですけれど、済んだことはどうでもいいですの。
決めた! この子にはアタクシと一緒にハンター試験を受けてもらって、お礼に念を教えますわ! オリヴィエも興味を持っているみたいですしギブアンドテイクですわよね。
「うふふっ、むさくるしい試験中の目の保養ゲットですわぁー」
るんるんと鼻歌を演奏しながら子供たちを助けて周る。ラブコールガールを使っていたのは二十秒ちょっとだったから、絶になるのも二十分だけ。これなら試験会場に戻った頃にはもう終わってますわ。
服がボロ雑巾みたくなって使い物にならない例の可愛い子ちゃんには、アタクシの高級なレースでぐるりと一周した豪華なスカートの切れ端をプレゼントですわ。
サイズが違いすぎて丸ごと渡すことはしてあげられませんの。ごめんあそばせ。でも、無駄に凝ったデザインだから切れ端を巻いただけでも多分ワンピースに見えますのよ。
「念ね……うすうす勘づいてはいたけど、やっぱりここはそういう概念の存在する異世界ってことか」
幼女に布を巻きつける作業に没頭しているとオリヴィエがそんなことを呟いているのが聞こえましたの。
“異世界”……ふむ、ひょっとして彼もアタクシと同じトリッパーだったりするのかしら。それにしては念は知らないみたいだけど、なおさらハンター試験に誘いたくなってしまいましたわ。
さあ。これからあの美少年を会場に連れて行くため、いい感じの誘い文句でも考えなくてはなりませんわね。
特にいらない補足
オセロット……自分が美人な自覚のあるナルシスト
オリヴィエ……自分が美人な自覚はあるがナルシストではない