なんで…?返して。返してよ。そっけないけど可愛くて、いつも助けてもらってる大切な、アタシの────

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返して、私の

「ねぇユキー。そろそろ誕生日でしょ?何か欲しいものない〜?」

「…そんなに引っ付かれながら言われても困るから離れて」

「んもー!つれないなぁ」

「お姉ちゃんは他の男にもこんなことしてんの?いつか痛い目みるよ?」

「してないもん!するとしてもユキとこれから出来るであろう好きな人だけ!!」

「せめて好きな人だけにしな」

 

アタシの弟、今井ユキ。

少し素っ気ないのにいつでもなんだかんだアタシの事を気遣ってくれる優しい弟。

ほんとこんな弟を持ってお姉ちゃんは幸せだよ全く。これのせいでいつか報いが来てお姉ちゃんが不幸になったらどうすんのさってくらいだよほんと。こっちの身にもなって欲しいね。

ま、そこもいいんだけどね。

 

「で、なんか欲しいものないの?」

「そろそろ寒くなるし、お姉ちゃんのマフラー……かな」

「ん?今とんでもない事言ったね?もっかい言ってくれない?多分お姉ちゃん死んじゃうよ」

「滅びろクソ姉」

「あー!!!そーいうこと言っちゃいけないんだよぉー!悲しいなー!お姉ちゃん悲しいなぁー!」

「だーうるさい!!!!」

 

こんな風に冷たくしてくるのは治らないもんかなー。ほんとはデレデレしたい癖にね。

 

「結局マフラーで良いんだね?」

「しっかり作ってね」

「あったりまえよ!弟の誕生日プレゼントだからお姉ちゃん張り切っちゃうぞー!!」

「とりあえずうるさいから早く僕の部屋から出てってくれないかな」

 

───────

 

「それにしても、すっごい量の毛糸ですね。袋がパンパンになってますよ」

 

美咲がそう言う。

 

「あはは〜……確かにこれはちょっと買いすぎちゃったかなぁ…」

 

他にもイヴ、たえがいる。急に頼み事をされた時はびっくりしたけど、どうやら羊毛フェルト等を使って物を作りたいようだ。アタシもユキにマフラー編まなきゃなんないし、丁度いいんじゃないかなと思って快諾した。

今はファミレスにて休憩と言えばいいのか、作戦会議と言えばいいのか。…まあ約やかに言えば雑談をしているわけだ。

 

「他に雑誌も買ってましたよね?編み物の雑誌があるなんて、知らなかった」

 

たえがそう漏らす。まぁ、そういうことに関して疎かったりするなら、知らなくても至極当然のことだろう。

 

「そういうのを見て、作るもののイメージを広げたり、凝った編み方を覚えたりしてるんだ〜」

 

有り体に言うと、こういう雑誌もものすごく役に立っているし、家にも浩瀚な雑誌がアタシの部屋にある。たまーにユキが勝手に漁って雑誌読んで技術を盗んでいるようだ。

編み物に興味を持ってくれているのは嬉しいが、勝手に人の部屋に入ることは感心しないなーと思いつつ、それを許している自分がいるんだけどもね。

 

「てゆーか、みんなも編み物やればいいのに〜。美咲なんか絶対向いてると思うんだけど。羊毛フェルトやってるから、手先も器用だと思うし」

「そうですかね〜?」

「それにほら!美咲、弟と妹いるじゃん?これから冬になるし、手袋とかマフラーとか作ってあげたら、喜ぶと思うな♪」

 

事実、冬の時期に兄弟などから貰う編み物は実用的でありがたいし、何よりとても嬉しいだろう。ユキが裏でアタシの為に冬物のセーターとか編んでたらそれこそ鼻血モノだ。

やばい、これは一旦頭の片隅においとこ。

 

「アタシは今、弟にマフラー編んでるよ。それが完成したらセーターも編むつもり」

「マフラーにセーターって…すごすぎません?」

「いやいや、そーいうんじゃなくて!

編み物は単にアタシが好きでやってるだけだからさ。できたやつを弟に押し付けてるの。あははは」

 

趣味というのは時間を忘れてやってしまうものだし仕方ないでしょーが。まぁいつも編み物を押し付けられるユキの気持ちにもなってあげないとダメかなぁ…?

ま、押し付けはやめないけどね。

そんなことを考えていると、イヴやたえはアタシや編み物について口の端に掛けている。なんか恥ずかしくなっちゃうなぁ…

 

 

───────────

 

「ユ〜キ〜!!!」

「朝っぱらからうるさいなぁ…何の用?」

「明日だよ明日!!ユキの誕生日!」

「そういうのはお楽しみとしてそんなに口に出さないのが普通でしょうが」

「だって待ちきれないもん!愛しいユキのたっんじょ〜び〜!」

「お姉ちゃんの誕生日でもないのに何はしゃいでるんだか…てか僕が愛しいって言ってる間は彼氏出来ないと思うよ」

「ぶー!実の姉になんてこと言っちゃってんの〜」

「本当のこと言っただけでしょ!くっついてくんなぁ!」

 

全く、こんなことを言う弟にはお仕置きとしてアタシが甘えても何も言わないようにさせないとね!

ユキのほっぺたぷにぷにで触ってて気持ち良いなぁ〜。男なのにどんなケアをしてるんだか、若干お姉ちゃん気になっちゃうよ。

 

「…擽ったいんだけど」

「んー?だめー」

「何がだめなのさ…」

「明日、楽しみにしててね!」

「…言われなくても元から楽しみにしてるよ」

「あ、お母さんからのプレゼントは…」

「あーもう!!それくらいお楽しみにさせてよ!!!」

 

あはは、ツッコミもいつも通りキレッキレだね。

 

──────────

 

「ふぅ…やーっと完成したよー」

 

弟にあげるものだし、と思って随分と力を入れてしまった。まぁ出来は最高だしこれならユキも喜んでくれるね!うん、間違いない。これで喜ばなかったらお姉ちゃん泣いちゃうよってくらいよ。

 

「ふあぁ…何か眠くなってきちゃった…」

 

明日はユキの誕生日だし、早めに寝ても…ってまだ昼だけどね。

まぁ…眠気には勝てないよ…

 

───────────

 

「んぅ…あれ?ここどこ…?」

真っ暗な空間にぽつりとアタシだけが立っている。いや、違う。アタシだけじゃない。

正確にはアタシ以外の人はいないっぽいけど、アタシの前にデスクトップパソコンがある。ぼんやりと光るブルーライトのそれが、この暗闇を少しだけ底光りさせていた。

けど、それでもこの部屋のどこまでも続いているのかというほどの暗闇は晴れない。

 

「…なんか気味悪いなぁ」

 

そもそもここがどこかさえ分からないし…けど、きっと夢だろう。

夢ならば覚めるまで遊んどいても困ることはないだろうと思い、手も無く目の前のパソコンに触れて、画面を見る。

 

「なに、これ」

 

思わずそう呟く。

何なんだこれは。パソコンの画面には何やらチャットの様なものが表示されている。問題はそれではなく、そのチャットの内容である。

 

 

0973

運営しっかりしろよ。今までの内容と辻褄合わなすぎだろ

 

0974

それな。ぽっと出で弟出して何がしたいんだろうな

 

 

「弟…?」

 

この人たちの会話の中心が分からない。弟が関係しているそうだが、辻褄が合わないとは何の事だろうか。

…いや、まさかね。

会話の概貌的なものしか見えていないため、全貌を探るべく、パソコンの隣に置いてあったマウスを手に取り、カーソルを下にスクロールしていく。

 

 

 

0975

運営も疲れてるんでしょ()

 

0976

ここで弟を出すメリットないし結果的にデメリットやんけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0977

お前ら揃いも揃って叩きすぎでしょ。

()()()()()()()()()()()()()で今まで通り接せないのかよ。百合がどうこうとかいってるやつは就職して設定変えてみろよ

 

 

「え………?」

戦慄。戦く。震駭する。意気阻喪。まさにこの言葉たちが合う状況。

アタシは何を見てるんだろう。これはアタシのストーカーの集まりか何かか?

否、最後の人は今まで意見してきた人に喝を入れているように見える。じゃあこれは一体何…?

 

「アタシに弟がいるなんて…当然の事でしょ………?」

 

怖い。ユキは?ユキはどこ?

不安だ。ユキはいるの?実在するの?

いや、するだろう。今まで過ごしてきた大切な日々が嘘偽りとは決して言わせない。何よりアタシが1番それを体感してきたではないか。

ふと、自分の身体にほんの少しの異変があることに気づく。自分の意思に背いて手が勝手に動いてマウスを持ち、画面を下へ下へとスクロールしていく。

 

 

0978

偽善者ぶってんじゃねぇよゴミカス

 

0979

所詮は運営のミスなんでしょ?さっさと変えろよ。はぐみの時だってそうしてきた癖に

 

 

「なんではぐみが出てくるの…?」

 

ますます分からない。変えるってどういう事?

 

0977

»0979 それでも根本的な解決にはならないだろ。俺たちが受け止めれば済む話じゃねぇの?

 

0980

要はさっさと今井リサの弟消せってことだよ運営さん

 

0981

»0977 聞く耳も持って貰えてなくてカワイソスwwwwwwwwww

 

 

「待って、待ってよ」

 

手が止まる。

ユキを消せ?何を言っているんだこの人たちは。運営って何?この人たちは暗殺者のグループか何かなの?

いつの間にか既に自由に動かせるようになっている手でマウスを握り、スクロールしようとするが、ここで切れているようだ。

 

「ぜんっぜん分かんないよ…」

 

なんでこの人たちはアタシたちの名前を知ってるんだろうか。運営という言葉の真意も分からない。

いや待て、落ち着け今井リサ。

これはそもそも夢じゃないか。確証を持っている訳では無いがこんなの現実離れしすぎている。どうせ夢オチというやつで終わるんだろう。

ユキが消えるなんてありえないし、アタシたちを知ってるこの人たちもいる筈がない。

そうだ夢だ。夢なら早く覚めて下さい。

おねが…い…しま、す…………

 

 

─────────────

 

「……はっ!?…なんだ」

 

なんだ、やっぱり夢だ。夢じゃないか。な〜に一人で焦っちゃってんだか。今までの自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。

ていうか、朝じゃん。アタシどれだけ寝てたのさ…昼の5時くらいには確かもう寝てたし、昨日夜ご飯も食べてないってことだよね…朝ご飯食べますか。

っとと、その前にユキの誕生日祝わなきゃね!!三度の飯よりユキ!!!ってね。

 

 

「ユキー!おーい、ユキー?ゆーーーきーーーー!!」

 

部屋の前でユキの名前を呼んでドアをノックしても返事はない。

 

 

 

 

 

…ねぇ、嘘だよね。

勢いよくドアを開ける。

 

 

そこには()()()()()()()()

いや、あれは夢のはずだ。

 

「嘘、だって言ってよ。ねぇユキ」

 

嘘、嘘だ。あれは夢でしょ?正夢なんて信じるものじゃないでしょ?

 

「あれ、どうしたのお姉ちゃ…って何で泣いてんの?」

「へ…?ユ、キ……?」

 

アタシの目の前にユキがいる。なにこれ。これも夢オチエンド?趣味悪いねほんと。

そう思いつつ、自分の頬を抓る。

痛い。夢じゃない。ユキがいる。

安堵の息が漏れる。よかった。本当に、よかった。

 

「うぅ…ぐすっ…ユキーーー!!!」

「うぉっ!?ちょ、お姉ちゃん!?いきなり抱きつくなよ!!色々当たってるしさぁ!!?」

「ユキがいるならもうなんでもいいもん!」

「…まずその涙拭いて。あと恥ずかしい」

「えへへっ」

 

本当にお姉ちゃんかよ…なんて呟いてたの、アタシ聞いてたからね。全く、酷いことをお姉ちゃんに言うなんて本当に弟なのかな…なんてね。

涙を拭いて立ち上がり、ユキの前に誕生日プレゼントを出す。

 

「ほらユキ!!手編みのマフラーだよぉ〜!お姉ちゃんの自信作♪」

「…凄い、綺麗。その……あ、りが…と」

「そんなに照れることないでしょーが!弟に向けてのプレゼントなんだからとーぜん!」

「やっぱお姉ちゃん最高だよ」

「煽ててもこれ以上は何も出ないぞー?」

 

知ってるよ、と言ってユキはマフラーを首に巻き始める。

 

「うんうん!似合ってるじゃん♪」

「あったかい…」

「でしょー?お姉ちゃんも抱きつけばもっとあったかくなるよー!」

「あつい…」

 

む、今失礼なこと言ったね。いつからそんなイケナイ子になっちゃったんだか。

 

何はともあれ、あれがただの夢で良かった。アタシにとってのいつも通りで、当たり前だけど何より大切な日常が消えちゃう怖さとありがたみを感じた。

 

「ユキ」

「何?」

「…これからもよろしくね!」

「…もちろん」

 

あぁ、当たり前ってこんなに暖かいものだったんだ。

 

「お姉ちゃん」

「ん?」

「だいす」

 

刹那の出来事だった。今まで抱きしめていたものがどこにもない。あるのは冷めきった空気と微かに人肌の温かさが残留するマフラーのみ。

 

「え…?」

 

目の前で、いきなり

 

 

 

 

ユキが消えた。

 

 

 

 

 

なんで、あれは夢じゃないの?アタシ、何も悪いことしてないよ。

なんで、なんでなんでなんで

ユキ。あぁ、ユキ。どこ?どうせまた隠れてるんでしょ?早く出ておいで。お姉ちゃん泣いちゃうよ

ユキ。ユキ?ユキ…ユキ!

どこにいるの…?

 

ふと前に突如モニターのようなものが現れる。

…目の前で人が消えたんだ。それに比べれば何ら変なことではない。立ち上がる。

 

「ねぇ!アタシのユキかえしてよ!」

 

モニターを何度も何度も思いのままに叩く。それがなんの意味もない行動だと知っていてもなお、叩き続ける。

 

「アタシのユキを!返してよ!!!ねぇ!!見てるなら何とか言えば!!?これが運営ってやつなの!??そしたら最低だよ!!サイッテー!」

 

叩きながら家の中にも関わらず罵声をモニターに向かって浴びせ続ける。

するとモニターになにやら重要なお知らせと書かれた文字が浮かび上がってくる。

 

「今回発生してしまった矛盾を重く受け止め、また『今井リサ』というひとりのキャラクターとしての人物像を尊重するため、今井リサの弟の存在に関する設定を変更させていただきます」

「何それ、尊重ってなに…?尊重してるならユキを返してよ!

アタシってキャラクターなの…?アタシって何なの!?」

 

誰も答えてくれない。あの時の夢のようなコメントも見えない。

 

「なんで…?返して。返してよ。そっけないけど可愛くて、いつも助けてもらってる大切な、アタシの───」

 

視界が暗転する。嗚呼、死ぬのかもしれないなぁ。

 

─ねぇユキ。最後、なんて言おうとしたの?

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、すっごい量の毛糸ですね。袋がパンパンになってますよ」

 

美咲がそう言う。

 

「あはは〜……確かにこれはちょっと買いすぎちゃったかなぁ…」

 

他にもイヴ、たえがいる。急に頼み事をされた時はびっくりしたけど、どうやら羊毛フェルト等を使って物を作りたいようだ。アタシもなんとなくマフラー編みたかったし、丁度いいんじゃないかなと思って快諾した。

今はファミレスにて休憩と言えばいいのか、作戦会議と言えばいいのか。…まあ約やかに言えば雑談をしているわけだ。

 

「他に雑誌も買ってましたよね?編み物の雑誌があるなんて、知らなかった」

 

たえがそう漏らす。まぁ、そういうことに関して疎かったりするなら、知らなくても至極当然のことだろう。

 

「そういうのを見て、作るもののイメージを広げたり、凝った編み方を覚えたりしてるんだ〜」

 

有り体に言うと、こういう雑誌もものすごく役に立っているし、家にも浩瀚な雑誌がアタシの部屋にある。まぁ1度読んだらほぼ使わないんだけどね。

 

「てゆーか、みんなも編み物やればいいのに〜。美咲なんか絶対向いてると思うんだけど。羊毛フェルトやってるから、手先も器用だと思うし」

「そうですかね〜?」

「それにほら!美咲、弟と妹いるじゃん?これから冬になるし、手袋とかマフラーとか作ってあげたら、喜ぶと思うな♪」

 

事実、冬の時期に兄弟などから貰う編み物は実用的でありがたいし、何よりとても嬉しいだろう。

 

「アタシは今、マフラー編んでるよ。それが完成したらセーターも編むつもり」

「マフラーにセーターって…すごすぎません?」

「いやいや、そーいうんじゃなくて!編み物は単にアタシが好きでやってるだけだからさ。できたやつを周りの人達に押し付けてるの。あははは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あはは、あは、はははははははははは」

 

 


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