ソードアート・オンライン −電詞都市DT−   作:ラナ・テスタメント

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[Virtual-City-DETROIT]

護ること(プラス)を選べず、攻撃(マイナス)しか出来ないならば、神の詞を求めて来たれ、この偽物だらけの(Virtual CITY)都市(DT)へ。

〈wait...START


エピローグのプロローグ

 ボク、がんばって、生きた……。ここで、生きたよ……。

 

 そう呟いて、《絶剣》と称された一人の少女は眠るように息を引き取った。

 最後の、その瞬間まで仲間達に、大切な友達に看取られながら、彼女はアルヴヘイム・オンラインと現実の世界から、消えていく。

 身体から、そしてアバターから抜けるように意識だけとなった彼女は、電子データの世界の中で、《魂》とも呼ぶべきものが拡散していくのを理解していた。

 

 ――これが、死なのかなー。

 

 なんとなく、そう思う。

 自分でも、なんと軽いんだろうと思わなくもないが、皆に看取られながら逝けたのだ。悔いはない――とは、さすがに言い過ぎだが。少なくとも、後悔だけは無かった。

 晴々しい気持ちのまま、意識がクリアになっていく。

 《魂》に質量があるかどうかは分からないが、それが消えていく感じか。

 死が消滅だとするのならば、こんな風に消えるのか。出来るなら、死ぬ前に言った通り《次の世界》で、また皆と会いたかったのだが、これでは輪廻転生も疑わしい。

 そこまで思って、苦笑する。やっぱり、もっと生きたかったんじゃないかと。

 当たり前だ。スリーピング・ナイツを結成して、色んなVRMMOを渡り歩いて、アルヴヘイム・オンライン――ALOの世界に辿りついて、アスナに出会って……。そして、そこから、あまりに楽しく、最高の時間を過ごして。

 あの時間をもっと続けたいと思うのは当然だ。他の誰でも無い、自分が否定出来る訳が無い。……けど、もう、どうにも出来なくて。

 

 ――神様がもし居たら、色んな意味で残酷だよね……あ、でもやっぱり優しいのかも?

 

 自分の身体の事は酷く残酷で。でも、皆と会えた事は、とても優しくて。

 なんだかなー、とは思うが、そんなものなんだろう。きっと、神様って奴は気まぐれなのだ。

 

 そんな事を思ってると、意識が限り無く透明になって来た。ついに消えるのか……そう思う、この意識すらも、消えようとして――。

 

『残念だが。まだ、君に消えて貰っては困る』

 

 ――唐突に、声がした。

 あまりに、唐突にだ。それは、若い男性の声。でも、全く聞き覚えの無い声だった。

 

 ――だれ?

 

 消えかけの意識の中で、ただ、それだけを聞く。

 だが、声はこちらの疑問をきっぱりと無視した。

 

『《カーディナル》のシステムの中で死に行くものは、魂もこの世界に還るのか。これは、嬉しい誤算だった。君の魂は電子データに変換されつつある。つまり、私と同じだ。しかも、《大神の器》に相応しい、穢れなき身でもある。後は、私と共通設定にすれば、不老不死の条件もクリアーされる』

 

 ――なに? なにをいってるの?

 

 分からない。この男が何を言ってるのか、全く分からない。

 分からないままに、しかし男の独白を彼女は聞き続ける。

 

『君は、次の世界に行きたいのだろう? そこで、彼女や彼等と会える事を楽しみにしている。私も同様でね。だから、一緒に行こうでは無いか。もちろん、彼等も来て貰う予定だ。我々より遅れる事にはなるだろうが――』

 

 ――だから、なにをいってるのって……!

 

『異世界に行くのさ』

 

 そこで、ようやく男は彼女の声に応えた。こちらを真っ直ぐ見つめ、手を差し出してくる。だが、言ってる事は相変わらず意味不明だった。異世界とは、どう言う――?

 

『言葉通りの意味だ。我々は、オンラインの回線に乗り、全く未知の世界に行く事になる。その世界は、電子データで出来た世界――VRMMOのような仮想電子世界では無い。言わば、実在電子世界とも呼ぶべきか』

 

 意味が分からなかった。

 そして、この男の正気を疑う――異世界? 実在電子世界? もし、そんなものがあって、行けたとして。その世界で何をするつもりなのか?

 

『決まっている。真に、夢を叶える為だ』

 

 男は簡潔に応えた。白衣をはためかせ、両手を大きく広げる。そして、子供のように目を輝かせて、こう言った。

 

『真なる世界創造を果たす。その為に、私は君と共に行くのだよ。異世界の都市に。――電詞都市、DT(デトロイト)に!」

 

 そう言って男は――彼女は知らぬ事だが、かつて一つの仮想世界を作り上げ、そこに一万ものプレイヤーを閉じ込めた異才の男、茅場晶彦は、《絶剣》のユウキこと、紺野木綿季の拡散した意識を集束させ、一気に飛翔を開始した。

 

 これが、後に《DT事件》と呼ばれる最初の出来事である事など、誰も知る良しは無かったのだった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 2026年、4月末――アルヴヘイム南西方、シルフ領、首都スイルベーンのさらに南西にある草原地帯。その、さらに向こう側にある海の向こうに、陸地が唐突に現れた。

 

「おい……? あれ、なんだ?」

「陸地? なんか、街みたいなのも見えるぞ」

 

 スイルベーン上を飛んでいたシルフ族のプレイヤーが、指差して驚きの声を次々に上げる。

 当たり前だ。海の向こうは、ずっと海が広がっていた筈なのだ。ある程度は海上を飛べるが、限度もある。もちろん、その向こうに陸地や、まして街などあろう筈が無かった。

 だが、確かに、そこには街があった。遥か遠いが、間違いなく。プレイヤー達は、突然現れた街に唖然とし。しかし、何らかのクエストが発生したが為の拡張マップかもと意気込んだ所で。

 

『『あ……!?』』

 

 ――その街は、まるで景色に溶けるように消えてしまった。僅か、三分。

 それが、ALOに幻の街が出現した時間であった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「てな話しがあったみたい」

 

 ALO、新生アインクラッド第22層に建つひっそりとしたログ造りのプレイヤーハウスで、俺はリーファの話しに、へぇーと相槌を打った。

 いつものように、ALOのマイホームに集まった一同で女子陣は――つまり、アスナ、リズベット、シリカ、リーファ、それに大変珍しい事にシノンは、そんな噂話しをしていたのだ。

 

「幻の街かー、拡張マップ準備してる途中で、間違って運営が出しちゃったとか?」

 

 そう言ってアスナ手製のお茶菓子――クッキーだ、をぱくりと一口食べるのは、リズベットことリズ。

 うっかりそんな事があるのかと言われると、可能性はゼロじゃないだろう。でも、相当低いとは思うが。

 そもそもALOは新生アインクラッドの第三十層以上のアップデートや、グランドクエスト第二段が進行中の筈だ。そんなものに手を出す暇はなさそうな気もするんだが。すると、こちらは何やら本を読んでいたシノンが、何故か俺をちらりと見て話し出した。

 

「それなんだけど、どうも、あの街が現れたのって、ALOだけじゃ無いみたいなのよね。GGOでも、”全く同じ時間に”、北側廃墟の向こう側に街が見えたらしいよ」

「ええ……っ、そうなんですか?」

 

 と、こちらはシリカ。どうも興味津々なようで、目を輝かせている。すると、《タップするだけで九十九種類の味のお茶がランダムに湧き出す》と言う魔法のマグカップを片手に、アスナもうーんと小首を傾げていた。

 

「なんか《Mトモ》見ると、色んなVRMMOで――と言うか、全部のゲーム内で見れたらしいよ、その街。私は見れなかったけど」

 

 アスナに続いて、女子陣が全員、私も、私もーと、頷く。ちょうど、そのタイミングは誰もログインしていなかったのだ。

 この浮遊城アインクラッドからなら、見れたかも知れなかったのだが。

 

「キリト君も見てない?」

「残念ながら。その時間は、バイトしてたよ」

 

 最近ずっとやってる《ラース》からのバイトである。そんな街があったなら見てみたかったと思う反面、どうも気に掛かる。

 何せ、全てのVRMMO世界で現れた街だと言うのだ。それはつまり、《ザ・シード》連結体により繋がった世界全部と言う事を意味する。それが何を意味するのか――。

 

「確かに、その時間帯、ネットワーク上に巨大なデータが忽然と現れてますね。でも、三分程で消えちゃってますけど」

 

 そうのたもうのは、俺の頭の上でちょこんと座るナビゲート・ピクシーであり、俺とアスナの娘でもあるユイだ。こう言った話題だと、大概はユイが真贋を見極めてくれる――まぁ、ゲームに関係無い話題でだが。そうでなくては、公平性が保てなくなるし。

 ともあれ、これで信憑性は俄然増した――と言うか、確実になったと言えた。

 

「ユイちゃんが言うなら間違いナシだね。でも、なんで消えちゃったんだろ?」

 

 アスナの疑問に皆揃って頭を悩ますが、分かろう筈が無い。しばらくして出た結論は、「分からないものは分からない。なら気にしても仕方ない」であった。興味も疑問も尽きないが、ここで考えても埒が明かない。そんな訳で、一同は別の話題に話しを切り替えていく。

 

 ゴールデンウィークの話題に移り、笑いながらしかし、俺の頭の中には幻の街の話しがずっと残っていたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 PM22時。いつもよりちょっと早めにログアウトして現実に帰って来た俺は、アミュスフィアを外して息を吐く。

 明日は休みなので、一日中でもログイン出来たと言えば出来たのだが、何分、制限時間もある。風呂にも入りたかったので、一時中断と言う訳だ。

 リーファこと、妹の直葉も部屋から出た気配がして――て、すぐに慌てて戻った。これは、あれか。また着替え忘れて下着で出たなと苦笑した。あれで、おっちょこちょいな所があるのだ。

 さて、風呂はスグに譲るとして晩飯でも――? と、そこで気づいた。PCにメールが入ってる事に。

 誰かからのメールかと、見てみる。だが、その宛先は、全く見覚えの無いものだった。

 

「スパムか……? いや、でも」

 

 その手のメールは容赦無くブロックしている筈だ。

 なら、これはなんなのか――しかも、やたらとデータが重い。このPCはユイ用に相当メモリを増設しているのだが。

 興味を引かれ、普段なら絶対やらないのだが――メールの中身を開けてみた。

 

「電詞都市、DT? 入市状?」

 

 その中身は、VRMMOへの招待状とも言うべきものだった。どうも、今のALOからキャラをコンバートして来て欲しいらしい。詳しい話しはそこでするから、とあった。正直、胡散臭い上に強引過ぎる話しである。

 コンバートするにはアイテムや金を持ってはいけないのだ。こちらは、それなりのリスクを負わねばならない。なのに、まるで引き受けるのを確信しているような感じで――。

 

「っ――」

 

 しかし、最後の文面を見て。俺は、息を飲んだ。

 そこに書かれたものは、俺にそれだけの衝撃を齎したからだ。ぐっと呻き、内容を読み上げる。それは、こんな内容だった。

 

「『ヒースクリフと言う男が、ここに居る。これ以上は言わなくても分かってくれると思う』、か」

 

 正直バカバカしいと思った。今更、何故あの男なのかと。

 ヒースクリフ――茅場晶彦。ナーヴギア、そしてSAOを作った本人であり、そして俺達をデスゲームに強制参加させた男。SAO世界崩壊と共に死んだ筈の男だ。ヒースクリフの正体が彼だと知ってる人間は知ってるし、そうでなくともヒースクリフと言うPCを知ってるSAO帰還者は多い筈だ。だから、これはタチの悪い悪戯――そう自分に言い聞かせて。

 

「くそ……!」

 

 それが、出来そうも無い自分に悪態をついた。これは勘だが、多分、これは”本物”だ。確信とすら言える。理由も根拠も無いのだが。

 もう一度罵声を飛ばすと、再びアミュスフィアを付け直した。コンバートするには、全てのアイテムとコインを預けねばならない。今からエギルの店に預けて、それから――。

 ちらりと棚を見る。そこに今でもあるナーヴギアを見て、再びため息をついた。

 メールには、こうあったのだ。DTに来る際には、ナーヴギアで、と。全く、見透かされてるようで腹が立つ。ともあれ、コンバートの準備を整える為に、俺は再びALOにログイン。そして、三十分後、準備を整えるとナーヴギアに被り直し、『電詞都市DT』をインストール。再びベットに寝転がると、あの言葉を呟いた。

 

「リンクスタート」

 

 ――次の瞬間、俺の意識は一気に飲み込まれ。”桐ケ谷和人、と言う人間はこの世界から消滅してしまったのだった”。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ・DT入市案内。

 

 ようこそ、神の声聞くDTへ。以下の諸注意をご確認下さい。

 

「0:基本ルール」

 

 0−1。

 DTでは世界初の映像化と複数同時介入が可能な文字世界であり、百倍加圧の高速都市です。

 DT内では貴方の遺伝詞情報を元に作った通常外殻(以下、PC)で生活をして頂きます。貴方の遺伝詞情報は必要な時のみ召喚し、普段は電詞熱量削減のため、中間層に保存します。

 

 0−2。

 遺伝詞にはPCからの共鳴操作によるフィードバックがあり、PCが損傷すると本体側も同様の損傷を受けます。遺伝詞情報のバックアップは本体遺伝詞の共鳴崩壊を起こすため、禁止されておりますので注意して下さい。また、PCによる些細なトラブルを引きずったり、発展させぬよう、名前登録はなるべく偽名をお奨めいたします。

 

 0−3。

 DTでは第二神触以前の記録は全て抹消、秘匿とされておりましたが、去年に情報公開がなされました。詳しくは、DT憲兵師団、団長にお聞き下さい。

 

「1:頁(ページ)ルール」

 

 1−1

 DTは記常頁、記匿頁、言路の三概念で出来ています。記常頁は誰でも立ち入る事が可能な区画。言路は空や通路。記匿頁は言定議状態(ボードモード)用の任意隔離区画です。

 

 1−2。

 DTでは言定議状態と呼ばれる文字状態と、言解議(サイトモード)と呼ばれる映像状態を使用して活動可能です。

 

 1−3。

 言定議状態では視覚情報を言像更新を行って確認します。

 行動は代行己動詞で半自動化するため、精密、高速行動が出来ません。

 必要な場合は、適宜、映像状態である言解議状態に入って下さい。

 

 1−4。

 DT内では詞片(メール)と己動詞(プログラム)、情報体を、中間層経由で電詞転送できますが、実在物の電詞転送は安全確保のため、禁止されています。

 

「2:会話ルール」

 

 会話は言定議状態では「」で囲まれます。思考を面に出す場合は、<>で囲まれます。

 言解議状態でも思考を詞窓(ウィンドウ)として表現可能です。

 

「3:召喚紋章ルール」

 

 3−1

 言解議状態の時のみ、意志力で身体の各部遺伝詞情報を中間層からPCに召喚します。この召喚行為を字呼召喚(ダウンロード)と呼びます。

 字呼召喚では遺伝詞情報の五割を召喚します。更に意志を強くすると、大召喚(グランドロード)と呼ばれる全身召喚が可能となります。

 

 3−2。

 召喚中は電詞熱量の消費量が多くなり、空腹化、場合によっては自動的に高機能化(SD化)します。

 他、重要語句などは逐一ヘルプを行いますので、注意して下さい。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ●「キリトのボードモード『DT憲兵師団にて』」――――●

 

 :ここはDT憲兵師団の記常頁(トップページ)、憲兵師団私室です。

 :時刻は、午前9時00です。

 :キリト様は憲兵師団内入市ロビーからこの部屋に入って来たばかりです。

 :広い部屋の中に大きな机があります。壁には賞状や盾の入った棚があります。

 :一人のPCの方がいらっしゃいます。オウガ・テライ・DLL様です。

 

キリト「……は?」

 

キリト「なんだこれ……掲示板?」

 

テライ「ははは。言い得て妙だね。その通りだよ、初心者君」

 

テライ「この会話だけの状態が、DT特有のボードモードさ、キリト君」

 

キリト「え、ええ……? 誰が居るのか――じゃないや、居るんですか?」

 

テライ「敬語は必要ない。ともあれ、ここに私は居るさ」

 

テライ「ボード中に何か見たければ、言像更新(オーバーリロード)と、心の中で念じてみたまえ」

 

《キリトの言像更新》

 

 :正面にテライ様がいます。黒人の、太った中年男性です。

 :テライ様の机の上には鳥型の青いマウスがいます。

 

キリト「――視覚情報が全部文字だけで出るのか……。そして、オーバーリロードで情報を得る、と」

 

テライ「その通りだ。なんだ、説明の必要があまりなさそうだな」

 

キリト「つまり――」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :周囲状況は変化していません。テライ氏は微笑を浮かべています。

 

キリト「こうして俺が喋ってる間にも、周囲は動いてるんだな」

 

テライ「その通り。注意して欲しいのは、オーバーリロードは二、三秒のデータしか仕入れられない事だ。何しろボードモードはDTの基礎たる文字情報の高速交換専用だ。他の用途は疎い」

 

テライ「この主観視点のボードモードの他、客観視点となるサイトモードがある。が、まあ、サイトに切り替えるより先にボードを解説しよう。――また、オーバーリロードしたまえ」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :テライ様が立ち上がって銃をキリト様に突き付けています。

 

キリト「――――っ!?」

 

テライ「ようやく、驚いてくれたな。ボードモードの恐ろしさとはこれだ。今の場合、八秒前に私は君に拳銃を向けた。だが、君はオーバーリロードしていないので気付かない。私がこれを撃てば、君はいきなり致命を告げる警告詞窓を見た上で衝撃を感じて死亡だ」

 

テライ「そして、ここでの死は本体の死にもなる。この意味、分かるね?」

 

キリト「入市案内に書いてたけど、フィードバックが入ってアバターと同じケガとかするんだっけ」

 

テライ「そう言う事だ。何、定期的に周囲を見るだけでいい。簡単だろ?」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :テライ様が拳銃を懐に納め、椅子に座り直しました。

 

 テライ「そう、初めのうちは細かく見ていくんだ」

 

テライ「ボードモードは、情報を絞って見せているだけ。自分に感じられなくてもPC――君らの言い方ではアバターか。は、存在し、代行己動詞(サブプログラム)で動いてる。だから移動も作業も食事も可能だ。だけど、サブプログラムによって行われるので精度も悪くミスも起きる。燃費と速度はいいんだがね」

 

キリト「掲示板は慣れっこだけど、これは……」

 

テライ「慣れたまえ。DTはこのボードが基本だ」

 

テライ「この高速の無感情な情報の行き来について来られない人もいる――毎秒オーバーリロードするようになってしまったノイローゼ患者とかね。だが、ボードモードは早く、便利だ」

 

キリト「慣れなかったら?」

 

テライ「残念ながら他の大部分の人間は適応している。無感情な高速の文字データをちゃんと流さず読み、言葉の端々から感情を想像で読み取ってね。それが出来なかったら、この世界では、脱落者(リタイア)と呼ばれるんだ」

 

テライ「慣れるか、気の合う者同士なら、オーバーリロードもそうそう多くする必要はなくなるさ。さて、無駄話しはここまでにしよう。サイトモードと意識して感覚を切り替えたまえ」

 

《キリト様のボードモードを終了します》

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――と」

 

 急に目が覚めた感覚を受けて、思わず声に出してしまった。きょろきょろと見回すと、そこは部屋の一室だった。

 正面、机の向こうに一人の黒人の中年がいる。……こう、エギルと比べるとあれなんだけど、見事に中年太りした人だ。テライさんと言ったっけ?

 彼はにこやかに立ち上がると、机越しに手を差し出して来た。なので手を返そうとして――。

 

「あ、あれ?」

 

 何故か上手くいかなかった。おかしいなと何回か試していると、テライ氏は苦笑する。

 

「まだアバターを動かすサブプログラムが最適化されてないな。ここは字呼召喚(ダウンロード)を見せよう。この偽物の世界に、本来の自分を五割召喚(ロード)する詞――定型のないダウンロードの詞だ」

 

 ――存在を確かめたい。

 

 次の瞬間、テライ氏の手指に一瞬だけ青白い光が宿った。天秤をシンボルにした紋章(エンブレム)だ。紋章はすぐ消え、代わり、テライ氏の手から硝子板を割った音が一つ鳴り、直後、手を握られた。

 テライ氏は肩を竦め、改めて微笑を浮かべる。

 

「ようこそ、電子で出来た偽物の――しかし、本物の都市へ。異世界からの来訪者、キリト君」

「こちらこそ、よろしく」/<なんかタコ焼きみたいな人だな――て、はぁ!?>

 

 なんだこりゃ!? いきなり、頭上に浮かんだ黒枠のウインドウを見て、絶句する。な、何故に思った事が――て、違う! 出るな!

 しかし、願い虚しく、ウインドウは次々と思考を表に垂れ流しにする。

 

「はっはっは、済まないが、緊急で君に来てもらったからね。今の君は犯罪者設定になっている。犯罪者は、思考の隠蔽や攻撃が出来ない設定(プロパティ)になってるんだ」

「そ、そうなんだ。て、あの、手、手が痛いです……!」

「私はタコ焼き顔かね?」

「いえ、違います!」/<勿論、その通りです>

 

 ……駄目だ、こりゃ。それを悟ると、すみませんとテライ氏に謝る。彼も苦笑すると、手をようやく離してくれた。

 み、見た目と違って、えらい握力の持ち主だ。さすが、憲兵師団団長!

 

「言い訳にしか聞こえんよキリト君」

「あれ――?」

 

 思考はちゃんと褒めてるのに――それはともあれ、テライ氏に向き直る。

 彼も頷き、苦笑を一つだけした。

 

「さて、では本題に入ろう。ヒースクリフ、彼の事を、ね」

 

 そう、テライ氏は再び話し始めたのであった――

 

(第一話に続く)

 




どうも、テスタメントです♪
そんな訳で、やっぱり書いちゃいました♪(笑)
しかし一人称難し難し(笑)
三人称一元視点に慣れきってるせいでどうしても(汗)
そんな訳で、電詞都市DTとのクロスです♪
どんな話しとなるか、一つお楽しみに♪
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