「ガルパンはいいぞ」ただその一言に尽きる   作:琴介

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お久しぶりです。
こっそりと更新しておきますね。


・茶の葉の少女の言の葉で

 結論から言って、試合に勝利したのは聖グロリアーナ女学院だった。

 それも、自陣営の車輌に一切の損失を出さないでの完全勝利。先日のプラウダ高校とボンプル高校の試合を彷彿とさせるような圧倒的な試合経過に、観客達の興奮熱は未だ冷める気配を見せず、

 

「聖グロリアーナ女学院の大勝利イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」

 

 などと自由人(アールグレイ)が奇声をぶち上げても気にならない程度には盛り上がっている。

 そんな熱のこもった空気が漂う観客席。試合中継用に設置された特大の液晶モニターと向かい合うように、雛壇形式に組み立てられたスペースの最上段にて、みつるはストローを通してジンジャー系の炭酸ジュースを喉に流した。

 久しぶりだと結構きついなあ、と内心で感想しつつ、

 

「試合終わるの早すぎませんかねえ」

 

 元々、聖グロが勝利するのは想定していたし、何だったらBC自由学園が仲間撃ちをして試合どころではなくなる可能性も予想していた。

 だからまあ、自分としては、試合の結果に驚きはしない。しないのだけれど、

 

「……試合を観れたの、最後の十数分だけだった。終わっちゃったよ、俺の現地観覧」

「フフフ、出店の並びに思った以上に時間を持っていかれてしまったからね。私としても試合運びの速さにビックリだ。――まあ、ダージリンなら当然だね!」

「後輩大好きかよ」

 

 もちろんだとも、とアールグレイが笑った。

 

「私はダージリンが大好きだ。彼女は、私とは違って真面目な少女であるし、少々頭の固いところはあるが物事の本質を良く見ている。――それこそあの子は本物だ、勢い任せの私なんかよりもよほど隊長に向いている。だからまあ」

 

 と、アールグレイが吐息混じりに言う。

 

「いろいろと敵を作りやすくもある性格だが、見ていて飽きない可愛い後輩だ。時折とても疲れたような表情で酷い有様になるのが玉に瑕だがね」

「それ絶対に原因お前だから自覚しとけ」

「フフフ面白い冗談だ」

 

 正気か……、と半目を向けるがアールグレイは気にしない。代わりというように席を立ち、自身の端末をこちらへ向け、

 

「――ところで、今しがたダージリンからひらがなで〝すてい〟と送られてきたのだが、コレ無視して帰ったらどうなると思うかね」

「ダー様がとてつもない笑顔で迫って来るのでは?」

「それは恐ろしいね……。仕方ない、今日のところは大人しくしておこうか。まったく人を落ち着きのない子供のような物言いをしてくれる。困ったものだ」

 

 やれやれ……、と肩を竦めるポーズを取ったアールグレイを見て先に一人で帰ってやろうかなと思った。

 

 

   ~~

 

 

 家元代理が帰っていなくて良かったと、ダージリンは心の底から安堵した。

 ……家元代理はアールグレイ様のブレーキを踏める貴重なお方、失礼を承知で頼らせていただきます……!

 試合終了から間もなく。連盟からの勝利者インタビューやら撤収作業の指揮をアッサムに押し付けて直行した観客席で、「お帰りはこちら」の看板前で家元代理を相手に何故か反復横跳びをかましていた彼女の姿がその証拠だ。

 

「待て、待ちたまえみつる! 先に一人帰ろうなんて冗談は笑えないな……! 私を試合後ハイなダージリンと二人っきりにする気かね!? ――悲劇だよ! 主に私が!」

「あとはお若い子らに任せようかなって」

「言うほど君と私達に歳の差はないと思うんだがね! ハッ、まさかアレかい!? 日本へ帰って来るときの旅費を君の名義で支払ったことがバレたのか! くっ、ファーストクラスは素晴らしかったよごめんね……!」

 

 本当に何やらかしてますの、と後ほどの話し合い案件が増えたことに頭が痛い。とはいえぶっちゃけられた家元代理の反応としては、

 

「別にそれはいいんだよ」

 

 いいんですの。

 

「まあ、とやかく言うほどでもないから気にすんな。むしろその程度で納まってくれるお前は良心的な方だよ……、本当に。それより」

 

 と、家元代理がこちらを見た。

 やや離れた位置で様子を伺っていた私達に対して、おいで、と彼は手振りで示して。それにつられて振り返ったアールグレイ様と視線がぶつかり、

 

「ハハハ、――Goodbye」

 

 無性に良い発音で言われて走られたので全力で追いかけようとしたら家元代理がアールグレイ様の襟首掴んで止めていて、やはりブレーキを踏める存在は貴重ですわ……。

 

「有り難う御座います……、本当に……、ほんとうに……!」

「ダージリン様、ダージリン様、心中お察しいたしますがいきなりのことに家元代理が固まっています。ちょっと落ち着きましょう、女子学生が半泣きで頭を下げてる姿は傍から見ても流石に通報案件です」

 

 いけない、つい自分が御迷惑を……。助かりましたわオレンジペコ、とりあえず貴女はあちらで訝しげに眺めている連盟員の方々に説明を。「聖グロリアーナの伯爵が紅茶を零した」で伝わる筈ですから。ええ、お願いしますわ。

 ともあれ、です。

 

「――家元代理、失礼ながらこのままご一緒して頂いてもよろしいでしょうか」

「首根っこ掴んだこの状態のまま?」

「はい、手を離すとすぐにでも逃げ出しそうな気配ですから」

 

 なるほど、と家元代理が頷いた。しかし彼は、んー、と数秒考えて、

 

「ご一緒ってどのあたりまででしょうか」

「……? 我が校の学園艦に招待させていただきます。試合前の仕切り直しというのもありますし、中途半端な時間帯ではありますが、軽い食事でもと思いまして」

 

 なるほどー、と家元代理が再び頷いた。そして彼は、うぁー、と幾度か頭を回して、

 

「――後ほどコレを間違いなく送り届けるので、それだけは勘弁して頂けないだろうか」

 

 真顔でそう言われたのだが、私は一体何をやらかしてしまったのだろう。

 

 

   ~~

 

 

「いや、あの、家元代理? わ、私、何かお気に触るようなことをしましたか……!?」

 

 と明らかに動揺を見せるダージリンを目の前にして、みつるは内心白旗を上げていた。

 ……ごめんムリですっ!

 何が無理かって、そりゃあダー様とお食事ご一緒とか是非お願いしますな案件だがいかんせん心臓に悪すぎる。いくら聖グロの学園艦には仕事柄何度も足を運んでいたとはいえ彼女らと絡むのは今日がお初。

 今までは練習風景を遠目に眺める程度だったのに、突如として距離が縮まり過ぎだ。

 

「心の準備がね、間に合ってないんだよなあ」

 

 出会ってまだ一時間も経ってないのにこの距離感。原因はまあ解りきった自由人(アールグレイ)だけど先立って大洗女子の祝勝会で死にかけたばかりなのだ。

 ……考えただけで震えてくるね。

 ぶっちゃけダー様達のフィールドに足を踏み入れるとか正気の沙汰じゃないと思う。

 聖グロリアーナ女学院、戦車道。そのクラブハウスに代理の肩書しか持たないような野郎が行っていい場所じゃないと思うんですよ。もっとこう、優雅高貴歴史! って感じの人達が集まる場ではなかろうか。いやそうに決まってる……!

 

「家柄で言えばその中でも西住島田両家に並ぶトップランクなのでは? と借りられた猫のように大人しくする私は思った」

「アールグレイ様に同意しますわ……」

「――あ、たった今連盟員への説明から戻って来たところですが私も同意見です」

 

 いいえ親の七光りですー、と己は左手の先を見た。静かに首根っこを掴まれているアールグレイというのは中々にレアな光景だが、

 

「ここで、お別れだな。久しぶりに会えて刺激的だったよ。またいつか顔見せに遊びに来い。あ、その時はちゃんと事前に連絡してくれよなっ」

「いやエンディングの雰囲気出されても私は頷かないよ? というか顔パスで学院の正門を通れる君が今更何をひよるんだい」

「どこぞの自由人がうちに乗り込んでくるまでは聖グロの戦車道とは挨拶程度のお付き合いだったんだよ。航空科の別棟にしか普段は行かないし」

「アールグレイ様が乗り込んだ? 浅間流の本家に……?」

「おいおいおい私とは限らないじゃないかダージリン。決めつけはよくないよ、だからその現行犯を捕まえたような表情はよしてくれ。えっ、私じゃなかったら誰ですかって? ――ハハハハハ乗り込んだのはこの私だよ! どうだ驚いたかね!?」

 

 無言でダージリンが右腕を上げると左手の先が暴れるが離してやるつもりはない。元気なヤツだなあ、と思う反面、

 ……本気で逃げようとしないあたり、この状況を楽しんでるな。

 首根っことはいえ掴んでいるのは服の襟部分。その気になればこの狂人は上着を脱ぎ棄ててすり抜けるだろう。何せ、

 

「残念だったね中身はスポーツインナーなのさ! どうだ悔しいかね!? んン?」

 

 などとやられた前科があるから恐ろしい。留学して少しはマシになるかと思ったが芸風に磨きが掛かってやがる……。

 

「お前、後輩に迷惑かけるなよ」

「そうです、もっと言ってやってください家元代理! この方はもう本当に、在学中に改造した設備をそのまま私になし付けて……! アレらの始末書を書くのにどれだけ時間をとられていることか……!!」

「未だに隠し扉とか、床下に仕込まれた扇風機とか見つかりますからね……。先日はクラブハウスの屋根裏奧が秘密基地風に改築されていたのが発覚しましたし」

「お前何してんの……」

「アァ、それに関しての報告書を仕上げないといけませんでしたわ……。いっそ見なかった事にして屋根裏を封鎖したい」

 

 言ってくれるねえ、とアールグレイが顔を上げた。

 

「あそこは私なりにいろいろと持ち込んだ場所なんだ、出来ればお歴々ヘの報告は程ほどにしてくれると助かるんだがなあ」

「…………では、ただのリフレッシュルームであると、そう報告するために不要なモノの処理をお願いいたします」

「今日中かね」

「今日の私は疲れていますから、きっと書類一式を仕上げるのは明日になりますわね」

 

 回るようになったものだ、とアールグレイが頷いた。そして、

 

「――では、久しぶりに学園艦へ帰るとしよう。荷物持ちとして付き合い給えよみつる」

「えー、ムリー」

「この期に及んでまだそんな我儘を言う……。一体何がお気に召さないのかね? 聖グロだよ? 今らならダージリンとの一日デート膝枕付きだよ……!?」

「俺の心臓が耐えられないんだよなあ」

「というか勝手に人をだしに使わないでくださいませ……」

「――ハッ、アールグレイ様の荷物持ちに手を挙げれば私に一日デート膝枕付きが?」

 

 ペコさん!? とダージリンの慌てる姿に「冗談ですよー」とはにかみながら返す後輩殿はイイ性格をしている。

 

「まあ何であれ、せっかくの休日なんだからたまには仕事抜きにして訪れるのもいいんじゃないかい。ほら、旅行気分というヤツだ」

「りょ」

「旅行なら一人が良かった、とは言わないだろう? 私と、ダージリンがいるんだよ」

「私もいますよぅ」

 

 と、後輩殿が手を挙げた。

 

「うん、そうだったそうだった。ペコ君もいるね。この場にはいないがアッサムもか」

 

 どうだい、とアールグレイがこちらを見た。

 

「私の自慢の可愛い後輩達だ。そんな彼女達のお願いを君は断ると言うのかい?」

「お前……、首根っこ掴まれた格好のせいでいろいろと台無しだな」

「君が手を放してくれていたら決まったんだがねえ」

 

 そりゃあ申し訳ございませんでした。でもな?

 

「俺がお呼ばれしたのは、お前がやらかした迷惑の後始末のためだからな」

「――おっと偶然にも留学先のチームメイトから絵葉書(メール)だ! いやはや済まない、気を取られて聞いていなかったよ。それで何の話だったかな? んン?」

「何ということ……、あちら(英国)にも被害者だなんてどんな悪夢ですの……」

「ダージリン様、ダージリン様、まだ確定ではないです。ですからそんな、自分の卒業後も心労が絶えないんだろうなあ、なんて表情は止しましょう。気をしっかり、ハイ大きく深呼吸――」

 

 というかアールグレイが卒業して留学するって時点で避けられない運命だったような気もする。だが、

 

「向こうでは浅間(うち)の関係者が気に掛けてるし、今のところ大きな問題も聞こえてこないから大丈夫だろう」

「ああ、浅間流の皆さんにはお世話になっているよ。特に〝連盟〟のお姉様方には、有り難いことに良くして貰っているね。この前も友人ともども食事にお呼ばれした」

「向こうでも変わらず御迷惑をお掛けして……、貴女というお人は……!」

「いやまあ、それに関しては俺から迷惑かけろって言ったもんだからな。その点はダー様が気にする必要ないよ」

「だそうだ、良かったねダージリン」

「誰のことだと思っていますの……!?」

 

 と、ダー様の限界が近いようなのでそろそろ引き渡すべきか。手を離した瞬間に逃げ出すような気もするし、やはりここは掴んだまま同行した方がいいのだろうか。

 ……悩ましい。

 すると、手が挙がった。オレンジペコだ。彼女は手にした端末を示しながら、

 

「あのー、アッサム様から撤収の準備が出来たから早く戻ってこいとの連絡です」

「ほう、もうそんな時間になったのか。――うん、じゃあペコ君、アッサムには皆を連れて先に戻っていろ、とアールグレイからの伝言だ」

「何を企んでますの……?」

 

 別に何も? とアールグレイがこちらを見た。ふふん、と笑みを作って、

 

「君が一緒に同行してくれるなら、私は逃げないよ」

「俺に死ねと」

「相変わらずワケの解らない事を言うねえ。――だけどまあいい。みつる、君は今日、私に振り回されてくれる認識だったね?」

「……そうだな、そのつもりではある」

「ならとやかく言わず付き合い給え。これも私からの心労だ」

「このやろう」

「フフフ、今日のあれやこれやは私の範疇、つまり誤差という事だよ。今朝君に確認しただろう? ああ勿論、君が本気で嫌だと言うのなら無理強いしないがね」

 

 どうかな、と上目遣いで問うてくるのは卑怯だろ。このビジュアルお化け絶対に解ってやってんな……。あとダー様、そのすがるような目は止めてくださいズルいです。

 だけどまあ仕方ない。西住姉妹といいなぜこうも心持ちが強いのか。

 

「……俺が倒れたら通報よろしくな」

「何故そうなる……」

「ある種の感情が一定を越えると、時に人は燃え尽きるんだ」

「ワケが解りません……」

「ダージリン様に同じく……」

 

 こっちの話だからマー気にするな。ともあれ、

 

「それじゃあこれから聖グロに向かうとして、移動は乗って来たヘリになるワケだがダー様達も一緒だよな? 忘れ物とか大丈夫かい」

「あ、ハイ。私達の手荷物等はアッサムに任せていますので、大丈夫かと思います」

 

 

   ~~

 

 

 なるほど、と家元代理が頷いたのをダージリンは見た。

 

「ならアールグレイ、二人を連れて先にヘリに乗っとけ。多分、操縦士がその辺で食べ歩きしてるだろうから捕まえてから行く。大会運営にもちょっと用があるし」

「せっかく休日になったというのに仕事人間だねえ」

「物のついでだから見逃してくれよ」

 

 また後でなー。とそう言いながら家元代理が左手を振って大会運営のテントスペースに歩いて行く。そして、

 

「じゃあ私達は先に行こうか。ちゃんとついてき給えよ二人共。――そうだ、迷子にならないよう手をつなぐかね?」

 

 はっ倒してやろうかと思いました。けれどここはスルーを決めるのが淑女というもの。

 

「解放されてすぐにその調子ですか……。こりないお方ですね」

「性分なのでね。彼だって理解しているよ、そうでなければ早朝に寝起きを襲撃するような女に、休日を納得してまで付き合うものか」

「今とてつもなく問いただしたい一文がありましたが聞こえなかった事にします。……あまり家元代理に迷惑を掛けないようにしてください。たとえ言葉を貰っていても、限度がありましょう」

「無論、そのつもりだよ。無理のない範囲で。それは重々承知しているとも」

 

 しかし、とアールグレイが笑った。それは何かを思い出すような表情で、

 

「――みつるのやつ、アレで中々譲らないところがあってなあ。いらんと言っているのに留学先での頼り先を用意するし、挙句の果てには困った事があったら浅間の名前を使えときたものだ。あの御節介焼きときたら……」

 

 まったく、と彼女は言う。

 

「上層の御歴々を相手に無茶を考えていた頃の自分が馬鹿らしいよ。いつかの覚悟は何だったのかと、未だに考える」

「……解りません。何故、家元代理がアールグレイ様をそこまで気に掛けるのか」

「さあ? 私にだってそんなこと解らない。だけど」

 

 だけど、

 

「聖グロリアーナのOG同窓会。その上層の方々には〝浅間流家元代理〟という存在が良く効くのさ。それもビックリするほどね」

「それって」

「フフフどういう事かは自分で考え給えよ。なに、遅くなってしまったが私からの隊長就任祝いだとでも思ってくれ。――おめでとう。ダージリン」

 

 

   ~~

 

 

「ああもう」

 

 ……本当にズルいお方ですわ……。

 卒業して、ろくな挨拶も無く留学していったかと思えばまともに連絡も取れず、どうしたものかと頭を抱えていたら今日になって突然現れて。しかもとんでもない相手と連れ立ってやって来るのだからたまったものじゃない。

 

「どれだけ私を困らせるつもりですか」

「別に困らせるつもりはないよ。私はほら、在学中に色々やらかしてOG同窓会の大半とは折り合いが悪いだろう? 大抵の卒業生はどこぞの派閥に入るものだが、いかんせんどこからもあまりいい顔はされなくてね」

「でしょうね」

「うん、愛おしい後輩に即答されてちょっと傷ついたが気にせず続けよう。――で、去年の夏の大会後、そこで私は気が付いた。あれ、もしかしてこのままではOGボッチなのでは? と」

 

 OGボッチ、と横を歩くオレンジペコが呟いているがそんな言葉は憶えなくていいですわ。

 

「そして考え至ったのさ。身内に歓迎されないのなら外に目を向けてみようってね!」

「――まさかそれで家元代理の元へ乗り込んだのですか!?」

「それだけの理由だけではないが、まあ正解だね。内から見上げるよりも、外から眺めたほうが見える景色もあるってことだよ」

 

 笑い事じゃありませんのよ!?

 だが、アールグレイは笑う。ハハハハハ、と先行し、道を示すように前を歩きながら、

 

「先も言ったように私のOG同窓会での立場はかなり浮いている。だからまあ、君達の力になりたくともたいした事は出来ないし、出来たとしてもせいぜいが責任を肩代わりする程度だろう」

「それでも十分ですわ」

「いいや足りない、それでは駄目だ。内々で物事を動かしていくには今のOG同窓会は少し年季がすぎている。伝統を継いでいくことは大切だが、それに則り縛られていてはただの枷でしかない」

「……我々の扱う戦車道はただのテンプレートであるってことですか?」

「そうとも言えるねペコ君。今日の試合はそれとは程遠いような運び方だったが、アレは良かったねえ。きっと中継を見ていた上層連中はひっくり返っただろうさ」

 

 それはまあ、と己は思った。

 ……アールグレイ様を逃がさないためですの、なんて言ったら調子に乗りますわよね。

 だから口にはしない。しないのだが、

 

「ふ」

 

 普段から小言うるさい上層の方々が呆けた顔をしていたと、そんな光景を思い浮かべるとつい口元が緩んでしまう。

 と、思えばアールグレイ様が足を止めてこちらを見ていた。

 

「な、何ですか」

「いや別に? ただ君も彼女らに思うところがあるんだなあ、と親近感をだね」

「……話を聞いて知っているつもりでしたが、隊長の座に就いて初めて実感しましたわ。実際に戦車や設備普請にああも口を出されるのが煩わしいとは思いませんでした」

「ぶっちゃけ面倒臭いだろ」

「ええ、――ぶっちゃけ面倒臭いです」

 

 それこそ居留守を使って呼び出しを無視してやろうかと考えるくらいには煩わしい。新規戦車の購入にケチをつけられるのはまだしも、縁起がどうのゲン担ぎだとかいって試合前のティータイムに使う茶葉の指定までされるのは我慢できません。

 ……今ではオレンジペコの淹れてくれる紅茶がルーティーンですものね。

 加えてお茶請けまで美味しいのだから文句のつけようがない。アレはもはや文化だと思う。

 

「そのうち作戦内容にまで口を出してきそうですわね……」

「そうなったらいよいよ末期だが、あながち否定できないのが末恐ろしいね……」

「今日の試合を見て何かしらのお言葉はいただきそうですけどね……」

 

 いやだなあ、と帰るのがちょっと億劫になりました。あ、いっそ今からでもアッサムに隊長を譲ってしまうのはどうかしら。ええ、それはいい考えではありませんかっ!

 

:朝無し『直感に従って言葉を送りましょう。――それは無い。さっさとアールグレイ様を連れて帰ってきて』

 

 遠距離から怒られましたわ。でもそうですね、

 

「アールグレイ様」

「何かね」

「アッサムから早く帰って来いと催促がありました」

「――ふむ、それならさっさとヘリに乗り込んで〝来るの遅いんだよ……!〟って態度でみつるを待ち構えようか。第一声は任せ給え、一発かましてやろうじゃないか!」

「またブレーキを踏まれますよ……?」

 

 オレンジペコの心配にアールグレイ様が動きを止める辺り、やはり家元代理は貴重な存在だ。

 一体全体、何がきっかけでお二人が知り合ったのだろうか。とても気になる事柄だが聞いてもどうせはぐらかされる気がする。おそらく、それは家元代理に向けても同じはず。

 ……いえ、聞いて知るというのが間違ってますわね。

 先ほどアールグレイ様に言われたばかりでしょう。自分で考えろと。それはつまり、

 

「相変わらず、変に期待を持たれてますのね」

 

 

   ~~

 

 

 まったくもう、とダージリンは吐息した。

 ……一々やり方が大袈裟なんですよ、相も変わらずにまあ……。

 フツー、後輩の就任祝いで大手流派のトップは連れてこないでしょう。その理由も自分で考えろって、そんなもの考えるまでもなく、

 ……卒業後に助けを出せないご自身の代役でしょう。

 言ってしまえば外へのコネクションか。家元代理ほどの存在を連れて現れる理由なんて、その場の思い付きを実行するような狂行でない限り有り得ないだろう。いえまあ、アールグレイ様ならそれくらいやらかしそうではありますけれどその可能性は今回だけ特例で無視とします。そう特例、便利な言葉ですわ。

 ともあれアールグレイ様からの期待には妙な心地よさというか、変な懐かしさを感じてしまって複雑な心情だが、

 

「――ああ、なるほど。そういうことですか」 

 

 今、ふと気付いた事がある。

 

「自分で考えろって、そういう……」

 

 ニュアンスの違いだ。

 家元代理を連れてきた理由を考えろ、ではなくて、家元代理という存在をどう使うか考えろと。つまりアールグレイ様はそんな意味合いで言っていたのだろう。

 ……多分、恐らく、きっと……。

 えらく自信のない結論だがまあそんなものだ。あの方の行動理由を予想して当てるなんて至難の業ですし。当たったらラッキーくらいの心構えでないとキリがないのだから。

 ああでも、そういった点で考えると、

 

「アールグレイ様と家元代理は、よく似ているのですね」

 

 なんと! とアールグレイがこちらを見た。

 

「ついに狂ったかねダージリン!」

「ついにとは何ですか、ついにとは……!」

 

 狂ったことを否定しない……、とオレンジペコが真顔になったように見えたがきっと気のせい。

 

「私はただ、アールグレイ様と家元代理には共通点があるな、と感じただけです」

「ほう。それは気になるね、いったい私の何処が似ているって?」

「それはもちろん」

 

 と、言いかけたところで己は言葉を止める。

 ここで素直に話してしまうのは、何だか面白くない。今日は久しぶりにイイ不意打ちを貰いましたし、ここは一つささやかな反抗心として、

 

「お教えできませんわねえ」

「ほほう……、何故だろうね?」

「先ほどご自分で仰っていたではありませんか」

「――あっ。それって」

 

 いけませんわ、と聡い後輩のお口には指を添えてチャックを。そして考えるように首を傾げるOGには、一度頷きを作って、

 

「これを機に今までの行いを振り返ってくださいませ。まあ、既に答えは出ているものですから、悩むこともそうありませんでしょうけれど」

「テキビシイ」

「そんな顔をされても教えることは有りませんわ。オレンジペコも、答えはシー、ですからね!」

「承知しまし、た……?」

 

 なにゆえ疑問形なのか。だけど、

 

「ンー、どう考えても私が圧勝している気がするんだがねえ。まあいい、ダージリンからの課題は追々考えるとして、今はどうやってみつるにかましてやるかが肝心だ!」

「似てる似ていないの話で何故勝敗が、というツッコミは」

 

 気にしたら負けですわよオレンジペコ。適度に右から左へ流すことが秘訣なの。

 そうですかー、と軽い返事で済ませる後輩は既に慣れてきているのだろうか。やりますわね。その適応能力、さすが私の後輩だわ……!

 というか、

 

「アールグレイ様? 家元代理にかますとか本気で言ってますの?」

「勿論。――それじゃあ頼んだよ、ダージリン!」

 

 はあ? と疑問すればアールグレイは言う。彼女はこちらの肩を二度、三度と叩いて、

 

「ヘイ! これでキミも私の共犯者ァ――――!!」

 

 速攻を仕掛けたら余裕の表情で躱されて三メートルほど逃げられた。これだから油断ならない。人がせっかく見直していたのにこの仕打ちだ。

 

「ああもう、まったくもう、本当に……! アールグレイ様――ッ!!」

 

 

   ~~

 

 

「あっ、待ちなさい! 言うに事を欠いて共犯者とは何ですか! 共犯者とは……!!」

「ハハハハハ捕まえてごらん……!」

 

 と逃げるOG伯爵を追って敬愛する先輩がダッシュしたのを、オレンジペコは見送った。

 ……すごいなあ。

 逃げて、追いついて、捕まえようとして逆に攻められる。そんなことを繰り返しながら動き回る二人を眺めつつ、自分は思う。

 ……仲良しですねー。

 やっぱりダージリン様はアールグレイ様のことが大好きなんですね。と、そんな感想を声に出せばきっと否定が飛んで来る。なので思うだけにしておくが、

 

「コレ、もしかしなくても私が止めないといけないやつですか……」

 

 会場から離着陸スペースへの道は人通りが少くないとはいえ、撤収作業などを担当している連盟員の姿はちらほらとある。だから誰かしらというか、丁度良いタイミングで通りがかりましたそちらのよく審判員として見かけるお姉様方が止めに入ってくれるかなと期待しましたけど、あー、と彼女達は何やら納得してから、

 

「うん、久しぶりの聖グロ感だねっ!」

 

 と、そう笑顔に軽く会釈を付けて行ってしまったのでもうダメかもしれない。

 ……聖グロ感とは一体……。

 今日は初耳の言葉がたくさん登場して賑やかですね。なんて考えるのはポジティブが過ぎるだろうか。普段とは違う刺激がたくさんで目まぐるしいのは事実だし、現に今も伯爵様の隙を見つけては攻め込むダージリン様の姿勢にはただ驚くばかり。

 

「――いえ、そうはならないでしょう」

 

 一日でだいぶ感覚がマヒしていますね。フツー、総合格闘技の試合なみの攻防を目の前でやられたら止めに入るか止められる人を呼びますよ。

 ……あ、どの道ムリです。

 前者は非力系の自分には荷が重い。後者は、先ほどの連盟員の反応を見るに明らかだ。

 

「これが聖グロ感というものですか……」

 

 解らないけど解ったような気分。それだけじゃない気もする。まあ伯爵様のインパクトが強烈だということでしょう。

 しかし、ホントどうしましょうねこの状況。どうにかして間に入らないとですけど方法が思いつきません。いっそ手当たり次第に連盟員の方々にお願いしてみましょうかと視線を向けたら全員が全員顔を背けて作業に戻って行った。

 ……撤収作業の方が優先度高いですもんね!

 いつもお役目ご苦労様です。と、感謝の意を込めて会釈を返していると不意にポケットの端末が震えた。プライベートアカウントではなく、聖グロリアーナの生徒として発行されたアカウントへの着信だ。

 表示された発信者名は『OG同窓会』。それに加えて、点滅しているアイコンは口数が多いことで有名な派閥を示すもので、

 

「――うわぁ」

 

 なぜ自分に飛んで来るのか。それはまあ、予想に難くない。

 ……ダージリン様とアッサム様が着信に出ないからですよねー。

 前者は取っ組み合いに夢中になっているから当然として、アッサム様に関しては恐らく押し付けてきた作業に手一杯で気付いていないのかも。いえ、もしかしたら気付いていて対応が面倒だからと無視をしている可能性もありますけれど、

 

「ぶっちゃけ私も面倒なので出たくないんですけどねー……」

 

 とはいえ私に連絡が回ってくるというのは残当で、ここで無視をしたら後々に御小言が三割増しになるのは確実だ。だけど、せっかく伯爵様が帰ってきてダージリン様がテンションMAXにはしゃいでいるのだから、水を差すような真似はされたくない。

 

「仕方ありません。一丁、やったりますか!」

 

 きっと今は若輩が頑張る時間帯だ。幸いにも、手札はある。ダージリン様が受け取ったものを使わせてもらう形になるが、その効果は伯爵様のお墨付きなので心強い。

 えい、と静まる気配のない端末を叩いて着信に出る。

 

『――――ッ!』

 

 すると聞こえてくるのは複数人の声。どうやら向こうにはOGの皆様方が勢揃いしているらしい。〝優雅な戦車道〟を最優先に掲げる彼女達には今日の試合内容はちょっと刺激が強かった様子。その程度でうろたえていては私の同輩が乗り回すクルセイダーを見たら失神するのでは……。

 ……それはそれでアリな気がする。

 まさかの切り札登場に驚愕だ。まあそれはともかくとして、

 

「ハイ、オレンジペコです」

 

 応答する。

 出るのが遅いと、そんな言葉から始まって上役の二人がコールに反応しない理由を聞かれ、答えれば今の世代はとか私達の頃はなどという怒涛の御小言にシフトしていく。

 多分、今の私は傍から見るとかなり渋い顔をしているのだろう。作業に戻ったはずの連盟員の方々や、取っ組み合っていたはずの片割れが動きを止めてこちらを見ている。

 いや右手を回して「巻いて、巻いて!」じゃないんですよ伯爵様。ほら、そうやって意識を外すとダージリン様の貫き手が……、あっ、ちゃんと防いで回り込むんですね流石です。

 と、現実逃避ぎみに眺めてみましたがそろそろ耳が痛くなってきました。だからまあ、ちょいと面倒なので、事態を更に複雑化させそうな伯爵様の存在は悟られないように、

 

「申し訳ございません。ダージリン共々、この後は外せない来客がありまして。――ええ、かなり優先度高めな案件になります」

 

 勿論です。そちらへ出向くよりも、です。何せ、

 

「――浅間流の家元代理様とのお約束ですから、直前でのキャンセルなんてもっての外でしょう」

 

 言えば、端末の向こう側が一斉に静まった。

 先程までの騒々しさが嘘のように。チャリン、と鳴ったのはティースプーンでも落としたのか。カップが割れるような音は聞こえてこないので安心だが、

 

「それでは失礼します。食事の様子は後ほどクラブアカウントで投稿しますので、宜しければご確認をお願いしますねー」

『――――ッ!?』

 

 言った傍から向こうが爆発したのでさっさと通知オフから端末ミュート。そして、

 

「煽りよる……」

「次代の聖グロは強か……」

「ブラッドオレンジ……」

 

 何だかひどい言われようをされた気がします。

 だけど概ねやる事はやったのでミッションコンプリート。やりました、と視線を振れば伯爵様に関節技を極めるダージリン様と目が合った。

 端末を手にする自分と、周囲の様子をぐるりと見まわして場の空気感を察したらしい彼女は首を傾げ、

 

「あの、オレンジペコ? 何やら用向きの連絡があったようだけれど」

「あ、ハイ、OG同窓会の方々から呼び出しがありましたけど家元代理と食事の約束があるのでってお断りしました」

 

 数秒。それからなんとも味わい深い表情を向けられたのだが、別に嘘は伝えていないのでセーフです、セーフ!

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