那田蜘蛛山の一件が終わり、僕は自分の屋敷へと戻っていた。
僕の階級は甲に上がり、一番の気がかりであるあの少年は柱合会議によって話し合われるようだ。
あの少年達はどうなるのだろうか。
鬼を連れた隊士、これは前代未聞のことだろう。普通なら処罰されてもおかしくない。
しかし、あの2人からは何か‥‥何か違うものを感じる。
一体何故なのだろう‥‥。
そんな疑問を持ちながら、僕は任務終わりということもあり、休息を取ることにした。
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「優月様、しのぶ様がお呼びです」
庭で蝶と戯れていたところ、アオイに声をかけられた。
どうやら姉さんが僕を呼んでいるらしい。
「姉さんが?‥‥うん、わかった。ありがとうね、アオイ」ニコッ
「い、いえ、ご命令ですから‥‥//」
ご命令、何だよね‥‥?
ただそれだけなのにどうして顔が赤いんだろう‥‥。
もしかして風邪とか?そんなことになったら大変だ。
風邪の恐れもあると思った僕は体を動かす。
「ごめん、ちょっと良い?」
「えっ?どうしたのですーー」
僕はアオイのおでこに手を当てた。
「っ‥‥!?」
「う〜ん、熱はないね」
「い、いい、いきなりどうしたのですか!?」
「あ、ごめん。顔が赤かったから熱でもあるのかと思ったんだけど‥‥」
もしかして触られるの嫌だったのかな。
だとしたら申し訳ないことしたな‥‥。
「い、いえ!お気遣いありがとうございます!わ、私はあちらへ戻ります!」ピュ-
あ、行ってしまった。
あとでアオイに謝らないと‥‥。
そう考えていると背後から声が聞こえてくる。
「まったく‥‥優月は何故こういうところが抜けているのでしょうか」
その声には呆れたという含みが感じられた。
「姉さんか‥‥抜けているって何が?」
僕はその呆れに対して問いかけた。
「あのですね、優月。貴方はまだ15歳ですがもう少し色恋に興味を示したりはしないのですか?」
「色恋、か‥‥」
何故いきなり色恋の話をしてきたのはわからないが、確かに僕は色恋といったものに興味を示したことはない。
というか色恋と言われても僕にはあまり理解ができない。
好きという感情はある。姉さん達や蝶屋敷のみんなは大好きだ。
だけどその好きは恋愛としての好きじゃないと思う。だから、まだ恋愛としての好きという感情がよくわかっていない。
それが僕の色恋に興味を示さない理由だ。
そして、もう一つ理由がある。
これが問題なのだ。
別に僕が色恋にうつつを抜かしたくないわけではない。この問題があるから僕は色恋にうつつを抜かせないのだ。
前に一度、鬼に襲われそうになっていた女の人を助けた時、また性別を間違えられたのでしっかり男と訂正した時があった。
そうすると、何故か家に来ないですか?どこに住んでいるんですか?など、挙句のあてに、好みな女性は?なんて聞かれたりして大変だった。
そう困っていた時、その女の人は少し怪我をしているようだったので、取り敢えず蝶屋敷へと連れて行くことにした。
連れて行くときにも、夜だったからなのか、ずっと僕の腕を掴んできた。
しかもその時の顔が何故かにやけていた。
僕はその時はあまり気にせず鬼のことばかり考えていたけど。
そして屋敷に着き、手当てを行う。
その女性は何かそわそわしてたけど僕は気に留めず治療を続けた。
その時、いきなり姉さんが凄い圧を放ちながら治療をしていた部屋に入って来た。
その時の圧といったら、体が震え、鬼なんて一太刀で殺してしまうのではないかと思うほどだ。
そんな姉さんは、黒い笑顔を浮かべながら話した。
『私が変わりに手当てをしますよ。優月は早く部屋に戻ってください。』ゴゴゴ
その圧力に僕は負け、そそくさと退散した。
あの女の人はすごく怯えている‥‥。
『何でそんなに怒ってるの?』
と言いたかったが、あの姉さんには‥‥無理だ。
その後、無事女の人は帰ったようだ。
姉さんはその日はずっと怖いままだった‥。
こんな事が起きるのは、何もこの日だけではない。
何故か女の人と居ると、姉さんは豹変するのだ。
挙げ句の果てには治療すら僕はさせてもらえない。というか、その時の笑顔が怖すぎて眠れないほどだ‥‥。
姉さん自身は、今色恋に興味を示さないのかと言っているが、色恋どころか女性と話すことすらままならないのだ。
姉さんの所為で‥‥姉さんの所為でね!
と言ったところで、これが僕の色恋に興味を示さない理由だ。
そして僕は姉さんをジト目で見ながら言葉を返す。
「と言うか、姉さんはどうなの?姉さんだって色恋なんて興味なさそうじゃないか」
「あら、別に興味がないとは言っていませんよ。ただ好ましいと思う男性が余り居ないのは事実ですが」
確かに姉さんがあまり男性と喋っているところを見たことがない。
見たことがあると言ったら柱の人達だけだ。
ん?柱‥‥?柱と言ったら‥‥冨岡さんとはよく話しているじゃないか。
「冨岡さんはどうなの?よく話しているようだけど」
「はあ‥‥優月。あの冨岡さんの事を私が好いているとでも?あの超が付くほどのド天然さんなんてただの困らせやな人じゃないですか」
「た、確かにそうかもしれないけれど‥‥じゃあ、姉さんは冨岡さんの事嫌いなの?」
「‥‥嫌いと言うわけではありません。そして好きというわけでもありません」
「そうなんだ。僕はお似合いだと思うけど」
「な、何を言ってるんですか。あの冨岡さんが私と?そんなの‥ありえないですよ」ボソッ
そうかなあ?僕は2人が話しているのを見ると、姉さんの笑顔が一際多く目立つと思うのだけど。
対して冨岡さんは何を考えているのかわからないけど、実は結構優しい。
冨岡さんとなら姉さんも良いのかなと思っていたのだけど、どうやら違うみたいだ。
「まあ、良いよ。というか本題を忘れてない?」
まあ、大方予想はついているが。
多分あの少年のことだろう。
「ええ、そうですね。優月と話をしていると楽しくて時間を忘れてしまいました。さて、本題ですが‥‥優月はあの男の子と鬼の子については知っていますよね?」
やはりあの少年のことだ。
「うん、柱合会議で話し合ったんだよね?まあ、大方その結果ってところでしょ?」
「はい、当たりです。結果としては、あの2人はお館様の意思という事もあり、容認されることになりました」
「そうなんだ‥‥うん、特に不平不満も無いし‥‥分かったよ」
「そうですか、それは良かったです。それともう1つ、あの男の子は家で引き取ることになりました」
「‥‥へ?そ、そうなの?」
僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
まあ、怪我人はこの蝶屋敷で預かっているのだ。
あの子も怪我をしていたようだし、考えたら当然かもしれない。
「ええ、多分もう少しでくると思いますよ。それに、那田蜘蛛山での怪我人も多くいるのでね。頼みましたよ、優月」
「はあ‥‥分かった。頑張るよ」
「ありがとうございます。優月」ニコッ
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
僕は姉さんの偽物の笑顔を見ると何度も胸が締め付けられる様な感覚に襲われる。
この口調、笑顔、全てがカナエ姉さんの様に似せた偽善なもの。
やはり姉さんには前の様に元気に喋って欲しいと思う自分がいた。
そのせいか、思わず姉さんを呼んでしまった。
「‥‥‥姉さん。いや、しのぶ姉さん」
「‥‥何でしょうか」
姉さんは僕が姉さんを名前で呼んだ事に驚いたのか、先程より、真剣な目つきで僕の方を見た。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
僕は自分で姉さんを呼んだのに、言葉が出てこなかった。いや、言っていいのかと考えていたのだ。
『前の様に戻って欲しい。』
この一言を言うのに、僕は躊躇していた。
この一言で、昔の出来事を掘り返すことになる。言わば、カナエ姉さんが死んだことを思い出させることになるのだ。
きっと、姉さんは顔には出さない。また、取り繕った笑顔で僕に話す。
その分、心の中でどんな思いを持って葛藤しているのか、僕には測りきれないだろう。
姉さんが悲しい思いをする。そんなことはさせたくない。
だけど、姉さんには前の様に戻って欲しい。
この矛盾した考えを、僕は何度も思考してどうしようかと考えた。
そして、僕はこう言葉を出した。
「僕は‥‥姉さんの本当の笑顔が見たい」
「えっ‥‥‥‥」
"本当の笑顔"
姉さんの本当の笑顔はあれから一度も見ていない。
だから前の様に笑った顔が見たいという、ただ遠回しに言った事にしか過ぎないが、そう言葉にした。
姉さんはいきなり言葉にされた驚きなのか、貼り付けた笑顔がバレた事に対する驚きなのかはわからないが、明らかにいつもとは違う表情をしていた。
そんな口籠った姉さんは、重々しい様に口を開けた。
「‥‥貴方にはやっぱりバレていましたか。私が姉さんを演じようとして、貼り付けた笑顔で生活していたこと‥‥口調を似せるように喋っていたこと、全てがバレていた様ですね」
「当たり前だよ。だって僕達は姉弟だから」
「ふふっ‥‥そうですね」
姉さんの顔は心なしか少し昔の様に戻った感じがした。
だが、そう思ったのも束の間、姉さんは暗い表情へと変化した。
「優月。貴方は、姉さんの"夢"についてどう思いますか」
「姉さんの夢‥‥」
カナエ姉さんの夢は鬼と仲良くすることだ。
他者から見れば、そんな事は無理だと思う人が大半だろう。
僕だって最初は納得出来なかった。
だけどカナエ姉さんは、否定されようがその夢を諦めることはなかった。ずっとその夢を目指して進んでいた。
次第に、いつしか僕もその夢を応援しようと思った。叶えたいと思った。
だから僕はカナエ姉さんの夢を引き継ぎたい。そして、その志を忘れないように過ごしている。
だからこそーー
「僕はカナエ姉さんの夢を肯定する。そして、引き継いでいく。そう決めたんだ。
だから、カナエ姉さんの夢は実現させたいと思う」
「そうですか‥‥私もそれを尊重したく思います。‥‥しかし」
「私がそれを叶える事は出来なさそうです」
「えっ‥‥?それはどうして?」
「‥‥今は答えられません。ですが、その答えはきっと、優月自身の目で見てわかると思います」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「訳がわからない、という顔をしていますね。‥‥大丈夫です。そのうち分かりますから」
「‥‥分かった」
僕は若干腑に落ちない感情でいたが、姉さんの言葉に従うほかなかった。
姉さんが夢を叶えることができない理由とは何なのだろうか。
それは鬼とは仲良くできないという考えから?
それとも‥‥‥‥いや、そんなことはあり得ない。
僕は最悪の考えを即座に否定した。
だが、その謎は深まるばかりで、僕の思考は毒に侵される様にどんどん蝕まれるのであった。
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炭治郎視点
「体中が痛い‥‥」
「お前自分出歩けよな」
「すみません‥ほんともう体が痛くて痛くて」
「お爺さんかよ」テクテク
「あっ、人がいる‥‥」
「あれは‥2人いるな。えーと継子の方と、あれは‥‥っ!優月様だ!」
「え、えーと‥‥ツグコ?ツグコって何です‥‥か?」
「あの方は栗花落カナヲ様だ。それと隣にいるのが胡蝶様の弟の優月様だ」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「継子ってのは柱が育てる隊士だよ。相当才能がないと選ばれない。女の子なのにすげぇよなあ」
あっ、最終選別の時の子だ‥‥それとあの人は‥‥前に助けてくれた人だ。(この前踏んづけられたことに気づいていない様子)
「しのぶ様の申し付けにより参りました。お屋敷に上がってもよろしいですか?」ペコッ
「‥‥ん。ああ、はい。
ん?俺の事かな‥‥?
「中へどうぞ。多分アオイが案内してくれると思いますので」ニコッ
「は、はい!失礼します!」スタスタ
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」ジ--
「カナヲ?どうかしたの?」
「あっ、いえ。何でも‥‥ないです」
「そう?なら良いけど。それじゃあ僕も中に行ってくるよ」
「はい、分かりました」
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「五回!?五回飲むの?一日に!?」
「三ヶ月間飲み続けるのこの薬!?これ飲んだら飯食えないよ!!すげぇ苦いんだけど!辛いんだけど!ていうか薬飲むだけで俺の腕と足治るわけ!?ほんと!?」イヤアアァァアアア
「し、静かにしてください〜」アセアセ
廊下に響くぐらいの高音。耳がキーンと痛くなるぐらいだ。またあの人が騒いでるいるのか。
なるべく早く行ったほうがいいかもしれない。
「もっと説明して誰かあ!!一回でも飲み損ねたらどうなるの!?ねえ!」
「また騒いでるあの人‥‥」タッ
「善逸‥‥!!」
「静かになさってください!!」グワァ
「ヒヤァァァ!?」
「説明は何度もしましたでしょう!良い加減にしないと縛りますからね!」ガミガミ
「ううっ‥‥‥」シクシク
「まったくもう‥‥」テクテク
「善逸!!」
「ギャーーーッ!!」
「大丈夫か!?怪我したのか!?山に入って来てくれたんだな‥‥!!」
「た、炭治郎‥‥」
「う、うわぁぁ!炭治郎聞いてくれよーーっ!臭い蜘蛛に刺されるし、毒ですごい痛かったんだよーーっ!!さっきからあの女の子にガミガミ怒られるし最悪なーー」
フワッ
「「「えっ‥‥」」」
「静かにして頂けませんか?ここは病室なので」シ--
「ゆ、優月様!も、申し訳ありません!」
「大丈夫ですよアオイ。それと、
「は、はい。失礼します」スタスタ
「(いつここに来たんだこの人‥‥‥速すぎて見えなかった‥‥‥)」
さてと、あの人達も退席したようだし、話していいかな。
「さて、初めまして、では無いですね。まあ、自己紹介からいきましょうか。僕は胡蝶優月と申します。炭治郎君、よろしくお願いしますね」
「は、はい!あの時は助けていただきありがとうございました!」
「いえ、気にしないでください。それと善逸君?次騒いだら分かっていますよね?」
「はっ、はいっ‥‥」ビクッ
「‥‥ふふっ、話を戻しますね。この前、那田蜘蛛山の時には申し訳ありませんでした‥‥。貴方の妹さんに斬りかかろうとしてしまい‥‥」
「い、いえ!優月さんには助けて頂いたわけですし大丈夫です!」
‥‥優しい子だな。妹に斬りかかった僕をこんなにもあっさりと許してくれるなんて。
「ありがとうございます。貴方は優しいですね」ニコッ
「い、いえ。そんなことは‥‥//」
「(何良い雰囲気になってんだよおぉぉ!!)」
「‥‥話は変わりますが、貴方達の怪我がもう少し治ってきた所で機能回復訓練に入って頂きます」ニコッ
「‥‥機能回復訓練?」
「(何か始まるようだぞ‥‥)」
「はい、詳しい内容は当日に体験してもらいますので。先ずは体を治すことに専念して貰えると嬉しいです」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえ、善逸君も早く治せるよう薬を飲むの頑張ってくださいね」
「は、はい‥‥‥!///」
「それでは、僕は一旦‥‥」
「あ、待ってください!」
……ん。何か嫌な予感が‥‥
「どうかしましたか?」
僕は恐る恐る問いかける。
「あの、この前の技を見て‥‥"女性なのに"そこまで綺麗な太刀筋になるためには‥‥何が必要なのでしょうか。やはり相当な鍛錬を‥‥」
ピクッ
ああ、やはりか‥‥。
なんか想像できたんだよなあ。
悲しいなあ‥‥。
「炭治郎君‥‥」
「は、はい。(な、何だろう。何故か悲しい匂いがする)」
あのね、僕はねーー
「僕はね‥‥"女性ではないんですよ"‥‥」
「えっ‥‥」
「ええぇぇ!!??」
『ええええぇぇぇぇぇえええ!!??』
何度見慣れた光景なんだか‥‥。
僕はまた、勘違いされることに改めて悲しさを感じ、それと同時に驚かれる事に見慣れすぎて、無の感情になりかけそうなのであった‥‥‥。