胡蝶家の長男   作:@naru

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今回はほぼ原作通りのストーリーになっています。ご了承ください。
誤字脱字がありましたら、ご報告いただける嬉しいです!










四話 蝶との地獄の訓練

 

「さて!それでは機能回復訓練に入りましょう!」

 

 

姉さんの明るい声が部屋に響く。

炭治郎君達が来てから三日の月日が経った。

炭治郎君達の怪我はほぼ完治と言って良いほど治り、予定通り機能回復訓練に移れる状態になった。

 

 

「はい!よろしくお願いします!」キラキラ

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

炭治郎君は動けることがよほど嬉しいのか、目を輝かせてこちらを見ている。

一方、伊之助君は何も喋らず、ただ黙り込んでいる様子だ。

 

 

「それと、善逸君はまだ動いてはダメですよ?早くて明日、遅くて三日は掛かるので安静にしてくださいね」

 

 

「は、はい!分かりました!」

 

 

「それでは優月、後は頼みましたよ」

 

 

「うん、わかった。それじゃあ行こうか、付いてきてね二人とも」

 

 

僕は姉さんに頼まれた通りに動く。

さて、この二人はどれほどこの地獄の訓練に耐えられるか‥ぶっ倒れないだろうか‥‥。

僕はそう心配し、同時に可哀想だという感情を2人に向けた。

 

 

「(ワクワク)」キラキラ

 

 

「‥‥‥‥」

 

 

しかし、当の本人達には僕の感情が届いていないようだ‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました‥‥」ドヨ--ン

 

 

「ざした‥‥‥‥‥‥‥」ズ--ン

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

一日目の訓練が終了した。

‥‥こうなると僕も予想できていたのだが、二人の気の落とし様は大きな物だった。

最初のキラキラした目はどこに行ったのやら、炭治郎君はげっそりし、伊之助君も同様に気を落としている様子だ。

 

 

まあ、こうなるのも無理もない。

ほぼ一方的にボコボコにされていたようなものだった‥‥。

最初の方なんて特に酷かったのだから。

それは訓練を開始してから数分のことだーー

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ訓練の内容について説明しますね」

 

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

「よ゛ろじぐ‥‥」

 

 

 

「ふふっ、良い返事ですね。‥‥さて、先ずはあちらの三人に身体をほぐしてもらいます」

 

 

「私達に!」

「お任せ!」

「ください!」

 

 

準備しているきよちゃん達が元気に返事をしてくれた。

あの三人の身体ほぐしは凄く痛いので注意するんだよ。とは言わないけどね。どっちにしろこの後体験するのだし。

 

 

「そして、身体をほぐしてもらったら、次は全身訓練で鬼ごっこをしてもらいます。鬼は君達で僕とそこにいるカナヲが逃げる役になるので、時間内で僕たちに指一本でも触れることができたら君達の勝ち。触れることができなかったら僕達の勝ちとなります」

 

 

「はい!分かりました!」

 

 

「鬼ごっこが終わったら次は‥‥あれです。あの湯呑みが見えるでしょうか?

反射訓練として中に入っている薬湯をかけ合います。湯呑みを持ち上げる前に相手から湯呑みを抑えられた場合は湯呑みを動かせないから注意してください。さて、これで説明は終わりです。後は実際にやってみて慣れていってくださいね」

 

 

「はい!よしっ、それじゃあ早速‥‥」

 

 

炭治郎君は早速きよちゃん達の方へ行き、体ほぐしを受けるようだ。伊之助君も同様だ。

やる気があるのは良い事だ。だが、やる気だけではどうにも出来ないこともある。それを今、炭治郎君は実感するだろう‥‥。

 

 

 

「ぐあっ‥!い、いだだだだだだ!!」

 

 

「こ、これ、物凄く痛いですっ‥‥!」

 

 

案の定炭治郎君は唸り声を上げた。

まあ、それはそうだよね。寝たきりだった体をほぐすわけなのだから相当の激痛が走るだろう。

 

 

それにしても、人の唸り声を聞いて良い気分になるわけがない‥‥。

少々可哀想だが、これも訓練だ。

炭治郎君達には頑張ってもらおう。

そう心にし、僕は両手で耳を塞いだ。

 

 

 

 

 

 

「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」ドヨ-ン

 

 

二人にとって地獄の体ほぐしが終わり、二人は既に気が落ちている様子だ。

本当はこれからが本番なんだけどね。

僕はそう心で呟き、次の訓練へと移る。

 

 

「さて、それじゃあ次は鬼ごっこですね。最初はカナヲに逃げてもらうから‥‥鬼の順番はどちらが先でも構わないですよ」

 

 

「わ、分かりました‥‥。それじゃあ先ずは俺がやるよ」

 

 

最初の鬼は炭治郎君の様だ。

ふむ、カナヲ相手に何処まで行けるか‥‥。

 

 

「それでは、始め!」パン

 

 

バッ!

 

 

炭治郎君は勢い良くカナヲの方に目掛けて走り出した。

反応速度はそこそこと言った感じだろうか。

しかし、速さが圧倒的に遅い。

まだ病み上がりということもあるだろうが、これではカナヲを捕まえることは無理だろう。

 

 

「っ‥‥‥!」ダッ

 

 

「‥‥‥‥‥‥」スッ

 

 

何とか手を伸ばして捕まえようとはしている。それでもカナヲには全然届かない。

カナヲのスピードに追いつけていない様子だ。

まあ、最初はこんなものだろう。

僕はそう思い、終わりの合図を出す。

 

 

「はい、ここまで。二人ともお疲れ様です」

 

 

「は、はいぃ。あ、ありがとうございました」ハアハア

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」ペコッ

 

 

「次はお゛れだ!」

 

 

炭治郎君の番が終了し、次は伊之助君だ。

意気込みはバッチリそうだが、果たして結果ばどうなることやら。まあ、ほぼ予想はできているのだが。

 

 

 

 

 

「く、く゛ぞぉぉぉぉ」

 

 

結果は勿論カナヲの勝ち。伊之助君も同様にカナヲのスピードに追いつけていない様子だ。

まあ、全身訓練はここらで良いだろう。

次は反射訓練だ。

 

 

「はい、それじゃあ次は反射訓練です。相手はどうしようか‥‥カナヲ、もう一度いける?」

 

 

「はい、大丈夫です」

 

 

「うん、それじゃあカナヲに次も相手をしてもらいます。二人とも準備はいいですか?」

 

 

「は、はい!お願いします!」スッ

 

 

炭治郎君とカナヲが向かい合いながら座り、準備は完了したようだ。

先程の鬼ごっこでは反射神経は良かった方だが、この勝負ではどうなるだろうか。

一瞬で終わるようならばこの二人はまだまだということになる。

僕はそう考えながら、始めの合図を出す。

 

 

「始めっ!」パン

 

 

スッ

 

バシャ!

 

 

「うわっ!」

 

 

は、速いっ‥‥。

勝負の結果は一瞬だった。炭治郎君が取ろうとした湯呑みを即座にカナヲが抑え、もう一方の手で湯呑みを取り、即座に薬湯をかけた。

その秒数僅か1秒と言ったところか‥‥。

まさかこんな一瞬で終わるとは思っていなかった。炭治郎君もあまりの速さに何が何だかわかっていないようだった。

 

 

「次はお゛れ!」

 

 

さて、次は伊之助君の様だ。

結果は一体どうなるだろうか‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャッ!

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」ビショォ

 

 

結果はカナヲの圧勝だった。

やはり伊之助君も速さが足りない。

すぐ湯呑みを撮ろうと手を動かすが、カナヲの方が一枚上手だ。即座に塞がれる。

‥‥カナヲに対してこの負けようなら僕とやる必要はないかもしれない。

 

 

「もっがいだ!お゛れはまだみどめねぇ!そこの奴!あいてじろ!」

 

 

伊之助君に指名されてしまった。

やる必要はないと思っていたのだが、本人はやる気があるようだ。やるしかないだろう。

 

 

「それは構いませんが、手加減はしないですからね」

 

 

これは勝負だ。やる時に手加減は無用。本気でやらねば相手に失礼だろう。

 

 

「あ゛っだりめぇだ!」

 

 

それに伊之助君は手加減なんてしてほしくないだろうしね。

 

 

僕は湯飲みの前に座り、伊之助君と対面した状態になる。

 

 

「それじゃあカナヲ、合図を頼むよ」

 

 

「はい、分かりました‥‥‥始め」

 

 

開始の合図が出る。伊之助君は先程同様に真っ先に湯呑みを取ろうと手を伸ばす。

でも、そのスピードじゃ遅い。

 

 

 

僕は瞬時に伊之助君が掴もうとする湯呑みを抑える。

 

 

「っ‥‥‥!」ゴクッ

 

 

あまりの早さに驚いたのか、伊之助君は思わず息を飲んだ。湯呑みから手をすぐ離さない。

僕はその隙を見逃さず、もう一方の手で湯呑みを取り、伊之助君目掛けて薬湯をかけた。

 

 

バシャッ!

 

 

勢いよく水のかかる音が耳に入る。

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」ビショ

 

 

伊之助君は全身ビショビショの状態になった。

実践してさらに分かったが、やはりスピード

が遅い。それと、集中力が足りないのも一つだ。

この点を踏まえて考えて見ると、この二人は"全集中・常中"を習得していないように見える。

 

 

全集中・常中と言うのは、全集中の呼吸を四六時中やり続けるものだ。これにより、基礎体力が飛躍的に向上する。

これはまあ‥‥基本の技なのだが、会得するには相当な努力が必要になる。

 

それに、"全集中・常中"を会得しているかしていないかでは、戦いの場で天と地ほどの差が出る。

この事を炭治郎君達に伝えても問題ないと思うのだが、それよりもまずは体を動かす感覚を取り戻すのが先決だ。

その後に常中の事は伝えておけば良いだろう。

 

 

「それじゃあ、次は‥‥炭治郎君ですね?一緒に頑張りましょう?」

 

 

二人にとっての地獄の訓練が始まった。

果たして二人はこの訓練を乗り越えることができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました‥‥」ドヨ--ン

 

 

「ざした‥‥‥‥‥‥‥」ズ--ン

 

 

そして最初に戻る。

あの後、カナヲと十回ほど繰り返しやったのだが二人は(ことごと)く連敗を重ね、全身びしょ濡れで訓練が終わった。

これが二人が気を落としている理由だ。

 

 

まだこれも一日目だ。

これから二人がどれほど努力出来るか、これにかかっている。

強くなりたいのなら、努力を重ねなければいけないのだからーー。

 

 

 

 

 

 

 

○三日後

 

 

どうも、我妻善逸です。誰に挨拶をしているのかわからないけど、俺、今すごい手足が短いの。

 

蜘蛛になりかけたからね。

薬をたくさん飲んで、お日様の光たくさん浴びて治療中。

 

後遺症は残らないって。

完全に蜘蛛にされちゃった人達は人間に戻れても後遺症が残るかもしれないみたい。

悲しい‥‥。

 

 

そういや、しのぶさんと優月さんって言う人達の音は独特なんだよな。

今まで一度も聞いたことのない音だ。

規則性がなくてちょっと怖い。

 

 

でも、あの二人めちゃくちゃ可愛いんだよ。

しのぶさんは女神のようだし、優月さんは男だけど女として顔だけで飯食っていけそう。

もう優月さんが男って忘れそうだ。

 

 

そんな可愛い二人に、体力を元に戻すための"機能回復訓練"へと連れて行かれた炭治郎達が‥‥

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」ゲッソリ

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」フラフラ

 

 

こんな感じで帰ってくるんだけど‥‥。

 

 

「なあ炭治郎。何があったの?どうしたの‥‥?ねえ」

 

 

「‥‥‥ごめん」ズ--ン

 

 

教えてくれよぉ!!明日から俺も少し遅れて訓練に参加するんだからさぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

〈次の日〉

 

 

機能回復訓練三日目。三日経った今でも炭治郎君達の成長は見られないが、体を動かす感覚は戻ってきているようだ。

今日は善逸君も参加する。一番状態が酷かった善逸君だが、体は動かせるようになったようだ。

僕は怪我が治った事に安堵感を覚える。だが、これからは善逸君もこの"地獄の訓練"を受けなければならない。

可哀想にと心で呟くが、当然、善逸君に僕の言葉は届かない。

 

 

 

「さて、今日から善逸君も参加ですね。善逸君は初めてですし、大まかに内容を説明致します。まず最初にきよちゃん達に体をほぐしてもらってください」

 

 

「「「お任せください!」」」

 

 

「次に全身訓練として鬼ごっこをしてもらいます。鬼は善逸君達で、逃げるのが僕とカナヲ。制限時間内に僕達に指一本でも触れることができたら君達の勝ち。逆に触れることができなかったら君らの負け。ここまで大丈夫ですか?」

 

 

「‥‥‥‥はい」ワナワナ

 

「‥‥‥‥‥‥」ガックリ

 

「‥‥‥‥‥‥」ズ--ン

 

 

「そして最後に反射訓練。あの湯呑みに入った薬湯を相手にかけ合います。詳しいルールはやっているところを見て理解して貰えるでしょうか?」

 

 

「わかりました‥‥」

 

 

「それでは‥‥何か質問などはありますか?」

 

 

「‥‥いえ、特に」

 

 

「そうですか。では始めましょーー」

 

 

「あの、すいません‥‥少し良いですか」

 

 

訓練を始めようと思っていたら、突然善逸君が発言する。

 

 

「どうしたのですか?何か問題でも‥‥」

 

 

「いえ、そういうことではないんですけど‥‥おいお前らちょっと来い」

 

 

そう言い、善逸君は炭治郎達二人を連れて外に行ってしまった。

 

 

一体どうしたのだろうかと思い、僕は心配していた。だが、その心配はある声により、違うものに変わるのであった。

 

 

 

「お前が謝れ!!お前らが詫びれ!!!天国にいたのに地獄にいたような顔してんじゃねぇえええ!!女の子と毎日キャッキャッキャッキャッしてただけのくせに何をやつれた顔をして見せたんだよ!土下座して謝れよ!切腹しろ!!」

 

 

 

 

な、何なんだこの耳にキーンと響くような高音は‥‥しかも中に全部筒抜け‥‥。

 

 

 

「なんてこと言うんだ!!」

 

 

「黙れこの堅物デコ真面目が!!黙って聞け!いいか!?」

 

 

「優月さんと女の子に触れるんだぞ!!体揉んでもらえて!湯飲みで遊んでる時は手を!!鬼ごっこの時は体触れるだろうがアア!!優月さんには無いけど女の子一人につきおっ○い二つ!お尻二つ!太もも二つついてんだよ!!すれ違えば良い匂いがするし見てるだけでも楽しいじゃろがい!!」

 

 

「ああ幸せ!!うわああ幸せ!!」

 

 

 

馬鹿でかい声の所為で部屋に筒抜けな善逸君の言葉を聞き、僕は『う、うわあ』という言葉が真っ先に出た。

何言ってるんだか善逸君は‥‥ただの変人なのか‥‥これは一層目を厳しくしないといけないな。

僕は善逸君に少し嫌悪感を抱いたが、それに伴い、善逸君には"地獄の訓練"という事を身を以て知ってもらわなければと、気を引き締めた。

 

 

 

 

 

その後、善逸君達は部屋に戻って来た。

何故か炭治郎君以外の二人は士気が上がっている。

まあ、気合いがあるのは良い事だけど。

その邪な気持ちで訓練に挑むのはいただけないな。

 

 

 

そうして、僕達は訓練に入る。

いつもの柔軟から始まり、炭治郎君と伊之助君は最初の頃の様に絶叫する事はなくなったが、まだ唸り声を上げている。

そんな中、善逸君は‥‥

 

 

「うふふ、あははは」キラキラ

 

 

結構な痛みを伴う柔軟を受けても終始笑顔だった。

‥‥只者じゃない。

 

 

 

そして次に全身訓練として鬼ごっこだ。

ここはカナヲに任せようかな。僕は次の反射訓練でやるとしよう。

 

 

「カナヲ、次良いかな?」

 

 

「分かりました」

 

 

「ああ、それとね、あの黄色い髪をした人には絶対捕まらないで欲しいんだ」

 

 

「‥‥?分かりました」

 

 

カナヲは首を傾げ何故と思ったのだろうが、詳しくは聞かずに行ってしまった。

 

 

ちっとも興味を示さないカナヲに少し悲しくなるけど、まあ、それがカナヲらしいもんね。僕はあまり気に留めずカナヲを見送る。

 

 

さて、鬼の方は‥‥善逸君か。

なんかもう考えてることが見え見えだ。

妙にキラキラした顔で構えているし。

でもカナヲには捕まらないようにと注意もしたし、まず捕まることはないだろう。

 

 

 

そうこう考えているうちに終了の時間を迎えた。

 

 

「はあ‥‥はあ‥‥」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」ペコッ

 

 

予想通りカナヲの勝ちのようだ。

これで少しくらい善逸君も気を落としたり‥‥

 

 

「‥‥‥‥‥」キラキラ

 

 

していなかった‥‥。

何なのだろうかその精神。

姉さんにビクビク怯えている時の善逸君とは全くと言って良いほど違うのだが‥‥。

 

 

ま、まあ、良いや。次の反射訓練ではその表情は変わるだろう。流石にね‥‥。

 

 

 

「さて、次は反射訓練です。今日は僕が相手を致します。誰が最初にやりますか?」

 

 

「はい!!俺がやります!」

 

 

おっと、最初から善逸君か。

別に構わないけどね。

 

 

「ふふ、元気があって良いですね。それでは始めましょうか」スタッ

 

 

「‥‥‥‥‥‥」フッ

 

 

なんか今一瞬善逸君がこっちを見てかっこつけたのだけど‥‥。

‥‥今回だけちょっと試合を長引かせよう。

決して手加減はしないからね。本当だからね。

 

 

「それじゃあ、カナヲ。頼むね」

 

 

僕はカナヲに合図を頼み、湯飲みを目の前にする。

 

 

「始め」

 

短い言葉の合図で訓練が始まる。

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」ジッ

 

 

おっと、善逸君はあの二人みたいに最初から攻めて来ないようだ。

こちらの様子を見て動くようにしているのだろう。少しあの二人とは違うものを持っているように思うが、果たして僕のスピードについてこれるのだろうか。

そう思い、僕は自分から攻撃に出ようと湯飲みに手を伸ばす。

 

 

しかし、湯飲みが動かせない。それもそうだ。善逸君が湯飲みを抑えたのだから。

 

 

少しスピードを緩てみたのだが、流石にこのくらいのスピードには対応出来たみたいだ。

善逸君は湯飲みを抑えたことが自信になったのか、

 

「‥‥‥‥」ドヤァ

 

凄く自慢げな顔で僕の顔を見た。

その顔を見てイラッと来たのは内緒だ。

 

 

すると、善逸君が攻勢に出るためにもう一方の手で湯飲みを掴もうとする。

僕はそれに瞬時に対応し、同じくもう一方の手で押さえる。

善逸君は防がれたことに驚いたのか、口を開けている。

 

 

そろそろ頃合いかな。

僕はそう思い、勝負を終わらせる為にさっきよりもスピードを上げて湯飲みを掴む。

 

 

ヒュン、と音がなり、結構な速さで動いているのが自分でも実感できた。

そして、湯飲みを掴んだ感覚が手に伝わる。

僕は思い切り善逸君目掛けて薬湯をかけた。

 

 

バシャッ!

 

「え‥‥‥?」ビショビショ

 

 

一瞬にして善逸君は全身びしょびしょになった。当の本人は僕の速さに驚いたのか、いまだに自分が負けたことを理解できていない様子だ。

まあ何はともあれ、勝負はついたのだ。僕は立ち上がり、礼をする。

 

 

「ありがとうございました」ニコッ

 

 

「あっ‥‥えっと‥‥っ」

 

 

 

さて、善逸君はこれで気づいただろうか。

これは邪な気持ちを持って挑めるほどの楽しい訓練ではない。

そう、これは"地獄の訓練"なのだから。

 

 

そう心で言いながら、僕は善逸君の方を見て微笑んだ。

 

 

「ふふっ、これから頑張りましょう。この"訓練"を、ね」

 

 

その微笑みを善逸君はどう感じ取ったのか、それは、善逸君自身しかわからないーー。

 

 

 

 

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