胡蝶家の長男   作:@naru

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今回はシリアス。
題名の様に煉獄さんについてのお話。
煉獄さんかっこいいけど、悲しいよね‥‥。





七話 霞に消える炎

「いつ見ても此処は富士の花が綺麗だな‥‥」

 

 炭治郎君達が屋敷を出てから数日。僕はお館様の居る産屋敷邸に来ていた。

 

 それには理由が一つ。冨岡さんに薬を届ける為だ。

 冨岡さんはいつも姉さんが作る傷の治癒効果がある薬を服用している。

 柱であるが故、強い鬼と会う事も珍しくない。鬼と戦闘をした後、その度に冨岡さんは傷を負いながら蝶屋敷に訪れてくる。

 極め付けには、

 

『胡蝶、いつものをくれ』

 

そう言って薬をせがむ。

 常連さんか!と、言いたくなるが、もう常連さんなので何も言うことはない。

 

「胡蝶、いつものあるか」

 

そうそう、こんな感じでーー。

 

「っ!?冨岡さん!?」

 

いきなり背後に現れた冨岡さんに驚き、僕は思いっきり後ろに後退る。

 

「‥‥なんで後ろに下がる」

 

「い、いやいや。普通は驚くでしょう?いきなり後ろに現れたら」

 

 平然とした冨岡さんに少し怒りたくなる気持ちを抑えながら会話する。

 というか、本当いつの間に居たのか‥‥。

これで普通に近づいてきたとか言ったら‥‥ね。

 

「俺は普通に近づいて来ただけだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 まるで僕の心を読んでいたかの様に冨岡さんは言葉を発した。相変わらず何というか‥‥冨岡さんらしいな。慣れすぎて嫌悪感すら感じない。

 そう思った僕は、一旦この話を打ち切り、本題である薬を渡す。

 

「まあ、もう良いですよ。はい、いつもの薬です」

 

「ああ」

 

 あまりにも短い返答に少し癪だが、無事に薬は冨岡さんの元へ届いた。

 これにより、姉さんのお願いは達成。今日は任務も無い為、特にする事はない。

 

「‥‥そろそろ俺は行く」

 

「え?ああ、もしかして任務ですか?」

 

「‥‥ああ、町の周辺の聞き込みだ」

 

「そうですか。朝とはいえ、お気をつけて」

 

「‥‥ああ」

 

 そう言い、冨岡さんは屋敷の出口へと向かう。僕はその後ろ姿が消えるまで見送る。

 今更だが、今日、珍しく冨岡さんは屋敷に居た。いつもは探すのにとても苦労しているのだが。

 まあ、ただ珍しいっていうだけなのだけど。

 

 

「むっ、胡蝶少年!屋敷に来てどうしたのだ」

 

 いきなり後ろから聞こえる元気な声。

 後ろを振り向くと、そこには特徴的な炎を思わせる髪色と双眸を見開いた人物が一人。

 その人物の正体は、柱の一角、炎柱の煉獄さんだった。

 

「あ、煉獄さん。いえ、冨岡さんに薬を届けに来まして」

 

「そうか。いつも胡蝶の薬には俺も世話になっている」

 

「あ、あはは。ありがとうございます」

 

 煉獄さんは何というか、明朗快活な人だ。

 実は、柱の中で二番目に接点がある人だったりする。勿論一番は冨岡さんだ。

 冨岡さんと対照的な煉獄さんは、明るく活発で、鬼殺隊の中でも信頼が高い。

 そんな煉獄さんを僕も強く信頼している。

 

「‥‥煉獄さんは、もしかしてこれから任務ですか?」

 

 煉獄さんをよく見ると、キチッとした隊服に羽織、腰には刀を差していたため、そう問いかけた。

 

「うむ。実は鬼の新しい情報が出たのでな。向かわせた隊士がやられたらしい。一般大衆にも被害が出ている。放ってはおけまい」

 

「十二鬼月でしょうか‥‥‥どちらにせよ、気をつけてくださいね」

 

「ああ、心得ている。では、俺は行く」

 

「はい、厳しい任務かもしれませんが、頑張って下さい」

 

 煉獄さんの背中を見送り、僕は呟く。

 

「本当に、お気をつけて‥‥」

 

だが、向かうのはあの煉獄さんだ。心配などいらないだろう。

 

 

 でも、何故だろうか。妙な胸騒ぎがする。

自分の心臓が誰かに掴まれている様な感覚。

 この感覚は初めてじゃない。一度経験した事がある。

 

大切な人が亡くなる時のーー嫌な悪感情。

 

 僕の心には重い不安要素が取り巻いた。その不安は落ちない泥の様にへばりつく。

 

まさか、また大切な人が居なくなる‥‥?

 

 その考えを僕は瞬時に否定した。そんな事、あってはならない。

 カナエ姉さんを亡くしてから、僕は誓った。

みんなが平和に暮らす。この夢を目指して。

 

 その為に、僕は鬼殺隊に入った。今度は誰も失いたくない。いや、僕が失わせない。

 そう、決めたのだから。

 

 

 

だが、僕は忘れていた。

鬼殺隊に所属していること。

それは、常に身に危険が襲いかかって来る。

例え守りたくても、それが叶わないことだってある。

それ故に、後悔し、自分の力の無さを実感する。

 

 

いつもそうだ。

僕は大事なところを見落とす。

だから、僕は大切な人を亡くすのだーー。

 

 

 

 

 薬を届け数日。僕は暇を持て余していた。屋敷の縁側に座り、ただ庭の花々達を見つめいてる。

 蝶の羽、一枚一枚が揺らめくいつもの何気ない空間。

 指に止まる一匹の蝶を見て微笑む。そう、いつもと何も変わらない日常の筈だった。

だが、それは急激に変化することを今の僕は知らないーー。

 

 

「カァー!カァー!」

 

 そんな所に、突如聞こえる甲高い鴉の声。

空を見ると、慌ただしく飛ぶ鴉の様子が目に映る。それは僕の鎹鴉だった。

 僕の鎹鴉は、いつも比較的に温厚で、口調も優しげのある鴉だ。それなのに、この慌てよう。

 その光景を目にし、僕は不穏な空気を感じ取る。

 

「そんなに慌ててどうしーー」

 

「カァー!死亡!煉獄杏寿郎死亡!上弦ノ参ト格闘ノ末、死亡ーーッ!」

 

「っーーー」

 

 僕の言葉を遮って発せられた訃報は僕に衝撃を与えた。

 また、信頼していた人が亡くなった。あの苦しみをもう味わいたくないのに。

 また‥‥‥‥僕の周りから人がいなくなった。

 受け入れ難い現実。だが、これは紛れもない現実。それを理解させる時間は遅くなかった。

 

『胡蝶少年!』

 

 聞こえないはずの声が耳の中で反響する。走馬灯の様に蘇るこの記憶が、さらに僕の心を締め付けた。

 

「煉獄、さん‥‥‥」

 

 

数日前に会った筈の煉獄さんはもうこの世には居ない。

 

 

煉獄さんは、霞の様に消えてしまったのだからーー。

 

 


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