これからも執筆を続けますので何卒よろしくお願いします‥‥。
煉獄さんの訃報から約四ヶ月の月日が経過した。
蝶屋敷には上弦との戦いで重傷を負った炭治郎君達が訪れ、治療された。そして安静状態からも解放。
三人は既に任務を受けれる状態まで回復し、炭治郎君達は屋敷で鍛錬に取り組んでいる。
きよちゃん達を背中に乗せ、声を出しながら腕立てを行う三人組。
その表情には、何処か落ち込み様が見て取れた。
それもその筈、炭治郎君達は煉獄さんと一緒の任務についてたらしい。
そこで、上弦との戦闘。つまり、煉獄さんの死を目の前にしたのだ。
きっと、己の非力さを恨んだ事だろう。
大切な人が目の前で亡くなる辛さは嫌と言うほど分かる。
更に鬼への憎悪が増え、力をつけようと努力した日々。
それが、僕の歩んで来た道なのだから。
「兄さん。師範が呼んでます」
突如、後ろから発せられた言葉に振り返る。その声の主はカナヲだった。
「ああ、カナヲ。‥‥姉さんがか。‥‥うん、分かった。今行くよ」
今日は特に任務は無く、僕は待機命令。故に、姉さんが僕を呼ぶ事に少し嫌な予感を覚える。
悪い用事では無い事を祈りながら、姉さんの自室へ足を運ぼうとしたその時。
「あ、あの‥‥」
カナヲから裾を掴まれ、僕は歩みを止める。
その裾を掴むカナヲは何処かもじもじとしながら俯いていた。
「どうかしたの? カナヲ」
「え、えっと‥‥私、これから任務で。そ、その‥‥」
ぽつぽつと呟きながら言葉を繋ぐカナヲ。
少し顔を赤らめ、中々言葉を発さない事に少し困ってしまう。
そんなカナヲに視線を送り続ける中、よく見るとカナヲの手が震えている事に気が付いた。
一度寒いのだろうかと考えたが、そんな馬鹿な考えは打ち消し、先程のカナヲの言葉を思い出す。
カナヲはこれから任務に行くと言っていた。
もしかしたら、不安なのだろうか。
煉獄さんの訃報を耳にした時、カナヲがどう思ったのかは正直分からない。
だが、親しい人が亡くなった事で不安に思ったのだろう。
カナヲも一度大切な人が亡くなる悲しみを知っている筈だ。
それ故、不安になっても何ら可笑しくない。
僕は未だ俯き続けるカナヲの頭へ手を伸ばす。
笑顔で、カナヲを少しでも安心させられるように。
「大丈夫だよ。カナヲ。カナヲは強い子だからね。例え不安になっても、僕や姉さん、皆が居る。カナヲには仲間が沢山いるんだから、何も不安になる事なんて無いよ」
なるべく優しく、カナヲの不安を取り除けるよう僕はカナヲの頭を撫でた。
「ぁ‥‥‥は、はい。ありがとう‥‥ございます」
「うん、頑張ってね」
カナヲは小さく返事を返し、出口へと足を進める。
気の所為か、そのカナヲの表情は先程よりも柔らかくなったように見えた。
僕はその姿に安堵しながら、姉さんが呼ぶ自室へと改めて歩みを進めた。
○
「来ましたね、優月」
「一体何の用事かな。姉さん」
僕の言葉を聞き、少し微笑む姉さん。
その微笑みからは、予感が的中したように何処からと嫌悪感を匂わせた。
「実は、宇髄さんからお願いされまして。女性の隊員を貸して欲しいと」
「女性の隊員? それはまたどうして?」
「次の任務に必要らしいみたいなんですよ。目的はよくわかりませんが、そう言われました」
宇髄さんと言うと、姉さんと同じ柱に位置する人物だ。まあ、接点が無い訳では無い。
ウチの屋敷が怪我人を治療する場所故、どうやっても接する機会はある。何が言いたいかというと、宇髄さんは少し苦手なのだ。
それに関して理由は多々あるが、取り敢えずその目的が分からないというのは怖い。
まず、姉さんの性格からして、そんな事に隊員を貸すなんて事は無いと思うのだけど。
「勿論私は拒否しましたよ。屋敷の隊員は貸し借り出来る物では無いですから」
僕の思っていた通りの答えを出す姉さん。
「そうだよね。‥‥でも、この話と僕に何の関係が?」
「ふふっ、よくぞ聞いてくれました」
更に深い笑みを浮かべ、姉さんは僕に視線を送る。
待ってましたと言わんばかりな言葉の含みに、思わず息を飲んだ。
「実は、この件に関して優月を貸す事になったんですよ」
「‥‥え?」
先程の笑みとは変わり、にこにこしながら言葉を発する姉さんの姿。
その表情は一切の悪びれも無く、口角の上がった明るい笑顔だった。
というか、今、なんて言いました?
「い、いやいや、何で僕なの? 宇髄さんは女性の隊員を探してるんでしょ?」
「ええ、それに関して宇髄さんに言ったんですよ。女性ではなく、"女性のような人"ならばどうかと」
「‥‥へ?」
訳の分からない言葉に、思わず素っ頓狂な言葉を出してしまった。
女性ではなく、女性のような人? 正直、理解出来ない。
いや、理解したく無い。
「‥‥それは、僕が女性みたいだからって言うこと?」
僕の言葉を聞き、ニヤリと姉さんは笑う。
「そういう事です」
キッパリと言い切った一言。
僕はその言葉を聞いて、溜息を隠せなかった。
「おやおや、優月は嫌なんですか?」
今度はニヤニヤとした表情に変わり、先程から変化し続ける姉さんの表情に憤慨を覚える。
勿論、その質問に回答するならば。
「当たり前でしょ‥‥嫌に決まってるじゃ無いか‥‥」
僕は拒否したい気持ちでいっぱいだった。
その理由としては、まず宇髄さんが苦手という点。
傲岸不遜というか、癖のある性格に少し苦手意識がある。
故に、二人で任務となると息が詰まってしまうのだ。
二つ目は、言わずもがな僕が選抜された事。
女性の様な人とは何なんだ。腑に落ちない理由に納得しかねる。
というか、宇髄さんはそれで良いのだろうか。
女性の隊員を貸して欲しいと言っているのに、僕なんかで代用出来るのかが分からない。
「‥‥宇髄さんはそれで承諾したの?」
「ええ、しっかり承諾してくれましたよ」
宇髄さんめ‥‥何で承諾してしまうんだ‥‥。
僕は女性じゃないのですがね!
「‥‥ですが、流石に私の弟と言えども理由を聞かずに貸すわけにもいかないので、宇髄さんに理由をお聞きしたのです。何故女性の隊員が必要なのかと」
流石がというか、姉さんもそれなりに僕の事を気にかけてくれているみたいだ。
確かに、その理由は僕も気になる。
「そうしたら‥‥‥遊郭に、鬼が居るかもしれないとの事で」
「っ————それは、一体‥‥」
「宇髄さんには三人の奥さんが居るんです。その人達は鬼の情報を探る為、遊郭に潜入していたそうで、最近連絡が途絶えたらしいのです」
「つまり、そこに鬼が居るのはほぼ確定って事だよね‥‥」
「そうですね。男性隊員となると中まで探る事も出来ないでしょうし、その為に女性隊員が必要だったんでしょう」
「なるほどね‥‥」
道理で女性隊員が必要だったのか。理由は把握する事ができた。
ただ、宇髄さんの奥さんが連絡不詳になったという事は安否はどうなったのだろう。
‥‥だからこそ、宇髄さんは早急に進めたい筈。
それなら、僕がどうこう言っている暇はない。
この間にも、鬼は人を襲い続けるのだから。
そうして、僕は決心する。
「‥‥うん、早く行かなきゃ。どうこう言っている暇はないからね」
「ありがとうございます、優月。いきなり伝えた事ですから、迷惑だったでしょうに」
先程とは打って変わって、しおらしい表情で申し訳なさそうにする姉さん。
その表情を見て思わず笑みが溢れてしまった。
「ふふっ、大丈夫だよ、姉さん。僕は迷惑なんて思ってないから」
「‥‥相変わらずですね、優月は。でも、良かったです。そう思っていてくれていたなら」
姉さんと向かい合い、微笑みを交わし合う。
きっと、これは姉弟の特権だろう。
姉弟だからこそ、気軽に話し合い、笑顔を交わせる。
そんな小さな姉弟の特権を実感しながら、僕は一つ、質問を落とす。
「そう言えば、その日時とかはいつになっているの?」
「ああ、実は今日なんですよ」
「え?」
「今日なんですよ」
「‥‥‥‥‥はい?」
こういう姉さんの性格は、きっといつまでも変わらない事だろう。
それすらも、姉弟だから理解できる。
改めて、僕と姉さんは姉弟なのだと実感しながら、少しの安堵感に包まれた。
だが、それと同時にこれからの任務に僕は強い不安を覚えるのであった。
そして、僕は大事な事を一つ見落とす。
遊郭に潜入するには、女性の隊員では無いといけない。
では、男性が潜入するには、どうするのだろうか———。