Fate/last night《完結》   作:枝豆畑

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All LAST

「士郎は…無事でしょうか」

 

今、後戻りすることはできないとわかっている。

だがそれでも、あの空洞に残った少年の安否がどうしても気にかかる。

 

「彼は強い…きっと生きている…」

 

己にそう言い聞かせ、先を急いだ。

 

その時だった。

 

 

 

 

「__!!」

 

 

 

 

それは、ライダーとすれ違うと、そのまま空洞の奥へと駆けていく。

 

 

 

 

「そんな…どうして貴女が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ行く大空洞の最奥に、彼女はいた。

 

名をイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

此度の聖杯戦争におけるアインツベルンのマスターであり、聖杯の真の担い手。

 

天のドレスに身を包んだ彼女は、すべての元凶となったこの大聖杯を閉じるためにここまできた。

 

前方には、肉体の限界を越えながらも、足を引き摺り大聖杯へと歩んでいく少年の姿が。

 

「…」

 

彼を死なせるわけには、いかない。

 

彼はその命と引き換えに、大聖杯を破壊しようとしている。

 

それは駄目だと、彼女は先を急いだ。

 

少年の歩みが止まる。どうやら、ついに歩くことも出来なくなったらしい。それも当然だ。むしろ、あの体で生きている方が奇跡のようなものだ。

 

…その時だった。

 

 

 

「__シロウ!!」

 

 

 

どこからともなく現れた金髪の騎士が、倒れた少年へと駆け寄った。

 

「嘘…どうしてまだ生きているの、セイバー?」

 

イリヤスフィールは己の目を疑う。そこに立っているのは、倒されたはずの騎士王、セイバー。そしてその姿は、聖杯に呑まれ暗黒に染まったものではなく、本来の、美しい鎧姿で現界していた。

 

 

 

 

 

 

 

「イリヤスフィール!!」

 

白いドレスを纏った少女の存在に気付く。

彼女は私の存在に驚愕しているようだが、今はそれどころではない。

 

「イリヤスフィール、シロウが…!!」

 

私はシロウの体を抱き起こす。

そしてその姿に目を疑う。彼の体からは内部より剣が突き出ており、その名を呼んでも虚ろな瞳は虚空を眺めるばかりだ。

 

「肉体の限界を越えた奇跡を行使し続けた代償…シロウの体は、もう元に戻すことはできないわ」

 

イリヤスフィールが近付いてきた。

 

「そんな…シロウは、シロウは助からないのですか!?」

 

そんなことがあってはいけない。彼は、こんなところで死ぬべき存在ではない。

 

「…いいえ、シロウは助かる」

 

「それは本当ですか、イリヤスフィール!!」

 

私は言った。

 

「えぇ。だって、私は聖杯だもの。誰かが願うなら、それを叶えるのが聖杯である私の役目」

 

天のドレスを纏った少女はそう言った。なるほど彼女が聖杯ならば、たしかに願いを叶えることだってできるのだろう。

 

「でもねセイバー、一つだけ聞かせてもらえるかしら?」

 

「…?」

 

少女は言う。

 

「私は聖杯。シロウを救うことだってできるし、貴方が聖杯に託そうとしていた望みだって叶えることもできる」

 

「…!!」

 

「さぁ、サーヴァント・セイバー。貴方が(聖杯)に託す願いは?」

 

私の望み、王の選定のやり直し。私はその願いを叶えるため、世界と契約し何度も聖杯戦争に参加してきた。

 

あぁ、でも、それでも__

 

 

「__迷いなどありません、イリヤスフィール。私は、シロウの命が惜しい。私の過去などよりも、私はシロウの未来に願いを託す」

 

 

少女はそれを聞くと、僅かに微笑んだ。

 

 

「偉いわ、セイバー…ご褒美にその願い、叶えてあげる」

 

「__!!」

 

「私もね、シロウには生きていてほしいの」

 

少女ははそう言うと、私を見て、そしてシロウを見た。

 

「これから行うのは第三魔法・天の杯(ヘヴンス・フィール)。シロウの魂を物質化してその肉体から取り出して、一時的に別の器に移し変える」

 

天の杯…そう、アインツベルンの悲願であり、永遠に失われていた奇跡。

 

「そんなことが…できるのですか?」

 

私はその内容に思わず耳を疑う。

 

「できるわ、だって私は聖杯だもの。だからセイバー、シロウの魂を入れる器が必要なんだけど…」

 

「…!!」

 

 

__シロウの魂を入れる器

 

 

「イリヤスフィール…それは、これでも可能ですか?」

 

私はそれを聞いて、()()を出現させた。

 

「セイバー…それって…」

 

セイバーが取り出したそれは、騎士王より失われたずの聖剣の鞘・全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

「えぇ…可能なはずよ」

 

「そうですか…良かった」

 

私はそれを聞くと、安堵する。シロウが救われるなら、これ以上のことはない。

 

__その時だった。

 

 

「__だ、___!!」

 

 

「__シロウ?」

 

 

抱えていたシロウの口から、僅かな声が漏れる。

 

 

 

 

 

「まだ、意識があったんだ」

 

イリヤスフィールはそう言うと、シロウに微笑んだ。

 

「良かった。最期にお兄ちゃんと話せて」

 

「イリヤスフィール…?」

 

私はその発言に疑問を抱いた。最期?一体何を彼女は言っているのか。

 

イリヤスフィールは大聖杯へと歩みを進める。

 

その時、シロウの手が僅かにイリヤスフィールの方へと伸ばされる。

 

「__だ、__、___ヤ!!」

 

「__!!」

 

私はシロウの言葉に耳を澄ます。

 

「…駄目…だ…死ぬ、な、イリヤ…!!」

 

「__な」

 

 

私は咄嗟にイリヤスフィールへと目を向ける。既に彼女は、大聖杯の中枢である魔法陣の前まできていた。

 

 

「あとはお願いね、セイバー。きっと、リンたちが上手くやってくれるわ」

 

 

「イリヤスフィール!!」

 

私は叫んだ。私は既に、彼女が何をしようとしているのかを悟っていた。

 

 

「い、リヤ、イリ、ヤ、イリヤ、イリヤ__!!」

 

 

シロウがついに、少女の名を叫んだ。

 

 

「言ったよね、兄貴は妹を守るもんなんだって。 __ええ。私はお姉ちゃんだもん。なら、弟を 守らなくっちゃ」

 

 

 

彼女がそう言うと、彼女が纏っていた天のドレスが光り輝く。

 

「…!!」

 

「バイバイ、シロウ。それに、セイバーも__」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、何してるんですか。もうすぐ時間ですよ?」

 

桜の声がする。どうやら俺は眠っていたらしい。

 

「ん、あぁ、わるい、桜」

 

目を開くとそこには桜の顔が、困ったような笑みを浮かべて目前にあった。

 

「近いよ、桜」

 

照れるじゃないかと、頬をかいた。

 

桜はそれを聞くと、機嫌が良さそうに微笑む。

 

「だって先輩の寝顔、可愛いんですもの」

 

「あのなぁ…」

 

その時、襖の扉が開いた。そこからはライダーが出てきて、俺らの様子を見て目を細める。

 

「野暮な真似だとは分かっていますが…士郎、桜、そろそろ時間です」

 

「なっ!!」

 

「あ、そうでした!!」

 

桜はそれを聞くと、台所のほうへと駆け出した。

 

「人聞きが悪いぞ、ライダー」

 

「はて、なんの事でしょうか」

 

俺は体を起こし、伸びをする。

 

「時間時間って…今何時さ?」

 

俺はライダーに聞いた。

 

「もうとっくに、正午前です」

 

「!!」

 

そんなに俺は寝ていたのかと、慌てて身支度をする。

 

なんでって、それは…

 

チャイムの音が鳴り響いた。

 

「来たようですね」

 

「悪いけどライダー、出てくれないか」

 

それを聞くとライダーはやれやれ、と玄関へと歩いていった。

 

__そう、今日は遠坂がロンドンから帰ってくる日なのだ。

 

 

 

 

玄関に向かうと、そこには長い髪を下ろし、赤いロングコートに身を包んだ遠坂がいた。

 

「おかえり、遠坂」

 

俺がそう言うと、遠坂はニッコリと笑った。

 

遠坂、いきなりそれは反則だぞ。

 

「ただいま、士郎」

 

彼女はそう言うと、いきなり俺の体をペタペタと触ってきた。

 

「な、なんだよ遠坂…」

 

遠坂はそんな俺の言葉に構うことなく、一通り触ると

 

「うん、馴染んでる馴染んでる。問題は無いみたいね…それに」

 

「…?」

 

遠坂がニヤリと笑う。

 

「…桜とも上手くやってるみたいだし?」

 

「!!」

 

俺は振り返る。そこには顔を赤く染めた桜が立っていた。

 

「お帰りなさい、姉さん」

 

「ええ、ただいま。桜」

 

…うん、まぁいいか。

 

 

 

 

「…」

 

「何そわそわしてるのよ、士郎」

 

俺が黙っていると、遠坂が言った。俺、そんなに顔に出てたか?

 

「貴女も、何隠れてるのよ」

 

遠坂が玄関の外に声をかける。

 

「か、隠れてなど…!!」

 

遠坂が、外の柱の陰から手を引く。

 

「「ぁ…」」

 

飛び出してきたその少女と視線が重なる。

 

少しの、沈黙。俺は息を整え、その少女に声をかける。

 

 

「__おかえり、セイバー」

 

少女はその言葉を聞くと、少し頬を赤く染めて、

 

「__はい、ただいま、シロウ」

 

笑顔で、そう言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての戦いが終わったあとも、私はこの世界に残った。

聖杯の泥の影響か、魔力には困ることはないようだ。

そして私は、凛の「平行世界」の研究というものにどこか惹かれ、ロンドンにて彼女の使い魔として今は過ごしている。

 

「この子ったら、飛行機に乗ってるときも『日本はまだですか、日本はまだですか』ってずっと言ってくるもんだから」

 

「凛!あなたと言う人は!」

 

まったく、何を言うのですかあなたは。

 

「で、どうなの?久しぶりに会う士郎は…」

 

…その通り。実は今日が私にとって、人としての形を取り戻したシロウに会う初めての日なのである。

 

私は彼の姿を端から端まで眺める。シロウはどこか恥ずかしそうに頭を掻いていた。

 

「…ええ、やはりシロウはその姿が好ましい」

 

 

 

シロウの魂は、イリヤスフィールによって私の鞘へ移された後、何でも封印指定だという人形師が作った、新しい肉体に移された。

 

 

彼の魂と新しい体が馴染むまでに、中々時間がかかった。

凛は既に何度か都合によりシロウに会っていたようですが、私が会うのはこれが初めてなのだ。

 

変わらぬ彼の姿に、笑みが溢れる。

 

シロウもそんな私に微笑み返してくれた。…すると、桜が私に笑みを浮かべる。桜、それはどういう意味でしょうか。

 

 

 

 

「さて、じゃあそろそろ行きましょうか!」

 

凛が立ち上がるとそう言った。

 

 

 

 

 

 

「桜、忘れものないか?」

 

シロウがサクラに言う。

 

「大丈夫ですよ、先輩」

 

外に出ると、風に乗ってきたのか、既に桜の花びらそこかしこに見える。

 

シロウたちが並んで歩いていく様を、私は少し立ち止まって眺めた。

 

 

__きっと、私の罪は償えない。

 

__でも、彼らの姿を見ると、穏やかな気持ちで私の心は満たされる。

 

__この光景が続く限り、私は道を誤ることはないだろう。

 

 

笑い合う、彼らの姿をその目に写す。

 

 

 

 

__あぁ、それはなんて幸せな…

 

 

 

 

 

「何突っ立てるのよ、セイバー」

 

後ろで立っていた私に気付き、私の腕を凛が引く。

 

「あ、待ってください凛!」

 

 

 

___私は既に、理想郷へと辿り着いていた。

 

 

 

 

___だから私は、この巡り会えた運命(Fate)が、永久に続くことを祈るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Epilogue

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

気が付くと、俺は草原に立っていた。

 

風が吹き、草木が揺らぐ。

 

「…!!」

 

その風に乗って、どこか懐かしい香りが漂ってきた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 

風が吹いてきたその方へと、俺は無我夢中で駆け出す。

 

感じるんだ。俺が追い続けてきたヒトが、そこにいるって。

 

たどり着いたそこには、俺の思った通り、彼女が立っていた。

 

 

__あぁ、俺は、俺はやっと

 

 

ゆっくりと、彼女に歩み寄る。

 

 

彼女も俺に気付いていたみたいで、振り返ると俺に、あの時と変わらないあの笑顔を見せてくれた。

 

 

 

「__おかえりなさい、シロウ」

 

彼女は言った。

 

「___あぁ」

 

 

___俺はね

 

 

 

「__ただいま、セイバー」

 

 

 

 

___君と話したいことが、たくさんあるんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin




これにて、作品は終わりを迎えました。

長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございます。

元々万人受けするような作品を作っているつもりはありませんでしたが、それでも私にとってはたくさんの方々に読んでいただき、感想もたくさん貰いました。

関係ないかもしれませんが、この作品が偶然にも桜の季節に完結したのも、私は何か嬉しかったです。笑


完結したのは、本当に皆様のおかげです。




何度も言いますが、本当にありがとうございました。







それではまた、どこかで
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