魔王、帰郷   作:dukemon

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たぶん短い作品になります。


第1話

一、

 

1

 

「よし、日本に帰りましょう。」

 

――ハハ、また親父と会うのは嬉しいぜ。

 

赤い髪の大男は家族と数ヶ月ぶりの連絡を取った後、心の中に居るもう一人の自分にそう言った。

彼は日本人とイギリス人の混血児で、両親と幼い頃死別してから、日本にいる伯父に引き取られた。

六年前、妻が病で亡くなってから、気晴らしのためにギリシアに行った。

そこで、まつろわぬへクトールを倒し、神殺しとなった。

 

神殺し。

それは地上に災いをもたらす『まつろわぬ神』を殺し、その権能を奪った人間の事を指す。

神々とは敵対関係で、現代ではカンピオーネと呼ばれる。

 

神を殺した後、彼らは転生し、ほとんどの魔術を無効化する体、超人的な生命力と呪力を得る。

また、その莫大な力と性格によって、周囲を狂わせることが多い

 

自分がトラブルメーカーになったことを直感で理解しているから、彼は家族を事件に巻き込まないよう、日本に帰らず旅を続けた。

もともと、彼の一族は旅行好きな人間が多いから、その血脈を継承した彼は旅行が嫌いではない。

神殺しになる前に、あまり一人で旅行に行かない原因はただ最愛の妻と娘の側に居たいだけ。

 

しかし、妻と死別し、娘も独立した今、父親としての責任を全うした彼は羽目を外し、神殺しのことを隠して、自在に世界を飛び回っている。

 

現在、彼が神を殺したことを知ったのは、五人しかいない。

その五人も、彼の故郷が日本であることを知らない。

家族に迷惑をかけないよう、自分に関する情報を全力に隠蔽した。

 

今回、日本に帰るのは最近日本で起きた異変の数々が神と神殺しと関係していると察知して、養父、甥と姪を心配するから。

 

知り合いに《流浪の魔王》、《双貌の魔王》などと呼ばれたミハイルは六年ぶりに帰郷した。

 

 

2

 

「伯父さんが帰ってきた?本当か!」

 

草薙護堂が妹の静花からその情報を聞いたのは晩餐の時だった。

 

「今、羽田にいるって。」

 

「六年ぶりだな。フェリシアが亡くなった後、ずっと旅行をしていたから。」

 

祖父・草薙一朗が懐かしそうな顔をしている。

 

「護堂、あなたの母は一人娘でしょう。その伯父さんってどういう人なの。」

 

ミラノから来た美少女・エリカが自分が知らない親戚について、興味津々のようだ。

 

「ああ、ミハイル伯父さんはじいちゃんの甥だったが、両親が事故で亡くなった後、じいちゃんに引き取られたそうだ。いい人だが……時々想像だにしなかったことをする人だ。」

 

「そうだよね。」

 

「確かに。」

 

それを聞いて、エリカは興味深い顔をしている。

草薙家の破天荒さを良く知っているから、その一族の想像以上のことをするミハイルについて、好奇心を抱いている。

 

「あの駆け落ちを聞いた時、さすかに耳を疑ったよ。」

 

「フェリシア伯母さんのこと?あれ本当なの?」

 

「本当だ。彼から養子縁組を解消したのはそれが原因だよ。あの時、僕たちを巻き込まないように、色々な手を打ったと本人から聞いてた。まったく。」

 

「待て、そのこと、俺聞いてないぞ。」

 

祖父から聞いた話によると、フェリシア伯母はもともと貴族のお嬢さんだった。

そして、ドイツに行った伯父とお互いに一目惚れしたから、駆け落ちした。

ここまでなら、恋愛小説のような話だった。

問題はその後、伯父は郊外の廃城を占領し、追っ手と五年間戦った、

その間、捕まえた捕虜は二百人ぐらいで、彼らの身代金で快適な生活を過ごした。

最後、伯父の反撃で壊滅寸前になった叔母の実家を支援しにきた戦士を伝統の一騎打ちで破れた伯父は義父と和解し、家族と共に日本に凱旋した。

まるで中世の盗賊のようだ。

 

義父に結婚を認めてもらいたいから戦った、と伯父はそう言ったそうだ。

ちなみに、叔父と伯父の義父の関係はすごく良かったようで、叔母が元気だった頃、年に数回、家族と共にドイツに遊びに行った。

 

「……それ、ミカエル伯父さんがやっただろ。」

 

「いいや、ほとんどミハイルがやったとフェリシアから聞いてた。ミカエルが戦ったのは最後の一騎打ちだけ。」

 

「待て護堂、ミカエルは誰なの?」

 

「……言い忘れた。伯父さんは二重人格者だよ。幼い頃おじちゃんに引き取られる前に、かなり酷い生活を過ごしたようで、ミカエルというもう一つの人格を生み出した。ミカエルはミハイルより荒々しいが、鷹揚で豪快な人だ。医者に診てもらった事があるが、治らなかった。日常生活に問題がないから、本人はそれほど気にしなかった。伯父もそのことを隠そうともしなかった。ちなみに、うちの一族はそのこと全員知っているよ。」

 

「……少し用があるので、先に失礼します。」

 

エリカが何かを思い出したようで、席を立った。

護堂は彼女の異常に気づいて、食事を取った後、エリカの屋敷を訪れた。

 

 

 

「伯父さんは何か問題があるのか。」

 

「あの一騎打ちの相手は、叔父様よ。」

 

「え。パオロさんか。」

 

「ミハイル・ミカエル。過去の経歴は一切不明。二十年前、一騎打ちの戦いでパオロ・ブランデッリに勝った謎の戦士。彼は魔術と呪術の知識は一切持たないけど、その神域の武技で勝利をもぎ取った。決闘の後、妻と娘を連れて失踪した。最近は傭兵になったという報告があって、噂によると神獣さえも倒せる実力を持っているわ。ふふ、まさか日本に隠居していたとは。」

 

「パオロさんに報告するのか。」

 

「そのつもりはないわ。ただ、その伝説に興味があるだけよ。」

 

「絶対に伯父さんを怒らせないでくれよ。普段はいい人だが、怒ると本当に怖いから。」

 

一抹の不安と共に、護堂はエリカに忠告した。

 

草薙護堂は神殺しである。

まつろわぬ神を殺し、その権能を奪った偉業を成した者。

世界有数の実力者の一人である。

 

だが、自分の親族の中で神を殺した人が居るということ、彼はまだ知らない。

 

 


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