魔王、帰郷   作:dukemon

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第2話

二、

 

 

ミハイルは日本に帰った後、まず自分の家に一晩過ごしてから、養父に訪れた。

 

「父さん、お久しぶりです。」

『親父!俺帰ってきたぞ。』

 

「お帰り。さあ、入って。」

 

日本に色々なことが起きたが、養父・一朗の様子が至って元気そうで、ミハイルもミカエルも安心した。

護堂と静花はもう学校に行ったそうだ。

 

 

ちょっとした世間話をしてから、僕たちはお土産の干貝(かんぺい)を渡した。

先日、中国で神獣退治の報酬代わりに手に入った超高級品だ。

それから、養父と外で昼ご飯を食べた後、お互いに用事があるので別れた。

 

用事というのは、日本で現れた七人目の神殺しと会うことだ。

だが、どうやって接触するのかわからない。

その日は、一般人を装って色々な魔術と呪術と関わりがありそうな店に行ったが、情報が得られなかった。

 

原因が分かる。

まず、僕たちはその神殺しの名前を知らない。

次は、相手の情報は日本で統制されている。

この点について、理解を示した。

面倒事を避けたくなるのはどちらも同じだ。

 

自分が知っていることは、その神殺しが先週アレクと東京湾で戦ったということだけ。

その話を聞いた時は身の毛をよだつ気がした。

人の被害がないのは幸いだった。

 

アイスマンに頼れば、詳しい情報が得られるが、仕事以外のことについて、あまり王立工廠と関わりたくない。

魔術結社同士の抗争に巻き込まれたくないから。

依頼を完遂して、報酬を取って、悠々自在に世界を旅するのはこの六年の生活スタンスだ。

 

その点について、王立工廠は最高の客だ。

かなり大きな組織でありながら、いつも人材不足に悩まされる。

アレクとアイスマンは責任感がある実力者だが、仕事が多い。

 

アレクと初めて会ったのは四年前、ミカエルがうっかりして、まつろわぬアーサーの封印を解き、あいつを倒した後だった。

アレクはアーサーが解放されたと感じて現場に来たそうだった。

彼は好戦的な性格ではないし、お互い旅行好きであることもあって、なかなかいい関係を築いた。

 

それで、彼の紹介で王立工廠の任務を受けるようになった。

僕たちは金が稼げるし、アレクも他の仕事と研究に集中できる。

まさに、一石二鳥の提案だった。

 

だが、王立工廠に所属するわけではない。

あくまで、外部協力者として協力するだけ。

フェリシアと結婚した時、欧州(おうしゅう)の魔術結社と一悶着があった。最後無事に和解したが、結社の争いはもうこりごりだ。

アレクもアイスマンも、僕たちを勧誘する気がない。神殺しが同じ組織に二人居ることが争いの種だと言っていた。

 

 

 

そういうことを考えながら、眼前に立った青年を見つめる。

 

「甘粕冬馬と申します。えーと、少し伺いたいことがありまして。」

 

どうやら、まったく収穫なしではないようだ。

 

動きから判断すると、相手は忍術の使い手で、それもかなりの達人だ。

この時点で現れたのは、たぶん自分の行動が店側から彼の組織に報告されただろう。

この人は神殺しの関係者の可能性が高い。

情報を得るチャンスだ。

 

 

相手が渡した名刺を見ると、ミハイルは首を傾いた。

 

「正史編纂委員会?なるほど、日本では政府が情報操作をしているのか。それで、用件は何でしょうか。」

 

「ミハイル様、あなたが来日したことは私たちが把握しましたが、その目的がわからないです。単独で神獣を狩れるほどの凄腕がカンピオーネの名前でさえわからないなど、ありえません。」

 

「いや、本当にわからないですよ。僕は神獣を狩れるが、魔術の世界に一切興味ないし、わかりたくもないです。カンピオーネの名前も三人しか知りません。」

 

――これは本当だけど、僕が相手の立場に立てば絶対に信じないでしょう。

 

――俺もそう思うぞ。代わるか?

 

――いいや。僕に任せて。

 

――分かった。

 

心の中で、ミカエルと相談しながら、ミハイルは甘粕と話し続ける。

明らかに、平行線に辿る話し合いになった。

甘粕はカンピオーネに関する情報を一切喋らない。

ミハイルは家族が日本に居ることを絶対に話しないから、日本に来た理由を説明できなくて、相手にますます疑われる。

結局、場所を変えて、改めて話し合おうと決めたんだ。

 

甘粕に先導されて、秋葉原にある『国士無双』というメイド喫茶店に入った。

店内で一人の少年が従業員と話している。

そして、それを見たミハイルは固まった。

 

――彼はなぜ日本にいるのだ。

 

――くっ、くははははは、とんだ無駄足になったぜ、兄弟。

 

ミカエルが大笑いをするのを聞きながら、ミハイルはその少年に話しかけた。

 

「鷹化。」

 

少年はすぐに振り返った。

傍にいる甘粕は少し驚いた表情でそれを見た。

 

「……し、いやミハイル様じゃないですか!何でここにいらっしゃるんです。――ッ!まさか、師父が何かご用命を。」

 

「いや、あの人とここ数ヶ月会わなかったよ。どころで、君に聞きたい事があるんだ。」

 

「分かりました。……甘粕さんはここで待ってくれ。」

 

鷹化のただならぬ気迫を感じた甘粕は、身の安全のためすぐに了承した。

そして、二人はVIPルームに入った。

 

「仕事の邪魔をして、すまない。鷹化。」

 

「いえ、それほど忙しくないですよ。それで、師叔(ししゅく)の用件は何でしょうか。」

 

「だから、その師叔という呼び方をやめてくれないか。前に言ったでしょう。」

 

「申し訳ありません。二人きりの時、師叔と呼ばないと、鷹化は師父に処罰されるかもしれません。」

 

「――ふう。それより、日本のカンピオーネに会いたい。」

 

「叔父上と?」

 

「叔父?あなたの親戚なのか?」

 

「いいえ、叔父上は師父と義兄弟の契りを結ばれたので。」

 

「…………は?弟?」

『…………師姐(しじぇ)の義弟、マジかよ。』

 

この偉業を成し遂げた見知らぬカンピオーネに、ミハイルもミカエルも畏怖を感じた。

 

「いやいや、師叔も師父の弟弟子ですよ。」

 

「……ミカエルがあの時面白半分に受け入れたから、僕も教主を師姐と呼ぶようになったけど。今でも、その兄弟弟子の関係に疑問がある。僕たちは飛鳳五仙掌の秘伝書をたまたま手に入って、興味本位でそれを会得し、たまたまその掌法でまつろわぬ神を殺しただけ。これは弟弟子ではないでしょう。」

 

「お戯言を。純正の飛鳳五仙掌が使えるのは今となっては師父と師叔だけ。飛鳳五仙掌の継承者という意味で、師叔はたしかに師父の弟弟子ですよ。今や、師父が改良した飛鳳十二神掌(ひほうじゅうにしんしょう)のほうが有名です。」

 

「飛鳳十二神掌の完成度は明らかに飛鳳五仙掌より高いから、当然の結果だ。あの戦闘で、あれを破るのはかなり苦労したよ。」

 

 

 

 

飛鳳五仙掌を教主の手で魔改造したのは、飛鳳十二神掌だ。

素晴らしい掌法だったが、元の飛鳳五仙掌とは別物になった。

 

僕たちが飛鳳五仙掌でまつろわぬ盤古を倒した瞬間は、近くにいる羅濠教主に見られた。

そして、神殺し同士の戦いになった。

 

天山山脈(てんざんさんみゃく)を半分ほど吹き飛ばした激戦の後、どちらも力を使い果て、戦闘不能となった。

それで、羅濠教主の弟子を使って武術で勝負しようと、ミカエルは提案した。

 

勝負方法は簡単だ。

鷹化が教主の技を実演して僕たちに見せる。

僕たちはその技を打ち破る技を鷹化に指導し、教主に見せる。

これで、1ターンだ。

 

1ターン毎の思考時間は一時間。

36ターンの後、もし僕たちがすべての技を破れたら、引き分けになる。

 

結果は引き分けだった。

そして、お互いに意気投合し、兄弟弟子となった。

 

「お願いだから、あのような勝負方法はもうやめて下さい!心臓に悪いです。師父と師叔の技を真似しろと言われた時、死ぬかと思いました。」

 

――悪かったぜ。

 

「ミカエルは謝ったよ。実際、数時間で戦えるように回復したけど、その勝負が案外面白いと思ったから、何日も続いた。僕たちが考案した技を他の人に指導する機会が少ないので、少し調子を乗った。すまない。」

 

「あの時のことを思い出すと、今でも吐きそうになります。」

 

「それで、七人目のカンピオーネに連絡をお願いできるのか?ああ、そういえば、彼の名前は何でしょう?」

 

「草薙護堂です。」

 

「………………………………え?」

『…………………………………………はあ?』

 

「どうかしたのですか?」

 

「いや、知り合いと同名だから、少し驚いただけ。写真があるのか?」

 

 

 

 

 

 

その後、甥の写真を見たミハイルは頭を抱え、陽気なミカエルは長い間本気に悩んだ。

 

 


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