魔王、帰郷   作:dukemon

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第4話

四、

 

先手を取ったのはアステリオス。

神速の権能で接近し、斧で瞬きの間に何十回の斬撃を繰り出した。

それに対して、ミカエルは召喚した槍ですべての攻撃を弾いた。

 

アステリオスの斧の重さが数百キロに下らないが、彼はまるで小枝を振るうように自在に操り、目にも留まらない速さで攻めてくる。

驚くべきことに、これほど重い武器を使っているのに、空切り音などの雑音はない。

 

もう一方、ミカエルが振るう槍はせいぜい数キロしかないが、その一撃一撃がまるで数百キロもあるバトルハンマーのように重い。

さらに、ミカエルはたった今相手が使った技を盗み、最適なタイミングで反撃した。

まさに、神域の才能。

 

そして、異変が起きた。

 

「これは!」

 

アステリオスは一瞬で相手から離れて、警戒態勢を取った。

 

――早い、もう気づかれたよ。

 

――このまま押し込むぞ!。

 

ミカエルは追撃したが、アステリオスは神速の権能で一定的な距離を取って次の動きに移行した。

 

「星よ。降り注げ。」

 

夜空に輝いた星光が無数の光の槍となって、雨のように戦場に落ちた。

ミカエルは勘でそれを避けながら、アステリオスの動きを観察している。

 

先、二人がいた町がこの技に吹き飛んだが、これは牽制でしかない。

本命は次の一撃だと、ミカエルの直感はそう告げた。

 

『急!』

 

ミハイルのような大陸間転移ができないが、ミカエルも移動術に長じている。

彼は羅濠教主との戦いで学んだ縮地法を発動し、アステリオスの背後を取った。

 

『我らの友ヘクトールが残してくれた槍よ、その真の姿を現れるがいい!』

 

ヘクトールの権能を発動し、長槍は聖句と共に変形して投槍となった。

ミカエルは全身の気を込めて、白き牡牛に向けて投擲する。

 

かつて、英雄ヘクトールはトロイア戦争で投槍を使い、アカイアの戦士31名を殺した。

それを防げる者は、アカイアの大アイアースのみ。

 

「なるほど、君がギリシアで倒した神はヘクトールだったか。だが、無駄だ」

 

アステリオスはアキレウスと同じ対処方法を取った。

防げないなら、避ければいい。

神速の権能を持つ雷光の申し子にとって、それぐらいの芸当は容易いことだ。

彼は先と同じ、ミカエルから離れて、星辰の光を繰り出そうとする。

しかし、その前に背中に寒気がして、大きく右側に跳んだ。

そして、かわしたはずだった投槍は、彼の脇腹を抉った。

槍はそのまま大地に大きなクレイターを残した。

 

痛みを耐えて、アステリオスは全身から雷電を放し、ミカエルの追撃を止めた。

 

『ちっ』

 

好機を逃したミカエルは悔しそうに舌打ちをした。

もし、アステリオスが投槍に気づくのは少し遅かったら、致命的な隙を晒しただろう。

 

「刹那の驕慢が死に直結する。やはり、君たちは油断ならない相手だった。まさか、転移によって空中で槍を掴んで、そのまま槍ごとぼくの後ろに移動した。しかし、その右腕も大きな傷を負っただろう」

 

『心配はいらねえよ』

 

全力で投げた槍を掴んだせいで、ミカエルの右手は見るに耐えない様子になった。

体に辛うじて繋がっているが、常人であればもう使い物にならないだろう。

 

『湖の乙女より賜れし鞘よ。我らの体を治りたまえ』

 

彼は再び聖句を詠み、アーサー王の鞘を召喚した。

持ち主に不死身を与える権能によって、手をみるみるうちに回復する。

 

もう一方、アステリオスの腹はもう全快した。

死と再生を繰り返した生贄の神にとって、このような傷は大したことはないようだ。

 

『どうやら、持久戦になりそうだ』

 

「いいえ、君の得意分野に付き合うほど酔狂ではないよ。次の一分で決めなければ、ぼくは負けるだろう」

 

『何もかもお見通しか』

 

アステリオスが言った通り、ミハイルとミカエルがもっとも得意なのは持久戦だ。

だから、それを見抜いた敵はほとんど短期決戦を望む。

 

アステリオスは膨大な魔力を集め、星辰と雷光の権能を使おうとする。

一分で決着をつける言葉は本気のようだ。

 

次の瞬間、空から無数の稲妻と星光がミカエルに向かって落ちてくる。

大地は天空の災厄を感じ、悲鳴を発した

緑あふれた地面は地震で裂き、焦土と化した。

 

たとえ神殺しでも、この一撃を受けたら重傷を負っただろう。

ミカエルの体は不死身の権能に守られるが、それは色々な制約がある。

まともにこの攻撃を食らったら、ミカエルは鞘の力によって強制的に仮死状態になる。

アステリオスはそれを見て、絶対に止めを刺す。

 

ゆえに、ミカエルは縮地法を発動しようとする。

 

「その術は厄介だから、封じるよ。クレタの大地、我が敵を地上に縛れ」

 

『抜け目はねえな』

 

聖句によって、空間転移が封じられたと感じたミカエルは、不敵な笑いを見せて、舞いように前へ跳び、位置を変えた。

そして、ダン、ダン、ダン、ダンとステップを踏む続ける。

その悠然たる足捌きで踏んだのは六十四の点。

 

かつて、羅濠教主と戦った時、ミカエルとミハイルは教主の禹歩(うほ)を見て、伏犠六十四卦と組み合わせることで、一つの遁行歩法を作り上げた。

伏犠震天歩法。これは羅濠教主が付けた名前だ。

いかなる攻撃でもこの歩法を踏むミカエルを捉えない。

 

アステリオスは刹那、敵の姿を見失うが、すぐに攻撃を変えた。

狙って当たらないなら、広域攻撃でこの戦場を破壊し尽くせばいい。

星の槍と雷電は雨のごとき降り注げる。

その判断は正しい。

だが、一瞬遅かった。

 

『来たれ、太陽と月を飲み込む双狼よ。その牙と爪で星辰の光を奪うがいい。スコル、ハティ!』

 

遁行歩法で時間を稼いだミカエルは、取ってあった切り札を切ると即断した。

最初に、アステリオスと対面した時、この権能が勝利への鍵だと本能的に理解した。

 

二匹の巨狼が現れ、空に向けて吼え始める。

 

「「ウォォォォォォ――――」」

 

その咆哮は星辰の光をかき消した。

 

伝承によると、スコルとハティはフェンリルの子で、狼の姿をした巨人。

ラグナロクの時、二匹の獣は太陽の女神ソールと月の神マニーを喰らい尽くし、世界に闇をもたらした。

 

星光が消えたことによって、星辰と雷光の弾幕は破れた。

ミカエルは巨狼を随伴し、アステリオスを急接近した。

 

「くっ、まさか闇の権能をこの時まで隠したとは!だが、まだだ!」

 

アステリオスは神速の権能を使った。

彼は再び態勢を立て直して、別の手段でミカエルを倒す気だ。

 

『神速の権能はお前だけの専売特許じゃねえぜ!雲の咆哮よ、神王に打ち勝った羅刹よ。汝はインドラの名を奪い、その雷光を掌握する者!』

 

神王インドラを倒し、《インドラを制した者》という名前を得た羅刹・インドラジット。

その権能によって、ミカエルは雷の速さを一時的に手にした。

雷の属性を有する相手だけに使える権能だ。

 

アーサー王、スコルとハティ、そしてインドラジット。

三つの権能を同時に発動する反動で、ミカエルは体が破壊と再生を繰り返し、激痛で意識が失いそうになる。

 

――代わるか。弟。

 

――必要ねえ!こいつは俺の敵だ!

 

――それなら、しっかりしろ!勝利は目の前だよ!

 

兄弟の激励を受けたミカエルは、確実にアステリオスに打ち勝つため、最大の武器を取り出した。

眼前のアステリオスは神速が追いつかれることに、一瞬驚いた。

これまでのすべては、この瞬間を作り出すためだった。

 

そして、ミカエルは雄々しい炎でできた大剣を好敵手の腹に突き刺した。

 

『ユグドラシルを焼き尽くす刃よ。今こそ、九つの鍵で封じた箱から解き放ち、黄昏を呼び起こせ!』

 

聖句と共に、終焉を告げる魔剣レーヴァテインは猛威を振るい始める。

地上に落陽が顕現した。

白き牡牛の体は劫火に飲む込まれ、溶けていく。

 

ミノスは《鋼》の軍神の派生だと、アレクから聞いた事がある。

アステリオスもそうだろうと考え、ミカエルはスルトから奪った炎の権能を決め手と選んだ。

 

炎の権能を全力に注げたミカエルは、火だるまとなったアステリオスの手に掴まれた。

 

「一緒に、冥府に行こう。神王を殺すものは、そのまま地上に留まる事を許さん。クレタの大地よ。冥界への道を開かれよ。」

 

牡牛の手はまるで鎖のように、敵の肩を掴んだ。

 

ミカエルはそれを振りほどこうとしたが、できなかった。

 

『お前もなかなか根性があるじゃねえか。はは。』

 

神と神殺しの足下に――大地がいきなり裂けた。

この裂け目は地の底の冥界に通じている。

ミカエルは瀕死のアステリオスに引き連れられて、地底に落ちていく。

 

 

 

 

アストラル界の一角、アステリオスは眠っているミハイルを見つめている。

雄々しい牡牛の体は段々と薄くなっていく。

 

「ここは?」

 

ミハイルは起きて、目の前にいるアステリオスに聞いた。

 

「アストラル界だ。ミカエルはどうした?」

 

――ミカエル、聞こえるか。

 

――……うん…………

 

「かなり疲れたようで、意識が朦朧しています。珍しいことではないですよ。その体は一体?」

 

アステリオスの体は今でも消えそうだ。

 

「ミカエルの攻撃で体が焼き尽くされた。最後の冥界落としは魔力が足りないから、アストラル界に落ちた。ここにいるぼくはただの残留意識でしかない。少し時間を経てば、消え去るだろう。しかし、彼ほどの戦士に倒されることに悔いはない。見事な戦いだった。」

 

ミハイルは目を閉じて、彼から奪った権能を感じた。

 

「弟への賞賛、感謝いたします。あなたも僕たちにとって強敵でしたよ。まさか、最初の数合で奥義を見抜かれたとは」

 

「アレはいったい何なのだ。魔術ではないだろう」

 

「東洋の気功です。原理は……」

 

戦いが終わった今、隠し事ではなくなるから、簡単に説明した。

 

「なるほど。どころで、一つ聞きたいことがある。君たちは一体何を悩んでいる」

 

「え」

 

「ぼくは勝利を祝福する神、戦神・軍神の神格も持っている。ミカエルの戦い方は悩みを発散するものだと見えた。話したくなければ、言わなくていい。あなたたちのような強者に悩ませることについて少し興味があるから、聞いただけだ」

 

――どうする?

 

――……………………話しても…………いい…………。

 

やっぱりか。ミハイルはそう考えた。

ミカエルはよほど気に入った相手でなければ、自分のことを話さないから。

そして、彼が気に入った相手は信用に値する者だ。

 

「実は家族のことなんですが……」

 

「うん。」

 

「甥が神殺しになった。」

 

「…………はあ?」

 

ぽかんとした白き牡牛の顔に、ミハイルは思わずに笑い出した。

 

「冗談……ではないな。」

 

「本当ですよ。ああ、話してよかったです。気持ちは少し軽くなってきましたよ。彼とはそれなりに親しいでした。フェリシアが病で倒れる前に、時々家族ぐるみで食事をしていましたよ」

 

ミハイルは懐かしそうに顔を綻び、甥との思い出を語った。

アステリオスは聞いてから、自分の考えを言った。

 

「正直、かなり驚いたが、悩む点が見当たらない。神殺しであることをさておき、優れた戦士の誕生は祝うべきものだ。ぼくの時代なら、国全体が三日三晩の祝宴を開け、山ほどの財宝を彼に贈るだろ」

 

「いえ、甥が神殺しになること自体は問題ではないです。これから、どうすればいいのかを悩んでいます。えーと、僕たちは六年前から、故郷を離れて旅をしています。神殺しのいざこざを家族を巻き込まないためです。そのために、僕たちがわざと自分たちが神殺しであることを隠しました」

 

「ああ、これからの身の振り方について考えているのか。隠し続けるか、それとも公表するのか」

 

「ええ。甥は家族思いの人で、故郷の魔術結社にも協力関係を築いたそうだから、故郷にいる家族を心配する必要はありません。なので、これからのことについて悩んでいます」

 

「それなら簡単だ。君たちは旅が好きなのか」

 

「好きです」

 

「なぜ旅が好きなのか」

 

「うーん、色々あるが、旅の途中で新しい人と知り合うことが好きです。ミカエルも友達作りが好きなんです」

 

「なら、神殺しであることを隠すほうがいい。君たちが神殺しであることを公表したら、周囲の人々は畏敬を抱くだろ。そういうものは君たちの望みではあるまい」

 

「なるほど、確かにそうでした。感謝します」

 

「大したことではない。敵の行方について、好奇心が湧いただけだ。……そろそろ時間のようだ」

 

アステリオスの姿はもうほとんど透明になった。

 

「そのようですね。最後にお願いが一つあります。」

 

「言うがいい。」

 

「弟の友になってくれませんか?」

 

――………何を言っている………このバ………カ兄………弟。

 

「待て、ぼくと彼はつい先、殺し合ったばかりだよ」

 

「それはそれ、これはこれ。殺し合った敵でも友情が結べるのは僕たちの持論です」

 

「……本気なんだよね」

 

「弟のことに関して、いつも本気ですよ」

 

少し考えた後、アステリオスは戸惑いながら答えた。

 

「神殺しの友人を作るのは初めてだが、それでもいいなら」

 

「もちろん」

 

「はは、ならまた会う日まで。さらばた。神殺しの友人よ!」

 

言い終わると、アステリオスは消えた。

 

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