魔王、帰郷   作:dukemon

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第6話

六、

 

1、

 

事件が起きた時、草薙護堂は家の中で祖父の一朗と妹の静花と週末の晩餐会について、話をしている。

叔父のミハイルが晩餐会に出ると聞いた親戚たちはほぼ全員参加すると言った。

そのせいで、『国士無双』の席では足りない。

幸い、鷹化はすぐに会場を確保した。

 

あれやこれやと話していると、護堂は突然寒気を感じ、家を飛び出した。

 

「なっ」

 

都内のあちこちに、火の柱は空へ登っていく。

 

「お兄ちゃん、どうしたの?そんなに慌てて」

 

静花はその火の柱を見えないようだ。

護堂はどうにか言い訳を考えて、その場を離れた。

そして、いつもの仲間と連絡を取った。

 

正史編纂委員会は大騒ぎになった。

すぐに調査に向かっているが、その時火の柱はもう消えた。

近くの住民たちは死傷者がない。

犯人は幻術を使い、住民を逃がしたようだ。

 

エリカ、祐理、リリアナ、甘粕と馨は沙耶宮家別邸で緊急会議を開いた

恵那は山篭り中で不在だ。

 

「今のところ、犯人の考えが分からないですね。まつろわぬ神が人々の生死に気遣うとは思えないわ。でも、祐理は神の気配を感じているよね」

 

エリカは媛巫女に確認した。

 

「はい、今朝は雷と豊穣の神の気配を感じていました。しかし、火柱から感じた気配と違います。その火柱は破壊と再生を司る火の巨人、ラグナロクで世界樹を焼き尽くしたスルトの権能です」

 

「まつろわぬスルトは数年前、アイスランドに顕現した報告があります。しかし、なぜか消えました。賢人議会は新しいカンピオーネの誕生を疑いましたが、確証がありませんでした」

 

リリアナの補足を聞いた全員は黙り込んだ。

その時、護堂の携帯に陸鷹化から電話がかかってきた。

 

『叔父上、竜蛇の封印を解けた神祖とカンピオーネは横浜港で交戦しています。手伝ってくれたアステリオスという神の話によると、草薙護堂の協力が必要だそうです』

 

「すぐに行く」

 

電話が終えたあと、護堂は仲間にこの情報を伝えた。

そして、全速で横浜港に行った。

 

 

 

 

 

 

「来たのか。草薙護堂」

 

横浜港の前に、白き牡牛が静かに神殺しを見つめた。

 

「あんたがアステリオスなのか。状況を説明してもらおう」

 

「わかった。が、その前にあの二人に一つ約束してもらいたいことがある」

 

アステリオスは馨と甘粕を指差した。

 

「我が同盟者、さすらいの神殺しについて、あらゆる情報を外に漏らさないことを誓えてもらう」

 

二人はうなずいた。

 

「俺たちは?」

 

「神殺しを縛ることなどできないよ。まあ、無闇に言いふらしたら、あいつに怒られるだろ。よし、本題に進もう」

 

アステリオスの後ろにある横浜港は今、霧に覆われた。

 

「先の連絡通り、我が同盟者は竜蛇の封印を解けた神祖と戦っている。神祖の名前はアリア」

 

エリカとリリアナは神祖アリアの名前を聞いて反応した。

 

「神祖アリア、聞いたことがあるわ」

 

「数年前、アメリカでジョン・プルートー・スミスと戦った神祖です」

 

「そうだ。ちなみに、あいつがスミスと知り合いとなったきっかけもその事件だった。で、アリアはランスロットの仇を討つため、日本に来た」

 

「俺のことか?」

 

死闘を繰り広げた女王を思い出す。

 

「そうだ。しかし、そのことについて、もともと介入するつもりはなかったよ。アリアは大した敵ではない。神殺しなら一人で対処できると言っていた。問題は彼女があいつを怒らせたことだ」

 

陸鷹化が戸惑う表情で聞いた。

 

「怒らせる?どうやって?怒りと憎しみなどはあの方の戦いから、最も遠い感情だよ」

 

「鷹化、そのカンピオーネと面識があるのか?」

 

「はい、叔父上。あのカンピオーネは僕の師叔に当たるお方です。かつて、彼は師父と激しい戦いを繰り広げた後、意気投合して、師父の弟弟子になりました。実際は、武術においてのライバルという関係が正しいでしょう」

 

「待て、武術においてのライバルということは――――」

 

「ええ、師叔は武芸が師父とほぼ同格で、あらゆる武器を使いこなせる天才です」

 

「羅濠教主と同格――」

 

「これは、大変ですね」

 

「補足すると、師叔は比較的に無害な神殺しですよ。戦いの時はまず民間人を避難させてから戦います。――その分、自然環境や都市などの破壊に無頓着という一面があるが。話を戻ろう、師叔が怒りを抱いて戦うことは正直、信じられないです」

 

「どういうこと?」

 

「彼は筋金入りのバトルマニアですよ。怒りと憎しみなど自分を苦しめる感情は楽しい戦いに必要ないと言っていました。相手を友と認めることも多い」

 

「ぼくとの戦いもそうだった。まあ、今回は流石に戦を楽しむ気分にはなれないだろな」

 

「それで、アリアというやつは一体何をした?」

 

護堂は単刀直入に聞いた。

 

「墓を荒らしたよ、あいつの妻の」

 

全員は絶句した。

ああ、これは確かに怒る。と誰もが思った

 

「アリアはあんたと戦うため、この都市の竜脈で魔方陣を設置し、魔力を吸い上げた。で、その一つはあいつの妻の墓場にあった。かなり酷い状況だったよ。魔方陣を描くため、邪魔をした墓石はすべて細々に潰された」

 

「「「「「「「…………………………」」」」」」」

 

「墓参りに行ったあいつはそれを見て激怒した。数時間かかって、墓地を権能で完全に修復した後、神祖アリアの抹殺に動き出した。アリアをおびき出すため、彼は竜脈と接続して、すべての魔方陣を破壊した。これはさっきの火の柱の正体。今のあいつは狂戦士といってもいい。その暴走を止めるため、あなたの協力が必要だ。草薙護堂」

 

「俺はどうすればいい?」

 

「あいつを殴れ。大体、暴走している原因はアリアが弱すぎることもある。相手は強敵だったら、どれほど怒っても理性を持って戦うだろ。暴走したあいつは正直に言うと弱い。技量は一割しか持っていない。だから、強敵を用意する」

 

「なるほど、正気を戻したらどうなるのか」

 

「おそらく、あいつはアリアを瞬殺し、あなたに迷惑をかけることについて謝るだろ。ちなみに、この都市は我が同盟者の故郷だから、賠償金などいくらでも払う」

 

「あの人も日本出身のカンピオーネかよ!」

 

全員は同時に驚いた。

 

「よかったね、護堂。同郷のカンピオーネが増えましたわ」

 

「―――思い出した。先日、師叔は叔父上のことを尋ねてきた時、草薙護堂という人と知り合いだと言いました。その反応から見ると、叔父上がカンピオーネになる前の知人だと思います」

 

「俺の知り合い?」

 

「名前を言うな。我が同盟者は自分で話すと決めたのだ」

 

「名前を知られたくない、俺の知り合い、妻の墓が都内にある…………一つ聞きたい、あんたの同盟者は兄の方か、弟のほうか?」

 

「……弟のほうだ。やはり分かったか」

 

「ヒントが多すぎるから」

 

「護堂。本当に知り合いなのか?」

 

「名前だけなら、エリカも知っているだろ。怒ると怖いやつ」

 

「あ」

 

先日のことを思い出したエリカは唖然となった。

 

「よし、それじゃ、ぼくが知っている能力と権能を教えよう……」

 

 

 

2、

 

頭に衝撃を受けた。

黒い兜は砕け散り、地面に落ちた。

僕は目覚め、自分を攻撃した相手を見つめる。

 

「…………護堂……なのか?」

『………………久しぶりだな』

 

「やはり、伯父さんか……」

 

護堂はボロボロの様子で血まみれだった

 

「……それ……僕たちがやったのか?」

『…………………………すまねえ』

 

「気にしないでくれ。伯父さんは悪気がないだろ。それに、これぐらい大したことじゃない」

 

「でも……」

 

次の瞬間、空から無数の水弾が襲い掛かり、僕と護堂は同時に跳び退った。

神祖アリアの攻撃だ。

 

いや、今はまつろわぬアリアドネと呼ぶべきかもしれない。

海の女神の姿を一時的に取り戻した彼女は蒼い竜蛇の姿になった。

しかし、その体は大地から生み出された多くの鎖に縛られ、動けない。

 

「それ、護堂の権能か?」

 

「伯父さんは盤古という神の権能でやっただろ!」

 

「……実際、僕にはこの数時間の記憶はない。ミカエルもないでしょう」

 

盤古の権能は大地を操縦する権能だ。

このような事ができると思うが、記憶はまったくない。

怒りすぎて、記憶が吹き飛んだようだ。

 

『話は後だ!あいつをぶち殺せ!兄弟!』

「ああ、分かった。護堂、後は僕たちに任せてくれ。先に退避してくれ」

 

「……終わった後は海に元に戻して。俺は無理だ」

 

それから、護堂は神速で戦場を離れた。

 

「海?……あ!」

 

今、自分がいる場所に気づいた。

東京湾全体は陸地になった。

 

盤古の権能で海底を上昇させ、戦いの場を整えただろ。

それに、相手が海の女神だから、海から切り離されると力が弱まる。

かなり合理的な一手だ。

 

――狂った僕たちもなかなかの戦士だと思う。

 

――…………護堂に攻撃した時点で戦士失格だろ!

 

――……あ、はい。

 

――後は一緒に謝ろう。

 

《おのれ!忌まわしき傭兵よ。我が計画を一度のみならず、二度も邪魔してくれたな。たとえ貴様はカンピオーネでも、このアリアドネに勝てぬぞ》

 

アリアドネの姿を見ると、胸の中から不快な感情を湧き上げた

 

「黙れ」

『さっさと死ね。これ以上甥に迷惑をかけたくねえ』

 

目の前の仇を消滅するために。

僕は奥義の解放を進んだ。

 

「ここに盟約の大法を発動する!最後の王アーサーよ。我に力を!」

 

アーサー王の権能発動条件は三人以上の神殺しは同じ場にいること。

僕、ミカエル、護堂。三人で条件を満たした。

盟約の大法により、呪力は爆発的に増えた。

 

その呪力で、僕たちはさらなる攻撃を繰り出した

選んだのは竜蛇に対して、もっとも有効な太陽の権能だ

 

「太陽は光明として、輝く武器として運行する。神王ミトラよ、天と地の主宰者として、罪人を焼き尽くせ」

『アポロンに祝福されし、我が友ヘクトールよ!この槍をもって我が敵を討ち滅ぼせ』

 

白馬が引くミトラの戦車はアリアドネに向けて堕ちてきた。

その後に太陽がある。

 

手にしたヘクトールの槍は高熱を発し、太陽の輝きを宿った。

ミカエルはそれをアリアドネに投げ出した。

 

《そんな、馬鹿な――――!》

 

彼女は逃げようとしたが、大地の鎖から抜き出せない。

 

「これは警告だ」

『転生しても覚えておけ、俺たちの妻に手を出したらこうなる』

 

二つの攻撃は彼女に直撃した。

盤古の権能で築き上げた大地はこの一撃を耐えられず、粉砕して海に沈んだ。

東京湾の海水は半分蒸発し、灼熱の蒸気に変えた。

それに、海の女神アリアドネの死が、東京を飲み込むほどの大きな波が引き起こした。

 

「トロイアの城壁よ。この都市を守りたまえ」

 

それに対し、僕はヘクトールの権能でトロイアの城壁を召喚し、海上から来た災いを防いだ。

アポロンとポセイドンが築き上げた城壁は、すべての衝撃と熱を吸収して消えた。

 

それを見届けた後、僕は護堂がいる場所に転移した。

 

「伯父さん、これはやり過ぎじゃないのか」

 

「何を言っている?神祖はこれぐらいやらないと死なないでしょう。スミスでさえ仕留めて損なったから、念入りにやっただけよ」

『それに、あいつはフェリシアの墓を荒らした。塵一つも残さねえぜ』

 

「「「「「伯父さん!!!?」」」」」

 

「あ、改めて自己紹介しましよう。僕は草薙護堂の伯父ミハイルで、神殺しの一員です」

『同じく、草薙護堂の伯父ミカエルだ、まあ、気楽で話していいぜ。護堂の妻たちは俺らにとって家族だ』

 

「叔父様はいつもあなた方の武勇を称えました。今日はお会いできて光栄です」

 

エリカは冷静で挨拶してきた。

 

『パオロと戦ったのは俺だ。彼はなかなか強いぞ』

 

周りを見ると、疲れたアステリオスが床に座っている。

呪力の消耗が激しいようだ。

 

『何かあったのか?アステリオス』

 

「――迷宮結界を張ったのだ。そうしなければ、この都市の竜脈は君たちに食い荒らされるだろ」

 

「すみません」

『迷惑をかけた』

 

「ぼくはクレタ島に帰る。用があったら呼ぶがいい」

 

アステリオスは神速の権能を使い、空に消えた。

僕は護堂に振り返った

 

「護堂、詳しい話は晩餐会の後で話そう」

『楽しみにしているぜ!』

 

「分かった」

 

「後は、この事件の後始末です。甘粕さん、少し話がしたいのですが」

『場所は鷹化の店でいいな』

 

「甘粕の上司、沙耶宮馨です。それに関して、私も話をお伺いしてもいいでしょうか?」

 

甘粕の側にいる沙耶宮馨という女性はそれを聞いて、同行を願い出た。

 

「それはちょうどいい。一緒に来てください」

『よし、それじゃ行こう!』

 

僕は神行法を発動し、甘粕、沙耶宮、鷹化と共に国士無双に転移した。

 

 

3

 

ミハイルが消えた後、草薙護堂はその場で崩れ落ちた。

顔色を変えた女性陣に対し、護堂は言った。

 

「大丈夫だ。少し休めば良くなる。それに、弱くなるって何なのだ。暴走した伯父さんは、ヴォバンのヤツより少し弱いだけじゃないか……」

 

 

先の戦いを思い出すと、全身が痛くなる気がする。

暴走したミハイルは技量こそ一割になったが、優れている戦闘センスが失っていない。

 

「ええ、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)と『猪』の融合体は一分足らずに消されたのを見た時、目を疑ったわ」

 

「スルトの炎の権能で装甲の一部を溶けて、ヴァルナの権能で『猪』を強制的に帰還させました。原理はペルセウスの時と同じです」

 

「司法神ヴァルナは神王ミスラの同盟者だから、ウルスラグナの権能に対し、強い効果があると思います」

 

「『剣』でヴァルナの権能を封じてから始めて、伯父さんの隙が見えた。そういえば、あの気功は強すぎるだろ。殴った時に触れただけで、俺の呪力は三割ほど奪われた」

 

「三割!?あの一瞬で?」

 

「陸鷹化がそれを話しただけで、冷や汗がするのも無理はありません。『明玉神功(みんぎょくしんこう)』は噂通りの恐ろしい内功でした。アステリオス様がなければ、東京の竜脈は本当に吸い尽くされたでしょう」

 

「俺の感覚では、あれはまるで竜巻のようなものだ。膨大な呪力を回転させ、周辺の呪力と生命力を吸い込み、自分のものにする。姉さんなら普通に対処できそうが、俺には無理だ。権能で無理矢理に破るしかない」

 

「貴方が怒ると怖いと言っていたが、アレは怖いという次元を遥かに越えたわ、護堂。あの人は親戚で良かったですね。そういえば、晩餐会は何なのでしょうか?」

 

エリカは思い出したようで、さっき聞いたキーワードを話した。

 

「ああ、数日後、親戚たちと一緒に食事をする予定だった。正直ミハイル伯父さんの歓迎会になったぞ。一族の人々もあの人のことを随分心配している。伯母さんが亡くなってから、ずっと世界各地に放浪しているから。――まあ、あの様子じゃ、伯父さんは随分旅を楽しんでいるようだ」

 

「神を殺しながら、旅を続いている……たぶん世界各地のまつろわぬ神が消えた理由はミハイル様に関係があるでしょう」

 

「それについて、晩餐会の後で話そうと言ってくれたから、本人に聞くほうが早い」

 

しばらくしたら、動けるようになった護堂は仲間とともに、壊れた港を離れた。

 

 

 




明玉神功(みんぎょくしんこう)
膨大な気を竜巻のように運行し、周辺の魔力、呪力、熱、生命力を吸収し、自分のものにする気功。
習得難易度は凄まじく高い。数百年に一人の天才だけが使いこなせるといわれている。
他人の気を吸収するため、邪派の武技だと誤解されやすいが、れっきとした正派の内功である。

本来、この内功をもってしても、まつろわぬ神に対抗できない。
ミハイルとミカエルが使ったのは自分で魔改造したもので、まつろわぬ神の呪力も大量に吸収できる。
アステリオスとの戦いで、アステリオスが持久戦、接近戦を放棄した原因はこの内功である。

羅濠教主は原版の明玉神功(みんぎょくしんこう)が使えるため、対処法をよく知っているから、ミハイルとミカエルを相手に持久戦を持ち込められる。




元ネタは古龍の武侠小説《絶代双驕》からです。

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