魔王、帰郷   作:dukemon

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第8話

八、

 

1、

 

【グリニッジの賢人議会により作成された、ミハイル・ミカエル・クサナギについての調査書より抜粋】

 

ミハイル・ミカエル・クサナギ、『双貌の魔王』として呼ばれる彼は、魔王内戦の後で新たに確認されたカンピオーネである。

七番目のカンピオーネ、草薙護堂は彼の甥に当たる。

 

その名前は欧州の魔術関係者にとって、伝説である。

彼が欧州にその名を轟かせたのは、二十歳の時、ある大貴族の令嬢と駆け落ちした事件であろう。

五年間、全欧州の魔術結社が派遣された精鋭たちを悉く打ち破り、妻との結婚を大貴族に認めさせたという。

その間、彼は魔術を一切使えなかった事を明記しておく。

 

事件の後、数多の魔術結社は彼をスカントしようとするが、拒否された。

意外に、追い手の精鋭たちは彼の人柄にかなりの好感を持っているという。

 

ミハイル・ミカエル・クサナギは妻と娘と一緒に欧州を離れた後、十四年間日本に定住していたという。

三十九歳の時、妻と死別し、放浪の旅に出た。

同年、まつろわぬヘクトールを殺し、神殺しに成り上がる。

それから、彼はカンピオーネの身分を隠し、傭兵として名を馳せた。

 

数多くの難事件をこともなげに解決した彼は、最高の傭兵に称えられた。

もし、魔王内戦と最後の王の事件がなければ、神殺しであることを後何十年隠せるかもしれないのは共通の見解である。

 

彼は過去に類を見ないカンピオーネだ。

ミハイルとミカエルの二重人格により、神を殺した際、二つの権能を手に入れられる。

彼が現在行使できる権能の数は、十六。

おそらく有史以来、もっとも多くの権能を所有しているカンピオーネであろう。

 

以下はその権能の詳細――

 

2、

 

『これはひどい』

「――いや、たぶん護堂がこの報告書に関わったでしょう。大事なものは一切触れていない。アリシアや義父の事など一切書いていないよ」

 

魔王内戦から数年、自力で並行世界から帰還したミカエルは知り合いに仕事を斡旋してもらおうとするが、彼を見た相手は土下座をして許しを乞った。

カンピオーネの事はバレたと二人は悟った。

 

目の前の相手は仲介料をわざと高く設定している事をとっくに承知していた。

その分、面白い仕事が回してくれたから不満はない。

 

そして、賢人議会の報告書を読んだ。

もし、妻、娘、義父と養父など家族に関する詳しい事項を書いてあったら、即刻にそこを潰すと思った。

幸い、そんなことはなかったようだ。

 

『考えてみれば、あれほどのことをやったから、バレるのは当然だぜ』

「ああ、魔王内戦の最初に少しやりすぎたと思う」

 

最初は、九人の神殺しで発動した『盟約の大法』で護堂、アレク、スミス以外の神殺しを殺そうとしたが、全員無傷でその攻撃から逃げおおせた。

羽田空港が深さ数十キロメートルの大穴に化したという残念極まりない結果だけを残っている。

後は、護堂にこの事について叱られた。

 

最終局面で、羅濠教主とサルバトーレ・ドニを連れて、通廊に堕ちた。

あの二人なら、並行世界から簡単に帰られるだろう。

 

「この世界ではもう傭兵仕事は無理だと思う」

『並行世界の旅を続こう。ああ、まず護堂に連絡しなければならねえ』

 

簡単に旅を続くという情報を書き、『投函』の魔術で護堂に送った。

護堂への連絡はこれぐらいで十分。

 

次は日本へ転移し、家族を訪れる。

さすがに、数年間行方不明となったミハイルは一族にかなり心配された。

 

アリシアだけが護堂からカンピオーネの事を知ったから、それほど心配はしていない。

彼女は魔術結社を結成し、護堂の手伝いをしている。

もちろん、警備会社の仕事もきっちりこなしている。

他のカンピオーネにもそれなりのつながりを持っているようだ。

 

『なんというか、俺たちよりしっかりしている…………』

「ええ、僕たちは面倒で途中で会社と魔術結社を投げ出すでしょう」

 

「それは当然でしょう。パパたちは自由な人だから」

 

フェリシアの墓の前に、アリシアと話を交わした。

 

「最後に、一つ聞きたい事がある」

『確認したいのだ』

 

今まで打ち明かす事はできないことを話した。

彼女は今、魔術の世界を知っているから。

昔、フェリシアと交わした約束を果たす。

 

「フェリシアが死んだのは僕たちのせいだ」

『俺たちを恨むのか』

 

「ないわ。籠の中で長く生きる事より、ママは外の世界を見たがった」

 

フェリシアは体が弱い。

生まれながらの莫大な呪力は彼女の身体を蝕んだ。

義父はその命を延ばすため、全力を尽くした。

もし、駆け落ちしないで義父のところにいたら、あと何十年生きているだろ。

 

「もう、義父から聞いたのか」

 

フェリシアの病因について、アリシアが魔術の世界と接触した後で話すと決めていたが、どうやら義父が先にこの秘密を話したようだ。

 

「ええ、じいさんはパパたちに感謝しているよ。ママの笑顔を見られてよかった、と」

 

「僕たちは本当に家族に恵まれている」

『心配させてごめん、と伝えてくれ』

 

そして、微笑むミハイルとミカエルは花束を残して、この世界から旅立った。

『流浪の魔王』は帰郷を果たして、再び終わらない旅へ向かった。

 

 

 

《魔王、帰郷》 終

 




これで完結です。詠んでくださった皆様、ありがとうございました。

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