我が呼ばれたき名は   作:油揚げ

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拙作を書くのにうしおととらを読み直して、真由子のヒロインっぷりに白の容姿を真由子にしたのを謝りたくなった。



第十一話 パーティー

 澄んだ空気がいつも以上に空を高く見せる冬。寒さを届ける空気は未だにその残滓を残していた。

 リョウコと戦いから二週間、八雲達は(ホァン)邸にてやっかいになっていた。

 屋敷と呼んで差支えない豪邸からは大層な資産家であることは疑いようが無く、そんな所謂、お金持ちと八雲が慕しいのは、二か月以上も前になる黄の夫の殺害事件を八雲達が解決したことによる縁からだった。

 黄からすれば仇を見つけてもらった事の恩返しらしく、まだまだ恩を返したくて仕方ないらしい。

 

「ほら、さっさと来い」

「-----」

 

 そんなお金持ち黄の庭は非常に広く庭園を除いてもサッカーが出来るくらいには広く、滞在期間中に何もしないのは勿体無いと白と鈴々(リンリン)は八雲を鍛えていた。

 半身に構える白に対して、八雲は截拳道(ジークンドー)の構えをとっている。

 

「もっと腰引きなさい!」

 

 鈴々の指摘が飛び、八雲は言われたとおりに腰を引く。鈴々は八雲に体術、截拳道を中心に教えていた。截拳道は目付き等の急所攻撃を主体とする武術。手段を選ばない鈴々にはある意味お似合いと拳法である。

 そして、八雲もスポーツで武術をするわけではない。相対するのは、不死の秘密を狙う妖怪や先のベナレスの様なニンゲンの像を狙う者達だ。手心を加える必要は皆無である。

 

「ヤクモー頑張ってー!」

 

 両手を口に添えてパイが八雲に声援を送る。

 可愛い、しかも好意を寄せている女の子がそんな声援を送れば、気にならない男子は居ない。

 

「――――」

 

 体制は崩さないまでも、八雲はちらりとパイに視線を送る。送ってしまう。

 

「……スキあり」

 

 やれやれと苦笑しながら白は八雲の眼前まで素早く移動する。背を屈め、一気に距離を詰めて急に立ち上がったため、八雲からは白が瞬間移動したかのように見えただろう。

 

「うわあ!ちょ、タンマ、タンマ」

 

 全力は出さずに左フック、そして左の太腿を狙うように回し蹴りを放つ。

 

「う、ぐ、おおおぉ!?」

 

 なんとか白の攻撃をいなし続けるが、それはあくまで白は八雲が受けられるようにしているためだ。一方的に叩き伏せられるだけではトレーニングとは言えない。

 

「ふっ!」

 

 ようやく白の攻め手に慣れたのか八雲からようやく右の拳が白の顔面に向かって突き進む。容赦無く女の顔面を狙っているが、それは自分の攻撃は白には当たらないと確信している為でもあった。

 そして八雲の予想通り、八雲の攻撃は空を切った。

 

「え?」

 

 ふわりと八雲の拳を垂直飛びで躱して白は八雲の背後に回り込む。

 

「ふっ」

「はわぁ!?」

 

 白の熱を孕んだ吐息が八雲の耳に当てられ、八雲は女の子の様な悲鳴を上げて倒れ込む。八雲の無様な様子に二人の訓練を見ていた鈴々やパイ達から失笑の様な笑いが零れた。

 

「パイを守るっていうなら、もうちょい精進しないとなぁ」

 

 ニンゲンの像を取り戻してから二週間あまり、こんなゆったりとした日々を白達は送っていた。予想されたベナレスからの襲撃は無い。油断できる相手ではないが、探ろうにもとっかかりすらも無い現状では、修行を重ねることくらいしかやることはない。

 

(多少、力は戻って来たが……まだまだだな)

 

 八雲をまだまだと言いながらも白自身、自分の力には満足してはいなかった。二週間余り色々と試してはいるが、僅かに力が戻って来たような気もするが、日々の体調の範疇ともいえる程度だった。

 せめてかつての尾の様に権能が振るえれば戦術が格段の広がるのだが、かつての権能が戻るかどうかすらも定かではない。

 

 

 

 

 

 像の分析待ち。白達は現在、それが終わるのを黄邸で待っている状態だった。

最初の数日は緊張感があったが、それも音沙汰なければ徐々に薄れていく。それもつい先日まで高校生だった八雲とチベットの山奥で一人平和に暮らしていたパイであれば、緊張感を保つのは無理だった。

 白にしてもそうだ。二人の命が狙われているならまだしも、ベナレスが欲しているのが像である。奪われても最終的に奪い返せば良い。二人の命のためなら差し出すことすらも吝かではなかった。

 

「異常はないな」

「はっベナレスと言えど、まさか街中で襲っては来ませんでしょう」

 

 白塗りの高級ベンツの助手席に座りながらの黄の言葉に運転席の大柄な男性はそう報告する。男は先日の像奪還作戦の際にも活躍した黄の腹心の一人であった。

 

疾鬼(シュンカイ)、ど、どうするつもりだ」

「なに、あやつらが本物の三只眼(さんじやん)と无だとわかった以上、ベナレスに従って敵に回すことはない」

 

 黄は後部座席のもう一人の人物から疾鬼と呼ばれて当然の用に返事する。そればかりか、ベナレスの事もそれなりに知っている体で話すではないか。

 

「万が一、鬼眼王(カイヤンワン)が復活なされなければ、その時は……」

 

 

「あの娘を第二の鬼眼王と祀り上げるのだ」

 

 黄はそこでメガネを外し、振り向いた。

 

「よいな、もう二度とあの娘に手を出すなよ」

 

 そこには日本で散々八雲達を苦しめたギョロ目の妖怪の姿があった。

 黄は何も善意で八雲達を手助けしていたわけではなかった。ベナレスの部下の一人では有るが、機が有れば寝首をかくつもりの獅子身中の虫であった。八雲達がギョロ目の妖怪に襲われたのはパイが滅んだ三只眼の生き残りであることと、八雲が无なのかを調べるためだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「明後日の朝までに香港仔(アバディーン)に像を持って三只眼一人で来い」

 

 黄が緩やかに思惑を進める中、いよいよベナレスからのアクションが届いた。頭を失ったタクヒの体を操り、ベナレスが現れたのだ。

 騒ぎが大きくなる事をベナレスも避けたのだろう。三只眼が一人で居る時に現れたようだが、異変を察知した白と、パイに用事があった八雲もベナレスの要求を聞くことが出来た。

 ベナレスの要求はシンプルだった。

 像を寄越せ、三只眼一人で来い。

 ただそれだけだ。だが、そんな要求を飲める八雲と白ではない。

 

「ふざけるな」

「パイは絶対に渡すかよ!」

 

 白は静かにしかし確かな怒りを込めて、そして八雲は怒りを隠そうともせずに怒鳴り声を上げた。

 

「……安心しろ、鬼眼王様復活の妨げにならぬ様に眠ってもらうだけだ。命は絶対に保証しよう。あくまで要らぬちょっかいをされないようにするだけだ。鬼眼王様が復活してもしなくても無事に返そう」

 

 余りにも良すぎる条件。敵対すれば危険極まりない相手からの提案としてはこの上無い条件だろう。あくまで話が本当であればだが……。

 

 ぐちゃり。

 

 白と八雲が思い悩む中、タクヒの体が前触れもなくひしゃげ、床に落下する。鮮血が高価な絨毯を容赦なく汚していく。

 

「よいか?この屋敷にいる者たちをこのようにしたくなければ、素直に従うことだ」

 

 よく考えておけ、明後日の朝までに

 

 

 待っているぞ。

 

 

 

 有無を言わさぬ声が三人の耳に届いた。

 

 

 満月の下、三人はタクヒを丁重に葬っていた。人間の顔に鳥の体、足は一本という非の打ち所がないくらいに化け物っぽいタクヒだが、三只眼やパイからすればずっと一緒にいた家族だ。

 それを示すようにいつもは強気な三只眼の眦には涙が溜まっている。

 

「昔のーーーーことじゃ」

 

 遥か昔のこと、三只眼の一族の中からこの世の全ての者の上に君臨しようとした邪悪な三只眼吽迦羅が現れたという。その者の名が鬼眼王。鬼眼王は多くの種族を奴隷とし、それどころかそれを諌めようとした同じ種族たる三只眼吽迦羅ですら容赦無く惨殺したという。

 ベナレスを无とし引き連れたその力は敵対者を次から次へと消していった。

 

「まさに地獄の日々じゃ」

 

 三つの瞳に憂いを滲ませ、パイは力なく話を続けていく。

 

 鬼眼王の残虐な行動に三只眼吽迦羅達は遂に最後の作戦に打って出た。ベナレスを別の地に引き付け、残った一族全員で聖地へと封印しようとしたのだ。

 

「命をかけてな……」

 

「気がつくと儂は一人になっていた……。今まで何の音沙汰もなく全てが終わったことだと思っておったが……」

 

 そこで涙を隠すためか、俯いていた三只眼が力強く顔を上げた。

 

「戦うぞ八雲。奴が約束を守る保証は無い。それどころか鬼眼が復活すれば人間も滅んでしまうじゃろう」

 

 かつて一族を滅ぼされた三只眼には鬼眼王の残虐さは痛いほどに分かっていた。復活を遂げれば間違いなく再び世界を統べんと行動を起こすだろう。そして抵抗するものは容赦なく殺す。そう例え三只眼が要求を飲んで一人で向かっても鬼眼王が復活すればどうなるか分かったものではない。

 

「わ、わかった……」

 

 主人とその従者で話を続けていく中、白がその会話に割り込んだ。

 

「おいおい、私を置いてけぼりか?」

「貴様、来るつもりか?」

 

 三只眼は形の良い眉を歪ませて言外に拒絶を表した。なぜならベナレスは三只眼を殺すつもりはない。そして八雲は三只眼が生きていれば死ぬことはないのだ。だが、白には何の保証もない。

 

「死なないってわけじゃないが、少なくもそこの八雲よりは強いぞ?」

 

 三只眼も馬鹿ではない。それに鬼眼王をかつて三只眼の一族は封印したと言っていた。ならばその封印法があるのではと白は考えていた。

 

「……分かった。危険を承知なら構わんじゃろ。出発は明後日の朝じゃ。それとこの事は屋敷の者には言ってはならぬぞ。もちろんパイにもじゃ」

 

 三只眼とパイは一人の人物の別人格だが三只眼に主導権が有る。パイは皆の命が危ないとあらば自分の命を何の躊躇いもなく捧げてしまうだろう。それ故の指示だった。

 

 

 

 

 エンパイアのドレスに身を包んだ白は未成年にも関わらずワインの入ったグラスを傾け、喉を潤す。……未成年なのに。

 ベナレスからの要求が届いた翌日、黄邸では(ロン)の退院祝いのパーティが行われていた。

 ベナレスの元に行くのは翌日、本来ならばゆっくりしていられる訳もないのだが、黄や鈴々にベナレスの事を感づかれるのは不味い。白達は悟られぬようにパーティを過ごしていた。

 

「良い飲みっぷりねぇ白ちゃん」

「まぁな。良い酒だ」

 

 演技は白にとって何も難しいことは無い。一国を権謀術数で操り滅ぼしたその演技力は只の人にバレることは無いだろう。

 

「日本酒は?」

「あるわよぉ!」

 

 どん!と一升瓶がテーブルに乗せられる。白は面白そうに笑うと椅子にどかりと座り込んだ。どうやら呑み比べをするようだ。そうして皆の注目を集めると八雲を見やり顎でしゃくる。

 

(やれやれ、お膳立てはしたやったんだ上手くやれよ)

 

 ベナレスとの戦い、無事で済むかもわからない。八雲はパイに思いを伝えるつもりのようであった。しかし十六の初心な少年。ちらちらとパイに視線を送ったり、なんとか二人になれないかとしてはいるが空回り。

 老婆心から白は八雲に協力してやることにしたのだ。……決戦前の告白は激しい死亡フラグの様な気もするが、无なら大丈夫だろうという判断だろう。

 

 

 

 

「俺、人間に戻ったら、東京に戻ろうと思うんだ……」

 

 

「パ、パ、パイも一緒に、ど、どうだ?」

 

「お、俺……パイの事……」

 

 

―――うん、ありがとう。人間になったらね―――

 

 二人の唇が重なった。確かに気持ちがつながった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――人間になれたら(・・・・)ね――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人で行くなんて釣れないじゃないか?」

 

 その言葉にパイはぎょっと驚き、体を強張らせた。

 パイは知っていたのだ。三只眼と八雲達が口を噤んでも、タクヒの魂がパイに事情を知らせたのだ。本来なら无や三只眼吽迦羅の相手は无が一番適している。だが、八雲は弱い。

 八雲はパイが三只眼が无にしてしまったのだ。本来ならば戦いとは無縁の存在。それなのに幾度となく戦い、傷ついた。優しい八雲にパイがこれ以上戦ってほしくはなかったのだ。

 

「白!な、なんで!?なんで来ちゃったの!?」

 

 悲鳴の様な声を上げてパイは白に詰め寄った。せっかく勇気を振り絞って来たのに、本当は―――。

 

「心細いなら、寂しいなら言え」

 

 ぐいっとパイを抱き寄せて白はそういった。八雲を誤魔化すことは出来ても、数千年の記憶を持つ白には通用しない。パイが何か悲壮な決意を秘めていること、そして何を考えているかを察するのは容易な事だった。

 

「う、うぅ……私、私……」

「……泥なんてなんだい、か」

 

 誰かのために泥を被れる。命をかけられる。パイの在り方は潮の様だと白は感じていた。だからこそ、守りたいとも強く思う。

 

「なぁに奴を倒して帰ろう。八雲のところにな」

「うん!」

 

 勝ち目は少ない。不死に加えて素の力も白は勝てないと分かっていた。勝つ方法があるとすれば、三只眼の持つ力だけだ。かつて鬼眼王を封印したという力やギョロ目の化け物を吹き飛ばした力だ。

 

「……付き合わせて悪いの」

 

 三只眼に人格が変わり、小さな謝罪が白の耳に届く、白は小さく苦笑すると香港仔(アバーディーン)に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小娘一人と言ったはずだが?」

 

 デニムのズボンにTシャツ、そしてジャケットとという先日を同じ出で立ちのベナレスはそう白達に問うた。

要求を無視したにも関わらず、ベナレスには気分を害した様子はない。それが白達を脅威と感じていない所作となった。

 

「大人しく付いてくると言う訳でもなさそうだな」

 

 臨戦態勢になり髪が白くなった白を見てベナレスは楽しそうに笑う。

 

(戦闘狂か、舐めてかかってくれるなら僥倖だ)

 

 白は道すがら、三只眼と計画した通り白が前衛でベナレスの隙を作り、三只眼がその隙にベナレスに全力を叩き込むという作戦を実行する。

 まるで獣の様に疾走すると両の爪を突き立てんと襲い掛かった。

 

「ふむ、大振りだが……的確にこちらの動きを先読みする」

 

 左右の爪をフェイントを織り交ぜて不規則に白が振るうがベナレスは服に掠らせても、それ以上は許さない。ベナレスの皮膚には一切の傷が付かない。

 

「だが、先読みに体が付いてきていないぞ。惜しいな」

 

 戦闘の経験は幾らでもある白だが、体はその経験を積んだかつての体ではない。白が思う動きと実際の動きには大きな乖離があった。

 

「無駄口を……!」

 

 嘲るならまだしも、まるで教導するように白の動きを注視するベナレスに白は怒りを覚えるが、動きに感情を乗せる愚は犯さない。パターンを決めず常に新しい動きを心がけベナレスの読みを外そうと奮戦する。

 

「そら!」

 

 しかし、身体能力も圧倒的に開きが有り、白は攻撃に転じたベナレスの右回し蹴りを避けられず左手で受け止める。

 

「がっ!?」

 

 体を撓らせ、脱力し勢いを殺そうとするが、それでもベナレスの攻撃は白の前腕の橈骨と上腕骨をへし折った。

それだけでなく、衝撃は全身を駆け抜けともすれば崩れ落ちそうになるほどのダメージを白は負ってしまう。

 ギリっと血が滲む程に白は歯を食いしばり意識を保った。じんじんと折れた腕から熱が生まれ、痛みが波紋の様に広がっていく。

 

「っ!!」

 

 白の双眸が大きく開かれ、絹糸と見間違わんばかりの美しい髪が周囲十メートル以上に渡って広がる。髪は各々の獲物に絡みつき、ふわりと空へと浮いていく。

 

(これが限界……か!)

 

 五~六百キロ近い鉄パイプや自転車といった物を白は必至の形相で持ち上げている。どれもこれも叩き付けられれば人では只では済まないだろう。

 

「ほぅ、これは中々の芸だ」

 

 宙に浮かぶ無数の凶器を前にしてもベナレスには余裕の態度を崩さない。それが生来の丈夫さからなのか、はたまた无ゆえの再生能力からの余裕なのかは白には判断がつかない。

 

――――

 

 前触れも無く白は空中の凶器達をベナレスへと向かわせ始めた。重力加速度と白の髪からの加速により凄まじい速度となり廃材や自転車達はベナレスへと殺到する。土煙が舞い上がり金属音が何重にも重なった音は白の下腹に大きく響いた。

 

「うわっぷ!?」

 

 突然、走り抜けるように突風が吹いたかと思うと、土煙は跡形も無く姿を消した。

 

「……かすり傷、どころか一歩も動いてないとはね」

 

 感心するように諦めすら込めて白は称賛する様にそう口にする。何十もの鉄くず等の凶器が一斉に己に向けられたにも関わらず、ベナレスは一歩も動かずにそれらを捌いていた。辺りにはどんな方法を使ったのかは定かではないが、粉々になった自転車やごみ箱が散乱していた。

 

「まぁまぁだ。俺に向かわせたのがそれなりの武具だったならもう少し手間取った」

 

 服の裾を叩き埃を払いながらベナレスは感心の言葉を漏らした。

 

「そうかい!」

 

 そう言いながら、今度は自分もベナレスに向かいながら白は巧みに髪を操り迫る。近距離攻撃と髪の波状攻撃、今の白だけで出来るのはもうそれぐらいしかない。

 しかし、左手が折れている現状ではそれは悪あがき以上の効果は生まない。ベナレスは白の攻撃を面白そうにいなし、受け止め、遊んでいた。

 

「おおおおおお!」

 

 髪を巻き上げ白はベナレスの視界を奪う。

 

「ふん……そろそろ限界か」

 

 鬼眼王が封印されて数百年、その一番の配下であるベナレスは王の代理人とも呼べる存在だ。鬼眼王が自ら選んだ強者であり、さらに不死、正面から彼に刃向うものはここ暫く現れていなかった。そう、ベナレスは久しぶりの戦いを、格下ではあるものの命を懸けて戦う白との戦いを楽しいと感じていた。

 だが、いつまでも戦っているわけにもいかない。相手の限界が見えた以上、ベナレスにはこれ以上戦いを長引かせるつもりはなかった。

 

「褒美だせめて、楽に……そこか!?」

 

 視界に移る影、ベナレスの渾身の拳が振るわれた。

 

「なに?……!!」 

 

 びたりと止まるベナレスの拳、ベナレスの目の前には三只眼が立っていた。

 

「かかったな!このうつけが!消えよ!」

「ぐ、があああああああああ!?」

 

 厳!

 

 三只眼の両手から凄まじい光が溢れ、ベナレスの胸から上を消し飛ばす。さしものベナレスも何の防御も出来ない状態で三只眼の光術から逃れる術は無い。頭部と胸部を失った体はそのまま仰向けにどかりと倒れていく。

 

「……やったか?」

「ふぅ……上手くいって良かったぁ」

 

 呆ける三只眼に白が駆け寄る。一度の力を使ったため大分消耗したのか三只眼は白に体を預けて冷や汗をぬぐった。

 

「……我ながら良くもまぁ上手くいったものじゃ」

「あぁ、助かった。早く封印を……」

 

 无であるベナレスの頭を吹き飛ばしても死ぬことは無い。故に封印を施さなければならない。白は酷と分かっていながら三只眼を急かす。

 

「な、に?」

 

 鳥肌が立つ感覚を覚えながら、白は三只眼とともに後ずさった。

 八雲は頭が完全にくっ付くまでに三日(・・)を要した。切断面はともかく頭がほぼ無事だったにも関わらずだ。しかし、ベナレスは胸部から上を根こそぎ失っている。

 

「がぁ!?」

 

 パイを突き飛ばし、白はベナレスの前蹴りを腹に受ける。腹腔からは聞こえてはいけない音が口を通して漏れ、血が勢いよく吐き出された。

 そしてその勢いのまま、ノーバウンドで白は廃材へと突っ込んだ。

 

「ふ、ふ……久方ぶりだぞ?頭を吹き飛ばされたのは」

 

 そう皮膚が張り付いていない()で発音が濁りつつもベナレスは愉快そうに呟いた。

 

 

 

 

「白!?」

 

 三只眼の白を案ずるような悲鳴が上がる。思わず三只眼は白に駆け寄ろうとするが、ベナレスに首を掴まれ阻まれてしまう。

 

「ぐぅ!?き、貴様っ!」

 

 首の後ろを掴まれ、そのまま吊るし上げられた三只眼は体格の関係で宙に吊るされた状態になってしまう。見ればベナレスは頭部は左目が、腕は三只眼を掴む腕は骨や筋肉がむき出しの状態だった。

 右腕はほぼ再生しておらず、負傷した部分の皮膚はほぼ無い。

 

 だが、動いていた。白や三只眼をきちんと認識している。戦えていた。

 

「ふふ、油断、した、ぞ」

 

 濁った声でベナレスは笑う。不死でなくば死んでいたであろう程のダメージを負いながらベナレスは喜悦を感じていた。

 

「まぁいい……」

「貴様、何をするつもりじゃ!?」

 

 徐に白が吹き飛んだ方向に向かってベナレスは大きく口を開く。口腔には見る間に力が蓄えられていく。

嫌な想像が三只眼の脳裏を過る。先ほどの攻撃で既に白は戦闘が続けられないだろう。もしかするとその場で動けなくなっていてもおかしくはない。

 

「やめ……」

 

 三只眼の制止もむなしく、眩い光の帯が白に向かって放たれた。

 

 




劇中の厳!という箇所はうしおととらの止めの一撃的な表現を表しています。



うしおととらで好きなシーン紹介のコーナー(?)

「ま」「ゆ」「こ」



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