我が呼ばれたき名は   作:油揚げ

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二部の始まり


誤字報告ありがとうございます。


第十三話 命を共にする者

 少年は、少女と再会する。

 それは彼にとっては長い長い旅の終わりであり、そして新たな旅の始まりとなるはずだった。

 

 

 

 

 

 

「俺は藤井八雲、君と命を共にするものだ」

 

 

 

 

 

 

 しかし、八雲の言葉に対する目の前の少女の反応は八雲にとっては予想外の反応だった。

 

「アハハハ、なーにそれ?」

 

 現に目の前の少女は八雲の言葉をナンパと思い笑っていた。

 

「え、いや何っていうか……そのままの意味で、つまり俺と君の命は……」

 

 少女の思わぬ反応に八雲はしどろもどろに説明するが、少女はけらけらと楽しそうに笑うばかりで八雲の話の半分も聞いていなかった。

 

(話が全然、通じねぇ……やっぱ記憶が無いのかぁ)

 

 別に八雲は見知らぬ少女をナンパしていた訳では断じてない。

 パイが香港仔(アバディーン)より姿を消してから四年もの歳月が過ぎていた。ベナレスとの戦いの際に白は意識を失い。戦いの結末がどうなったのか知る術は無かった。三只眼もベナレスに敗れ連れ去られてしまった可能性は高く、そしてそれが最悪のパターンであった。

 少なくとも八雲が生きているということはパイもまた生きている。二人は(ホァン)そして鈴々(リンリン)の協力の下、世界中を探し回った。白は北米やヨーロッパ、アフリカ。八雲は中国、南米、東南アジア。各地で捜索し、その中で体術や獣魔術を習得し実力はついたが、終ぞパイの手掛かりはなかった。

 だが、遂にパイと思われる少女が東京にいるのを突き止めたのだ。

 

「あんなぁ、俺はウソなんかついちゃいねぇ」

 

 しかし、当のパイは記憶を失い綾小路ぱいを名乗っていた。学校にも通っており、まさかの他人の可能性も無くは無い。だが妖怪を追い払うのに無意識に力を使った事、そしてなにより(ウー)の本能が八雲に目の前の少女を守れと訴えているのだ。本人でないわけはない。

 

「じゃあ、私のドコが妖怪なのよ?さんざん私に話しかけてきて、結局ナンパなんでしょ!?」

「ナン、パ?」

 

 予想外の言葉に八雲は硬直する。何年も必死に探し求めてきた相手が自分の事を忘れ、しかもナンパ扱い。やっと出会えると思いここ数日、言いたいことを必死に考えてきた八雲は頭を抱えた。

 

「あのなぁ、俺はナンパ目的じゃねーし。ウソも言ってねぇ。ウソついてんのは君のじいさんだよ」

 

 埒が明かないとばかりに八雲はぼそりと呟いた。

 パァン!

 空気が弾けるような小気味のいい音が響く、ぱいのしなやかな左手が八雲の頬を引っぱたいたのだ。

 

「おじいさまの悪口を言わないで!私、あなたの事が大嫌い!」

 

 驚く八雲にぱいは怒りを隠そうともせずに捲し立てる。八雲は叩かれた右頬を抑え目をぱちくりとさせていた。

 そんなやり取りをしていると、ぱいが通学に利用しているバスがやってくる。ブレーキ音が終わると勢いよくドアが開く、下りる客はいなかった。

 

「ばいばい」

「あ、待った!これを!」

 

 再起動を果たした八雲がポケットから、なにやら奇妙な物をぱいに投げ渡す。宝石ではないにしろ色鮮やかな石や布が施され意匠は独特ながらも美しい。

 

「それは、シヴァの爪だ。手に付けることで君の力をある程度、引き出せ、る」

 

 しかし、悲しいかな言い寄る八雲を不審に思ったのかバスは無情にも走りだし八雲はバスを追いかけながら渡した呪具の説明をする羽目となっていた。

 

「なにか、あったら使……」

 

 そんな八雲を尻目にバスはぐんぐんと加速していく。不死身の肉体を持つとはいえベースは人間。流石にバスに追いつくことは出来ない。そこで、八雲は気づいた。

 

「し、しまった!?」

 

 護衛するはずなのにぱいを一人にしてしまった事に。

 

 

 

 

 

 

「やばい、やばい!」

 

 荷物の中からナイフや手甲を取り出しながら八雲は焦っていた。平時ならまだしも、ぱいは今まさに何者かが目を付けているのは明白、そんな中で一人にするのは余りにも危険な事だった。好きな相手に大嫌いと言われた上に頬を叩かれたのは予想以上に八雲を注意散漫にしてしまったようだった。

 最低限必要なものを身に着けた八雲は急いでぱいの後を追い始めた。

 ぱいを救うのはもちろんだが、これが幼馴染であり八雲が頭が上がらない存在である白姉ぇこと葛葉白に知られれば死なないのを良いことに新しい術の実験台にされかねない。

 

「無事でいてくれよ!」

 

 ちなみに白がそんな実験をしたという事実は無い。完全に八雲の被害妄想である

 額の无の印をバンダナで覆い、準備を終えると八雲は走り出した。その表情には一切の恐れはない。走る姿に隙は無く、漂う気配は強者のそれだ。もう以前の八雲ではない。確かな戦士としての姿がそこにはあった。

 

 

 

 夜気が満ち満ち、人の時間が終わり妖達の時間が始まる。

 ぱいは八雲の想像が当たり、不幸にも女性型の生き人形とも呼べる妖怪に友人ともども捕まっていた。

 

「さぁ我が父に不死を!」

 

 生き人形は自らを作り出した主を不死にするために三只眼吽迦羅を求めていた。待望の三只眼吽迦羅の末裔ぱいを捕えた生き人形はぱいに迫る。

 

「私、知らないんです。普通の人間なんです!」

 

 しかし、綾小路ぱいはぱいではあるが、パイの記憶は無い。どんなに不死を求められても叶える術がなかった。

 パイの返答にそれまで朗らかな笑みを浮かべていた生き人形は怒気を露にする。まさに人形の様に否、整った人形の顔は整っているが故により恐怖をパイに与える。

 パチンと生き人形は人間がそうするように器用に指を鳴らす。すると、壁から鎖が飛び出しぱいの両手を吊るし上げ、拘束する。

 

「我らを拒むというのですか、ならばこの子たちはどうなってもいいというのですね」

 

 そう言うと生き人形はぱいの同級生の女の子二人に術を掛ける。すると二人の女の子ドンちゃんとケンケンは二つの頭を持つ蜘蛛のような人形に変貌し、ぱいに襲い掛かった。

 

「ここはどこ!?」

「助けてぇえ!」

 

 二人は術を掛けられた影響か、無茶苦茶に暴れまわる。噛みつき、腕を振るう。狂乱のせいかおかげか、正確さを欠く攻撃だが、見る見るうちにぱいに痣が刻まれ、血が滲む。

 

「きゃあああああ!」

「さぁ、助かりたくば我が父に不死を!」

 

 悲鳴が心地よいのか生き人形は端正に作られた顔を綻ばせ、ぱいに不死を要求する。

 しかし、記憶を失っているぱいに不老不死の法など知る由もない。故にこの暴力に逃れるすべは無かった。

 

「誰か、助けて!」

 

 悲痛なパイの声は閉じ込められた生き人形の屋敷では空しく木霊する。……はずだった。

 

「やけに楽しそうじゃん!俺もまぜてくれよ?」

 

 天窓を叩き割り、一つの影がぱいを襲っていた人形を押し潰す。頭にバンダナ、両手には手甲。肩口にナイフを装備し、ブーツを履くその人物は藤井八雲その人だった。

 

「すまん。遅れた今助けるからな……ぁ」

 

 人形の上からひらりと着地し、八雲は余裕の表情でぱいに視線を向ける。

 

「……」  

「いやぁ!み、見ないでぇ!」

 

 多少の傷は有れど、命を脅かすような怪我はぱいには無い。むしろ被害を受けているのはぱいの制服だった。ブレザーはほとんど破れ、ブラウスもボタンがほとんど外れている。ブラがずれてていないのが救いだが、スカートも襤褸切れとなっており、瑞々しい素肌の多くが晒されていた。

 命の危機も有るが、高校生の女の子にとって下着をよく知らない男性に晒すのは非常に恥ずかしいことだった。

 

「あ、いや、ごめん!つーか裸よりエッチだな、こういうのの方が……」

 

 襲われているという状況にも関わらず八雲は普段は細い目を大きく開いて照れている。

 

「やーんバカ!変態!」

 

 ぱいはぱいで何とか、素肌を隠そうと手が拘束された状態では体を揺することしか出来ず、逆にそれが艶めかしさを引き立たせた。

 

「い、言うに事欠いて変態だとぉ!」

 

 生き人形とその配下の人形達は自分たちを無視してラブコメ展開している二人にどうしていいか分からずカタカタと震えて距離を詰めるに留めていた。空気を読めるとは作った術者の趣味か中々に人間らしい。

 

 ドゴォ!

 

 そんな背後に迫る人形を八雲は後ろ蹴りでバラバラに粉砕する。さらにそのままの動きで周囲の人形を次から次へと破壊する。手甲やブーツを巧みに使い人形を相手取る姿はかつての八雲から想像も及ばないほどに研ぎ澄まされた技だった。

 ただ破壊するだけなら昔の八雲でもなんとか出来たかもしれない。だが今の八雲は相手の攻撃をいなし、防ぎ、躱す。隙をついて攻撃し無駄無く破壊する。

 

「俺の、どこが変態なんだよ!」

 

 しかも、言葉を交わす余裕すらある。

 何でもないようにしているが、八雲が四年間必死に修業した結果が今まさにここに示されていた。

 

「全部、どこか見ても変態よ!」

「はぁ可愛くねぇな!助けねぇぞ」

 

 八雲を心の中では見直してるぱいに対して、八雲は心はここ四年の中で一番の高揚を見せていた。助けねぇぞと口にしてはいるが、かつては守ることすら満足に出来なかった己が今は无の本懐を遂げている。それが何よりも八雲は嬉しかった。

 

「雑魚共が面倒だ!」

 

 一際大きな人形を他の人形を巻き込むように八雲は吹き飛ばす。人形達と八雲達に間隙が生まれる。その間隙こそが八雲が望んだことだった。

 

「八雲の名において命ずる!!出でよ土爪(トウチャオ)!!」

 

 高らかな詠唱とともに八雲は床に左手を叩き付けたすると三つの刃が生まれ、人形達に向かって突き進む。刃は三つの轍を残しながら人形たちに食らいつき、一切の抵抗を許さずに破壊しつくした。

 後にはばらばらになった人形が転がっているだけだった。

 

「あ、あなたは何者なの?」

 

 手に付いた埃を払いながら八雲は笑顔を浮かべぱいに近づいた。傷に触らぬように優しく拘束を外すとバンダナを一番出血している左の二の腕に巻き付け、応急手当てを施す。

 

「痛まない?」

「うん。それで……」

 

 命を救われたこと、化け物たちを物ともしない強さ。それはぱいにとってとても気になることだったのだろう。触れられた箇所が熱を持つのを自覚しながらぱいはどきどきと八雲を見つめていた。

 

「言ったろ?お嬢様」

 

 

 

「俺は藤井八雲、君と命を共にするものだってな」

 

 

 




本当は書き溜めを多くしてから二部を開始したかったのですが、八雲の活躍を早く投稿したかったんじゃ。

ちなみに、ここらへんが一番難産でした。白を出そうか出さまいか……。出さないなら、さくっと中国からやるかとか。
しかし、四年の二人の再開というか、八雲が初めて獣魔術を使った時の高揚と鳥肌は省くべきではないと考えて書いてしまいました。



白が全然出てない。

オギャアアアア!
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