我が呼ばれたき名は   作:油揚げ

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第三十一話 ゴミ漁り

 

 サラダに副菜、一品ものの大きな肉料理、魚のメインディッシュやピザなどのパーティの定番品達がこれでもかとテーブルに並べられている。その様子はまさにパーティ。八雲が腕を振るって作った料理はそれだけの質と量を備えていた。そんな品々に加えホールケーキまで用意した八雲に白は呆れていた。

 

 こんなに食えるわけないだろう、量を考えろ量を。

 

 しかし、パーティが始まり、時間が進むと白は驚愕に襲われる。

 

「は?」

 

 空っぽの食器たち、テーブルの上に所狭しと並べられた料理はどれもこれも綺麗に無くなっている。

 

「お腹いっぱい……」

 

 にこにこと満面の笑みを浮かべてパイはお腹を撫でている。幸福という表現がピタリと当て嵌まる笑顔をパイは浮かべ、そんなパイに白は珍しくドン引きしていた。

 

「は?秘術か何か使ったのか?」

 

 浮かれる八雲が過剰に料理を作ったと思っていた白だったのだが、見た目の容積を完全に無視するパイの食いっぷりには流石の白も驚きを隠せなかった。

 とはいえ、驚きながらも八雲とパイがゆったりと過ごせるようにパーティの片づけを自ら買って出るのは白なりの優しさである。

 

「まだ食うのか……」

 

 カチャカチャと食器を洗いながら朗らかに話すを二人を盗み見て白は口休めとばかりにリンゴを頬張るパイを目撃する。このままでは家の食い物を全部食われるのではないかと謎の危機感を白は抱いた。

 

「俺さ、いっぱい働くからさ、二人で暮らそうぜ。なっ?」

 

 リンゴを剥きながら八雲は自分なりにパイに告白する。あからさまな好意の言葉を口にしないのはヘタレな八雲らしい告白だった。

 

(人の家でイチャイチャするなよ)

 

 だが、言動こそヘタレだが幼馴染みの異性の家で、しかもその幼馴染みとその親が居るリビングで告白という凄まじい偉業を成し遂げたことを八雲は極度の緊張からか気付いてはいなかった。

 

「お願い、ヤクモ、白。助けてほしいの」

 

 そんなヤクモの一世一代の告白だったが、その返事はヤクモにも白にも予想外の回答だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京湾。

 東京最終処分場。都内のゴミの最終の集積場である。雑多なゴミに溢れ、それが熱を持ち辺りから湯気がゆらゆらと立ち上っていた。

 そして海を挟んで煌びやかな夜景が海面の波にもまれキラキラと美しく輝いている。そんな対照的な光景の中、ごみ溜めに一筋の光が夜空へと向かっていた。

 

「何だよあの光」

「いや、穴だな。空に穴が開いているようだが、どうなっている?」

 

  飞腭(フェイオー)の背から八雲と白はそれぞれの疑問を口にする。通常ではあり得ない異常な景色。何某かの超常が絡んでいるのは明らかであった。

 

「あそこからイナゴ達は来たの」

「イナゴ?」

「大発生の原因はこれか」

 

 一週間前近くから続く都内での異常なイナゴの大発生。季節も場所も極めて例が無く専門家も頭を悩ませるそれは、自然現象ではなく超常の産物だった。

 

「ううん、イナゴは太歳(タイソエイ)のエサなの」

「太歳……土中の肉の塊で食べた者を不死にするというあれか、いや凶神太歳神か?確か大陸の方でも祟り神の筆頭みたいな奴だと思ったが……ん?」

 

 太歳という単語から白が思い当たる妖怪や神を口にしながら目の前に迫る光景に首を傾げる。

 

「見て、あれが太歳よ」

 

 光の中心の中、巨大な拍動を響かせる巨大な肉の塊が白達の目の前に現れた。どくどくと表面の血管が収縮し透けて見える赤黒い液体が塊全体に流動し続けていた。全体の色は赤色であり、拍動を繰り返す様はまさに巨大な心臓の様であった。

 

「これはまだ繭。このままでも生き物を狂わせてミイラにしちゃう怖い子のなの、孵化したらパイの手には負えないわ」

「は……」

「いやいや、ちょっと待て」

 

 開いた口が閉じない白と八雲だったが、なにもその驚きは太歳だけに向けられたものでは無い。

 

「パイ!ここは何処なんだ!?」

 

 光の柱が続く先は閉じられた空間などでは無く、青空と荒涼とした大地が永遠と続く寒々しい場所であった。気温は幾分か低く感じるが胸を満たす空気にもこれと言った異常は見られない。

 

 

「まさか」

「この感じは……」

「「聖地!?」」

 

 八雲と白の声が重なる。

 そう二人の予想通り、ここは八雲達が数か月前に追い求めた場所である聖地そのものあった。

 

「おいおい、じゃあ東京湾にも崑崙(コンロン)は在ったってのかよ……」

「灯台下暗しか」

「うん、パイはこの穴を塞ぎに来たんだ」

 

 太歳を見渡しながらパイは静かにそう告げた。太歳の大きさは優に百メートル。言い伝えの伝承がそのままとは言えないだろうが祟り神の側面や占星術でも凶兆の兆しとも言われているのは少なからずそれに由来する力が有るということだろう。

 

「この子は孵化しないようにと昔の人がここに封印してたんだけど、ちょうど真下に穴が開いて封印が解けかけているの。このまま孵化しちゃうと大変なことが起きちゃう」

「……ん、ということは崑崙を開けた鍵が有るってことか?」

「そう!白の言うとおり。パイは穴を塞ぐために鍵を探しに来たの、お願い二人とも力を貸して!」

「はぁ……探し物か……骨が折れるな」

「探すって言ってもこのゴミ捨て場から、あの香炉を探すって言うのか?」

 

 再び次元の穴を潜り東京へと戻る最中に告げられた衝撃の言葉に八雲は絶句する。空から俯瞰する八雲の目には夥しいゴミの山が広がっていた。

 

「いや、香炉とは限らん。三つ目の意匠が有る何かを探さなきゃならん」

 

 絶望に表情を歪ませる八雲を白が更に追い詰めた。八雲達が見つけた鍵は確かに香炉であったが、込められた術によって発動する為、その形に関しては自由であり、香炉の可能性は低い。

 つまり、この何が捨てられているかも定かではないゴミの埋め立て地の中から形も分からぬ何かを見つけるという苦行が今、始まってしまったのだ。

 

「………は、はは」

「斗和子を呼ぶか……」

 

 八雲と白はほぼ同時に天を仰ぐ、何千年と生きた白とてこんな先の見えない戦いは初めてだった。

 

 

 

 

 

 

「鍵が壊れれば穴は塞がるってのはどうだ……」

「やってみる価値は有りますよ。範囲は東京ドーム何個分かは知りませんが」

 

 髪を周囲に幾重にも伸ばしてゴミを漁る白と、手袋を付けて大型のゴミをどかす斗和子。八雲とパイの何人分もの働きをしながら二人の主従は物騒なことを口にしていた。

 鍵の捜索から数日、朝から晩までゴミを漁り何処に有るかもしれない鍵を探す作業は流石の二人をして精神を追い込むのに十分だったらしく、普段では考えられない程ような会話の内容だった。

 

「……ここら一帯を破壊する方が疲れるな」

「そうですね。良く考えれば可燃物も有ると思いますし」

「そういえば、妖撃社の方はどうなってる?」

「えーと、最近だと……」

 

 ちなみに斗和子はゴミ漁りの為にわざわざ香港から呼び戻されてここにいる。鬼眼王(カイヤンワン)を滅ぼしたことで妖怪達の動きが変わる可能性がある為に斗和子は情報収集と金稼ぎを兼ねて妖撃社に残っていたが、聖地への鍵を見つける作業には幾らでも手が欲しいので招集されたのだ。

 

「妖怪達に目立った動きは無いですね。鬼眼王になり替わろうという輩が出てもおかしくないと思うのですが……」

「鬼眼王が生きている可能性も有るが……」

「妖怪達は鬼眼王達の死を知らない、もしくは死んだことを信じていないってことですよね」

 

 骨休みとぼろぼろの椅子に座りながら白は頷いた。妖撃社に入っている情報は香港近隣やアジアが主などで世界中の妖怪達の同行は流石に知り得ないが、断片的ながら幾つかの予想を立てていた。

 

「そもそも鬼眼王は五百年も封印されていたし、ベナレスは前線に自分で来るタイプのボスだった。まぁ鬼眼王達の死そのものが妖怪社会に知られていない可能性も十分あるけどな」

 

 ベナレスとの決戦ではベナレスは部下を連れてはいなかった。部下に知らせもせずにベナレスが動いていたとすれば、ベナレスが討たれたという事態がまだ気づかれていない可能性も十分に考えられる。

 それにベナレスや鬼眼王達の死を疑っても、彼らの力を知る妖怪達はその死が確信になるまでは動けないのだろう。五百年も封印されていながらも代弁者であるベナレスに仕えてきた彼らは如何に(ウー)が強大であり逆らうのが無謀かを知らないわけがない。

 万が一にでもベナレスが生きていればどうなるか、そんな恐怖が彼らを未だに縛っているのだろう。

 

「仇討ちに来ないのはありがたいが、いつまでもこのままというのは無理だろう」

 

 八雲はこのままパイと東京でのんびりと暮らそうと思っているのだろうが、鬼眼王の仇討にいつ妖怪が押し寄せてもおかしくない、それどころか不死の力を求める妖怪達だって黙ってはいないだろう。

 

「それより、今日はこの位にしておくか……あぁ疲れはともかくこの臭いだけはどうにかしてほしい」

「えぇ、只でさえ感覚が鋭いですからね私たち……お風呂に入っても完全には取れないんですよね」

 

 双子と見間違えんばかりにそっくりな二人がゴミの中を歩く。顔の良さも相まって大方の場所で映える二人の容姿だが、そんな補正もゴミの前ではあまり効果が無いのか、小汚い二人の少女が歩いているという絵に収まっていた。

 

「きゃー忘れちゃったぁ!」

 

 八雲達に合流しようとした二人だったが、何故か買い出しに出たはずのパイが夜食を忘れるというポンコツを披露。四人は疲れた体を引きずる様にして家路に着くのであった。

 

 

 

 

 

「はぁ!?パイが消えただと!?」

 

 翌朝、チャイムと喧しいドアのノック音にたたき起こされた白は不機嫌を隠そうともせずに八雲に怒鳴る。前世でも経験しなかったごみ溜め漁りのせいで体中に悪臭が染み付くというのだけでも気分が悪いというのに、問題を持ち込んできたパイが消息不明と困惑していいやら怒っていいやらと感情の大渋滞が発生していた。

 

「あぁ、今度は逢う時は人間になってからって鏡に書置きしてた」

 

 置いて行かれたことに八雲はしょんぼりと肩を落とす。命を共にするパイが自分を置いて行ってしまったことに額面以上の悲しみを八雲は感じていた。確かに繋がる不死の力が余計に寂しさを増幅する。

 

「どういうことだ。パイは鍵を見つけたのか?」

「いえ、穴はまだ開いたままですので、その可能性は無いかと」

「となると鍵の場所を見つけて一人で向かったのか……しかし何故、八雲は心当たりはないか?」

「え……う、うーん。ほとんど一緒に居たはずだからパイだけが手がかりをってのは考えにくいんだけどなぁ」

 

 パイとて戦う事は出来るが自らの无であり不死という絶対的なアドバンテージを誇る八雲、戦闘力と戦術において八雲を上回る白と斗和子を置いていくというのは不可解だ。

 

「鍵を探しつつパイを探すか……」

「そうですね」

「あ、俺がゴミ捨て場を探しますね」

 

 膂力と能力を考えれば斗和子と白がゴミ漁りをするのが効率が良いが、それ以上に嫌だという悪感情が宇上回るのか二人で八雲をじろりと睥睨し、進んでゴミ漁りをするように二人は仕向ける。

 

「さて、とりあえずここ一週間ばかりの事件、事故から調べてみるか」

「分かりました」

 

 話は済んだとばかりにさっさと八雲を家から追い出した白はまだ捨ててない新聞を隅から隅まで読み始めた。パイとはここ数日はずっと一緒に行動していた。鍵を見つけたことを白達に隠す意味はパイには無いし、そもそも聖地への穴は開いたままでり、少なくともパイが鍵を見つけた可能性は低い。

 

「都内の事件、事故。情報を手に入れたとすれば昨晩か今朝が怪しいが」

「確かに、では今日の新聞……っ!御方様!」

 

 まだ玄関口から取り出していなかった新聞を斗和子が広げ、ある記事に目を見開いた。

 

「ミイラ殺人事件?……犠牲者は全身の血を抜かれまるでミイラの様に殺されていた。しかも連続殺人事件か」

 

 鋭利な刃物で切り裂かれる。しかし、致命傷という傷の割に残された血痕は少なく、さらに体内の血液どころか水分を絞り尽くされるという奇怪な殺人事件。丁度、聖地への穴が開かれた時期と重なり、関連性が無いとは言えないだろう。

 

「そういえば、あの穴ってなんで閉じないんですかね?」

「……ん、そう言えばそうだな。……そうか、そういうことか」

 

 斗和子の小さな疑問に白も考えを巡らせた次の瞬間、白の脳内が弾けたようにひらめきを生み出した。

 

「そうだ!聖地への穴があんなに長く開いているのはそもそもおかしいんだ。誰かが血を捧げ続けて穴を維持してることだ」

「ということは、この殺人事件は……」

「多少の血じゃあすぐに穴は閉じる。だから人の血をまるごと捧げているんだ。それにパイが言っていただろう?太歳には生き物をミイラにする力が有るとな」

「じゃあ太歳がイナゴを使って血を捧げ続けているってことですか?」

 

 いや、と白は斗和子の言葉を否定する。人間がミイラになるという異常な事件だが、全身を齧られているならともかく、鋭利な刃物で切り裂かれたという記事には書かれておりイナゴが起こした事件とは考えにく。

 

「太歳は大地の精を操り生き物を狂わせるという。誰かを操って人を襲わせ続けているだろう」

「なるほど、ならゴミの集積場と言うよりは近隣で事件が多発している個所を重点的に探せばよいですね」

「そういうことだ」

 

 にやりと斗和子は身支度を整えると斗和子を引き連れて家を飛び出した。

 




今日も仕事、明日は当直。
今年は仕事納めが無い……。
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