我が呼ばれたき名は   作:油揚げ

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第三十六話 憑魔

 

 足の踏み場もない。

 それが斗和子が最初に抱いた感想だった。慣れ親しんだはずの妖撃社のオフィス。その中にあった棚、机は無残に倒され資料はそこらへと散らばっている。

 

「す、すまねぇ斗和子さん。奴ら、逃がしちまった。それに部屋も……」

 

 申し訳なそうに謝る八雲。(ウー)という破格の性能、そして数年の実戦経験。手練れと言っていい実力を持っているのに下手人を逃がしたというのは失態と呼んでいいが、当の斗和子は軽く息を吐き出すだけだった。

 

「八雲は私を庇ってくれたんだ。責めないでくれ」

「分かっていますよ。見れば犯人は複数人、よくぞ美星さんを守ってくれました」

 

 ワンピースの少女……美星(メイシン)が八雲を擁護し、斗和子は安心するように小さく微笑むのだった。

 

「何はともあれ、情報の擦り合わせをしましょう」

「あぁ、俺が妖撃社に向かったのは斗和子さんも知ってるよな」

「えぇ、事故の後で電話回線がパンクしているのか直接向かうと言ってましたね」

 

 事の経緯としては妖撃社へと加勢を頼みに八雲が向かったところ、そのオフィスには飛行機の中で八雲を襲った女が居座っており、部屋は荒らされ尽くした後だった言う。女が言うには三只眼(さんじやん)の居場所を吐けと詰め寄ってくるが、そんなのは八雲の方が知りたいくらいである。

 狭い室内で相手は三人。負傷を臆することがない八雲も果敢に攻めるが、得体の知れない力を扱う相手に一進一退の状態となり場面は膠着状態。互いに決着を決めあぐねていると、学校の長期休暇で帰省した美星が非常ベルを鳴らして登場。

 八雲からすれば武術経験もある美星は力強い援軍だが、襲撃者側からすれば増援が来た上に非常ベルを鳴らされ、衆目に晒されるという事態だ。これ以上、不確定要素が増えるのを嫌い、リーダー格の女の襲撃者が飛行機でも見せた炎の術を放ち逃げたのだ。

 無理に追うことも出来たが、美星は生身の人間だ。庇わないという選択は八雲には無く、炎が収まったころには相手の姿は当然、煙の様に消えていたという。

 

 

「どうやら敵側もパイさんを見失っているみたいですね。確保しているのならわざわざ、妖撃社を襲うなんて真似はしませんからね」

 

 どうにか最低限の形を保っているソファーに座り斗和子は自身の推理を確認するように口にする。

 

「でも、それならなんでパイは連絡をしてこないんだ?」

 

 もっともな疑問が八雲から飛び出した。崑崙(コンロン)山脈から出たばかりのパイならいざ知らず、今のパイは一通りの電子機器もそれなりに使えるし、電車にも一人で乗れる。乗っ取られていたとはいえ四年もの間、人間社会で生活していたのだ電話程度も苦も無く使えている。

 

「電話が無い場所、電話を出来ない状況。そんなところでしょうね」

「マジかよ……」

「パイちゃん……」

 

 思い思いの場所に腰を落ち着かせている八雲も美星も暗い顔で俯いた。特にロンドンから久しぶりにパイに会えると楽しみにしていた美星の悲しみは一塩だった。

 

「くそ、手がかり無しかよ!せめて奴らの素性さえ分かれば」

 

 パイの行方も、襲撃者の素性も分からない。不死を狙っているのは分かるが、そんな手合いは大勢いる。

 

「とりあえず、近場の奴らの拠点を抑えますか。私達よりも手数は多そうですし、有力な情報を持っている可能性もあります」

「「え?」」

 

 しれっと襲撃者の拠点が近郊に有ることを口にする斗和子に二人は呆けた表情を浮かべている。

 

「情報に関しては御方様は、もちろん私も抜きんでているという自負が有りますから」

 

 口元だけがすっと裂けるような笑みを斗和子は形作る。真由子似の柔らかな顔立ちにそれはあまりにも似合っておらず、二人の背に冷たい汗がぽつぽつと顔を出し始めた。それが伝う寸前に、斗和子はいつもの表情に戻りにこりと二人に笑みを向けた。

 

墨晶(モーシン)貿易、輸入生体衛生管理研究所。流石に飛行機の名前は偽名でしたが人の口に戸は立てられぬもの。乗客名簿との照らし合わせ、防犯カメラ、暗示を使えば多少時間が掛かりますが出入りする施設程度の特定は容易いものです」

 

 相手を陥れるためにあらゆる情報を詳らかにする。敵対勢力の尊厳を破壊するためにあらゆる情報を調べつくす。自身の唯一の特攻霊具、獣の槍に対抗するために古今東西に手駒を送る。

 妖怪、妖物、神格、人間。全てを敵に回してなお負けぬ圧倒的な力を持つにも関わらず、臆病なまでに相手を暴き尽くす。それが白面の者の恐ろしさの一つだ。妖怪達や既に散逸した古代ならいざ知らず、なんでもかんでも記録に残す現代社会において情報を手に入れるのは斗和子にとっては造作もないことだった。

 

「近いんですか!?」

「えぇ、準備して車で向かっても今夜中に着きますよ」

「よっしゃ、なら三度目の正直だ。ラウンド3、首を洗って待っとけよ」

 

 飛行機では機先を制され碌に抵抗できず、事務所では散々に部屋を荒らされ防戦一方に追い込まれ良いところは一つも無かった八雲は闘志を漲らせる。相手は今日だけで動き続けており確実に疲労が蓄積されているだろう。ここらで一息入れる可能性が高い。そして、それは八雲達もそう思っていると無意識に考えてしまうはずだ。

 だが、こっちは反則級の不老不死、(ウー)である。再生を繰り返しているならいざ知らず、ただ動き回っているだけで疲労するわけもない、つまり攻め時であった。

 

「白姉は?」

「怪我は無いですが流石に飛行機を支えるので体力を使い果たしたみたいです。一日、二日ほど休めば回復すると思いますが、マスコミ達が煩わしいらしくて、そちらの方も対処すると仰ってました」

 

 全員死亡となってもおかしくない程の航空機事故を若く美しい女性が防いだとなれば、とんでもない程のビッグニュースである。

 

「なら、ここにいるメンバーで乗り込むしかないか……」

 

 研究所というからには内部には数十人、下手をすれば百人単位で人が詰めていてもおかしくはない。戦力という点では八雲と斗和子でなんとかなりそうだが、施設内を調べるとなると人手不足であった。

 

「いえ、(ホァン)さんの護衛の方を何人かこちらに回して頂きました。陽動をそちらに任せて、その隙に私達が侵入する手筈になっています」

「い、いつの間に……」

「御方様に報告した際に手を回しておきました」

「流石ですね……ははは」

 

 あまりに用意周到な斗和子に一瞬、恐ろしさを感じる八雲だが万全の準備を整えてくれる様は頼れるのもまた事実。左手で右拳を握りしめると、自らも準備をするために部屋を後にするのだった。

 

 

 

 とっぷりと夜も更けたころ、八雲達一行は香港の郊外に在る墨晶貿易、輸入生体衛生管理研究所へと忍び込もうとしていた。

 

 

「……深夜ですが警備員は表だけで十人以上居ますね」

 

 夜闇にも関わらず斗和子は視界に映る警備員の数を正確に捉え、その警備の厳重さに眉を顰める。

 

「随分と厳重だな。こりゃあ、何か隠してるって言ってるもんだぜ」

「そうと分かれば、さっさと突っ込もう」

 

 一方的にやられているのが腹に据えかねているのだろう。美星と八雲は今にも突撃しそうな勢いだ。

 

「そうですね……そろそろ黄さんの部下の方が」

 

 やんわりと斗和子が血気盛んな二人を抑えていると研究所の正門辺りが騒がしくなる。

 

「時間通り、優秀ですね」

 

 にこりと微笑むと斗和子は塀をひらりと飛び越え敷地内へと足を踏み入れ、それに美星と八雲も続く。

 遠方から怒号やら銃声が響くが八雲達の周囲は静かなものだ。どうやら陽動作戦は上手く進んでいるようであった。

 裏門に残った僅かな人員を瞬く間に制圧し、施錠された扉は斗和子が易々と突破する。

 

「……これは?」

「なんだこりゃ?」

 

 幾つかの扉を抜けた頃、斗和子はぼそりと呟いた。斗和子の視界には様々な水槽、檻に種々の生き物が納められた部屋だった。魚類、爬虫類、両生類、哺乳類。種類は豊富だが一貫性は無い。とりあえず、生き物を集めた。そんな空間だった。

 水槽のエアーポンプや空調、獣たちの呼吸音、蟲達が這う音が響く。

 

「何の為に集めてるの?」

「僅かに低級の妖怪も混ざってはいますが、概ね普通の動物が大半を占めるようですね」

「何かの隠れ蓑にしてもここまでするか?」

「……不気味、得体が知れないね。私達の戦ってる相手って何なの?」

 

 普通の感性に近い美星、妖怪との戦いに慣れている八雲、そして膨大な記憶と経験を持つ斗和子も部屋が放つ違和感を払う事が出来ず暫し息を吞んでしまう。

 呪物やそれこそ妖怪が多ければ儀式や戦闘での利用が思い浮かぶが、動物達は高値で取引されているものも有るには有るが、それ以上にそこらのペットショップで買えたり、人気が無いものも目立っており金銭目的だけでは無いのが見て取れた。

 

「流石にここにはパイさんや鈴々社長達は居そうにないですね。……!?」

 

 ざっと部屋を見渡した斗和子が皆を違う部屋へと促そうとした瞬間、部屋に置かれた一際大きな水槽が前触れもなく割れ、大量の水が溢れ出す。

 

「うわっ!」

「えぇ!?」

 

 声を上げて驚く二人を尻目に斗和子は腰を落として臨戦態勢へと移行する。水槽が割れる音に反応し、動物達が騒ぎ出し、瞬く間に部屋は微細な音など聞こえない危険な状態へと成り果てた。

 

「きゃ……」

「そこ、です!」

 

 膝近くまで水位が上昇し、美星がバランスを崩し尻もちをついた瞬間、声とともに斗和子の手刀が水を割る。

 

「っ!!!!?」

 

 ゴボリと一行から離れた所から大きな水泡が弾け、斗和子が手刀を突き入れた個所から真っ赤な血が水を染め上げる。

 

「斗和子さん!」

「えぇ、どうやら何某かが水の中に紛れているようですね」

 

 そう話す斗和子の右腕には真っ黒な触手が握られている。生命力が強いのかビクビクと血を滴らせながら痙攣を繰り返すさまは大きさも相まってウナギのようですら有る。

 

「本体は……ふむ、こうも気配が多いと分かりにくいですね」

 

 触手を投げ捨て周囲の気配を探るが雑多な音が響き斗和子の感覚を阻害する。炎や主の名を借りて雷蛇(レイシオ)を使おうにも水というのは相性が悪すぎた。部屋ごと薙ぎ払う事も出来るが、それで余計な妖怪がまた出ないとも限らない。斗和子は小さく息を吐く。

 

 

「とはいえ……はっ!!」

 

 ぼそりと斗和子が呟くと同時に水面からカサゴの様な巨大な化け物が水を跳ね上げ現れた。

 

 バァン!!

 

 振り向くと同時に振るわれた斗和子の右手がカサゴの化け物の頭部を跡形も無く吹き飛ばす。化け物はびくびくと体を震わせながら、徐々に動かなくなっていった。

 

「さ、さすが斗和子さん……」

 

 斗和子は死体を一瞥すると右手を開いたり閉じたりを繰り返す。

 

(御方様の力が増大したと同時に私の力も増している。……まぁ全盛期に比べればまだまだですが)

 

「少し騒ぎすぎましたね。余計な連中が来る前に移動しましょう」

 

 斗和子の力に冷や汗を流す八雲を尻目に斗和子は扉へと足を進めていく。施設の構造こそ把握していないが、人が隠匿したいものを何処に隠すかといった心理の推測はお手の物である。

 

「どうやら地下が有りそうですね。地下を目指します」

 

 

 

 

 外の陽動が上手くいったのか、その後は何事もなく一行は収容施設じみた場所へと辿り着く。清潔感は有るが、無機質に並ぶ扉は酷く機械的であり、そこに収容する者の扱いを連想させる。

 

「……」

 

 そんな中の一つに妖撃社の社長、李鈴々(リーリンリン)の姿が見える。鈴々は八雲達を見つけるとピースサインをして健在を見せつけた。血色も良く疲弊した様子はそこには見られない。

 八雲達は笑顔を浮かべて扉へと駆け寄るが、斗和子は真由子に似た眼差しを鋭く尖らせた。

 

(ここの所在を隠していたとはいえ、外の騒ぎが私達とは無関係とは思わないはず、なのに此処の警備員が誰もいないのはどういうでしょう?)

 

 斗和子は不自然に人払いされたこの場所に違和感を感じてはいたが、見渡す限り明らかな罠はない。

 

「鈴々さん!(ロン)さん!」

「お兄ちゃん!」

 

 扉越しの再開ではあるが、喜び合う一行。八雲は黄の部下から預かったプラスチック爆弾にて扉を破壊しようとするが、斗和子がそれを制止する。

 

「爆発音で警備員が集まってくるかもしれません。ここは私が」

「え?でも、相当分厚いですよ。この扉」

 

 何を閉じ込める目的で作られたのか、五センチはある鋼鉄の扉に斗和子を手をかける。美星も八雲もいくらなんでもと何処か疑いながら、次に目の前で起こった事象に目を剝いていた。

 メキメキと音を立てながら鋼鉄の扉は見る見る拉げ、潰れていく。

 

「うぉお、マジかよ」

「えぇ……」

 

 ドン引きする二人を気にした様子もなく斗和子は扉をもぎ取ると、扉を傍らへと放る。

 

「助かったわぁ斗和子ちゃん。八雲君に美星ちゃんもありがとね」

「思ったよりも早くて助かった」

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「あぁ、捕まった時に抵抗しなかったからな。拘束はされたが怪我はないよ」

 

 部屋の中から龍と鈴々が自分の足で歩いて出てくる。服装も捕まった時のままで特に手荒くされた様子は無かった。

 

「やっぱし、パイは居ないか……」

「その様子だと、そっちとも一緒じゃないみたいね」

 

 収容室から出てきた二人に八雲は安堵しつつも落胆する。八雲達の予想通りパイの姿はない。やはりパイと黄を敵側も見失っているらしい。

 

「ふりだしか……」

「いや、そうでもないだろう。パイちゃんの所在を何度も聞いてきたから、少なくともあいつらに捕まっていないというのは確定して良いだろう。居場所が分からないというは不安要素だが、パイちゃんも三只眼(さんじやん)も地上ならばそう簡単に不覚を取らないだろうさ」

「そうですね。飞腭(フェイオー)紅娘(ホンニャン)をいつでも召喚出来ると考えれば、そこまで悪い状況でもなさそうです」

 

 龍の冷静な分析に斗和子も同意する。怪我の有無だけが気になるが、捕まっていないというだけで精神的な負担は大いに軽減される。

 

「詳しくはここを出てから話し合いましょう。外の音が小さくなっています。陽動に感づいたのかもしれません」

「そうだな」

「とっととおさらばしましょ」

 

 一行は来た道を戻ろうと踵を返す。……次の瞬間。

 

「おわぁあああ!!?」

 

 八雲が何気なく収容所に併設された水路に目を向けると人の胴体ほどもある触手がぬるりと蠢いているではないか、その動きとテカテカとぬめる表面に嫌悪感を刺激された八雲は大声を上げた。

 

「葛葉白に代わって命じます。来たれ雷蛇(レイシオ)!!」

 

 その触手が八雲を打ち付ける前に、斗和子の獣魔術が放たれた。本来なら契約者しか行使できない獣魔術だが、本体たる葛葉白が許可していれば分身たる斗和子も主の獣魔術を使用することが出来る。

 雷蛇は触手どころか、巨大イカの化け物の全身にその雷撃を余さず流す。殺すことは出来なくとも大きな痛手になる。

 はずだった。

 

「がっ!?」

「八雲さん!?」

 

 イカは雷蛇を意にも介さず八雲を打ち据え、吹き飛ばした。それどこか、バチリと全身から異音を発すると目と目の間、額と思われる場所から電撃を放ったではないか。

 

「ちっ!……何なんですか、こいつは?」

「ふむ、こいつは……」

「ちょっと兄貴、もったいぶらずにさっさと話して!」

「す、すまん、えぇっと、俺達を攫ったのは憑魔一族という奴らなんだが、奴らは他の生物を取り込んでその能力を得るという極めて特異な力の持ち主達なんだ。恐らくこいつもそうなんだろう。見た目では測れない能力を持っている可能性が高い」

「……この状況下でそれは……とりあえず逃げましょう。ここで戦っても不利なだけです」

 

 龍の説明に、知っているならもう少し早くと思うも状況的にそれは難しかったかと斗和子は内心でため息を吐いた。とはいえ、妖怪の類は見た目が当てにならないことは多数ある。何処か相手を下に見ていた斗和子は自戒を決意すると、尻尾を岩塊へと変化させ触手達を薙ぎ払う。

 

「ん?ちょっ!?」

 

 出口へと向かう鈴々が大声を上げる。その視線の先には鉄柵が天井から轟音とともに降りてきて一行の行く手を阻む。

 

「どいて下さい!」

 

 鉄柵に斗和子が駆け寄り、柵を両手で掴む。見る見るうちに両腕に筋が浮かび上がるが鉄柵はびくともしない。

 

「曲げるのは無理ですか……ならっ!ふんっ」

 

 鉄柵をひしゃげさせようとしたが、斗和子の今の膂力でもそれは叶わず、斗和子はしゃがむと鉄柵を持ち上げんと力を込めた。先ほどは違い、この体勢は全身の力を込めることが出来る。真由子似の穏やかな顔に青筋が走り、かつての斗和子を感じさせる表情が浮かび上がる。

 

「ぐぅうううう!!」

「マジかよ……」

 

 僅かに隙間が空き、ゆっくりとだが鉄柵は持ち上げられていく。そんな光景に八雲は慄くが、そんな余裕を浮かべている暇は無い。

 

「がぁ!?」

 

 誰も逃がさんとばかりにイカの化け物は斗和子へと無数の触手を走らせた。八雲が一瞬遅れて反応するも、全ての触手をカバー出来るわけもない。触手の一本が斗和子を鉄柵から弾き飛ばした。

 

「八雲、斗和子ちゃんを援護して!」

「す、すまねぇ」

「……まったくですよ」

 

 脇腹を抑え斗和子は八雲を睨む。驚くのは構わないが隙を晒すのは論外だ。後で主へとチクろうと斗和子は決心する。

 

「こいつは俺が押さえておく、その間に!」

「そのつもりですよ!」

 

 八雲の今更な言葉に斗和子は大声で返事をすると再び、鉄柵を持ち上げんと力を込めた。

 

「おらぁあああ!!」

 

 斗和子に意識を向けていたのか、イカの化け物は八雲の接近に気付かずに自らの体に取りつかれ暴れだす。八雲は短剣を突き刺しながら器用に体を動かし、土爪(トゥチャオ)であちらこちらに傷をつけていく。

 

「っ!!」

 

 痛みから暴れるが八雲は落とされまいと必死に食らいつく。それが数秒続いたのち、イカの化け物は気付く。そうだ、雷撃を放てばよいのだと。

 体を這う小虫を払おうと、イカの化け物は雷撃を放つために一瞬動きを止める。だが、それが八雲の策だった。

 

「へへへ、大技打つときゃ、動きが止まるよなぁ。右目、貰ったぜ!土爪!!!」

 

 びしゃあぁあああ!!

 

 巨大な目玉が爆ぜ、濁々と体液が流れ出す。イカの化け物は痛みから体を捩らせるも、その一つの触手で八雲を掴み、水中へとその巨体を沈めていった。

 

「八雲!」

「八雲君!!」

 

 美星と鈴々の悲痛な声が無機質な部屋に木霊した。

 




 題名が第~話だと、読みたい話が分からないのでは無いかと今更、気付きました。折を見て題名を変えたいと思います。
 
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