我が呼ばれたき名は   作:油揚げ

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大体原作通り、派手なバトルは次話となります。


第三十九話 混迷する事態

 

 

 放電と悲鳴。

 儀式場めいた場所でパイは責め苦を受けていた。

 

「イヤァアアアアア!!」

 

 雷撃に身を捩り、パイは全身に走る痛みに耐えかね悲鳴を上げる。

 どさりと雷撃が止んだタイミングで床に体を預けるパイの呼吸はまだしっかりとしたものだったが、体を起き上らせるほどではないのか、ぐったりとしていた。

 本来なら憑魔一族は不死を請う側であり、圧倒的な力を持つ上位種族三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)に対して従属する立場なのだが、ここではそれは逆転していた。

 そんな拷問を見て高級なスーツに身を包んだ浅黒い肌の男は眉を顰める。

 

「どういう事だ?これだけ痛めつけられてなぜ三只眼が現れない?プライドの高い三只眼には耐えらぬはずだが……」

 

 男の名はガルガ・ガールハパティヤム。このリンド共和国の王子であり、憑魔一族の次期族長でもある男だった。

 

「……」

 

 事が意のままに進まぬことにガルガは傍らの車いすに座る男を睨みつける。

 

「……」

 

 ガルガに怒気とも覇気ともつかぬ圧力に当てられても車いすの男は僅かばかりも動揺を見せず無言を貫いていた。車いすに座るという明らかなハンディキャップを晒しながらも、その男は異質だった。豹の被り物を被り、両足を失うばかりか右手すらもフックの様な義手を付けてはいる。だが確かに鍛えられた肉体からは王者のような威圧が滲み出ていた。その肉体は萎んではおらず、その様子から大けがを負ったのは最近だというのが見て取れた。

 

「三只眼が覚醒せねば合神は上手くいかんのだろう?」

「……」

 

 ガルガのとんでもない発言にこくりと車いすの男は頷いた。

 ガルガがパイを攫った理由、それは三只眼と合神し、その力を得るという理由からだった。いや、三只眼の力を手に入れるというのはあくまでも過程の一つに過ぎない。ガルガの真の目的は妖怪の支配主三只眼吽迦羅の力をもって世界を征服するというものだった。

 

「若!!何をしているのですか!?三只眼は我らの客人、我らは不死の秘術にて子孫繁栄を請い願う立場なのですよ!」

「グプター」

「今すぐ、三只眼を解放してください!!こんな事、王が許すと御思いですか!?」

「……」

 

 儀式場の扉が乱暴に開けられ血相を変えたグプターが叫ぶように抗議する。

 飛行機を落とすという手荒な真似をしたものの、三只眼は憑魔一族からすれば古の頃に祖先が仕えた偉大な主。どんな手を使ってでも招きたいと願う尊ぶ相手なのだ。それを傷つけるというのはあってはならないことだった。

 

「騒がしいな」

「若っ!!」

 

 王子と言えども現在のトップは王であることには間違いない。そしてグプターは王が直々に命令を与えている存在である。王の意向にそぐわないとなれば、ガルガでも頭ごなしにグプターを退けることは出来ない。

 

「……若」

 

 どうしたものかとグプターを睨みつけるガルガに一人の男が耳打ちをする。不敵な笑みをグプターに見せながら何事かを呟く男の言葉にガルガの口角が愉快そうに歪んだ。

 

「グプター」

「はい」

「お前は父王の命により三只眼から不死を手に入れろと命令されていたな」

「はい」

「お前は王族に揺るぎない忠誠を誓っているか?」

「……はい、王に尽きることない忠義を捧げております」

 

 勿体つけるようにガルガは質問を重ねていく。その中で王族ではなく王に忠誠を誓っているという返しをされるが、鼻を鳴らすだけで責め立てるような事はしなかった。

 

「では何故香港で不死人を見逃したのだ?」

「っ!」

「これは明らかな反逆行為だ。それに昼間、不死人一行がこの国に現れたと報告もある」

「ち、違います!」

 

 ガルガの弾劾にグプターは言葉を詰まらせる。それは八雲を見逃した事に起因するが、畳みかけられた言葉全てに掛かっていると周りに思わせるような言い方だった。

 

「こやつを牢にぶち込め!」

「若っ!」

「大人しく入ったほうが身のためだぞ。このまま奴らが侵入でもすればそれこそ手引きしたと言い逃れできまい。身の潔白を証明したければ受け入れろ」

 

 抵抗する意思をグプターは見せるが、ガルガの追撃の言葉に歯を食いしばる。八雲を見逃したのは言い逃れできない背信だが、それ以外はグプターの身に覚えはない。八雲達の動きによっては自身の潔白が示されると言われれば暴れることも出来なかった。

 

「……」

 

 騒動が終わりつつあると車いすの男はガルガに何事かを呟いた。

 

「ふむ、今日はここまでだ。三只眼も牢に放り込んでおけ、結界を忘れるなよ」

「はっ!」

 

 力無く倒れ伏すパイとそんなパイを心配そうに見つめるグプターは揃って儀式場から連れ出されるとこれまた地下に有る牢屋へとその身を移される。別宅とはいえ王家所有の豪邸。地下牢とはいえど、それなりに掃除はされているのか、明らかな不潔さはない。

 しかし、それはそれなりであり、体を休めるのに適しているとは言えない。そんな冷たい石の床にパイは寝かされ、その体は所々に電撃の火傷の跡が見て取れ痛々しい。 

 

「すまぬ……、三只眼。お前をこんな目に遭わせるつもりはなかったのだ」

 

 隣の牢に入れられたグプターが痛めつけられたパイに謝罪する。飛行機を墜落させようとし、八雲を氷漬けにしようとしたが、それは一族の存亡の為の苦渋の決断だった。だが、それも三只眼をどうしても招きたいという裏返してもあった。

 

「……おジィちゃんは無事?」

 

 恨み言の一つも言っても当然の様な状況、しかしパイが口にしたのは数時間前に一度会った王の身の安否だった。傷だらけになってもなお失わない気高い慈愛の心にグプターは顔をくしゃりと歪めた。罵倒や怨嗟の声を想像してたグプターにとってそれは鋭いナイフのように心を抉る。

 

「……あぁ軟禁されてはいるが、それだけだ。体は痛めつけられてはいない」

「そっか、良かった……」

「そういえば、何故あの状況で三只眼の力を使わなかったのだ……む」

 

 純粋な優しさに触れ、調子を崩しかけたグプターは話題を変えると同時に疑問に思っていた事を口にするが、痛めつけられ限界が来たのか、パイは気絶するように眠りについた。

 

「……なれない、ならない理由が有るのか。だが好都合か?」

 

 僅かに牢に差し込む光にふむとグプターは一人頷いた。どういう理由が有れど三只眼との融合を目指すガルガとしては二重人格のうち、パイが表の時よりも三只眼吽迦羅としての力を振るう三只眼が表に出ている時の方が力を得る確率が高いと考えているのだ。

 三只眼が痛めつけられているのはグプターとしても不本意だが、それでも融合までの時間が稼げているのは都合が良かった。

 

「无のボーヤ、頼んだよ」

 

 飛行機の不時着、自分をパエールから守る。幾つも自分の予想を覆してきた八雲ならきっと今の状況を覆すことが出来るだろう。何度か相まみえたことで、グプターは知らずに八雲に敵ながら不思議な信頼を寄せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン、ドクン。

 鼓動とはまるで違う、力の脈動を八雲は感じていた。香港に居たときは僅かにしか感じなかった感覚。そんな感覚が八雲をこれでもかと急かす。

 

「どうしたね、さっきから黙って八雲?」

 

 美星(メイシン)が黙り込む八雲の顔を覗き込む。いつもはどこか穏やかな八雲の顔が弓の様に険しく引き絞られていた。

 

「ここにパイは居る」

 

 キンカラという出所不明の情報元から辿り着いた地。疑惑と疑念が何処か頭をよぎっていたが、无としての本能がここに主が居ると訴えていた。

 

「間違いない、絶対にここにいる」

「そうと分かれば後は簡単」

「これは当たりのようね」

「だな」

「……まずは作戦を考えましょう」

 

 八雲の瞳を見て一行は頷きあうと戦意を高め合う。物的な根拠はないが、八雲が居ると確信しているならば、それは絶対なのだろうという強い信頼感がそこにはあった。

 ……若干、猪突猛進さに眉を顰める斗和子が居たが、それはご愛嬌というものなのだろう。

 

 

 

 

「失礼、中に通させてもらうよ」

 

 パイが囚われていると目されているガールハパティヤム家の別邸の正門から八雲が言葉とともに体を通そうとしていた。

 無論、それは正面を警備する兵隊に呼び止められるどころか、サーベルで切り掛かられる。

 

「がっ!?」

「……っ!!」

 

 僅かな動作で八雲は凶刃を交わすと警備兵を次から次へと殴り倒していく。

 

「……」

 

 無謀な正面突破。しかも八雲は自らを隠すことなく、堂々とその身を晒して敷地を悠々と歩く。

 頭に血が上った故の暴走、ではない。これはれっきとした作戦だった。

 如何に戦いに優れた能力を持つ憑魔一族といえど、不死身の无が相手となれば話は変わる。死にもしなければ消耗もしない相手が本拠地で暴れるあっては痛手は被らざるをえない。必然、警備兵は八雲へと集中するだろう。そしてパイにも。

 

(警備の連中は俺に集中するのは当たり前として、次に別動隊の潜入を考えてパイの警備も増やされるはずだ。そうなれば屋敷周辺の警備の数は減るだろう。……なんならもう少し暴れても良いか)

 

「俺は无、藤井八雲!!三只眼吽迦羅を返してもらうぞ!|」

 

 

 屋敷の扉を勢い良く開け放ち、八雲は声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 マホガニー材の立派な応接机に天然皮の豪華なソファ、足元には巨大な虎皮の敷物。部屋の作りも柱は大理石で彫り込まれ応接間といって差し支えない部屋。

 そんな部屋のど真ん中には部屋の豪奢さをぶち壊す光景が広がっていた。

 

「……」

 

 部屋の豪奢さとは余りにも不釣り合いな貧乏人、八雲というわけではなく。その八雲を取り囲み銃を突きつけた兵達が落ち着いた部屋の光景を一変させていたのだ。

 とはいえ、無数の銃口に晒されていても八雲は眉一つ動いてはいない。むしろ意にも介していなかった。

 大きさが数センチしかない銃弾など不死たる八雲からすれば体に穴が開く程度といった認識でしかない。それなら切られたり、なんなら殴られて吹っ飛ばされるほうがまだ煩わしい。

 

「……」

「……」

 

 落ち着き払った八雲に対し、銃口を突き付けた兵達は内心、畏怖を感じていた。無論、この別宅の警備を任されているだけあって彼らは全員が憑魔一族であり、その中でも指折りの実力者だ。しかし、だからこそ単純な力量差を覆す不死が彼らを恐れさせていたのだ。

 

(歓迎はされてないが、少なくとも話を聞く気はあるのか?なら憑魔の手助けも出来ればしてやりたい)

 

 問答無用で排除されると思いきや意外にも話し合いの機会を設けられたことで八雲はそんな事を考えていた。単純に私欲で不老不死を求める輩ならいざ知らず、憑魔一族には一族の存亡という危機が迫っている。それらを無視すれば数えきれない命が失われるということに他ならない。今は事情を知らないが詳しく話を聞けば、なんらかの打開策が出せる可能性も有る。

 

「ほぅ驚いたな、こんなに早くここに辿り着くとは、想定外だ」

 

 如何にも高級なスーツを身に着け、しなやかな足取りで部屋に入ってきたのはガルガ。盗人猛々しいという言葉通り、パイを誘拐したことをまるで隠そうともしない尊大な態度を取っていた。

 

「私は憑魔一族族王の一子、ガルガ・ガールハパティヤム。まぁ当主代理と思ってくれて構わない。この車椅子の豹の仮面の男は私のブレインだ」

「お、俺は……」

「无、だろう?お互い面倒な会話は省こう。時間の無駄だ」

 

 居丈高に話を進めるガルガの目的は三只眼と融合し力を手にすること、その力を手放すことなど端からあり得ない。力を貸すのも吝かではない八雲との会話は平行線どころかまるで嚙み合わず。妥協案であったり、怒声を挙げる八雲をガルガはいなすだけだった。

 

「どうだ、ここは一つ、決闘で決めるというのは?」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出ろ、若がお呼びだ」

「きゃあっ」

 

 ガチャガチャと格子が音を鳴らしパイが檻から解き放たれる。とは言っても開放するという体ではなく乱暴な手付きで無理やりにパイは歩かされる。

 

「おい、何をする気だ!憑魔合身なら許さぬぞ!!」

 

 パイの様子にグプターが食って掛かる。

 

「黙れ!」

「裏切者は静かに処刑を待ってな!」

 

 パイを連れ出した男はグプターを怒鳴るとその場を去っていく。

 

「……」

 

 グプターはその様子に何某かを感じると耳を澄ませた。なにやら別邸全体が緩やかな熱気に包まれ只ならぬ何かが起こりつつある事を感じさせた。その証拠に……。

 

「見張りの兵もいなくなった。……ならば」

 

 ニヤリとグプターは笑うと徐に鍵に手を伸ばすのだった。

 

 

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