我が呼ばれたき名は   作:油揚げ

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誤字指摘いつもありがとうございます。


第四十話  魔神ガルガ

 

 (ウー)との決闘、それは無謀と同義であると言える。しかも、それ勝利の条件が相手の降参もしくは死亡となれば死なない无が圧倒的に優位である。

 

「若、宜しいので?」

「ふん、小僧程度であれば負けるほうが難しいであろうよ」

 

 しかし、スーツを脱ぎ上半身を露わにするガルガに焦りは一つもない。只の人の王族ならまだしも憑魔一族の頂点の一つであるガルガは優先的に強靭な魔獣、妖獣を取り込むことが許されており、その実力は戦士長をも上回る。たかが不死なだけの男に負けるなどとは彼は露ほども思っていなかった。

 

「それより、三只眼を連れ出しておけよ。奴の无が惨たらしく痛めつけられる様を見せてくれる」

 

 決闘の勝敗はガルガの狙いなどではなかった。ガルガの真の狙い。それは八雲を徹底的に痛めつけることにあった。

 三只眼との合身を目論むガルガにとってパイが三只眼と入れ替わってもらわなければ合身もクソもない。しかし、どんなに痛めつけても三只眼は一向に目覚めない。プライドが高い三只眼なら即座に反応するはずだが、その兆候も見られない。

 ならば三只眼にならぬように封印されているのではないかとガルガは考えたのだ。とある者の情報から八雲達のパトロンをしている(フォン)は妖怪というのも伝え聞いている。扱いずらい三只眼を封じ込め、八雲達を良い様に操ろうとしても何ら不思議ではない。

 

「大事な无が散々な目に合えば流石に覚醒するだろうさ。それに无だけではない。他の奴らも居るようだしな」

 

 クックックと喉を鳴らすようにガルガは傲慢に笑う。権力と実力、それを得たものは不死を求めるという。ガルガはまさにその典型だった。

 

 

 

 

 

 

 わぁああああ!! 

 

 大歓声と太鼓の音が腹の底を響かせる中、八雲は別邸に隣接されたすり鉢状の闘技場の中にいた。服はジャケットとチノパン、先ほどと変わらない。そして対するガルガはスーツを脱ぎ上半身は鍛えられた筋肉を晒し、そして動きやすいズボンに履き替えていた。

 だが、一際ガルガには目立つところがあった。巨大な角を二つ重ねた武器を脇に構えている。ファキールズ・ホーンズと呼ばれるインドの武器である。

 

 

「いや、こんな武器、俺使ったことねぇんだが……」

「无が弱音を吐くな、それにほら」

 

 ガルガが観覧席を指さした。

 

 

「ヤクモォ!!」

 

 八雲とパイの瞳が一瞬で交差する。それなりの距離が有るが繋がる命のなせる業か、一瞬で二人のピントが合う。パイの眦から涙が溢れ、八雲は喜びから思わず駆け出してしまう。

 

「よそ見か无!!」

「ぉっ!?」

 

 ガルガの鋭い突きが八雲に向けられる。パイに意識を向けられていた八雲はとっさに体を捩るがファキールズ・ホーンズが手元から飛ばされた。

 そのまま、八雲の喉元に切っ先を向けたガルガだが、ふっと嘲笑すると顎をしゃくる。

 

「……拾え。このまま終わるのもつまらんぞ?」

 

 慣れぬ武器とパイを人質に取られた状況、初手は八雲の圧倒的な不利で決闘の幕が開けたのであった。

 

 

 

 

 荒ぶる息と武器を打ち合う音が闘技場内に響く。

 

「ぐぉっ!」

「ふんっ!」

 

 片や獣魔術を使わず、片や取り込んだ魔獣の力を使わず二人は広い闘技場内でぶつかり合っていた。

 両者、必殺の能力を使わずに戦う中、戦況は相変わらずガルガ有利で進んでいた。

 パイをどう救うか、それともガルガ達と和睦するか思案しガルガに積極的に責められない八雲に対して、ガルガはどんな攻撃をしても死なない无が相手である。しかも目的は八雲を痛めつけることであり、その意識の差が二人の差となっていたのだ。

 

「やめて!!危ないからもうやめて!八雲、私はいいから逃げて!」

 

 パイが叫ぶように懇願する。不死身の无と分かっていてもその身を心配するのは優しいパイの性分だった。息も荒く苦しむ八雲をこれ以上見てられないのだろう。

 

「やめだ、やめ。俺は別に戦いに来たわけじゃない。パイを助けに来ただけだ。グプターを呼んでくれ、協力できることがあるはずだ」

 

 八雲は手にした武器を投げ捨てる。

 

「俺とパイは人間になりたいだけなんだ。だけど、それは急を要するわけじゃない。アンタたちの問題を解決してから人間になるっていうのも受けいられる。パイを開放してもらえないか?」

 

 八雲からすれば出来うる限りの最大限の譲歩。憑魔一族の抱える問題を知って揺らいでいた八雲の敵意はパイを視界に入れたことで更に薄まっていた。

 

「っ!」

 

 しかし、八雲を痛めつける事を目的としたガルガにそんな譲歩は何にもならない。無慈悲にも八雲を武器の切っ先を突き立てようと走り寄る。

 

「がぁ!?」

 

 しかし、そんな不意打ちはガルガが横っ面を殴り飛ばされて中断された。

 

「斗和子さん!?」

「戦いの最中になんで武器を放り捨ててるんですか?こういうのは勝って有利な条件を結ぶんですよ」

「ぐっ……」

「ヤクモォ!!」

「パイっ」

 

 ガルガを殴り飛ばした斗和子は八雲に呆れつつも、いつの間にか片手に抱えたパイを八雲に預ける。

 

「さて、ここは私に任せて逃げて下さい」

「え」

「パイさんを守るのが第一ですよ。さぁ」

「わ、分かった。ありがとうございます」

 

 乱入者の排除とパイを捉えるべく、周りの憑魔一族達が異形を開放し三人に殺到し始める。斗和子はそんな奴らの先頭を事も無げに吹き飛ばしながら、八雲達を逃がすべく殿を名乗り出た。

 

「主、葛葉白に代わって命じます。いでよ雷蛇(レイシオ)!!」

「ぎゃあああ!」

「ぐぅ」

 

 斗和子が放つ雷撃の獣魔術、雷蛇が何人もの憑魔一族をまとめて戦闘不能へと追い込んでいく。体術、尾、獣魔術。手数で優れるとされる憑魔一族だが斗和子も負けてはない。八雲達への追手は最初に事態を飲み込んだ数人程度に抑えられていた。

 

「ちっ役に立たん奴らだ。何をやっている」

「殿下、動かないで頂けますか?」

「ふん、グプターか」

 

 役に立たない部下に舌打ちをし、手ずから始末しようとガルガが動き出すが、その動きは背後から迫ってきたグプターの刃で防がれた。

 

「ふん!!……ん?あれはグプター、いったい何を……」

 

 衛兵を蹴散らす斗和子の視界に不穏な空気を放つ二人、グプターが握る短刀はガルガの喉元に突き付けられており、とても王族の護衛をしているようには見えない。一瞬、介入しようかと斗和子は思案するが仲間同士で争ってもらった方が自らに利すると考え二人を放置することに決めた。

 

「こっちはこっちで時間を稼げるだけ稼いでやりますよ」

「がっ!」

 

 

 背後から迫る衛兵の顎を掌底で打ち抜き斗和子はにやりと笑うのだった。

 

 

 

 

 

「さて、概ね倒し終わりましたか、後は私が合流すれば……っ!?」

 

 事も無げに衛兵を制圧し終えた斗和子は軽く埃を払い合流に向けて走り始めようとした瞬間、その足元が鳴動している事に気づく。そして同時に噴出する妖気、そこから感じる力は量も質も只ならぬことが起きていることを斗和子に確信させた。

 

 

 

「ハーッハッハハハハ、貴様ら虫ケラに用はない!!捻り潰してくれる!!」

 

 

 

 斗和子が現場に辿り着くと、そこには巨大な魔神像と融合したガルガの姿があった。

 魔神像はかつて三只眼吽迦羅と融合した憑魔であり、理性を無くし化け物と化したために封印されていたものだった。

 本来なら合身自体が危険とされていたが、パイを捕えんとしたことろをシヴァの爪を装備したパイに思わぬ反撃を受けたガルガが一か八かで魔神像と融合し、見事に融合が成功してしまったのだ。

 今のガルガは優に二十メートルを越える直立するカメの様な化け物へと変貌し、その頭部に人の姿のガルガは引っ付くというまさに変幻自在の憑魔一族を体現するような見た目をしており、巨躯から発する威圧感と三只眼吽迦羅由来の妖気により大怪獣のような威容を兼ね備えていた。

 

「どうなってるんですか、一体」

 

 僅か十分程度で変貌した事態に流石の斗和子も動揺を隠せないでいた。

 

「話せばややこしいんだけど、とりあえず土爪(トウチャオ)!!」

「アグニマーヤ!!」

 

 渋面を浮かべる斗和子に返事しながらも八雲は土爪を、そしていつの間にか協力関係になったのかグプターが火炎の術を放つ。

 

 しかし、コンクリートもやすやすと削り取る土爪もグプターのアグニマーヤも魔神と化したガルガの表面を撫でるだけでなんら効果を発揮しない。

 

「雑魚が、ほら!」

 

 がばりとガルガの真下にある魔神の顎が開き極太の光線が放たれる。

 

「危ないっ!」

「うわっ」

「っ」

 

 攻撃した直後の隙を晒す二人とは異なり、相手の様子を探っていた斗和子はガルガの攻撃の予兆を感じ取り、咄嗟に二人を突き飛ばす。

 

 

「斗和子さん!!」

 

 突き飛ばされながら八雲は光線に体全体が飲み込まれた斗和子を見てしまう。三只眼吽迦羅並みの妖気を発するガルガの攻撃、そんなものに晒されてただで済むわけがない。

 

 ドワッ!

 

 八雲が顔を青褪めさせるよりも早く、斗和子周辺の地面が吹き飛んだ。土煙と衝撃で八雲とグプターもごろごろと地面を転がされ土と泥で体を汚す。

 

「虫ケラが雑魚に庇われたか、全員同時に吹き飛んだほうが悲しみも少ないだろうに、愚か……な!?」

「ふん、このぐらいで大妖が化身である私を倒せると?」

 

 そこらの肉食獣よりも鋭利な牙を剝き出しにして斗和子は嗤う。その身は服こそ所々が破けているが、体そのものに傷は見られない。それどころか斗和子周辺の地面も抉れずに残っているではないか。

 

「貴様っ何をした!?」

「教える義理はない、だがお返しよ。坊や」

 

 狼狽えるガルガを嘲笑すると斗和子の体は光りだす。

 その直後、斗和子の体から光線が放たれ、ガルガを襲う。

 

「?----ぐぉおお!??これは!?」

 

 巨躯ゆえの耐久性か、ほぼガルガにダメージは無いものの、自らの攻撃をそっくり返されたというのはガルガに衝撃と怒りを覚えさせた。

 

「貴様、そんじょそこらの妖怪では無いな」 

「ふふ、だったら何?」

 

 切迫した戦いからか、その方がガルガを煽れると判断したのか斗和子の口調はいつもよりもかつてに近しいものになっていた。

 

(御方様が幾らか力を取り戻したので、私も方も力が戻っていますね。今までは使えなかった能力も使えるようになっています)

 

 ガルガの攻撃を跳ね返したのは、かつて斗和子の持っていた能力の一つである。しかもただ跳ね返すだけではない。攻撃を溜め込み蓄積したり、反射するタイミングも自由に変えることが出来るというインチキ染みた力である。

 同じ化身たるくらぎは口内に結界をぶち込まれ倒され、かつての自分も獣の槍の使い手である潮が創意工夫する事で打破されたが、そんな例外を除けば無法に近い能力である。

 

「潰れろ!」

 

 純粋な物理攻撃なら効くと判断したのか魔神の足が振り下ろされ、斗和子ごと地面が陥没する。

 

「ふん、あっけない……なに!?」

 

 魔神の足元が爆発、魔神は片膝を着いてしまう。攻撃を受けた斗和子は多少煤けているものの、先ほどと同じでダメージは感じられない。だが……。

 

(かつてと違い、完全に攻撃を防げてはいませんね。表面上はともかく内部にダメージが蓄積していますし、相応の力を消費しています)

 

 無敵に様に思える力だったが、主たる白の力が完全に戻ってはいないため、攻撃を反射する力もまだ戻りきってはいないようだった。幾ばくかのダメージは受ける上に、攻撃の反射は斗和子の力を少なくない量で奪っていた。

 

「今度はこちらの番です!」

 

 空中へと飛び上がりながら斗和子は口から炎を吐いた。轟々と炎は唸るように燃え盛り魔神の頭に鎮座するガルガへと殺到する。

 

「ふん、その程度!」

 

 元々、一族で炎の術を扱うため、火への耐性が高いガルガには生半可な炎は効かない。それは斗和子の炎でも例外ではなかった。

 しかし、炎によって一瞬でも視界が奪われたガルガへと斗和子の尾が振るわれた。こちらも力をある程度、取り戻した白の影響で以前よりも大きく、速い。

 

「舐めるな!」

 

 魔神の体から幾つもの龍の頭が生え、空を飛ぶ斗和子へと襲い掛かる。涎をまき散らし如何にも強力なそれは、戦士グプターですら食いつかれれば手痛いでは済まないダメージを負うほどだ。

 上下左右、後ろ前。あらゆる角度から迫る攻撃を斗和子は尾と爪、時には炎を吐き出すことで防いでいく。

 何度、頭を潰されようと、その都度ガルガは新たな龍を生やす。潰す、生やす、潰す、生やす。戦況は膠着しつつあった。

 

(……強い、以前の世界の妖怪達と比べても上澄みと言える)

 

 煽ったり、嘲笑ったりしたものの斗和子の魔神と融合したガルガの戦闘力の評価はかなり高かった。単純に巨躯から振るわれる物理的な攻撃、憑魔一族の中でも恐らく有数の手数の多さ、それに持ち合わせる術。それこそ潮やとらでも容易く勝てる相手ではない程のスペックを持っていた。

 

(それに)

 

 大木もかくやという大きさになった斗和子の尾に無数の棘が乱立する。体を捻り、そのままスピードが乗せられた尾は魔神の右脇にそして、そのまま巻き付くようにガルガの頭部にぶち当たる。

 

「むず痒いわ!!」

 

 魔神は元より、融合したガルガまでが無傷であり、攻撃の意を為していない。この耐久力が斗和子を悩ませる特に魔神ガルガが優れている点だった。斗和子とて白面の化身であり、そんじょそこらの妖怪など木石の様に蹴散らせるが、主な活動は諜報や奸計、間諜である。近距離、遠距離の大掛かりな攻撃は担当外であり決定力に欠けているのが現状だった。

 

 このままでは千日手、そんな斗和子の脳内にテレパシーが届く。

 

(夜に突入すると聞いていたんだが、別に私が遅刻したわけじゃないよな?)

 

 何処か、困惑したような主の言葉に斗和子は場違いにも安堵するのだった。

 




インチキ能力一部解禁。
見返すと藤田先生の週刊であの書き込みは尋常では無いですね。原稿が重いってなんなんだ……。
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