我が呼ばれたき名は   作:油揚げ

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第四十四話 復讐者

 

 麗らかな日差しの中、そんなのんびりした雰囲気をぶち壊すような破壊音が辺りに響いている。

 それは白と八雲は人里離れた川べりで修行を行っている音だった。

 互いが距離を詰めたり、あるいは離したりしながら体術を交え実戦さながら、いや実戦と比べて遜色が無いほどの気迫を持って気力をぶつけ合う。

 

「単調に攻めるな!少しは隙を作れっ!」

「く、分かってるよっ光牙(コアンヤア)!!」

 

 八雲の声と共に右の掌から光の龍が牙を剥き出しにして現れた。

 光牙は主の意を叶えんと咆哮を上げながら突き進む。

 しかし、白の注意を聞いていないのか、無造作に八雲は光牙を放っており、あっさりと避けられた。とはいえ、師匠面している白は、かつては力任せの攻撃が主体だったのは言うまでもない。

 

「くそっ」

 

 悪態を吐きながら八雲は白へと接近する。白の爪や髪は脅威だが、負傷を恐れずに戦えるのは(ウー)の他者を圧倒するアドバンテージだ。修行でやるには多少、卑怯にも思えるが負けっぱなしでは八雲もいられない。

 

 ゴァ!!

 

「うわっ!?」

 

 白に殴りかかろうとした八雲だったが突然、横合いから現れた白の巨大な尾の一本にその行く手を阻まれ蹈鞴(たたら)を踏んでしまう。

 そして……

 

「隙ありだ」

「グェっ!!!!!にゃっろっ!!」

 

 顎を思いきり右拳で振り抜かれ膝から崩れ落ち、かけた所でなんと不死故の再生力で瞬く間に回復し、そのまま反撃へと転じる。

 

「ふんっ!」

「ギャアアっ」

 

 しかし、それを読んでいたのか右拳を振り抜いた姿勢そのままに白は左後ろ回し蹴り、あるいはソバットの様な動きで八雲を蹴り飛ばした。

 そのまま、何バウンドかするとようやく八雲は止まり、大の字で寝そべった。

 

「はー勝てねぇ……ってか、尻尾はとりあえず無しにしない?」

「お前は新しい獣魔術を取り入れた戦い方の修行してるなら、私は尾の使い方を試しているんだよ」

「うぅ……それならしゃーないか……」

「そもそも敵がお前に合った戦い方をしてくれるなんて保証は何処にも無いんだぞ」

 

 

 

「光牙っ!!」

 

 くらぎによる反射。

 

「うわぁあああ!?」

 

 シェムナ。

 

「う、うぉ……っわあぁあああ……」

 

 溶かされる。

 

 もはや、八雲の蹂躙特集である。不死身ゆえに遠慮することが無いため能力の検証にこれ以上の適任もいないだろう。人間ベース故に耐久力は低いが、それにして不死身が便利すぎた。

 八雲は八雲で一人で多様な能力が有る白との訓練は並みの妖怪では得られないハイレベルな戦闘のために実力向上に打ってつけと言えた。しこたま痛めつけらる弊害は有れど。

 

「黒炎、行け」

 

 白の尾の一部が千切れ、純白とは真逆の漆黒の化け物が姿を現す。虎を二足歩行した異形に筋骨隆々の体躯、金色の髪を振り乱し一つ眼をらんらんと輝かせるそれは、字伏(あぜふせ)を模して想像した白面の者の尾の化身の一つ。

 並みの妖怪、もしくはそれ以上の力を持つがそれ以上に恐ろしいのはこれは数千、数万と生み出せるのが強みである。

 

「こ、今度はなんだよっ!」

「----っ!」

 

 ネコ科の猛獣の如き足を踏み出し、黒炎は一息に距離を詰める三メートル近い巨躯とは思えぬ速度に八雲は一瞬怯むが、寸でのところで身を翻す。

 

「っ!?ぐっ」

 

 しかし、相手も馬鹿正直に突っ込むわけもなく、八雲が身を躱す前に左手を振るっていた。ナイフの刃渡りをいちいち見るのも馬鹿々々しくなるような黒炎の爪は八雲の左肩をざっくりと抉っていた。

 鮮血がほとばしり地面に垂れる。黒炎も八雲もそのままの勢いで距離を空けるが、身を躱すと同時に自身の正面に黒炎を据えた八雲と背後に回られた黒炎ではその意味合いは大きく異なる。

 

「光牙っ!!」

「っ!!!!」

 

 振り返ることも許されず黒炎は上半身を丸ごと吹き飛ばされ倒れ伏す。

 

「あ、白姉ぇこれって……」

「黒炎は私が自在に生み出せる使い魔の様なものだ。気にする必要はない」

(ほぅベナレスが生み出した魔術……さすがの威力だ。未熟な八雲でもこれほどとは)

 

 慌てる八雲を宥めながら白は光牙の攻撃力に舌を巻いていた。

 

(ふむ、私の繋がりが斗和子ほどでは無いためか、まだまだ強さは足りないな)

 

 久しぶりに生み出した黒炎の強さに顎を一撫でしながら白は思案する。そして。

 

「婢妖」

 

 今度は尾から目玉に耳が生えたかのような化け物が百匹近くも八雲へと放たれた。剥き出しの目は血走り生々しい、そこに人そっくりの耳が二つ張り付く姿は嫌悪感を掻き立てるように悍ましい。

 

「え、な、なんだよ。それっ!?」

 

 その見た目としかも群体で襲ってくるという恐怖に八雲の腰は引けるが、宙を自在に舞う婢妖から逃げるすべを八雲は……持っていた。

 

走鱗(ツォウリン)!!」

 

 光牙と同時にハーンから譲り受けた(?)獣魔術を八雲は発動させる。八雲の足元から現れたそれは、八雲を乗せて勢いよく飛び始めた。スノーボードやあるいはサーフボードの様に八雲は走鱗を乗りこなし婢妖を避ける。

 特に直線でのスピードはかなりのもので、かつてよりも弱体化した婢妖ではとても追いつけない。

 

「光牙と合わせて現状八雲に足りない部分を補えるのは良いな。……ふむ秘術の一つか二つ、教えてもらえばよかったか」

 

 光牙で攻撃力、走鱗で機動力。八雲に決定的に足りない二つが補強されたことはかなり大きい。特に不死身なら玉砕覚悟で光牙さえ当てさえればどうとでもなる局面は多いだろう。敢えて言うなら防御力も上げたいところだが、光牙も走鱗の使用がまだまだ拙い現状では少々贅沢な我儘だ。

 

「東京に行く前にハズラットに聞いておくべきだったか……うむ」

 

 自分達が知らない知識や情報を持つハーンは白からしても得難い人材だが、八雲がほとんど騙した形で日本に向かわせておいて、こちら連絡を取るというのは少々気が引ける。ママ情報では金欠だったのでオカマバーのホールをやらせてるらしいが、大和撫子に会うという夢を思い描いて来日してその仕打ち、あまりにも哀れである。

 

(しかし、そんな金欠で女に会ってどうするつもりだったんだ?出国も出来ないなんて相当だぞ)

 

 香港をうろついている段階で飯も買えずにいたハーンの悲惨な姿を白は思い浮かべて首を傾げた。

 

「か、数が多すぎる。おらっ!」

 

 纏わりつく婢妖に思うように光牙を使えない様子の八雲だったが、走鱗の杭の様な尻尾で器用に婢妖を薙ぎ払う。柔らかい目玉が弾け体液や肉片がボトボトを周囲に降り注ぐ。

 

「ギャィイイイ!!」

「っ!!」

 

 しかし、婢妖の真骨頂はその数だ。八雲が文句を漏らしているようにその程度の攻撃で散らせるほど甘くはない。

 

「どけぇえええ!!土爪(トウチャオ)!!」

 

 わざと敵が密集する場所に八雲は敢えて突っ込むと土爪を至近距離で唱えた、三つの爪の軌跡は八雲の前方を大きく薙ぎ払い、今までに無い隙間が生まれる。

 八雲はそのままのスピードで走鱗を進ませ、婢妖と大きく距離を空ける。どうやら光牙で数を大きく減らす算段のようだ。

 

「よしっ光牙……ん?」

「む?」

 

 光牙を唱えようとした八雲だが、婢妖が見るからに動きが悪くなったのを見て眉を顰めた。

 距離を取った八雲に近づこうとしているようだが、どうにもその動きは鈍い。

 

「……そういうことか」

 

 なにやら思いついたのか白は八雲達が戦っている場に一息に近づいた。

 すると……。

 

「うおっ!?なんか元に戻った?」

 

 白が近づくと婢妖は先ほど見せた鈍さが嘘のように動き始めた。白はその様子に八雲への攻撃を中断させると数匹を残して尾に婢妖を戻していく。

 

「白姉ぇ?」

「どうやら射程の様なものがあるみたいだな。その射程を越えると力がかなり制限されるようだ」

 

 かつては存在しなかった欠点。生み出した化身、妖怪どもは数万、数十万生み出そうともなんら影響はなかった。とはいえ、それはかつての白がそれこそ妖気の余波で時空間を歪めるほどの特級の規格外故に気付かなかっただけで、実はそれなりに力を消費していた可能性も有るには有る。

 何せ数を生み出すには都市を軽々と滅ぼせる尾を丸々切り離していたのだ。今の体でそれと同等のコストを掛けられるはずもない。

 

(昔のように無尽蔵な諜報活動はまだまだ難しいな。つくづく以前の力の大きさがどれだけ異様だったのが分かるな)

 

 だが、それでも今の尾をフルに婢妖へと変事させれば瞬間的に千匹近い数を生み出せる。ベナレスやガルガの様な強者には抗えずとも雑魚散らしや逃げる隙くらいは作れるだろうと白は思案していた。

 

「大体の現状は分かった。よし、ここからは私も動く八雲構えろ」

「え、ちょっと、それは……」

「なら先手は貰うからな!」

「ひぃえええええ!!?」

 

 その後、八雲は死なないだけのサンドバックと化すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。香港の富裕層も利用するレストランに二人の男女が食事を囲んでいた。

 

「さぁ、遠慮せずに食ってくれ。追加も気にしなくて良いからな」

 

 男女の正体は男は若き秘術師ハズラット・ハーン。女は妖怪食いしん坊ではなく、三只眼吽迦羅の生き残りであり、八雲の主パイ。

 ハーンは旅装とキャリーケース、パイはパーカーにミニスカと一流レストランには似つかわしくない格好だが、これは偶々、妖撃社を訪れようとしたハーンをパイが見つけたためである。……表向きは。

 ハーンの本当の目的は三只眼の力を一時的に封じる為であり、今のハーンはかつて八雲と綾小路ぱいに撃退された妖怪人形である木霊と裏で手を組んでおり、八雲に復讐するという一点で協力体制に有るのだ。

 

「この前はロクな礼もせずに東京に行っちまったからな」

「……うん」

 

 ハーンはニコニコと笑顔を張り付けてパイに喫食を進める。無論、これには裏が有った。

 

(とりあえず飯を食わせてからだな、まずは警戒心を解かないと)

 

 八雲をとっちめるのに厄介なのはハーンが知る限り三只眼と白の二人である。方や妖怪達に崇められる鬼眼王(カイヤンワン)と同種であり妖力の化け物、パイの別人格たる三只眼。そしてもう一方、多様な能力を持ちここ数年で妖怪退治として闇に名を轟かせている人間か妖怪かも不明な正体不明、葛葉白。この二人が介入してくるなら八雲を害するのは不可能に近い。

 

眩䰠草(げんしんそう)これさえ飲ませりゃ、しばらく三只眼は表に出てこれなくなる)

 

 両者ともに警戒心が高く隙が無いように見えるが、パイなら話は別だ。いきなりこれを食ってくれは流石に無理でもお礼に食事と言えばお人好しな彼女は断れないだろうとハーンは考えていた。さらに自分では無く、店から振舞われる食事にこっそりと眩䰠草を混入させれば警戒心はさらに薄れるだろう。ちなみに眩䰠草の効果云々は実際に試したことはなく、やや博打的な行為であったりする。

 

「ふーん。八雲は白さんと修行中ねぇ、あんな坊ちゃんが早々に光牙やらを使いこなせるとは思っちゃいないけど」

「そうなの?」

「あぁ、まぁ最初に会った時から思ってはいたんだが、あいつは根本的に自分が体を張れば良いと思ってるんだろうな」

 

 暫く食べてなかった高級料理を食べながらハーンはパイの話に相槌を打っていた。

 

「无ってのも有るんだろうがな、修行にしてもまずはそこから変えねぇと話になんねぇよ。個は全、全は個!自らを取り巻く全てに己を委ねてこそだと俺は思うがね」

「……そうなんだ。でも八雲は私の為に修行してくれてるんだ。パイが三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)だから色んな子達に狙われて八雲も白もパイを守るために頑張ってくれているから」

 

 パイは八雲や白、妖撃社の人たちには見せない憂いを滲ませてそう呟いた。八雲は元々は人間であり、それを无に変えて過酷な運命に巻き込んだことをパイは悔いていた。巻き込んだ張本人が落ち込んでいるのを見せるわけにはいかない。ハーンはそういう意味では八雲達の事情を知っていて尚且つ身内ではないというのはパイにとって心中を吐露出来る存在だった。

 

「白さんもあの馬鹿も、義務で守ってる感じは無かったけどな」

「ううん、それでも二人の修行の邪魔は出来ないの、私はお荷物だから」

「そ、そんな事はねぇって!!ほら、金なら有るんだ。好きなの頼んでいいぜ!」

 

 八雲を倒すための依頼を木霊から受けた際に大金にものを言わせてパイを慰めようとするハーン。本来の目的は違和感なく眩䰠草を飲ませるための食事だったのだが生来のお人好しがここで滲み出ていた。

 

「ありがとう、でも二人が頑張っているのにパイだけ美味しいもの食べられないよ。ごめんね、せっかくご馳走してくれたのに……」

 

 儚げに微笑むその姿はいつもの天真爛漫な様子とはまるでかけ離れていた。

 

「…………っ」

 

 そして、自らの作戦や気遣いが徒労に終わろうとするかもしれないにも関わらずハーンは呆けたようにパイを見つめていた。普段の明るさや朗らかさも女性が苦手なハーンからすれば話しやすさがあったが、そんな表の様子とは打って変わってしっかりと周りを見れて自らの至らなさに落ち込んで迷惑を掛けたくないと俯くその姿は……。

 

「じゃ、じゃあお茶だけ貰ってくるよっ」

「うん、ありがとう」

 

 ハーンにどストライクだった。

 

 頬の赤さを誤魔化す様にハーンは席を立つと傍らの大きなキャリーケースと共にセルフサービスのドリンクコーナーへと足を運んだ。

 

 

 

 わざわざお茶を取りに行くのに巨大なキャリーケースを伴うという奇行をハーンが行ったのはいつのも女性への苦手意識から挙動不審になった……というわけではなく。キャリーケースの中に件の妖怪人形を隔しているためだ。

 無いとは思うがパイが開けてしまったり、他の客がぶつかってケースが開いてしまうというのを避けたのだ。

 

「よし、このお茶さえ飲ませれば三只眼は無力化できる。後はなんとか藤井だけ呼び出せば……あんたの出番だぜ」

 

 傍らのキャリーケースの中にいる妖怪人形に現状を伝えるとハーンは表情を顰めながらポットを握る。パイの話を聞いたからなのか、そこには躊躇いが浮かび出ていた。

 

「……」

 

(許してくれパイさん、これもあんたの様な可愛い子を蔑ろにするにっくき藤井のせいなんだ)

 

 自らを騙した八雲に対する復讐が何故かハーンの中でいつの間にかパイを疎かにする八雲をとっちめるという方向へとシフトしていた。というか无たる八雲を物理的に痛めつけるのは労力の無駄なので、それなら今度こそ代金を割り増しで請求したり、危険な遺跡に同行させたりすれば良いのだが八雲をどうにかしてギャフンと言わせたいハーンはその事に気付いていなかった。

 

(でも安心してくれ。これを飲んでもアンタには影響は無い。三只眼が丸一日眠りにつくだけだから)

 

 誰にも聞こえない心の中で言い訳を並べ立てるとハーンは足早にパイの元へと戻っていった。

 

「久しいな秘術師の小僧」

「げ、げぇっ!?あ、アンタは……」

「フン」

「あ、あの何か、ご、御用でしょうか!?」

 

 思ってもみなかった事態と特大の後ろめたさから凄まじい脂汗をハーンは噴出する。敵意は無くとも訝しげな視線と込められた妖気がハーンに生命の危機を感じさせる。

 

「ふん、そのカバンがどうにも気にかかってな改めさせてもらうぞ」

「え、あ、い、いやぁ……」

 

 不自然な態度とわざわざキャリーケースごとお茶を取りに行くハーンに違和感を覚えた三只眼は確かめるためにわざわざ出てきたらしい。

 

「あ、これお茶です。よ、よろしければどうぞ……」

 

 鳥肌と恐怖をのどを鳴らして飲み込むとハーンはびくびくとお茶を三只眼へと差し出した。

 

「よい心がけじゃ」

 

 じろり、と三只眼はハーンを睨むが、一息にお茶を飲む。

 

「では、改めさせてもらう」

 

 本題に入るとばかりに僅かな抵抗を示すハーンを押しのけ、三只眼はキャリーケースに手を掛けた。物理的にも魔術的にもロックをしていないキャリーケースは容易く、その中身を開帳する。

 

(……ヤベェ、終わった)

 

 目をつむりハーンは八雲をとっちめる策が終わったことも、そして三只眼に逆にシバかれる未来を想像する。

 

「なんじゃ、カラか」

「……っ!?」

 

 しかし、先ほどまでキャリーケースに隠れていたはずの妖怪人形はハーンも知らないうちに姿を消していた。事態が呑み込めずグルグルと思考が纏まらないハーンと、自分の想像が外れたことと何も無いキャリーケースを慎重に運ぶハーンに謎を深める三只眼。

 

「お客様」

 

 そんな三只眼にメイド服調の服装の女性が心配そうに声を掛けた。見れば三只眼の顔はいつまにか汗ばみ顔色が青を通り越して真っ白になっていた。

 

「顔色が優れないようす、どうかなさいましたか?よろしければおしぼりをお使いください」

「う、うむ……そういえばなにやら気分が悪い……急になんなんじゃ……」

 

 震える手でおしぼりを受け取ると三只眼は顔を拭こうとおしぼりを広げた。そして広げられたおしぼりにて視界が遮られる瞬間、僅かな光を三只眼の瞳が捕らえた。

 

「ぐっ!?」

 

 体をのけ反らせ、自らを貫かんと差し込まれた刃を躱すと、さらに身を捻り追撃の凶刃を三只眼はなんとか回避する。

 しかし、満足に動けたのはそこまでで三只眼の意識は徐々に薄れていく。眩䰠草の効力が効き始めたのだ。

 

「久しいね三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)

「き、貴様は人形師の……」

「覚えてもらって光栄ね。悪いけど死んでもらうよ」

 

 手首から隠し刃を煌めかせて妖怪人形は三只眼へとずいっと迫る。さきまで隠してた妖気が辺りに解き放たれる。憎悪と執念によって練り上げられたのか、精霊レベルに昇華されたその力は既に植物との親和性から木霊とも呼べる領域までに至っていた。

 

「やめろ木霊!!この娘には手を出すな!倒すのは藤井八雲なんだぞ!」

「ふん」

「ぐぁっ!?」

 

 妖怪人形、改め木霊を制止しようとハーンは二人の間に割り込むがここまで連れてきた恩なぞ知らぬとばかりに木霊はハーンを容赦なく殴り飛ばす。

 

「私は前の私の体を壊し、主人を救わなかった三只眼吽迦羅を殺すために復活した。三只眼吽迦羅を葬れば无も死ぬ!!文句はあるまい!!!」

「て、てめえ、最初からそのつもりで!!」

 

 

 ここにきてようやくハーンは自らが騙されたことを知るのだった。

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