どうやらこの世界は俺の知っているものとは違うらしい 作:名誉アトランティス二等市民
お久しぶりです。
――第三新東京市セントラルタワー地下中枢区画
暗闇に閉ざされた広間。
その中央に鎮座し、青白く発光する巨大な結晶体。
結晶中に複雑に刻まれた立体的な文様は、さながら集積回路のような複雑さを感じさせ、ときおりその組み合わせを変化させては絶えず明滅を繰り返している。
眼前で静謐な輝きを湛えるその結晶体は、起動試験の最終フェーズを迎え、本格起動を一月後に控えている。
『第三新東京市中枢管制ユニット』、または『使徒誘引装置』と呼ばれるそれ。
だが、あえて俺はこう呼ぼう。
――『
かつて、アトランティス人が持ち込んだオーバーテクノロジー。
彼らの後継を名乗るネオ・アトランティスでさえも製造を断念した超物体。
かつての事件を機に飛躍的な進歩を遂げた科学技術は、かつての不可能を可能にした。
人類は、ブルーウォーターの製造に成功したのである。
広大な都市を完全に管理し、各所に備えられた超兵器群を統制するには
では、どうやって超科学に溢れた要塞都市を運用するのか。
その答えが目の前にある。
金属位相体オリハルコン、その内部に膨大な光情報を封入することによって造られた超高度光量子演算器。
その、文字通り桁違いな演算出力をもってすれば、この第三新東京市はおろか、全地球上の人類文明を管理することだって可能だろう。
おまけに上位次元から次々に流入する情報熱量を転用すれば、そのまま無限に使用可能な動力炉としても機能する。
圧倒的性能。まさに万能。
なるほど、これが『賢者の石』などと呼ばれていたことも納得である。
これ程素晴らしい物体を、国連は全面的に秘匿しなければならなかった。
下関条約*1によって、先史文明遺産を加盟国に無償公開することを明文化しておきながら、条約違反となるこの行為。
それは、ブルーウォーターの持つ厄介極まる性質に由来する。
それこそが『使徒の誘因作用』であり、この第三新東京市に例外的なブルーウォーターの運用を許可された原因でもある。
ブルーウォーターが初めて生成された当初、国連科学技術部は歓喜に包まれた。
これ程の遺産は他に類を見ない。人類の躍進に大いに貢献するだろう、と。
西暦2000年――旧エルサレム郊外、死海にほど近い研究施設でのことだ。
ブルーウォーターの起動から数分後。
死海の底から
『
人類と
その後、『死海蒸発事件』が起きるまでのわずかな期間に行われたいくつかの実験と調査によって、
しかし、問題はそのアトランティス人が――地球人類との混血の末裔はともかくとして直系は――絶滅しており、
更に最悪なことに、
死海の底から現れた未知の兵器。
他にも何か沈んでいるのではないかと考えた国連は死海全域の大掛かりなサルベージを行い、その中で一つの遺物を発見した。
『死海文書』と呼ばれるそれはアトランティス人によって記述されたある種の技術本と呼ぶべき――実際には『本』とは程遠いが――ものであり、その中には
これによって国連は自前でATフィールドを備えた
その素体として選ばれたのがアダムだった。
当初は活性状態のブルーウォーターにのみ反応を示していたアダムは、
事実、表面装甲の増設やコア部分へのエントリーシステムのインプラントなどを行ってもアダムは沈黙を保っていたのだ。
事態が動いたのは、起動シークエンスの最中であった。
非アトランティス人による起動を検知したアダムは即座に暴走状態に移行。
拘束具を引きちぎり、そのまま研究施設を破壊しながら死海沿岸の研究拠点から内陸に位置するブルーウォーターに向けて進行。
そして当時の国連軍の抵抗むなしくアダムとブルーウォーターの接触は成り、閃光と共に周辺一帯は塩化、および蒸発した。
それこそが死海周辺をおおよそ100㎞周辺まで塩化させた『死海蒸発事件』、そのことのあらましである。
国連が
俺の目の前に鎮座するこの結晶体は、人類が手にした叡智の結晶であると同時に、呼び覚ますべきでない怪物たちを解き放つ地獄の門の鍵でもある。
俺個人としては、この地を戦火に陥れるこれの存在に内心逡巡している。
一方で、その必要性についても十分に理解している。
死海文書の記述によれば、始まりの
そうなったとき、
だからこそ、
それに、
人類には古代文明の遺したキラーマシンどもと戦うより他に道はないのだ。
俺もできる限りのことはした。手を尽くしたと言っていい。
伊達に『先史文明技術顧問官』なんて大仰な肩書を持ってるわけじゃない。
俺の知る
だからこそ、持てる限りの知恵と頼りになる伝手とを最大限に行使したのだ。
全てが終わった後に残るのは人類か、先史文明か。
――時に西暦2015年、物語の幕が上がる。
Anti-Apostle-Armsの頭文字をとって『
使徒最大の脅威であるATフィールドを相殺するべく死海文書やアダムの研究によって得られた知見をもとに作られた独自のATフィールド発生装置を備えている。
その形態はヒト型に限らず多種多様であり、様々な戦域に対応している。
2015年時点では零から肆号機までが配備済み。伍号機が建造中。