※
「ビスマルク、握手をしよう」
「……は?」
いつものように屋上で。故郷のヴルストがちょっと恋しいわよね、などと他愛もない話をしていて、ちょうどその会話が途切れたときだった。
あからさまに胡散臭い顔をしながらも手を差し出すこいつは、根がいいやつなのだと思う。だからこそ、私でも比較的うまく付き合っていけているのだろう。
「……あいだだだだ!!」
「痛いか」
「痛いわよ!!」
ぶん、と手を振り払ってビスマルクが吠える。
「あなた馬鹿力なんだから加減しなさいよ!」
「そんなにか?」
「戦艦には劣っても曲がりなりにもあなたは正規空母なのよ」
手を振りながらあいたぁ~とぼやく彼女を尻目に、自身の手のひらを眺めた。
「……そうか」
「なぁに、急に。どうしたの」
『──痛い!!』
怯えるような目。気味悪がるようなその表情。全身から滲み出る、拒絶の態度。
「……別に」
きゅ、と手を握りしめながらそう呟くと、ビスマルクがフェンスに寄りかかって腕を組みながら話しかけてきた。
「ふうん? 珍しいこともあるものね……あなた、人に触れるのも、触れられるのも苦手でしょう」
そうだ、その通りだ。だから常に人と一定距離を保てるよう、気を配ってきたはずだ。川内からはたまになにやらこちらを探るかのような気配を感じることがある。それでも隙を見せないということを悟るとなにやら楽しそうにニヤニヤしているから、あれでいてあの女は諦めが悪いようだ。なにを仕掛けようとしているのかは知らないが。
そうなのだ、川内がつけいる隙がないくらい、かといってあからさまに人を避けているということは悟られない程度には気を使い、人とちょうどいい距離を保ってきた、そのはずだった。
『──痕になっちゃいますよ』
人との距離感が近い人なのだと思う。ただ、べたべたとしてくるというよりかは、ごくごく自然に時たま触れてくるくらいのスキンシップ。こちらが身を強ばらせると、そっと距離をとって笑いかけてくる、そういった距離感。
人と触れあうのは苦手だ。どう返せばいいか、わからない。だから困る、近づかないで欲しい。そう、思っているはずなのに。
「……まぁな」
気づけば彼女に接触を許して。そして、彼女の手が離れていくその瞬間。少し、寂しいなどと思ってしまうのは。きっと、気の迷いなのに、違いない。
※
「──赤城さんですか?」
発艦を終えた飛龍が、こちらを振り返る。
「ああ。日本の艦娘にとって、イッコーセンとはなんなのだろうかと思ってな」
ちょうど個人練習へと繰り出した彼女に、見学させてもらってもいいだろうかと着いてきてその様子を見させてもらっていたのだが、せっかくだからと艦載機が目標に到達するまでの間、気になることを質問してみたのだ。
「うーん、私はここに来て日が浅いからなぁ。まぁ、二航戦なりの対抗心みたいなものは若干あるみたいですけど」
飛龍はたまに自分のことをどこか他人事のように話す。最初は聞き取りの問題かと思ったが、何度かそう感じたことがあるのでこちらの言語能力の問題ではないような気がしてきた。
今日は風が気持ちいいですねー、とどこかのほほんとしながら彼女が続けた。
「一航戦とか二航戦とか、正直よくわからないけど。赤城さんは好きですよ、一緒にいて落ち着きますよね」
「……そうだな」
「鳳翔さんにちょっと似てるんですよねー」
「ホーショー?」
「はい、私達の弓の先生だったんですけれど」
二人とも射が綺麗なんですよ、と言いながら飛龍が目を細める。それにつられて目標物へと視線を移した刹那。海面を切り裂くように。水切り石が水面を跳ねるかのごとく、海面すれすれを飛んでいく艦攻が目標物を捉えた。
艦載機の動きには、少なからず個性が出る。例えば赤城の艦載機達は上空を丁寧に、それでいて力強く伸びやかに飛んでいく。それに対して飛龍は、その無邪気な外見に相反して妙に攻撃的というか、相手の喉元に食らいつくかのような獰猛さを兼ね備えた飛ばし方をするものだ、と思った。
「……あんなに低く飛ばして、海面衝突しないのか」
「あはは、しませんって。うちの子は」
「……でも、危ないだろう?」
「うーん? まぁ危ないけど」
でも当たりますよ? とあっけらかんと言われて思わず黙り込んでしまった。
こうやって彼女ら、日本の正規空母の訓練を見せてもらうようになって、ますますわからなくなっていく。弓矢という一世代も二世代も前の古臭い道具を用い、その癖確かな技の冴えで得体の知れない強さを誇る彼女達が。技術的にはドイツの艤装の方が遥かに進んでいるように感じるのに、それに勝るとも劣らぬ強さが、どこからくるのか。それがどうしてもわからなかった。
「……誇りとは、なんなんだ」
だからそれは、思わず溢してしまった言葉だった。
『一航戦は私達の誇りですから』
日本人がよく使う誇りという概念。誇りがある、と自身を律し、誇りだ、とその姿を重んじる風潮。
『──だから、
そう静かに私の問いかけに答えた駆逐艦の彼女。どう見たって、ただの少女だ。だというのに静かにそう言い放った彼女の瞳に宿る、確かな力強さ。
わからなかった、なにもかも。
「──誇りってのは、人々の願いを背負うことなんだと思うよ」
不意に。ざぁ、と風が吹いた。帽子が煽られそうになるのを押さえながら、彼女の方を振り返る。
「こうあれっていうね。だから私達はその願いを背負い、立っていられるよう心を鍛える。そしてその
妙な感じがした。そこにいる彼女は彼女であって、そうではないかのような。確かにそこにいるのは飛龍のはずなのに、穏やかにそう語る彼女はまるで別人のように思えた。
「的に中てるのなんて大した意味はない。その的に中てるまでの過程が大事なのよ」
「……過程」
「そ。そしてそこに正解なんかないからさ。ずっと悩みながら、それでも自問自答し続けるわけ」
暫く押し黙っていると、ふい、と空を見上げた飛龍は淀みなく戻ってきた艦載機達を飛行甲板で受け、流れるような動作で矢を矢筒に戻していった。カランカラン、と妙に涼しげな音が辺りに響く。
「……答えのわからないものに向き合ったって、時間の無駄だろう」
くるくると手元の矢を器用に弄んでいた飛龍にようやくそう言うと、ちらり、とこちらに視線を寄越して彼女が答えた。
「向き合うことが、大事なのよ」
「……」
「心ってのは臆病だから。そうやって向き合う癖をつけていかないとついつい逃げちゃうからさ」
そう言ってこちらをじっと見つめる彼女の瞳は、どこまでも穏やかで。それでいて、まるで全てを見透かしているかのような、そういった居心地の悪さがあった。
「……理解、できない」
その視線から逃れるように、そう吐き捨てると。
「そ? ……いつかわかるといいね、私みたいに」
そうぽつりと呟いて。もう戻りましょうか、と静かに続けながら、呉の港へと緩やかに進んでいった。
※
『──素晴らしい』
……うるさいな。
『君のその体質はかけがえのないものだ。是非とも人類救済のための礎となっていただきたい』
体のいい、おとなしいモルモットが欲しかっただけだろう。
好きにすればいい。どうせ、なにも感じはしない。これが人類のためとなるのならば、甘んじて受け入れよう、私にとって
『──痕になっちゃいますよ』
どうでも、いいんだ。
『せっかくの、綺麗なお肌なんですから。ね?』
……どう、でも。
※
鎮守府内が途端に慌ただしくなる。呉鎮守府では単なる日常の一部。どこの鎮守府よりも真っ先に危険な最前線へと送られ、人類の生活圏を守るべく奮闘するここの艦娘にとって、このビリビリと空気を伝う緊張感も、そして風に運ばれる海の匂いに混ざり込むなにかが焦げ付いたかのような異臭と、鉄の臭いは単なる日常の一場面。この、血と、艤装の鉄の臭いが混ざり合って形成される、死のにおいでさえ。
「……!」
いてもたってもいられずに工廠へと飛び込むと、その臭いがより一層強くなる。一瞬それに意識を持っていかれそうになって──響き渡る怒声が私の意識をここへと引き戻した。
担架はどこだ、高速修復剤の在庫は、トリアージ早くしろ、などと飛び交う怒声をくぐり抜けて、ようやく目的の人物の姿を捉えた。いつもよりさらに帽子を目深に被り、焼け焦げた服の隙間から大量の血を流しているその人を。
幸いにも轟沈はいなかったらしい、と聞いていた私はそれでもこの目で見るまでは、とここまで駆けてきたのだけれど、彼女の姿を捉えることで一瞬安堵して──そしてその有り様にざぁっと血の気が引いていくのを感じていた。
「──グラーフさん!!」
びくり、と私の大声に反応して彼女の身が揺れる。私は、そんな彼女の様子を気に留めるでもなく駆け寄った。
「奇襲にあったって……!」
「……っ、あ」
だから、想像さえしなかった、彼女の帽子の下に隠された表情を。だって、こんなに大怪我をしていて、私は心配で心配でたまらなくて。
「止血、その前に鎮痛剤を……!」
そう言って駆け寄ると、彼女はバッと咄嗟に出血部分のひどい左腕を私から隠すようにして、私から一歩後ずさった。そのとき、ちょうど帽子の下の彼女と視線が合わさって。
「……」
その目が、なにかにひどく怯えているかのように私には映って、微かな違和感を覚えたのだった。
「……グラーフさん?」
「……、だ、いじょうぶ、だ」
「そんなわけ……! だって、血が!」
思わず一歩踏み出すと、下を向いた彼女が、その傷口を私から隠すように右手で覆って。ぎゅっと力強く握りしめた。
「……ちょ、っとグラーフさ」
「大丈夫だ」
「そんなわけ」
「だいじょうぶ、だ」
彼女から受ける、初めての強い拒絶。どうしていいかわからず、思わず伸ばしかけていた手が空を切る。この喧騒のなかにいて、私達二人だけの空間がまるで切り取られたかのように音が遠くなった気がした。
「なにしてんの死にたいの!?」
「あ、い、や……」
「ぼーっと突っ立ってないではやく入渠施設はいって! 歩ける!?」
「あ、ああ」
「じゃあほらいくわよ!」
頭がうまく回らなかった。だから、なんと声をかけていいのかわからず言いあぐねていたら、救護班の女性が怒鳴りながら私達の間に入ってきて、あっという間に彼女を入渠施設へとつれていってしまった。
そして、すれ違い様。彼女の目がこちらに向けられることは、なかったのだった。
※
『ねぇ、血がでてるよ!』
『……本当だ』
怪我をすれば真っ赤な液体が体からこぼれ落ちるのだということを教わった。
『死んじゃうよ!』
そしてこの真っ赤な液体が流れて、流れて。それが足りなくなると、人は死ぬのだと。
『……なんで、平気なの?』
だって、わからない。
『……ああ、あの子はね』
だって、理解できない。
『あなたとは違うのよ。近づかない方がいいわ』
そうだな、その方がいい。だって。
『本当に気味が悪いわ……怪我をしても表情一つ変えないんですもの』
わからないものとは。結局どうしたってわかりあうことは、できないのだから。
※
「屋上、好きなんですか?」
探し人をようやく見つけて声をかける。手元の懐中時計に視線を落としていた彼女は、パチリとそれを閉じて静かにこちらに振り返った。
「……空がよく見えるから、な」
「そうなんですか」
そうしてゆっくりと彼女に近づく。いつでも逃げられるよう、そして彼女を怯えさせぬよう。黙ってそれを見ていた彼女は、とうとう隣に私が立っても何もいうこともなく、その場から動かずに静かに佇んでいた。
「冷えちゃいますよ」
「……ああ」
そういって手元の紙コップを渡すと、それを受け取って彼女は黙りこんでしまった。
今日は、満月が綺麗だ。灯りのないこの屋上にいて、彼女の横顔がよく見えた。月明かりに照らされた彼女のその表情は、なにかを考えているようでいて、なにも思っていないかのような。相変わらず表情が読みにくい人だと思うけれど、それでも短くはない時間をこの人と過ごしてわかってきたこともある。
「お怪我の具合はいかがですか」
「問題ない。あれくらいならすぐに治ることくらい、知っているだろう」
「そうですね」
「……話はそれだけか」
これは、拒絶をしているのだと。今まで私が触れても、身を強ばらせても拒絶をされることはなかった。それに、たまに。怖々と弱々しい力で握り返してくれることだってあった。だから、あの日から彼女は私を拒絶しているのだと、ここ数日の態度で悟ったのだ。
「最近避けられてるなーって思って」
「……」
「だからちょっとお話できたらなって」
でも彼女は私のことを少々勘違いしている。こう見えて結構図太いのだ、私は。拒絶をされたくらいで身を引くほどか弱い乙女などではない、そんなものは拒絶のうちに入らない。
「……別に、避けていない。これが私の距離感だ」
ほらそうやって。私を傷つけないよう、そっと距離を取る。
「そうですか。……ねぇ、グラーフさん」
人のことをよくみている人だと思う。だからこそ、相手を不快にさせないようにそっと距離を取るのがうまい。それを拒絶だと悟られずに、ああ、こういう人なのだなと思わせて人と一定の距離を保つのが。
だから彼女が頑なに心を閉ざして、あからさまに私に対して拒絶の意を示しているのにはきっとなにかがあると思った。そして、今までの彼女とのやり取りでわずかに覚えた違和感。その、蓄積。それを元に、かまをかけることにした。
「──それ、冷たいお茶なんですけど」
「……」
「キンキンに冷やしたやつです、ずっと持っていたら痛くなるくらいの。いつ気づくかなって、思ったんですけど」
一瞬。彼女がわずかに動揺したのを見逃さなかった。
「……手袋越しだとな」
「そうですか」
「ああいう風に渡されたら、まぁ。勘違いするだろう」
「そうですね、ごめんなさい。……飲まないんですか?」
上手に隠したと思う。それでも、近くでよく見ていた私にはそれがわかった。
「体が冷えてしまうだろう」
「ごめんなさい、本当はそれあったかいんです」
「……」
「大丈夫ですよ、火傷するほどには熱くないですから」
そう言って自分の手元のお茶を飲む。熱いのが苦手だという彼女に合わせ、火傷をしない程度の、かといってぬるすぎない程度に温かいそのお茶を飲み終えて、近くにあったゴミ箱へと捨てた。
本当に手袋越しでわからなかったのかもしれない。でも、それならば動揺などするはずがないのだ。だから、彼女が次の言い訳を並べる前にこちらから逃げ道を塞ぐことにした。
「ねぇグラーフさん。──あなた、感覚がないんじゃないですか? そうですね、痛みとか」
負傷した皆が痛みでうめき声を上げるなか。決して軽症ではないはずなのに、平然と立ち尽くしてた彼女。傷口をあんなに強く握りしめて痛くないわけがないのに、悲鳴すら上げなかった。そして、あの時見た彼女の表情は、決して痛みで歪んだものではなくて、そう。なにかを知られてしまうのを、怖がっているかのように思えたのだ。
「……まいったな」
私の言葉を受けて黙り込んでいた彼女は、暫くしてそう弱々しくぽつりと呟いた。目の前のベンチに紙コップを置いて懐から軍支給の携帯端末を取り出し、なにやら調べながら言葉を続けた。
「……日本語で、なんと言うかわからない。……ああ、多分これだな」
そう言ってグラーフさんが端末の画面をこちらへと向けた。それを覗き込みながら、その名前をゆっくりと読み上げる。
「……先天性、無痛症」
聞いたことのない病気だ。それでも、字面からどういう症状なのかは類推できた。
「私は、生まれつき温度や痛みを感じることが、できないんだ」
そう静かに語る彼女の表情を、私はうまく読み取ることができなかった。無表情のようでもあるし、どこか寂しそうでもあるし。そして、何かを諦めたような顔でもある気がした。
「艦娘になってよかったことといえば、艤装を装着している間は身体の損傷具合を数値として把握できるようになったことだな。まぁ、日常生活は気をつけなければならないんだが」
『──熱いのは、苦手なんだ』
ああ、あれは、そういう。思い返せば、めっきり寒くなってきたというのにいつも飲んでいるものはぬるくなったものか、冷たいものだった。あれは、火傷しても気づかないから気をつけていたんだ。
「……この、懐中時計。よく見ているのは時間に几帳面だからじゃない。気温をチェックしていた」
「……体温調整のため?」
「ああ。まぁ、体温に関して言えば身震いや汗などである程度は気づけるんだが、昔からの癖でね」
今までの事柄が、ぱちり、ぱちりとまるでジグソーパズルのピースを一つずつ埋めていくように鮮やかに繋がっていく。
ああそうか。人と距離をとるのも、常に気を張っているのも。怪我をしても気づかないから。それを、知られないようにしていたから。そういう、ことだったのか。
言葉を失っていると、その様子をじっと見つめていたグラーフさんの表情がふ、と緩んだ。
それは、笑っているようでいて。
「……痛いとは、なんだろうな」
泣いているようにも、見えた。
※
今日は、よく喋るな。自分のことなのに、どこか他人事のようにそう思いながらも言葉を続けた。
「海に出るだろう。戦っていれば皆傷つく。痛みに表情を歪め、恐怖し、そしてそれに負けぬよう吠える。それが私には、わからない」
戦いには温度があるという。仲間が傷つき、自身が傷つき。大切なものを、自分のことを守ろうと人は必死になる。恐怖に負けぬよう、奮い立つ。その、温度というものが。私にはわからない。
「どんなに大きな傷を負っても気づかない。数値でこれ以上傷ついたらおそらく死ぬのだろうということを理解しても、実感できない」
どうしても、痛みというものがわからない。それを理解しようとしても、どこか、そう。まるで映画のワンシーンを見させられているかのごとく、遠い話のようで。
「……そうしていつしか私についた二つ名が
どうしても、理解することができなかった。
「夜はいい、暗闇は私が異常であることを覆い隠してくれる。幸いにグラーフにも夜の適性があった、だから私は夜戦を好んだ」
だから、夜は好きだった。闇夜に溶け込んでしまえば、私も皆と同質になれるような気がしたから。夜戦ができる空母は貴重で、だからこそ期待も集まった。夜は、私が人であることを許してくれるような気がしたのだ。だから、私はこの暗闇の中で生きていくと決めた。ここにいれば、私は私の存在を肯定してもいいのだと。だから、なにも問題はないのだ。だというのに。
「……なぜ、アカギが泣くんだ」
私の話を聞いて、なぜ貴方はぼろぼろと大粒の涙を溢すのだろう。
「だって、あなたの心は、こんなにも傷ついているのだもの」
人の痛みを自分のことのように想い泣く。自分とは対局で、だからこそまったく理解できない存在。
「痛みがわからなくたって心はあるわ。悲しいと思うことも、寂しいと思うことも」
きっと人の痛みに敏感だからこそ、強くあろうとするのだろう。自分で処理しきれないほどの重責を背負い込み、それで息苦しくなってしまう、不器用な人。
それでも、そこに居続けるのは、きっと優しさだけではない、彼女自身が気づかない強さがあるからだ。
「あなたが私に触れるときは、いつもおっかなびっくりで」
「……力加減が、わからないからな」
「それでいて、いつもどこか寂しそうでした」
彼女は逃げない。わからないものを、わからないなりに理解しようとする。どんなに自身が傷ついても、受け止めようとする。不器用な人だと思う、眩しいほどに。
そっと私の手をとって、両手できゅっと握りしめながら、流れ落ちる涙を拭おうともせず、言葉を紡ぐ。
「体温を分かち合えなくても、痛みを分かち合えなくても。……それでもあなたは、人だわ」
そう言って、そうだ、この人はまっすぐに私を見るのだ。
『日本人はシャイだから、ずっと目を見ていられないんですって』
最初はちょっと戸惑っていたけれど。近頃は、私がじっと見つめれば柔らかく笑い返してくれていた。この人は、そういう人なのだ。全てを受けとめようとするのだ、自然体で。
「……最初は」
そうして、気づけば言葉が口をついて出た。
「最初は、特に興味もなかったんだ。参考にしたとはいえ、もう今の私の艤装にその面影はないだろう?」
主語が曖昧な私の言葉を聞いて。それが"赤城"についてなのだと彼女が理解するのに、そんなに時間はかからなかった。
「日本の艦娘なんて、正直どうでもよかった。場所が変わってもやることは変わらない。なにも変わりはしない、そう思っていたんだ」
環境が変わったとて。私のこの体質を知らない人達がいる場所に行ったところで、どうせなにも変わらない。人は、わからないものを嫌悪する。どうせ、いつかこの体質もバレる。痛みを理解できない私を、きっと皆理解できない、嫌悪する。だから、私は学んだのだ。
「……本当に、貴方はわからない。他人のことを自分のことのように想い、泣くのも。私に、構ってくるのも。……なにも、わからない、のに」
わからないものには、近づくべきではないのだと。だって、どう頑張ったってそれを理解することは私にはできないし、相手もきっとそうなのだから。だから、適切な距離をとるのが一番いいのだと学んだはずだった。
だからきっと私はおかしくなってしまったのだ。他人を想い泣き、そして泣き虫の癖に強くあろうとするこの人のことなんか、全然わからないのに。
「わからなくて、いいんですよ」
全然わからないこの人の側を、いつしか離れがたく思ってしまっていたのだから。
被弾した際に眉ひとつ動かさない自身を、いつしか仲間は気味悪がるようになった。いつからだろう。表情を隠すように。痛みがわからないことを悟られないように、帽子を目深に被るようになったのは。
「同じ日本人だって、同じように痛みを感じる人同士だって、わからないことだらけだもの」
いつしか全身を覆い隠すように服を着こんで。手袋だってそうだ、自身はこの世界と薄い膜一枚で、どうにもならないその薄い薄い
「だから」
そうやって、うまく生きてきたはずだったのに。
「だから、私達はこうやって一緒にいて、言葉を交わすんですよ」
こうやって私に触れる彼女の体温を感じることができないことが、今は無性に寂しいと、思ってしまった。
「……そうか」
「言葉を交わして、それでもわからなくたっていいんです。わからないことは、悪いことじゃないわ」
「……実はな」
「はい」
「アカギはコーヒーにミルクと砂糖をたくさん入れるだろう。あれは、理解に苦しむ」
「そうですか。私もグラーフさんのコーヒーに対するこだわりはよくわからないです」
「そうか」
「ええ。でもですね」
そう言って彼女がふわりと笑いかける。
「わからないけれど。嫌いじゃないわ」
ふいに彼女の姿が滲んで見えて。優しく彼女が指先で私の頬をなぜたことで、ようやく。
自身が泣いているのだということを、理解した。
※
たったった、と足早に廊下をかけていく。待ち合わせの時間にはまだ十分に余裕はあるが、あの人は待ち合わせの三十分前にはしれっといて遅いわよ、なんて言うから油断はできない。空母専用の団欒室をひょっこりと覗き込めば、案の定彼女はもうすでにそこにいた。
「──」
珍しいこともあるものだ。無表情、あるいはしかめっ面をしていることの多い彼女がとても穏やかな、まるで何かを慈しむかのような表情をしていた。だから、思わず一歩踏み出しながら声をかけてしまった。
「何読んでるの、おねーちゃん」
「……瑞鶴」
途端に彼女顔がしかめっ面へと戻る。いっけない、気が緩むとつい。辺りを見回し、誰もいなかったことにほっと息をつきながら改めて咳払いをして話しかける。今日はこれから一緒に鍛練なのだ、公私混同は厳禁です、とよく小突かれるのでこの外面もそこそこ様になってきた。
「誰からの手紙ですか、加賀さん」
「大切な人からよ」
そして一気にメッキが剥がれ落ちてしまった。
「……へ、へぇ~? こ、恋人とかぁ~?」
なによその残念な子を見るかのような顔は。一時期に比べれば大分態度は軟化したけれど、今までのやりとりの名残か、昔より私に対する扱いが雑になったような気がしなくもない。
「……大きくなっても子供っぽさは抜けないのね」
「聞こえてるんですけど!!」
「そういうのではないわ。大切な人には違いないけれど」
やれやれ、とため息をついて加賀さんが弓を担いで歩きだす。その後ろを慌ててついていった。
「……私の改二式艤装も近々完成するかもしれないわね」
「え!?」
「まぁ改二式なんてなくても、既に改二式艤装が実装されているのにうまく使いこなせない誰かさんには負けないのだけれど」
「ぐ、ぎぎ!」
やっぱりこの人ムカつく! ああ、きっと幼い頃の記憶なんて美化されていたのだ。瑞鶴、あなたこんなのに憧れて空母になったのよ。全然優しくなくて嫌みったらしくて、まるで小姑のように小うるさいこんな人に。人生間違えたわよね、まで考えていたら、先を歩いていた加賀さんがふと立ち止まって振り返りながらぼそりと呟いた。
「……いつになったら安心して背中を預けさせてくれるのかしらね」
まぁでも最近はちょっと可愛いところもあるかもしれない、なんて思ってしまったりしなかったりすることもなくはないというか。
「……いつでもどんとこい!!」
「残念ながら私に自殺願望はないわ」
「むきぃー!!!!」
「平常心が足らないわね、五航戦」
「その呼び方やめてってば!」
やっぱ可愛くないわ。今日こそは鍛練でぎったぎたにしてやる、と息巻いてずんずんと彼女の先を足早に行く。
「あ」
「どうしたの」
「ほらほら、見て加賀さん」
そうしてちょうど渡り廊下に差し掛かった頃。ふと視界にとまったそれを指差して思わず言葉をもらした。
「桜の蕾だ」
冬の肌を刺すようなきんと冷えた空気も嫌いじゃない。霜柱で盛り上がった土を踏みしめる感触も、桶に張られた薄い氷をつつくのも好きだ。それでも、寒々しい冬を越え、春の息吹が感じられるこの瞬間はやはり心が踊る。さっきまでのムカムカも忘れて彼女の方に振り返れば。
「もうすぐ春ね」
そう言って、彼女は柔らかく笑っていて。こちらも釣られるように笑顔を溢したのだった。
※
「賑やかだね」
少しだけ開かれた窓の外から流れ込む喧騒にそう呟くと、鬱陶しそうに彼が答えた。
「祭り好きのうるせーのが増えたからな」
「ああ、彼女の演奏、僕も横須賀に帰る前に少し聞かせて貰おうかな。ちょっと楽しみにしてたんだ」
「好きにしろ」
彼はこういった行事が嫌いだった。嫌いではあるが必要なものであるということは理解しており、こうして自分は蚊帳の外で不満げに眺めるのが常だった。
「……しかし、こっちをとるとは思ってなかったなぁ」
「そうだな」
彼から受け取った承認済みの、新たな改二式艤装案。天下の一航戦、赤城の改二式案は難航に難航を重ね、そしてその過程で二種類の案に別れていった。
「改二戊、ね」
「夜間航空戦力の増強ができるんだ、こっちとしちゃありがたいがな」
「……夜が苦手だった彼女がねぇ」
彼女が過同調を悪化させて戦線を一時離れるきっかけとなった夜間襲撃。時間をかけて徐々に回復してきているとはいえ、まさか率先してこちらを選ぶなどと思ってもいなかった。
「言っただろ。無能はここでは生き残れないってよ」
「まぁ、あそこまで過同調をこじらせても戻ってこられた彼女は、まごうことなき"赤城"だろうね。……芯が強くなければ一航戦の適性なんかでるわけがないんだから」
「あれも前の赤城が派手だったからなぁ。どいつもこいつも勝手に萎縮しやがって」
けっと悪態をついてばん、と書類に判子を押す。……しわになっちゃってるなぁ。
「……彼女が戻ってきたのも、この艤装を選んだのも。全部お見通しかい?」
「んなわけあるか。俺はろくに働きもせずだらだらしてるアイツに金払ってる分働いてもらっただけだ。グラーフは赤城をベースにした空母って聞いてたしな」
「……ふーん」
「ンだよ」
「一時棄却されそうになったこの案を差し押さえていた誰かさんは、素直じゃないなぁって改めて思っただけ」
「将来を見越しただけだ」
これ以上つついて彼の機嫌を損ねても面倒くさいし。窓辺に寄って下を見下ろす。ちょうど駆逐艦の娘に囲まれながら、ヴァイオリンケースを抱えた女の子が出てきたところだった。それをみてやんややんやと周りの巡洋艦やら戦艦やらの娘達が盛り上がる。
「……同じ目線で海を眺めてみたいんだとさ」
「え?」
「人の縁ってのは、わからねぇな」
手元の資料に目を落としながら、何の気なしに彼がぼやく。海上交通線の安定化に伴い、アメリカ、ロシア、フランス、イタリアなどの各国から技術提携の打診が続々ときているのだ。面倒くさそうに処理を続けながら彼が言葉を続けた。
「いつの間にか腐り落ちたり、切れたと思ったらまた繋がったり、思わぬところで繋がっていたり」
ぞんざいに判子を押しながらそう語る彼の胸のうちはよくわからない。人が嫌いで、それでいて人間関係にさとい彼のことは。
「俺は、ただきっかけを与えているにすぎん」
「……ねぇ」
「あ?」
「今の僕の縁は、例えるならどんな感じかな?」
『お前の縁、こんがらがった糸みてぇ』
提督とは、艦娘に霊力を分け与え、艦隊を指揮する能力をもつ者達の総称だ。だから、人とはちょっと違うものが見える人も少なくはない。彼はオカルト話を嫌ったが、もしかしたら何か人とは違うものが見えているのかもしれないな、と付き合っていくなかで感じることはあった、こと縁に関しては。彼はそのことを決して口にしないし、僕も決して直接的には聞かない。そうやって僕たちはうまく付き合ってきた。
「……機織りの糸みてぇだな」
「へぇ」
「きれーに編まれた感じの。優秀な秘書艦様のおかげで人間関係大分うまく回せてんじゃねーの、知らねぇけどよ」
そうどこか投げやり気味に言って頬杖をつきながら窓の外を見る。
「……めんどくせぇ」
「うん?」
「めんどくせぇな、人間ってのはよ」
だから嫌いなんだ、と目を細め窓の外を眺めながら、誰に聞かせるでもなく彼が呟く。
「……僕はその面倒くささ、嫌いじゃないけどね」
「そうかよ」
「うん。まぁ、だから」
僕らは意外とうまくやっていけてるんじゃないか、と続けると。そうかもなぁ、と彼は少しだけ笑いながら煙草の箱を取り出した。
※
冬を越え、日本に来て初めての春を迎えた。呉鎮守府の周囲は鮮やかな桜の花で色づき始め、それに伴ってここに在籍する艦娘達もそわそわとし始めた。この時期は大きなお花見大会がありますから、と言われ、今まさに桜の下でレジャーシートを敷いてどんちゃん騒ぎをしている彼女達を見て、なるほど、これが日本のいわゆるお花見か、と頷く。
人混みに疲れたので、その喧騒から少し離れたところにあったベンチに腰掛け、一人桜並木を見上げていた。風に揺られ、はらり、はらりと桜の花びらが降ってくる。桜は散り際が美しいという。そして、それはほんの少しの短い期間でしか見届けることができない。その短い一瞬を美しいと言い、大事に大事にその刹那を慈しむ日本人の感性は、どこかよく彼女が口にする縁、というものと似たような考え方だと思った。
袖振り合うも多生の縁。一期一会。色々な日本の慣用句を彼女の口から聞いたものだが、どれもこの長い長い時の中で交わる一瞬の出会いを大事にする、という意味を含んでいた。そういった彼女の精神の根幹を形作るものに、どこかこの桜の美しさは通じているように思えた。
そんなことを考えていたからだろうか。一際強い風が吹き、勢いよく桜の花びらが舞い踊るその先に彼女の姿を捉えて。とても、とても。この世界は、綺麗だな、と。初めてそんなことを、思ってしまったのは。
※
「ここにいたんですね」
さすがにこのどんちゃん騒ぎは彼女には辛いのではなかろうか、と色々な人にもみくちゃにされながらも彼女の姿を探していると、ようやく少し離れたところでぼんやりと桜を見上げていた彼女を見つけて歩み寄った。少し疲れているようだったけれど、それでもグラーフさんは薄く笑いながらひらり、と手をこちらに振ってくれた。
「うまいものだな」
ちょうど先程からヴァイオリンを弾き始めた彼女の演奏を聞いて、ぽつりとグラーフさんが呟く。
「ええ。私、彼女の演奏楽しみにしてたんですよ」
「そうか」
そうして暫く黙って二人してそれに聞き入る。演奏が終わると、駆逐艦のうちの一人、嵐ちゃんが今度は最近放送されてる戦隊ものの番組のオープニング弾いてくれよー! と野次を飛ばした。なにそれー、知らないよ、じゃあ今聞いて弾け! とぎゃあぎゃあと揉め始めた彼女達に、萩風ちゃんが慌てて駆け寄った。
規律の厳しい呉鎮守府ではあるけれど、こういった催し物では無礼講とされているため、お祭り好きな駆逐艦の娘達は特によくはしゃいでいた。
「──アカギ」
「はい?」
名前を呼ばれ、振り返る。いつの間にか彼女は立ち上がっていたらしく、ふ、と自身に彼女の影が落ちた。一回り背丈が高い彼女が、ちょうどこちらに腕を伸ばしたところだった。
「──綺麗だな」
そう、私を見つめながら彼女が溢した瞬間、風がざぁと吹いて桜の花びらが舞い踊った。柔らかな日差しが彼女の色素の薄い髪に落ち、きらきらと反射する。そして、なにより、そんなものよりも。
「──」
今まで見た中で、一番柔らかく。彼女が、笑っていたのだ。思わず言葉を失って惚けていると、いつの間にか私の髪についていた桜の花びらをとってくるりと回して、今度はニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。
「桜の花が、だぞ」
「え?」
何を言われたのか理解できず、今までの会話を反芻する。私は、ただグラーフさんが笑ったことに驚いていただけなのだけれど。あれ、これってもしかして自分のことを綺麗だと言われたと思った自意識過剰な人だと勘違いされたのかしら、と思い至って、慌てて訂正する。
「な、え、違います!」
「なにが?」
「だ、だから別に、そういうのでなくて……!」
「そういうの?」
「わかってて言ってますよね?」
「さて。日本語は、ムズカシイからな」
飄々とそんなことを言いながらグラーフさんが歩きだす。慌ててその後ろ姿を追いかけると、前方から今度はアップテンポな音楽が流れてきた。嵐ちゃんはそれを聞いてげらげらと笑い転げ、萩風ちゃんはおろおろし、演奏者である彼女はヤケクソ気味に超絶技巧でなんとかレンジャーのオープニングを弾いていた。そしてそれを楽しそうに聞いている駆逐艦や、空母、戦艦の人達。
つかの間の、休息。その、穏やかなひとときが。どうしようもなく愛しく思えた。
「Du bist sehr schön.」
「え?」
振り返って私のことを待っていたグラーフさんがそっと呟く。耳慣れない言葉に、思わず聞き返した。
「何て言ったんですか?」
「唐揚げが食べたいな、だ」
「……絶対違いますよね?」
「だし巻き卵でもいい」
「最近私の扱い雑じゃないですか? グラーフさん」
「ふーむ。まぁ、夜戦に関しては私のが先輩だしな。敬ってくれて構わないぞ」
「……改二戊艤装、出来上がったら夜道に気をつけてくださいね」
「せめて海で襲ってはもらえないだろうか」
「あら、襲って欲しいなんて大胆」
「……うん、アカギはいい性格をしていると思うぞ」
「おかげさまで」
ぽりぽりと頭をかくグラーフさんを見上げ、してやったり、という顔をしてやった。
なんとなく。そう、なんとなくなのだけれど。彼女の隣にいるときは、少し肩の力が抜けて自然体でいられるような気がするのだ。やっぱり、皆の期待する一航戦の赤城であろうとするのはどうしたってやめられないけれども。それでも、この人のそばにいるときは、上手に息をすることができる気がした。
あれから少しだけ変わったことがある。やっぱりまだ皆には知られたくないから、という彼女の意志を尊重して、彼女の体質のことについてはまだ皆には話していない。その代わり、彼女の体質について知っている私と色々なことを試すようになった。
例えば、朝会ったらおはようございます、と声をかけて握手をする。怖々と触れる彼女に、もう少し強くても大丈夫ですよ、と返しながらお話をする。そうやって徐々に徐々に、わからないながらも歩み寄って。彼女は気づいているだろうか、今ではそっと彼女の手を取れば、無意識にちょうどよい力で握り返してくれていることに。
「ねぇグラーフさん」
「なんだ?」
彼女と手を繋ぎながらゆっくりと歩いて。桜を見上げながら話しかけた。
「機械人形は、きっとそんな風には笑いませんよ」
わからないものは怖いものではない。わからないものをわからないのだ、と認めること。そして、上手にお互いに心地のよい距離を決めていくこと。きっとそれが人間関係を構築するということで、お互いに全く違う人だろうが、似ている人であろうがきっとそれは変わらないのだ。だって人は一人一人、皆違うのだから。
だからあなただって一人の人間なんですよ、という意味も込めて笑いかけた。
それを聞いた彼女は、暫くきょとんとした顔をして。
「……そうかもな」
そう言って、また柔らかく笑った彼女を見て満足をして。そうして、彼女の手を取りながら皆のもとへと向かったのだった。