人間の里の広場に、琵琶と琴の音色が響き渡る。
付喪神の九十九姉妹が、路上ライブをしているのだ。
初めは立ち止まってくれる人は1人もいなかったが、何日も続けていると次第に人だかりができるようになった。
今では、彼女たちの路上ライブが決定すると、大勢の人が押し寄せてくるほどだ。
次第に彼女たちは、人々に音楽を届けることに、生きがいを感じるようになった。
だが、そんな日常は突然終わりを告げてしまう。
いつものように、路上ライブをしていた九十九姉妹。
そこに招かれざる客が現れた。
「見つけたぞ。九十九弁々、九十九八橋」
フードを目深に被った謎の人物が、大柄な態度で姉妹の名前を呼んだ。
「私たちに何か用?」
それに気づいた八橋は、謎の人物の方を見る。
「随分と挑戦的だねぇ」
八橋の隣で演奏していた弁々が、謎の人物を睨む。
2人は乱暴な客に対しては、実力行使も辞さないのだ。
「私の同志となれい!」
突然、謎の人物は携えていたバックルのようなアイテム――ゼツメライザーを姉妹の腰に接触させた。
すると、ゼツメライザーから百足のようなベルトが飛び出し、2人に巻き付いた。
「何よ、これ……!」
「離れない……!」
弁々と八橋は、ゼツメライザーを外そうとするが、ビクともしない。
そのうちに2人の視界に『滅亡迅雷.net』の文字が現れる。
「ふっふっふ。これでお前たちも私の友達だ!」
謎の人物はフードを脱ぐと、高らかにそう宣言した。
「鬼人……正邪……!!」
弁々が苦しみながら、謎の人物の名を口にした。
「さあ、人間共を皆殺しにしろ!」
鬼人正邪は、動けない2人に向かって命令した。
「できない相談ねぇ……」
「私たちは……音楽を聴いてもらうのが好きだから……」
息を切らしながら2人は、鬼人正邪の命令に反対する。
だが、彼女たちの思考は着実にゼツメライザーによって蝕まれていた。
「違うな。お前たちの好きなことは下剋上だ!」
鬼人正邪は姉妹の意志を切り捨てる。
「う……う……ああああああああ……」
「消えたくな……い……」
それを合図に、弁々と八橋の思考は滅亡迅雷.netに汚染された。
「「滅亡迅雷.netに接続……!」」
そして、2人の目が赤く光った。
「さあ、これを使って人間たちを滅ぼすのだ」
2人の意識がなくなったのを確認した鬼人正邪は、2人にバッタの絵が描かれたアイテム――ノプルスゼツメライズキーを手渡す。
「……」
「……」
先程までの抵抗が嘘であったかのように、2人は素直に鬼人正邪に従った。
《ノプルス!》
2人がノプルスゼツメライズキーのスイッチが押すと、音声が流れる。
そして、何の躊躇もなくゼツメライザーに装填した。
《ゼツメライズ!》
その音声を合図に、彼女たちは内側から彼女たちの全てを破壊された。
姿も思考も性質も何もかもが、この一瞬でひっくり返った。
2人は自ら付喪神としての自分たちに止めを刺したのだ。
「私たちの好きなことは……」
「人間を皆殺しにすること……」
変容した九十九姉妹――否、ノプルスマギアはそう告げると、背中にある羽をギチギチと鳴らしながら、手近な人間に襲い掛かった。
広場が一瞬にして、悲鳴に包まれる。
人間たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
だが、ノプルスマギアは驚異的なジャンプで人間たちに追いつき、鋭い顎で人間を1人ずつ殺していく。
「新たな下剋上の始まりだ!」
鬼人正邪はその様子を嬉しそうに見つめ、高らかに幻想郷への反逆を宣言した。