星空の刃 作:鮫牙社長
それではどうぞ
「ニヒヒッ、ほれほれどうした、さっきまでの威勢はっ」
「う……」
痛い、逃げようと地を蹴りあげ駆け抜けようとしても、すぐに追い抜かれ、蹴りの一撃がくる。こればかりは避けようがなかった、単純に私が弱いだけの話だ。蹴りをくらい、その隙に手の日輪刀を振るおうにも、直ぐに鬼の拳が私の腹や顔に振り下ろされ、無力化される。この一連の行為で私はすぐにわかった、こいつは人間を喰らい、人間を殺すのに慣れている。強さと身体に植え付けられた顔の数が、それを物語っていた。
「さぁて……そろそろ動けなくなってきた頃かなあ、ニヒヒ。」
「……」
「お前さんは、今まで戦ってきた奴らの中で1番強かった……でも結局は俺に殺される……そういう運命だ。俺はな、これ以上鬼殺隊を生み出さないって誓ったんだ……ニヒヒッ、そうすれば、今いる鬼殺隊だけを殺せば、俺ら鬼が支配する世界の完成だ……ニヒヒ」
「なんで、傲慢な。」
「そういう存在だ、俺ら鬼っていう物は、それじゃ、さようなら、二ヒヒ」
食われる、私の目の前で奴は大きな口を開いた。身体が動かない、既に1日に呼吸を2回も使った、しかも短期間に。
終わるのか?
こんなにあっさりと?
師匠と共に歩んできた時間はなんだったのだろうか。
「嫌だ、私は……」
「最期まで威勢がいいなあ、でも無駄だ、ほら、身体、動かないだろう」
私を掴む腕はさらに強くなる。身体が軋み、骨が折れる音がする。……私はナメていた、こんなにも鬼が強い物だなんて。
鬼の口の中に足が入る、ああ、もう無理だ。日輪刀もさっきの痛みで落としてしまった、今の私は奴に対抗する力なんて物はもっていない。
「……ごめんなさい、師匠。」
そうして、私の身体は奴の口の中へ、すっぽりとハマっていった。
……――
「し、師匠、もう、無理です」
なんだ? 私の声だ。
「ちょっとちょっと!! こんなんでへこたれてんの? あんた、今まで運動とかしてこなかったの?」
「す……すいません。」
走馬灯って奴だろうか?
「まったく、ほら、手貸すから、立ちなさい。そんなんじゃ、鬼一体の頸すら斬れないよ。」
「うう……」
そうだ、師匠はいつも厳しかった。私が修行中に限界が来て、膝をついた時も、師匠は私を叱りながら、立ち上がらせた。それでも疲れた時は、水をくれたり、空を見上げて星を見せてくれたりした。何時も修行は深夜の山奥でやっていたから、修行中は何時どんな時も星を見る事が出来た。そんな時、師匠は言ったんだ。『ここから見る星が一番好きなんだ』と。
「星が見えるから、修行はいつも夜にやるんですか? あれ、そういえば師匠、昼間は外出たりしませんよね。」
「ああ、うん。昼間はやる事がないからねえ、ホラ、鬼って夜に活動するでしょ? だから、昼間に探したりすると無意味だから、夜まで身を休めて、そして夜に鬼を探しに行くのさ。」
まあ、そんな事はもうどうだっていい。私は食われたんだ、もう……どうでもいいんだ。
……
「……諦めるのかい?」
師匠……。
「君は事ある事に『もう無理ですー』って、言ってたねえ。」
ごめんなさい、というか何しに? ていうか、何処にいるの? 確か、師匠はあの時……。
「何処に、か。ふふん、内緒。」
そんな……。
「でも大丈夫。私は君の近くに必ずいるよ。ほら、言ってたじゃないか。『私はずっと傍にいる』って、何時どんな時も……。」
何時……どんな時も……。
「そう、だから心配いらないよ。私と君は、いつ、どんな時も……」
――同じ星空を見ているよ。
――……
「ニヒヒ、あー噛まずに丸呑みっていうのも、案外いい物があるなあ、さあて、これであいつも俺のなか……ん?」
……言ったはずだ。
「私"達"は、仲間になるつもりはないって!!」
口を素手で切り裂き、その一瞬開いた隙間を潜り抜ける。呼吸というのは、身体向上のための最終手段のような物だ、決して、剣技だけの物ではない、ならば、それを応用すればいいだけの話だ。
「俺の口からっ、なんなんだこれは。ま、まあいい、どうやら完膚なきに潰してやらないと、気が済まないようだ、ナァ!!」
敵が来る、眼前から一瞬で消える。またこれだ、どこから襲いかかってくるか分からない、高速の一撃。でも、斬らなければならない。これ以上、ほかの希望者が犠牲にならないためにも、そしてなにより……。
「師匠が、見ているから。」
改めて夜空を見上げる、ああ、綺麗な星空だ。師匠も、何処かでこの星空を見ているのだろうか、何処かは教えてくれなかったけど。
「ニヒヒ、終いにしてやる!!」
私は目を閉じ、師匠の速さを想像する。本当に、光速その物だった、決して捕らえる事の出来ない、光速の斬撃。
敵は
「だからここで、お前を斬る!!」
「ニヒヒ、出来るかなあ、お前さんは俺の頸を斬れなかった、遅いからだ!! 遅い剣なんて、俺に届く筈がない!!」
「だったら、それを越えるまでだ!!」
くりだせ……奴に見せつけるんだ。
師匠の……師匠と共に歩んで培った……師匠の光速を!!
――全集中っ!!
――星の呼吸っ!!
――惨ノ型っ!!
「"
果てどない轟音を轟かし、私は奴の頸を斬った。惨ノ型 "天刑"は、星々の神が下す刑罰の様に、直線上にいる敵に避ける事の許さない斬撃をくりだす。
――必殺の剣技。
「あれ、俺、斬られたのか? 地面が、逆さになっている、嘘だろ? あいつの剣を……俺は捌けなかった。遅い筈の、あいつの剣を……!!」
鬼は罵倒の声を上げながら、塵と化していく。私は振り返り、それを見届ける。それと同時に私はドッと疲れが押し寄せてきた、膝から崩れ落ちる。
「あ、あれ、どうしてだろう、身体が、動かないや。」
そうして、私は昇ってくる朝日を目にしながら、眠りについた。
目覚めた頃には、『星の呼吸 惨ノ型 天刑』の事も、すっかり忘れていた。
この剣技は恐らく、師匠が私に与えてくれた、全力の力を振り絞りくりだす、奇跡の様なものなんだろう……。