ぼくではない、あの人に一途なあなたに、恋をした。

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ぼくはあなたの恋に恋をした

他に誰もいない、人気のない教室で二人きりで楽しそうに談笑する若い男女。

それだけの情報であれば二人が交際しているカップルなのか、あるいはそれに至るまでの過程なのか。

そんな風に想像してしまうのが人の性と言うものだろうし、ぼくだってそう思う。二人の本当の関係を知らないか、会話の内容を聞かなければ、の話であるが。

 

「それでね、今朝渡したお弁当、センパイすっごく喜んでくれたの!」

 

「いやぁー良かった!先輩のお姉さん経由で好みをリサーチしたりしたかいがあったってもんだな!」

 

「本当にありがとう、こんなにセンパイと仲良くなれるなんて、あなたが後押ししてくれなければ想像もできなかった」

 

「いいんだって、何度も言ってるけど、好きでやってることだし、この結果は何よりもお前が頑張ったからだって。それよりさ、次は何をする?先輩と何をしたい?」

 

「うーん、そうだなぁ……」

 

二人の関係は年上の先輩に一途に恋をする奥手な少女と、それを見ていられず背中を押す同級生のおせっかい男という構図。

 

 

助言や後押しが的確だったのか、少女自身の元々持っていたものか。件の先輩との相性が良かったのか、素直に二人の努力の成果であると言えばいいのか。ともかく少女と先輩の距離は極めて順調に縮まっていた。

 

これが少女漫画だったりすると、こうして作戦会議をかさねるうちにお互いの姿がよく見えていき二人の間にも信頼が生まれ、それが次第に恋愛に発展していく……みたいな展開もよくみるものだけれどそういうことはなかった。

 

少女の恋があまりにも純粋一途であり、余人の入り込む余地などなかったこともあるし、それをわかっていて、というよりそうだからこそ応援を始めたというのもあるし。

彼女の思い人である先輩もまた、よくありがちな裏の顔があったり別に思い人がいたりする展開もなく普通に善良で、少女のアピールに順当に好意を積み重ねていき、既に向こうからも好意的に接触してくるようになっていた。

 

 

別に、最初に少女に近づいたとき、そこに下心がなかったとは言い切れない。

好きな相手に親切にして、点数を稼いで少しずつ近づいていき、相手の恋が実らなかったりしたときにあわよくば。色々と理由をつけて、何度も自分に会いに来ているのだから、可能性はゼロじゃないはずだ、そんな都合のいい考えを抱いたことも。

けれどもこうして、あなたが好きな相手のことを語る姿を見てしまっては。どうしてぼくのところに来るのか、その理由を嫌というほど思い知らされてしまう。

どう頑張ってもぼくはあなたの一番にはなれないということが。

 

決して、それでもとあなたを振り向かせたいと思ったことがないと言えばそれは嘘になる。

 

理屈や道理を無視して思い人を押し退けて、隣に立つ自分の姿を想像したことも数えきれない。

 

ぼくに向けるその無垢な信頼を利用して、力ずくで無理矢理押し倒す妄想で自分を慰めたことだってあった。

 

 

けれどもその度に浮かぶのはいつもあなたがぼくに向ける、どこか申し訳なさそうな笑みと、いつもあなたがあの人のことを思い浮かべる幸せに満ちた顔で──

 

「センパイ、喜んでくれるかなぁ」

 

「あぁ、きっと喜ぶ、喜ばせるように一緒に考えよう」

 

だからその、愛する相手の幸せを一途に思える、そんなあなたの美しすぎる恋を見せられてしまったから。

 

 

 

 

 

──ぼくはあなたの恋に恋をした──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どど、どうしよう。き、緊張して手も足もガクガクして動けない……」

 

「はーいまずは深呼吸ー。吸ってー、ふぅーー。吸ってー、ふぅーー」

 

「すぅー、ふぅー。すぅー、ふぅー」

 

「次に軽いストレッチ。緊張でこわばっても動かせばその分多少解れてマシになるから」

 

「はい!いちに、いちに……」

 

「じゃ最後に手のここの部分強く押して。緊張に効くツボがあるから。それでもダメそうなら今から一発ギャグやってやるから!ウケてもスベっても緊張した空気は和らぐと思う!!」

 

「いえ……もうだいぶましになったから、大丈夫です」

 

来るべき日が来た。即ち、彼女が先輩に告白する日だ。

先輩にはあらかじめ彼女からの呼び出しの手紙が送られており、現在その一時間程前、先輩と鉢会わないように徒歩10分ほどのところで行われる二人での最終確認フェイズの時間である。

今日まで彼女と二人、両者とも恋愛ガチ初心者なりに先人たちの道のりを参考にするなどしながら暗中模索し、あらゆる懸念に対策を立ててきた。

日々の細かい好感度の積み重ね、そのためにどのような行動、接触方法が有効であるかの作戦会議。実行に移すためのトレーニング、作戦の有効度合いの類推や発想を得るために先輩の行動や友人、家族関係性を含めたあらゆる情報の調査活動etc……

それらを互いに時に協力し、時に手分けをして、時に個人個人で動いて少しずつ結実へと歩みを進めてきた。

 

 

ここまでこれたのは偏に彼女自身の成長によるものが大きいのは間違いない。

今日この日に告白すると決めたのは彼女自身だ。

初めて顔を合わせた時には「先輩が生きて、幸せでいてくれれば、わたしは先輩を遠くから眺めていられればそれでいい」などと言っていた彼女がここまできたという大きな進歩に目の前の彼女が誇らしく感じられる。

そしてこれから行うイベントの特性上、これから先も今まで通り彼女と共に歩んでいくということはできない。

 

だからこそ、最後に送り出す前に彼女に伝えなくてはならないことがある。

深呼吸とイメージトレーニングによる最終確認を繰り返し決戦に備える彼女の名を呼び、こちらに意識を向けさせる。

 

「お前はかわいい!」

 

突然のことに目を丸くする彼女。それだけでも心が悲鳴をあげるが無視する。これは必要なことなのだと心に言い聞かせることで無理矢理言葉を繋げる。

 

「お前は美しい!」

「お前は素敵だ!」

「お前は可憐だ!」

「お前は最高だ!」

 

「初めて見たとき、お前はよく一人でいる、同じクラスだが特に接点のない女子の一人だった。なにかを話すこともなく、席が近くなることもなく、お互いにただのクラスメイトでしかなかった」

 

心の内から溢れてくる感情を言葉にしていく。

先輩と交際するにあたって彼女に対して好意を向ける距離の近い男、なんて存在はどうあろうとも邪魔になる。

彼女の中にわずかなりとも迷いや逃げの感情を持たせないためにも、先輩を含めた外側の存在から見てわずかなりとも疑いを持たせないためにも。

彼女にここで吹っ切らせることで、決意を固めさせなければならない。

そしてそのためには中途半端に取り繕ったものではダメだ。こちらも心のうちを全て吐き出すくらいの全力をもってぶつからなければ効果がないかもしれず、それではだめなのだ。

 

「だがある日、偶然、先輩に落とし物を届けてもらって、それをお前が受け取って先輩が立ち去るまでの一連を目撃した。そして、その時のお前の幸いに満ちた姿を。『あぁ、こいつはこんな顔をして笑うのか』そんな風に思ったからか、気がつけばそれからずっとお前を目で追っていた。そしてそれ故に気づいてしまった。お前と先輩は普段は接点がなくて、お前は酷く奥手で先輩に話しかけることもできず、お前の背中を押してくれる存在も誰もいないことに気づいたんだ、気づいてしまったんだ!!」

「このままではあの笑顔はもう二度とみれないのかもしれない、あの素晴らしい思いはもう二度と表に出てこないのかもしれない。そう思ったらもう耐えられなかった。だからお前に近づいた!」

「先輩との仲を手伝わせたくれとお前に最初に近づいたとき、もしも先輩が付き合うのをやめた方が言えるような人だったらもしかして、そんなことを考えたこともないとはいえない。でもそうはならなかった!できなかった!だってあの人めちゃくちゃいい人なんだもんな!もし女だったらあの人の好きになってたと思うくらいに!それにあの人お前の話するときスッゴいいい顔するんだもんよ先輩のこと話すお前とそっくりな顔をさぁ!」

 

立て板に水の勢いで捲し立て、必死に息継ぎを挟みながらも感情を言葉にして吐き出していく。それがともすれば、彼女からの自分への信頼をなくすとしても、それで間男になる疑いと憂いがなくなる。そうでなかったとしたら……と脳裏を過った邪念を払い、最後の言葉に繋げていく。

 

「先輩はお前を絶対に幸せにできる。お前と一緒なら、先輩は絶対に最高に幸せになれる。贔屓目もあるが、近くでずっと見てきたから確信できる。

そしてなにより、見ていたいんだ。大好きな二人が互いに想い合い、あの最高に素敵な笑顔で笑っているところを。

だからどうか、どうか俺に、あなたたち二人が、最っ高に幸せでいるところを、見せてください」

 

全てを吐き出し終え、頭を下げる。正直なところ顔を合わせるのが辛いのもある。全力を尽くさねばと思って言う予定のなかった思い出までボロボロ溢しちゃったのもあるし。

そんな悔恨に近い感情を抱えながら、無限に思えるほどの長さ頭を下げていたように感じたが、恐らく実際には数秒後。

深く息を吐く彼女の呼吸音が聞こえ、それが呆れ等の感情によるものでないように願っていると、ようやく声をかけられた。

 

「顔を……あげてください」

 

その言葉に従って恐る恐る視界に入れた彼女は今までに見たことがないほど真剣な表情をしていて、そして。

 

「ありがとう。あなたの気持ちがすごく嬉しい。だからこそ、わたしはセンパイへのこの気持ちも、今日までの日々も嘘にしたくない。あなたの為になんて言い訳を使わずに、わたしとセンパイで幸せになってみせる」

 

 

今までに俺と一緒にいた時間のなかで最高の笑顔でそうはっきりとした決意を示してくれた。

だからこちらも、今できる限り精一杯の笑顔で送り出す。

 

 

「その意気だ!そのまま全力で思いの丈をぶつけてこい!いい知らせ待ってるからな!いってらっしゃい!」

 

 

「うん、行ってきます!」

 

 

そう告げて、彼女は先輩との約束の場所へと走り去っていく。

──ああ、みみっちい。万が一にでもそんなことはありえないからと実行したのにも関わらず涙がこみあげてくるなんて。

これでは兆が一にでも自分を選んでくれるのではないかと期待していた部分があったことになるではないか。

例え涙を流すことになっても、声をあげて泣いてはいけない。何かにあたって音を立ててはいけない。それが彼女の耳に届けば、また気を使わせてしまう。だからただ耐えて、ここから静かに立ち去って後にあるであろう彼女からの成功報告までに心を落ち着けて備えるのが正解だ。

 

 

だからこそ──

 

「やぁ、後輩」

 

「どうしてここにいるんですか?お姉さん」

 

こんな場面を知り合い──それも彼女がこれから告白する先輩の双子の姉というめちゃくちゃ近い関係の人物に見られてしまうというのは大変好ましくなかった。

 

「別に、たまたまだよ。いつもどおりふらふら出歩いていたら君を見かけただけ。大丈夫、君の失恋を言いふらすことはないから安心していいよ」

 

「失恋って……そういうんじゃないっすよ」

 

顔を覗き込むように見上げてくるお姉さんの視線に耐えられなくなって顔をそらす。

 

「お互いにだいぶ前からわかってましたし。今日ああしたのはケジメって言うか……発破がけみたいなもんです。お互いの決意をより強固にするための」

 

「そう、か。君は……本当にそれでよかったの?」

 

お姉さんは連続してこちらに問いを投げ掛けてくる。こちらを心配してくれているのであろうことはわかっているし、あんなことの後で全うな精神状態でいるほうがおかしなことなのだからその心配も当然のもの、弱味を吐いたりするのが普通で、お姉さんもそういったものを見せていいと言ってくれているのかもしれない。

だが、正直に答えるしかない。他の答えを考える余裕もないし、それではお姉さんには通じないだろうし……なによりこの気持ちに、嘘をつくわけにはいかないのだ。

 

 

「いいんです、あの言葉に嘘は一切ありませんよ。あの二人が幸せであるところが見たい。その感情が他のどれよりも大きかった、その嘘偽りない正直な気持ちで向きあいました。それでいいんです」

 

他者への言葉にすることで、改めて気持ちの整理がされていく。自分自身の気持ちを改めて理解していく。

ああ、やはりこれでよかった。

全力で想いは伝えきった。だから最後であってもこれから進むのであっても後を引かれない。

これから先の二人の笑顔を思い浮かべるだけで心の中が暖かくなっていく。

この感情をどう伝えていいのか、伝えたところで理解してもらえるかはわからない。だがまずは自分の心で理解した。だから、この選択は間違っていないんだ。

 

そんな自己解釈を重ねている間もお姉さんはこちらの顔を窺っていたが、いつのまにやら少し離れてこちらの姿を眺めるようなポーズをとり、しきりに小さく頷いている。正確にはまだ読み取れないものの、その様子からはこちらへの心配は見えないので、お姉さんにも先ほどの答えで幾分かは納得してもらえたらしい。が、お姉さんの用はまだ終わらなかった。

 

「そうか、うん、うん、ありがとう。勇気の出るいい解答を聞かせてもらえたよ。それで、この後君はどうするのかな?何か予定ある?」

 

「いえ、特にないですね。あとは彼女の報告を聞くことぐらいしかありませんし……」

 

「ふーん、じゃあ今、後輩は空いてるんだ」

 

そう言ってニヤリとしたお姉さんに、何か反応を返すよりも素早く腕を引かれ、

 

「ねぇ後輩。付き合ってくれないかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姉さんに連れられて歩き始めて数分。自分から誘っておきながら目的地も告げず、かつどこへ向かうでもなく鼻唄まじりに前を歩くその意図をはかりかねていた。

 

「それで、一体どこへ行こうっていうんですか?」

 

先程の一件の後ということもあってどこか棘をはらんだ言い方の問いにも、お姉さんはその調子を崩さずに楽しそうにこちらを見て笑う。

 

「別に、なにがあるというわけではないよ。前から君とこうして歩くことも珍しくはないと思うけれど?」

 

お姉さんの言葉は事実であった。

先輩のことをよく知るための調査で最も多く近づいたのは、必然的に先輩に最も近い人物である先輩の双子の姉になった。

お姉さんは静かなところを気ままにぶらついてその先々で色々なものを見つけることが趣味であり、調査のためと尾行しようとしては見つかり、次第にその散策に最初から同行することも増えていた。

お姉さんは双子だからか先輩と好みが似通っていて、見つけて興味を示すものは大抵が先輩もそうであるため、そこで得られた情報は作戦会議の際の傾向を立てるのに多いに役立ち、今では彼女と二人、先輩の好みの大半をそらで言えるようになっていた。

 

 

「ところで後輩、さっきの告白の話なんだけれど」

 

依然、疑問符を浮かべながら歩き続けることまた数分、お姉さんの方から話題を振ってきた。目的は未だに読めないが、彼女との関係についての邪推は完全に断っておかなければならないし、興味を持っている部分を探るためにも。

 

「まだ何かあるんですか?さっき言った答えで変わりませんよ。あれは発破で、あれ以上はない本心でのぶつかりで、だからあの話は、あれで全部です」

 

そうまっすぐに答えると、少しだけ表情が変わる。

 

「まぁ、そっちでも構わないけれど」

 

その呟きの意味を理解できないまま、続けて問いを投げられる。

 

 

「聞いてみたいのは告白──いや、彼女への話そのものではなくて話の内容についてなんだ。君は弟について、『もし女だったら好きになっていたかもしれない』とまで評価していたのが聞こえてね。もし実際にそうだったらどうなっていたのかな、と思ったんだよ」

 

 

「それは……思考実験かなにかで?」

 

 

「まあ、そんなところ。もし君の性別が逆だったとして、本当に弟のことを好きになるのか、そしてそうなった場合、二人の後輩たちの関係はどうなっていたのかなって」

 

確かに、聞きようや捉えようによってはそう考えてもおかしくはないかもしれない。だが当の本人からしてみれば、簡単に答えの出る問いであった。

 

「多分、同じですよ。元々先輩の良さを知ったのも彼女を通してみたいなところがありますし……違いが性別の差だけなら同じように好きになって激励の形は多少違うかもしれませんが同じように応援していたと思います。もしも、の話ですから確実にそうとは言えませんけどね」

 

当たり障りのないもの、と思われてしまっただろうか。しかし嘘やごまかしを使えるほどの技能の持ち合わせはなく、むしろお姉さんの方がそういったものを見破る技能に長けている次第だ。故にこれらが真実であるということも伝わっていると思うのだけれども実際にどうなのかは自信が持てないのが難しいところだ。

だがお姉さんは「そうかそうか」と口にしただけで、特にこれといってそれ以上の答えや質問の意味に繋がることがらを提示したりはしてくれない。

普段から割と飄々としているところはあったが今日は一段と掴みづらい。一体何が知りたいのか、一体何に興味を持ってこんなことをしているのか……それなりに長い付き合いになるが経験が全く生きてこない。今までにない未知の方向性だ。

そう、脳内で愚痴りはじめた頃、「ならさ──」と前置きをしたお姉さんから次の質問が投下された。

 

「次は別の部分が逆だったらどうだろう?今度は君たちの言う『先輩』の性別が女性であったらというもしも、だね」

 

依然として意図がよくわからない。先輩がもし女性だったら?だってそれはまるで──。

 

「ああ!そういえば弟にはよく似ていると言われる双子の姉がいたね。どうだろう後輩。そんな人物に対して……君は『先輩』と同じように好意を抱くことができるかな?」

 

──いやまて、どういう質問だこれは?先輩の女性版について答えれば……って流れじゃないよな流石に。

お姉さんに対して好意を抱けるかだって?しかも()限定で?

 

軽くない衝撃を与える発言に鈍った思考が追い付くよりも前に、お姉さんは言葉を続ける。

 

 

「考えてみて欲しい。もし、もしもだ後輩。君がその人物を拒否するほどではなく、理由はどうあれ交際することが可能であったとして……もしほらなんというか、別に他意はないんだが最終的な結実としてその……け、けっ結婚……することになったりすれば、将来的に君は君が大好きなあの二人と、きょうだいになることができることになる。わーお、これはとてもお買い得なことじゃないかな!?」

 

 

冗談めかして早口でおどけているが、遊びで言っている訳ではないということは明白だ。なにしろ普段全く顔色を変えないお姉さんを染めているその色は、決して夕暮れのせいだけではないということがはたからみてもわかるくらいなのだから。

 

 

「それに弟は実のところあの子にぞっこんでね。最近ではもう毎日のように『後輩さんがかわいかった』とか聞かされるんだよ。それはそれで聞いていて嬉しい気分になるから悪いことではないんだけれども。

なにはともあれあれだけお互いを深く深く愛し合っているんだ、二人の交際はうまくいくだろう。そうなったらこれからは今まで以上に、二人は幸せな表情をする日々を過ごすだろうね。

そんな大好物を……これからも近くで見たいと思わないかな?それも親族という特等席で。

 

 

だからこれは後輩にとって凄くおいしい話で、君の嗜好に極めて有効な、降って沸いたチャンスと思うんだよ。何しろ君は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──そんな人物からもう告白されているんだからね」

 

 

 

 

 

完全にふいをつかれる。思考が追い付かず空白化する。

待て、待て、お姉さんの今の言葉はつまり俺に───??!!

 

 

「あれ、言ったはずだよ?『付き合ってくれないかな?』って。案の定、気づいてくれなかったみたいだけれど」

 

そう言って、耳まで真っ赤にしたお姉さんは悪戯を成功させたこどものような、それでいて

 

俺が大好きな、彼女と先輩が二人でいるときのような素敵な笑顔を浮かべていた。

 

「こんな状況や君の弱みに付け込むような、卑怯な女だと軽蔑してくれてもかまわない。

君のように相手への献身に殉ずることのできなかった、弱い女だと嘲笑ってくれてもいい。

 

君の一番にしてくれなんてことは言わない、むしろ告白されたくらいで簡単に彼女への思いを越えられるような、そんな人物であったならばこんな思いを溢れさせることはなかっただろうし。

けれども、それでも、どうしても、君にこの思いを伝えたくなってしまったんだ。

そう、君の言うところの、『嘘偽りない正直な気持ちで向き合う』ってのをしたくなったのかもしれないね。

だから、今度はお互いにちゃんと伝わるように言わせてもらうよ。

 

後輩、君が好きだ。

 

彼女のことが大好きな君が好きだ。

 

恋敵であろうと素直に称賛することのできる君が好きだ。

 

彼女の恋がうまくいくためならば、いくらでも泥を被ることのできる君が好きだ。

 

ひたすら一途な彼女にひたすら一途に恋をしている、そんな君だからこそ──」

 

 

 

ぼくはあなたに恋をしています。

 



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