21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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「飽きた! ゲームもう飽きた!」

 

 ゲームだけをして過ごす、どこかの四次元人みたいな生活を始めて三ヶ月。俺は限界を迎えていた。

 

「遊ぶだけの生活ってこんなに退屈なのか!? 定年退職した老人ってすごくね!?」

 

 そう、仕事のない生活というものに飽きてしまったのだ。

 

「ソウルコネクトゲームは飽きましたか? では、新しい娯楽を見つくろいます」

 

 そして、俺担当のお手伝いさんである、このヒスイさんの存在が非常にまずい。

 部屋には便利な家電が複数あるが、それらを使うのはヒスイさんの仕事だ。他にも、細々とした家事を全て担当してくれるうえに、新しいゲームのチョイスもしてくれる。その結果、俺が日常生活でゲーム以外の何かをするということがなくなった。

 俺が自分で家事をやっていたら、ゲーム以外にもすることができて生活にメリハリが出ていただろう。だが、このスーパーお母さんがそれを阻止してくる。

 自分で少しくらい家事をする、と言っても「これが仕事ですので」と譲らない。命令もできない。俺の担当ガイノイドだが、あるじは俺じゃなくてあくまで行政区の所属なのだ。甘んじて甘やかしを受け入れるしかない。

 

「働かないって、こんなに辛いのか……ニートの人達とかよくこの環境に耐えられるな」

 

 俺はソウルコネクトチェア……VR接続機器に座ったまま、お茶を口にしそんなことをぼやいた。

 

「新しい娯楽ではなく、就労を希望ですか?」

 

「ああ、本当に働かないって慣れないな」

 

 農大を出て十年。ずっと実家で農作業を続けてきた。畑はこちらの事情なんて待ってくれない。農繁期は休みなんてないようなものだった。だから、身体の芯まで労働というものが染みついているのだ。

 

「農家の仕事って空いてないかな」

 

「農家ですか。残念ながら、現代の農作物は全てロボットによる工場生産ですので、人の介在する余地はありませんね。農学研究は別ですが」

 

「研究職は嫌だぁ……」

 

「研究職以外に市民の方が就く仕事といいますと、音楽家や芸術家、小説家といったアーティスト方面ですね」

 

「芸術センスは皆無だなぁ」

 

「それ以外でしたら、芸能人でしょうか。役者というのもありますね」

 

「いいな! 俺、学生時代演劇部だったんだよ」

 

「ですが、役者の倍率はものすごく高いですよ。しかも、ヨシムネ様の容姿はミドリシリーズのガイノイドのものなので、すでにいる役者のミドリシリーズと見た目が似通ってしまいますね」

 

「ええっ……、役者もアンドロイドがやってるの……」

 

「高度有機AI搭載のアンドロイドは三級市民としての人権が認められていますので、各々役割を与えられるほか、好きな仕事に就く者もいます」

 

 高度有機AIとは、人間の脳を機械で模した人工知能のことらしい。この三ヶ月間、NPCにそのAIが搭載されたVRゲームをプレイしたこともある。NPCとは、ノンプレイヤーキャラクターの略で、プレイヤーが操作する以外のキャラクターのこと。ゲームプログラム側が動かすキャラクターのことだ。

 ちなみに高度有機AIは人権を持つため、自室のゲーム機にそのAIがインストールされているわけではない。AIを持つゲームサーバに接続する形だ。

 

「役者は無理だよなぁ。まあ、そもそもプロになる気とか昔もなかったが。うーむ……」

 

 芸能人とかちょっとだけ憧れてたんだけど、本気で目指すことはなかった。

 ん? 待てよ?

 

「芸能人が駄目なら、ユーチューバーになればいいじゃん」

 

「ユーチューバーですか? ……なるほど、21世紀の動画配信サービスを利用した配信者のことですか」

 

「そうそう。配信者。ゲームのプレイ中に声を当てたのを動画投稿したり、ライブ配信でコメントを読み上げながらゲーム実況したり。お、これ結構よくないか。遊びながら仕事らしいこともできる。動画編集とかしたことないけど」

 

「編集はお任せください」

 

「マジで。ヒスイさん有能」

 

「ミドリシリーズですから」

 

 ふんす、と鼻息荒くドヤ顔をするヒスイさん。耳の部分についたヘッドホンみたいなアンテナ以外は、本当に人間と見分けがつかないなぁ、このガイノイドさんは。

 

「では、動画配信に必要なソウルコネクトゲームを購入いたしますね」

 

「あれ、今持ってるゲームじゃ駄目?」

 

「そこなのですが……主な視聴者層になるであろう二級市民の方々は十何年、何十年とソウルコネクトゲームを続けてきています」

 

 そうだな。ゲームだけする生活をそんなに続けて、よく精神が耐えられるなと思うけれど。

 

「そんな人から見て、ソウルコネクト初心者のヨシムネ様のプレイを見て、心躍るようなことがあるでしょうか? 最初は目新しさがあるのでいいでしょうが、長期間初心者のままで面白さを継続できるでしょうか」

 

「むう」

 

 一理ある。

 

「ですので、年単位で修行しましょう。このゲームで」

 

 そう言ってヒスイさんが空中に投影した画面に映っていたのは、『-TOUMA-』というタイトルのゲームだ。

 

「ええと、剣豪アクション・生活シミュレーション……生活シミュレーションかぁ」

 

 生活シミュレーションとは、その名の通り、日常生活を過ごすタイプのゲームだ。この宇宙世紀の未来SF時代では、ゲームの中の物理法則は現実と遜色ないほど再現されている。

 だから、何もしなくていい現実の生活を半ば捨てて、ゲームという異世界で日常を過ごすタイプのゲームが一部で人気なのだという。その多くがMMO……多くのプレイヤーを集めたオンラインゲームだが、この『-TOUMA-』のゲームのようにオフラインタイプの物も存在するようだ。まあ、オフラインとは言っても高度有機AIをNPCに搭載したければ、AIサーバに接続する必要はあるのだが。

 

「ニホン国区産のゲームで、江戸時代を舞台とした妖怪退治アクションですね。時間加速機能付きです」

 

 時間加速機能とは、ゲームの中で二十四時間相当プレイしても現実では一時間しか経過していない、といった現象を実現する機能のことだ。

 

「シミュレーション設定を簡易モードにすれば、ゲーム内の一日が二時間で終わります。さらに時間加速を高めにかけて、ゲーム内の一年を現実の半日で収まるようにしましょう」

 

「はあ……」

 

「ゲーム内で二十年も過ごせば、きっとゲームも上手くなっていることでしょう」

 

「えっ、どんだけやらせるつもりなの!?」

 

 ゲーム内で二十年。一日が二時間で終わるっていうから、一年が730時間。それが二十年だから14600時間。時間を日に直すと608日。約二年間、ゲームの中で過ごすっていうのか。ガイノイドボディになったので暗算が速いな。

 

「大丈夫です。一年プレイするごとに現実に戻って休憩して、動画を投稿しましょう。それを二十回です」

 

「ええと、他のゲームでじっくり時間をかけて練習していくというわけには……」

 

「ご心配なく。私も一緒にゲーム内についていきますから」

 

「ううん……」

 

「動画配信者になるということは、この時代、宇宙の全ての人々に見られるということです。言語の壁というものは、自動翻訳によりすでに存在しないのです。早急なスキルアップが必要となるのです。ね?」

 

「うーん……やってみる」

 

「はい!」

 

 ヒスイさん、すごく嬉しそうだ。配信者になる予定の俺よりノリノリだ。

 あ、ヒスイさんがゲームの中にまでついてくるってことは、ヒスイさんも動画に映るってことじゃないか。彼女も配信者になってみたかったのかな?

 


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