21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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EX17.ミュータント・ベースボール~コーシエン2999~ プラクティスモード編

 どこか懐かしさを感じる野球ゲームの配信を行なってから数日後。俺はふと、20世紀や21世紀でプレイしたスポーツゲームについて語りたくなり、雑談配信をすることにした。

 

「現実の人間には不可能な必殺技とスポーツを組み合わせたゲームっていうのは、昔から割と定番なんだ。だから、この前の野球ゲームも言うほどネタゲーというわけではないんだ」

 

『そういうもん?』『超能力を駆使すれば不可能とも限らないが』『ヨシちゃんの言う昔って、人類が超能力を得る以前のことだろうから』『RPGで魔法が許されるなら、スポーツで魔球があってもいいよね』

 

「ガッツを消費して技を放つという発想は、『キャプテン翼』っていう少年漫画原作のサッカーゲームを連想したなー。強い必殺シュートを撃つと、ブロックに入った選手を何人も吹き飛ばして、ゴールネットを突き破って点を取れるんだ」

 

 俺が、子供時代にプレイした懐かしのゲームについて触れると、隣で控えていたヒスイさんが補足するように言った。

 

「この時代のサッカーは、サイボーグの選手が頑丈なボールを使って行なうため、よく選手が吹き飛びますよ」

 

「えっ、なにそれ怖い。野球のリーグは、サイボーグ選手とかいないんだよね?」

 

「はい。野球は競技としての性質上、膂力が上がりすぎると打球の飛距離が際限なく伸びてしまい、通常のスタジアムでは開催できなくなりますから。伝統的に生身で行なう競技となっています」

 

「うん、前に誰かからそう聞いたな。ちなみに、必殺技のあるサッカーゲームは他にも『イナズマイレブン』とか『くにおくんの熱血サッカーリーグ』とかがあったぞ。『くにおくん』っていうのはもともと高校生の不良が殴り合いの喧嘩をするベルトスクロールアクションだったんだけど、シリーズ化して高校の運動部の助っ人に入って全国大会に出るというシチュエーションで、いろんなスポーツゲームが出ていたな」

 

『不良がスポーツの助っ人かー』『時代物の漫画とかでそういうシチュたまに見る』『マザーのレトロゲー配信で見た覚えがあるような……』『高校とは学び舎の一種だったか?』

 

 ああ、ギルバデラルーシには高校の概念が伝わりにくかったかな。いや、人類の視聴者にも伝わりづらいか。21世紀的な学校施設ってリアルに存在しないはずだからな。今まで俺の配信で、高校が出てくるゲームも扱ってきたのだけれども。

 

「21世紀の日本は、義務教育として六年間の小学校と、三年間の中学校生活をみんな送っていた。義務教育っていうのは、子供が負う義務ではなくて、大人の義務だな。大人は子供を学校に通わせる義務を負うって意味だ。で、中学校の卒業後は高等学校、いわゆる高校に三年間、大学に四年間というのがよくある進学ルートだった」

 

「ヨシムネ様は、大学まで進まれていましたね」

 

「ああ、農業大学だな。農業大学校という訓練校もあったんだけど、俺の場合は農業大学だ」

 

 大学まで進んで学んだ知識は、未来での配信者生活ではなんの役にも立っていないんだけどな!

 古くさい21世紀の農業知識が、完全工業化されたこの時代で通用するわけもない。ただ、この時代の人類は機械で脳に直接知識を流し込んで勉強するらしいから、学生生活を送ったという記憶自体は希少なものだろう。VRゲームの中で学生生活を送っている人も多そうだが。

 

「学生も優秀な生徒ばかりではなくてな。学生の中には勉強についていけず落ちこぼれるやつや、道を外れて不良になるやつもいた。『くにおくん』はそんな不良の一人だな。シリーズによって内容は様々だが、最初の作品は、さっきも言ったとおり不良が喧嘩するゲームだ」

 

『熱血硬派くにおくん』だ。俺がプレイしたのはファミコン版だったけど、もともとはアーケードゲームだったはずだ。

 

「ちなみに、ラスボスは不良じゃなくてヤクザの組長で、拳銃を持ち出してきて発砲する。銃弾が命中したら主人公が一撃で死ぬ。殴り合いで進行するアクションなのにな。初めてラスボスと戦って負けたときは、思わず笑ってしまったな」

 

『生身の人間が撃たれたらそりゃ死ぬだろうけど……』『そこでリアリティ追求する?』『ラスボスならまあ』『不良の喧嘩に武器持ち出すとか無粋だなぁ』

 

 後のシリーズだと、武器に鉄アレイとかチェーンとか普通に持ち出しているんだけどな!

 

「初代の『くにおくん』はそんな殺伐としたゲームだったわけだが、そのキャラを使ってドッヂボールのゲームを出したらヒットして、その後も殴り合いを交えた物騒なスポーツゲームがシリーズとしていくつも出たわけだ。サッカー、アイスホッケー、野球とかだな」

 

「ヨシムネ様は、そのシリーズでどの作品が一番好みだったのでしょう?」

 

「アイスホッケーかな。完成度が特に高かったと思う」

 

「野球ではないのですね」

 

「実は、野球は主人公の『くにおくん』が不在なんだ」

 

「野球ゲームそのものが苦手なわけではないと」

 

「まあね。俺自身はそこまでスポーツとしての野球に興味があったわけじゃないから、買ってプレイしていたのは有名所くらいだけど」

 

 両親がプロ野球好きだったから、そこまで野球を嫌う理由もないし。

 プロ野球の中継で見たい番組が潰れるとか、騒いでいた子がいた子供時代の記憶がおぼろげにあるが、俺は昔からテレビとかあんまり観ない方だったし。

 まあ、両親が出身地によるひいきの球団の違いで夫婦喧嘩を始めたときは、アホくさと思ったものだが。

 

「野球って、俺のいた日本だと国民的スポーツでな。ゲームもいろんな作品があったよ。それこそ、必殺技が飛び交うようなゲームだと、『超人ウルトラベースボール』とか『ドラッキーの草やきう』ってゲームがあった。どっちも子供時代に友達に借りてちょっとだけ触れただけだから詳しくないんだが……」

 

 と、そこでふと固く閉じていた記憶のフタが開くような感覚を覚えた。

 野球ゲームに、俺はかつて苦しめられたことがある。

『パワポケ』? いや違う。そういうトラウマ的なものではなく、もっと直接的な苦痛を味わった記憶が……。

 

「あっ! そうだ。魔球で野球といえば、『プニキ』だ」

 

 ううーん、ゲームの内容を思い出すだけで頭が痛くなりそうな思いだ。

 

「『プニキ』は、正式名称を『くまのプーさんのホームランダービー!』という。無料で遊べるキッズ向けのミニゲームという触れこみで登場し、界隈を震撼(しんかん)させた伝説のゲームだ」

 

『どういう意味での震撼?』『ホームランダービー……競馬と関係ある?』『ダービーマッチじゃね』『ホームランダービーは今の時代でもちゃんと開催されてるよ』

 

「ホームランダービーについては……ヒスイさん、説明よろしく」

 

「はい。ホームランダービーとは、特定の制限を課した状態で打者が何本ホームランを打てるかを争う競技です。たとえば二分間といった制限時間の中で何本ホームランを打てるか。たとえば球数二十球の中で何本ホームランを打てるか。そういった条件をつけて、優れた打者は誰かを競い合う余興的な競技となっています」

 

「うん、そういう感じ。で、くまのキャラクターが魔球を投げてくるいろんな投手を相手にガチ勝負という名のホームランダービーをするゲームが、いわゆる『プニキ』だ」

 

「……なぜ『くまのプーさんのホームランダービー!』というタイトルが、『プニキ』という略称になるのでしょうか?」

 

「『プーのアニキ』。略して『プニキ』だ」

 

「なるほど」

 

『なるほどで納得するんだ……』『まあ略称ってそういうものだから』『理解できない略語に出会うのなんて日常茶飯事だぜ!』『みんな使用言語がバラバラで自動翻訳はさんでいるからね』

 

 あー、そういえば、この時代って言語統一されていないんだったな。

 自動翻訳機能が優秀過ぎて、歌を歌うときくらいしか意識していなかったけど。

 

 そんなことをしみじみ感じていると、ヒスイさんが不意に言った。

 

「……やってみますか、ホームランダービー」

 

「ん? ホームランダービーのゲームでも用意してた?」

 

「いえ、先日配信した『ミュータント・ベースボール』のプラクティスモードで、打撃練習ができるのですが……それで体裁を整えて、開催してみましょう。『ヨシちゃんのホームランダービー!』を」

 

「マジで?」

 

「マジです。限りなくヨシムネ様の言う『プニキ』に条件を近づけてみましょう。頑張ってくださいね」

 

「……伝説のゲームといっても、面白さで有名になったわけじゃなくて、キッズ向けとは思えない難易度の高さで人々を震撼させたゲームなんだけど?」

 

「大丈夫です。ヨシムネ様ならいけます」

 

「大丈夫じゃない!」

 

 そうして600年の時を超えて開催されたホームランダービーは、過去の記憶を再現するかのように俺を苦しめた。

 それでもなんとか最終ステージを突破した俺は、しばらく視聴者たちから尊敬を込めて『ヨシムネのアネキ』こと『ヨシネキ』と呼ばれるようになり……。ピッチャーを担当したヒスイさんは、畏怖の念をこめて『カスのヒスイさん』こと『スイカス』と呼ばれるのであった。

 

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