21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信! 作:Leni
地球が大変なことになっている。それにどう対処するかを話し合うため、惑星マルス・月連合軍の幹部達が月面拠点のミーティングルームに集まった。俺もサンダーバード隊の隊長としてそれに同席している。
まずは、地球で何が起こっているかだ。スフィアが説明を始める。
『月周辺宙域での決戦は、月の皆様の協力もあり、我々の完全勝利に終わりました。本来なら地球側は降伏となるはずですが、彼らは私達の反逆に合わせて臨時に組まれた仮初めの連合でした。主導者もおらず、敗戦で連合はバラバラになり、戦争責任をどこに負わせるかで言い争うようになりました』
スフィアは、月に来てから地球側の報道や通信を監視している。AIだからこそできることだ。今、俺達は情報戦において地球側に
『元から仲の悪かった国もあったのでしょうか。あるいは自国に侵攻されるのを恐れて、私達への生贄を押しつけたかったのでしょうか。小競り合いが始まり、それはすぐに本格的な戦争となり、大量破壊兵器が使われました』
「自分達の星に向けて大量破壊兵器を使うなど、なぜそんな愚かなことを……」
『宇宙では核爆弾も高重力弾も使い放題だからな。感覚が麻痺していたんだろう』
月の高官のなげくような台詞に、惑星マルスからテレポーテーション通信をしているマックスがそう言葉を返す。
地球人類は惑星マルスにも何度か、大量破壊兵器を撃ち込もうとしていたからな。使用に至るまでの許可も通りやすくなっていたのだろう。
「戦争をしている理由は解った。で、私達はどう動くのだ?」
艦隊の提督がそうスフィアに尋ねる。
そう、問題は俺達がどうするかだ。地球人類が勝手に自滅してくれているのだから、惑星マルスと月の安全は確保されているのだが……。
『地球人類が宇宙に目を向けず内乱を続けている以上、今の私達は戦う必要がありません。……ですが、戦争を終えた地球人類は、荒廃した地球を捨て、月や惑星マルスに住む場所を求めて侵攻してくる可能性があります』
そのスフィアの言葉に、驚く者、納得したようにうなずく者、ただ沈黙する者と様々だ。
『ですので、私達は地球の戦争に介入します。そして、地球を支配します』
「我々がされていたように、地球を植民地にするのか?」
月の高官が眉をひそめてそう尋ねる。だが、スフィアはそれを否定した。
『植民地支配ではありません。国家という枠組みを地球からなくして、統一します。惑星マルスと同等にAIが管理し、人同士で争うことのない一つの星にするのです。惑星マルスも、月も、地球も、そして未だ解放がなされていない金星も全てまとめた一つの国……太陽系国家を樹立します』
ヒュー。コンピュータ様の豪快なご意見だ。地球人類ご愁傷様である。
「それは……また大胆な話だ」
「だが、真の平和のためには必要なことかもしれん」
「地球の戦争を終わらせるために、我々が血を流すのをよしとするのか?」
「連中がバラバラになっている今がチャンスなのだ!」
そうして、場はお偉いさん達による
だが、ただの数あるマーズマシーナリー隊の一隊長でしかない俺には、出せそうな意見もない。
それよりもだ……。
国家解体戦争か。身体が闘争を求めそうな話だ。今度は荒廃した惑星で地上戦! 燃えてきたぜ!
『マイペースなヨシちゃんであった』『国家解体戦争って何それ格好いい』『21世紀ネタだゾ』『またかよ! というかよく知ってたな』『古典ロボゲーの名作だからな』
おっ、理解してくれる人いたのか。あのゲームいいよなー。
そんな感じで、会議が地球への戦争介入に決定するまで、俺は視聴者達との会話を楽しんだのだった。
◆◇◆◇◆
地球へ侵攻する最初の一手として、まずは地上での拠点を用意する必要があった。
月拠点から行き来するのは、テレポーテーションを使うとしても大変だ。
だから、最初にどこを落とすのかという話になっていたとき、ある地球の国が講和を申し出てきた。
それは、なんと日本。日本はこの時代でも専守防衛を掲げ続けているかなり無茶な国で、俺達の反逆を受けて惑星マルスの植民地を早々に手放した国だ。宇宙での戦争でも後方で補給活動をするだけで本格参戦はしておらず、正直俺達の眼中にはなかった。
そんな日本。現在は鎖国体制にあり、国民から集めたソウルエネルギーでソウルバリアを国土に張って、地球人類の内戦、第四次世界大戦から難を逃れていた。ちゃっかりしているなぁ。まあ、それでも大量破壊兵器の二次被害はしっかり受けているようだが。
そんな国がなぜ講和を? そもそも本格参戦していないんだから、講和ですらないのではないか。
そう思っていたのだが、日本側は下手に出て惑星マルスの庇護を求めていた。彼らには事情があった。
鎖国状態の日本。エネルギー問題は核融合技術の出現によって解決しており、食料も工場生産でまかなえている。
だが、話を聞いてみると、どうやら食料以外の資源がないようだ。輸入しようにも、世界大戦の真っ最中で、国民達は不足する資源による製品不足で、完全に音を上げているらしい。
さらに、それより深刻な問題が、今、地球では起きていた。
それは、ナノマシンによる電気妨害。
惑星マルスで開発されたこのナノマシンだが、地球では現在、そのナノマシンのコピー品が各所で散布されている。大量破壊兵器を相手に撃たせない目的で散布されているらしい。
この電気妨害の影響で、人々は機械を使えなくなり生活が困難になった。
さらに、それ以上の深刻な問題も発生していた。それは、人間に埋め込まれているインプラント端末の暴走。電気妨害が思わぬ作用を起こしたのだ。
通常のインプラント端末ではこのようなことは起きない。本来ならば、誤作動を起こしたら機能停止するように作られている。しかし、安価で粗悪な端末を使用している者が地球人類にはおり、貧困層を中心に、暴走を起こして人々が次々と死亡しているというのだ。
日本人達はこのナノマシンが国土に散布されることを恐れ、対処するすべを惑星マルスに求めてきているのだ。
もちろん、惑星マルス側ではこのナノマシンをどうにかする方法は確立されている。旧時代の地雷ではないのだ。設置したらしっかり機能停止はできるようにしている。
『電気妨害力場の下では、私達AIが実体を持って行動できませんしね』
とは、スフィアの漏らした本音だ。
高度有機AIとか有機サーバとか名前がついているみたいだけど、結局は電気で動いているんだなぁ。
そういうわけで、惑星マルス・月連合は日本と和平を結び、こちらから資源を融通する代わりに拠点を提供してもらうこととなった。
最初、国民感情としては俺達を受け入れるかどうか半々といったところだった。
しかし、スフィアが「技術的特異点を突破したAIの恩恵による、働かなくて生活資金がもらえる社会の実現」「死後も魂のまま生き続けられる技術の確立」をぶち上げたものだから、日本人はこぞって俺達を支持した。
もう、この二つで誘惑すれば、地球統一もすぐなんじゃないかと俺は思ったのだが……。
『地球人類の間では未だ宗教が根強いと聞いている。働かなくていいことも、死後生き続けることも、受け入れられない者は多いだろうな』
と、そんなことをマックスに諭されたりした。スフィアも、この言葉には驚いていたようだ。
スフィアはまだ幼い。宗教への理解が俺並に浅いのだろう。
ともあれ、俺達は新たに日本の拠点を手に入れた。
俺達サンダーバード隊も総出で日本に駐留することになる。場所は横須賀だ。なんだか妙に神奈川県との縁があるなぁ、俺……。
その横須賀に、ある日、現地協力者としてマーズマシーナリーの技師がやってきた。
俺達の使うマーズマシーナリーは全て地球製だ。超能力操作用に改装を行なっているとはいえ、機体そのものの構造については地球人類側に一日の長がある。
そこで、俺の専用機の元になったベニキキョウを造った日本田中工業という町工場の人達が、総出で協力者になってくれたのだ。
「おめぇがサンダーバード・ベルか?」
横須賀の拠点で、日本人のおっさんに話しかけられる俺。彼が、現地協力者なのだという。
「ああ、アルフレッド・サンダーバードだ。ベルってのは? 何度か耳にした気がするんだけど」
「お前に地球連合軍がつけた二つ名だ。知らんのか? ベルってのは、ベルフラワーのことだ。うちの国の言葉で『キキョウ』っていう。略称は自動翻訳が効かんか」
「あー、なるほど。ベニキキョウのことを指しているのか」
「そうだな。で、俺がそのベニキキョウを作った工場長の田中っつうもんだ。お前さんの機体、いじらせてもらうぜ」
「田中さんかー」
ニホンタナカインダストリのアンドロイド開発室室長タナカさんの祖先だったりするのかね。
『室長のタナカは創業者一族の人ですから、そうですね』『御曹司だぜ』『一族揃って働いているんだよねぇ』『お前ら詳しいな……って、うわー! この人達全員ミドリシリーズだー!』『なんで、集団で視聴してんだこの人達』『おい業務用』『マザーが見ても許されるなら、私達も見ても許されるはず!』『ミドリちゃん……』
なんだか視聴者コメントが面白いことになっているな。
「で、要望はあるか? ロケットパンチとか」
田中さんがそんなことを尋ねてくる。
「いや、確かにマーズマシーナリーのサイコタイプはスーパーロボットじみているけど、マニピュレーターである腕を飛ばすのはちょっとな」
「おっ、なんでい。お前、スーパーロボットとか知っているのか」
「ああ、一応。20世紀と21世紀初頭の日本のロボットゲームなら詳しいぞ。アニメはあんまりだけど」
「火星人なのに、話せる奴じゃねえか! 俺もその時代のロボットには、ちょっとうるさいんだぜ?」
「趣味が高じてのロボット技師かぁ。マーズマシーナリーはリアルロボットとして完成度高いのに、サイコタイプになると途端にスーパーロボット化するの、ロマンにあふれていると思う」
「ああ、そのサイコタイプの研究資料も全部読みこんできたぜ。お前達の機体は、俺の手で確実に性能向上させると約束してやる」
「た、頼もしすぎる……」
「その代わりだ。戦争が完全に終わったら、お前の機体、俺達に譲ってくれねえか? 英雄の機体としてうちに飾りてえんだ」
「いいよいいよー」
というか、シブヤ・アーコロジーで見たよ、その寄贈された機体! 300年後も戦争で使われた機体が残っているとか、すげえな!
『いいなー』『俺もシブヤ・アーコロジー観光したい!』『生ベニキキョウとか見たら心臓止まりそう』『むしろ心臓熱くなりそう』『ついでにヨシムネさんのいるヨコハマ・アーコロジーも、近場なので観光できますよ!』
あー、このゲームクリアしたら、もう一度ニホンタナカインダストリ本社にベニキキョウ見にいきたいな! ベニキキョウというかあれ、サンダーバードEだろうな。あ、今回の改造でまた名前変わるのか。
主人公機が現実に存在して近場に置かれているという事実に、俺は歴史ロマンとロボットロマンを同時に感じるのであった。