21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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54.アンドロイドスポーツ<2>

 リミッター解除を無事経験できたので、バーベルをロボットに片付けてもらい、俺達は次の場所へと移動する。

 物の置かれていない広い空間だ。そこにエナジーバリアが張られ、区画が分けられている。

 

「ウリバタケー、キャッチボールやろうぜ!」

 

「はいはい。キャッチボールね。スポーツというには簡素だけど」

 

「まずは準備運動からって感じだな!」

 

 俺は施設のロボットからグローブとボールを受け取り、左手にグローブをつける。

 キャッチボールは、学生時代の体育の授業と球技大会でのソフトボールでしか経験したことないが、まあなんとかなるだろ。

 俺はオリーブさんがグローブをはめてこちらを向いたのを確認すると、硬式の野球ボールを彼女に向けて投げつけた。

 

 ボールは真っ直ぐに進み、彼女の構えるグローブに突き刺さった。お、結構いい感じじゃないか?

 

「おいおい、寝てんのか?」

 

 だが、オリーブさんは厳しい言葉をぶつけてきた。思わず、むっとしてしまう俺。

 

「キャッチボールは、こうやんだよ」

 

 軽い感じで、オリーブさんがボールを投げてくる――って、待て速――。

 

「おぶっ!」

 

 剛速球がグローブではなく俺の顔面に突き刺さり、俺は後方へ豪快に吹き飛んだ。

 

「ヨシムネ様!?」

 

 ヒスイさんの悲鳴が聞こえる。

 い、痛え!

 というかなんだ今の速さは!

 視界に250km/hとか表示されているぞ、おい!

 

「おい、ヨシー。ちゃんと取れよー。マジで寝てんのか?」

 

 オリーブさんの罵声とも取れる言葉を聞きながら、俺は起き上がった。

 

「速すぎるわ!」

 

「いや、余裕だろ……」

 

 ボールはオリーブさんの方に跳ね返ったのか、彼女がまたボールを手に取っている。

 

「もう少し、もう少し遅くお願いします……」

 

「しゃーねえな……ほれ!」

 

 はい、240km/hいただきましたー。顔面にまたもや直撃を受ける俺。

 

「おーい、この程度サイボーグでも取れるぞー」

 

 そうは言いますがな……。ちょっと速すぎるというか。

 

「リミッター解除がされていないに違いない……というか、なんでグローブじゃなくて顔に投げるんだよ!」

 

 俺はそうオリーブさんに抗議の声を上げる。

 

「いや、アンドロイドスポーツで顔面狙いは常套手段だし……」

 

 アンドロイドスポーツ物騒すぎる……。

 

「魂の保存場所が破損したらどうしてくれるんだ、まったく」

 

「ん? ガイノイドの重要機関は胸にあるぞ。頭部は転倒時に衝撃受けやすいからな」

 

「あー、確かに」

 

 人間もなんで一番高い場所に脳を置いているんだ。

 

「とりあえず、100km/hくらいからゆっくり慣らしてください……」

 

 俺は懇願(こんがん)するようにオリーブさんに言った。

 

「仕方ねえなぁ」

 

 それからオリーブさんは、100km/hから10刻みでボールを投げてくれた。頭の奥底で、リミッターが解除されて動体視力が強化された感覚を覚える。というか動体視力ってリミッターかける必要あるんですかね……。

 その後も、キャッチボールは続き、だんだん互いのボールの速度が上がっていく。

 最終的には、大砲の弾でも飛ばしてんのかって感じになった。うはは、これは楽しいな。

 

「よし、準備運動はこれくらいでいいな!」

 

 ひとしきり投げ終わって満足したのか、オリーブさんがそう言った。

 

「アンドロイドスポーツって、人間の観客ちゃんとついてこられるのか……それに、よくグローブ壊れないな」

 

「カーボンナノチューブ製の頑丈なやつだからな!」

 

 それはまた、未来的な素材でできているもんだ。

 使っていても、柔らかい普通の革グローブにしか思えないのだが。

 

 そうして俺達はキャッチボールを止め、次に向かったのはテニスコートだ。ただし、コートが普通のテニスより倍以上広い。

 そのコートを前に腕を組みながら、オリーブさんが言う。

 

「アンドロイドスポーツ名物、エクストリームテニスだ!」

 

「あー、さっきオリーブさんが優勝したとか言っていたテニスか?」

 

「そうだな。ヨシに会いに来るついでにエントリーして、優勝してきた!」

 

「ついでで優勝するんだから、すごいよな……」

 

 そう言っている間に、ロボットがラケットとボールを手渡してきたので受け取る。

 ラケットは普通のテニスのラケットに見えるが、編み目のような糸、いわゆるガットが張られていない。手元にスイッチがあるのでそれをONにしてみたら、半透明のガットがラケットに自動で張られた。

 

「どうなってるんだ、これ?」

 

「エナジーバリアを応用したエナジーガットだな。普通のテニスと同じガットを使ったら、一発で千切れ飛んじまうからな」

 

 俺の疑問に、オリーブさんがそう答えてくれる。

 なるほどなー。ガットが千切れ飛ぶような球が飛んでくるんだー。

 ボールも、結構重くてちょっと危険を感じちゃうなー。

 

「それじゃ、ラリーしようぜ! 運動プログラムはインストールしていないらしいし、試合形式は止めておこうか」

 

「ラリーならまあ……」

 

 オリーブさんの提案を受け、俺はコートに入った。

 うーむ、広い。しかし、アンドロイドの身体能力を考えると、これでも狭い方なんだろうな。

 

 ちなみにテニスの経験は、キャッチボールと同じく体育の授業でやったくらいだ。

 上から振り下ろすサーブなんてできないので、適当に下からラケットを振ってボールを飛ばした。うへえ、結構手に返ってくる感触が重たいぞ。何でできているんだ、あのボール。

 

 打ったボールは相手コートへ入り、バウンドした先でオリーブさんがラケットを構えている。

 そして。

 

「死ねえ!」

 

 ボールがノーバウンドでこちらに返ってきて、俺の頭に直撃した。

 

「ぐえー!」

 

 あまりの衝撃に、ボールの代わりにコートをバウンドしてしまう俺。

 ひでえ! というか今、死ねって言った! 死ねって言ったぞ!

 俺はなんとか起き上がり、オリーブさんに抗議の声を上げる。

 

「こらあ! テニスはコート内にボールをバウンドさせる競技だろうが! なんで直接攻撃してくんだよ!」

 

 だが、オリーブさんは悪びれた様子もなく、笑いながら言った。

 

「ダイレクトアタックはアンドロイドスポーツの華だぜ!」

 

「点を取るんじゃなくて、ラリーしろや!」

 

「これくらい打ち返せると思ったんだけどなぁ……」

 

 俺はロボットから新たなボールを受け取ると、再びサーブの構えに入った。

 ゆるいボールを打つと今みたいにきつい一発が返ってきそうだ。ボールを上に投げ、ラケットを振り下ろして全力でサーブを打ち込んだ。

 

「おっ、ナイスサーブだ、ヨシ! お返しだ!」

 

 オリーブさんはラケットを振り抜き、先ほどよりも勢いのいいボールがこちらに飛んできた。また頭にだ。

 

「ぐえー!」

 

 ボールの代わりにコートに突き刺さる俺。

 本当に、本当にこいつは……。

 

「オリーブさん、これ俺が生身の人間だったら今頃死んでるぞ……」

 

「やだなー。さすがに人間相手だったらリミッターかかるから、普通のテニスをやっているぞ」

 

「俺も人間なんですけどぉ!?」

 

「私にリミッターがかからないってことは、ヨシは人間判定されてないってことだぜ。アンドロイドスポーツの世界に足を踏み入れる資格ありだな!」

 

 AIは人間に危害を与えないようになっているという、ヒスイさんが以前してくれた説明、怪しくなってきやがったぞ。

 俺はまたロボットからボールを受け取ると、無難にサーブを打った。

 そして、今度はラケットを顔の前で構える。ボレーの構えだ。

 

「甘いぜ!」

 

 だが、ボールは俺の横方向に飛んでくる。

 よかった、ダイレクトアタックは防がれた。俺はボレーの構えを解き、バウンドするボールを打ち返そうとする。

 

 しかし。ボールに回転がかかっていたのか、バウンドしたボールは真っ直ぐに俺の顔面へと向かってきた。

 

「ぐえー!」

 

 コートにまたもや倒れ込む俺。

 

「あれ? これも無理か?」

 

「初心者にはきついっす……痛みがないからマシとはいえ」

 

「むう……運動プログラムがインストールされていない相手って、難しいな。そうだ、ヨシも顔狙ってこいよ!」

 

「そもそも、どこかを狙ってボールを打てるほど、テニスに慣れていない!」

 

 エクストリームすぎるテニスは続き、俺はその後も何度かコートに叩きつけられることとなった。スマッシュを打ち返したと思ったら身体ごと吹き飛んだのはさすがに笑った。

 ラリーは一時間ほどで終了。休憩ということで、俺は今、ヒスイさんに膝枕をしてもらっている。

 

「アンドロイドスポーツって、こんなに激しいんか……」

 

「あの子は倒し倒され合うのがスポーツの醍醐味と、勘違いしている節があります」

 

 もうスポーツじゃなくて格闘技やれよな!

 

「それとヨシムネ様。あの子がヨシムネ様のことを人間判定していないなどと言っていましたが、そのようなことはありませんよ」

 

「人間判定されていたら、もっと優しくしてくれていたんじゃね?」

 

「あれがあの子なりの人間との接し方なのです。そもそも、私達ミドリシリーズがヨシムネ様を妹扱いしているのは、ヨシムネ様が人間だからなのです」

 

「? どういうこと?」

 

 俺は膝枕に頭を乗せたまま、ヒスイさんの顔を見上げる。

 

「私達ミドリシリーズは、警備員を担当することもある業務用AIが搭載されています。私達にとって、人間は守るべき者。ゆえに、人間のヨシムネ様は守るべき存在と私達に思われています。それを言葉に表わすと、〝妹〟になるのです」

 

「AIが変な作用起こしているな、それ……」

 

 人間は守るべき者。そんな人間が同型機になった。だから彼は守るべき妹。そんな妙な発想になっているという。

 

「俺が今のボディにインストールされた後に製造された子も、俺を妹扱いするんだろうか……」

 

「そうでもないですよ。私の後にヨコハマ・アーコロジーの実験区に入った子などは、ヨシムネ様のことをお姉様と呼んでいます」

 

「マジかよ。俺にも妹ができるのか……まだ会ったことないよな?」

 

「そうですね。なにぶんミドリシリーズの人数が人数ですので、製造日が新しい子はヨシムネ様の近くに来られる選考を突破できません」

 

「選考て……」

 

 確か、300人近くいるんだったかな、ミドリシリーズ。SCホームに全員が一度に入れる宴会場とか必要かね。

 

「おーい、ヨシー。大丈夫かー?」

 

 テニスを見ていた人達にサインをせがまれていたオリーブさんが、こちらに戻ってきてそんなことを言った。

 俺は、身を起こしてオリーブさんに答える。

 

「どこもおかしくはなっていないが、ハードだったよ」

 

「すまんすまん。つい興が乗ってなー。まあ、かなり手加減はしたんだぜ」

 

「手加減されても初心者にはついていけないよ……」

 

 手加減していないと、目狙いや指狙いといった部位破壊が混じるとラリー中にオリーブさんが言っていた。

 

「すまんて。次はちゃんとラリーを心がけるからさ! 次は卓球しようぜー!」

 

 卓球か。それなら、球も痛くないだろうし安全だろう。

 よし、やるか!

 ちなみに、アンドロイド用卓球は、当然のように球も重く硬かった。

 

 そうして俺達は、丸一日スポーツにはげみ、俺はときおりテンションの上がりすぎたオリーブさんのダイレクトアタックにさらされることになるのであった。

 それでも後半からは互いに慣れてきて、楽しくプレイすることができたので、よしとしようか。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「いやー、まさかメンテナンスまでする羽目になるとは」

 

「どこにも異常はありませんでしたけれどね。念のためです」

 

 市民体育館を出た後、ニホンタナカインダストリのヨコハマ・アーコロジー支社に向かい、ボディのチェックを行なった俺。時間はすっかり遅くなり、夜を示すかのようにアーコロジーの照明の色にところどころ青が混ざっていた。

 移動用の乗り物であるキャリアーから降りた俺とヒスイさんは、居住区を歩いて自分達の部屋へと戻る。

 

 部屋の扉の前に立つと、自動でロックが解除されたので、扉を開けて玄関へと入る。

 

「ただいまー。イノウエさん、大人しくしてたかー?」

 

 そう言って、靴を脱いでいたそのときだ。

 

『おかえりなさいませ』

 

「!? 誰だ!」

 

 俺は部屋の中から聞こえてきた声に、身構える。

 そして、警護役でもあるヒスイさんの方へと顔を向けた。だが、ヒスイさんは気にした様子もなく、靴を脱いで部屋の中へと入っていった。

 

「ただいまもどりました。問題はありませんでしたか?」

 

『はい』

 

 ヒスイさんは、そんな何者かとの会話を自然に繰り広げていた。

 

「ヒスイさん、いったい誰が……」

 

 俺も部屋の中に入っていくと、そこには知らない少年がいた。銀髪の中肉中背。……耳にはアンテナがあるので、アンドロイドだろうか。

 見覚えのない人だ。いや、待て。どこかで見た覚えがあるような……。

 

「ヒスイさん、この人誰?」

 

 素直にヒスイさんへ聞くことにした。

 

「留守番用のロボットですよ」

 

「あー、新しく買ったんだ。でも、その人アンドロイドだろう? 高かったんじゃないの?」

 

「いえ、家庭用ロボットの簡易AIを購入しただけですので、それほどまでには。ボディはすでにあったものの流用ですからね」

 

「流用……?」

 

 俺はアンドロイドをまじまじと眺める。うーん、やっぱりどこかで見たことがあるよな。

 

「以前、ヨシムネ様用にニホンタナカインダストリが用意したボディです。このままでは使い道がなく場所を取ってしまい、返品するしかなかったので有効活用することにしました」

 

「あ、あれかぁー!」

 

 俺が男に戻りたい時用に用意してもらった、ツユクサシリーズの男ボディじゃねーか。

 ボディの入れ替えを短期間で何度も行なうと魂が傷つくというので、恐ろしくて一度も入れ替えたことがなかったのだが……。

 

「ヨシムネ様の配信は順調です。リアルを映すことも多く、もはやこのボディに入ることはないでしょう」

 

「そりゃそうだけど……ミドリシリーズのままでいてほしいっていうヒスイさんの願望も入ってない?」

 

「それは否定しません」

 

「否定しないんだ……」

 

 まあ最近は、別に男に戻れなくても何も不自由していないし、構わないやと思っているのも事実だ。

 男に戻って誰かと結婚したいとか、そういう願望もないしな……。

 

「でもヒスイさん、これ一応、俺に贈られた機体だから一言相談ほしかったかな」

 

「申し訳ありません」

 

「うん、まあ、簡易AIなら後から消去もできるし構わないけどね。で、留守番用ロボット?」

 

「はい、私達が留守の間にイノウエさんとレイクの様子を見ていてくれる、家庭用ロボットとして扱うことにしました」

 

 イノウエさんもロボットだから、留守の間にスリープ機能を起動して眠らせておくということもできるのだが、ヒスイさんはそれを選ばなかったようだな。極力、普通の猫と同じように扱いたいのであろう。

 

「では、ヨシムネ様。新たな我が家の仲間に、名前をつけてあげてください」

 

「名前ねぇ……」

 

 アンドロイドは、先ほどから何も喋ってはいない。自発的な会話機能は最低限の搭載なのだろうか。

 

「うーん、家のことを担当してくれるし……ホムくんで。もし女の子を追加する場合、そっちはホムちゃんだ」

 

『名前を拝受いたしました。これよりホムを名乗ります』

 

 ホムではなくホムくんなのだが、自己認識としてはホムでいいか。

 

「遅くなったから今日はもう寝るけど、明日はホムくんの衣装を考えよう。ヒスイさんが好きそうなやつで」

 

「私ですか?」

 

 ヒスイさんが食い気味にそう聞き返してきたので、俺はとりあえずその場で画像検索を行ない、とある21世紀の錬金術士ゲームの画像を空間に投影した。

 ホムくんはHOMEくんとして名付けたが、俺の頭によぎったのは今表示した錬金術士ゲームの銀髪赤目のホムンクルスだ。

 耽美な執事風衣装。こういう服はヒスイさんも好きだろう。

 

「いいですね。早速、マイクロドレッサーで……」

 

「あー、今日は遅いから明日で! ほらほら、寝るよー」

 

 ヒスイさんは寝る必要がないから、俺が寝た後にいろいろやりそうだな。

 ともあれ、我が家にまたこうして新たな仲間が加わることになった。元々広い部屋だからよかったけど、なんだか少しずつメンバーが増えていくな。

 でも、配信的には生活に変化があることは、いいことではないだろうか。マイクロドレッサーでパジャマに着替えながら、俺はそんなことを考えるのであった。

 

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