21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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57.リドラの箱船(サバイバルアクション・農業シミュレーション)<3>

 おそらく初心者エリアではないのであろうあの森を避けて、まずは食べ物を探す。

 海岸線近くにヤシの木があったので、ヤシの実を確保。

 

●マンゴーココナッツ

 マンゴーとココナッツを掛け合わせて作られた南国フルーツ。

 まろやかなココナッツミルクに、甘くて美味しい実が楽しめる。

 アイテムクラフトで外皮からココナッツファイバー(天然繊維)を取り出せる。頑丈な布が欲しいときにどうぞ。

 

 ……布か。

 

「アイテムクラフト!」

 

 ココナッツを複数分解し、繊維の布、瓶に入ったココナッツミルク、容器に入った実を取り出す。

 さらに布をクラフトして、服を作りだした。

 その服をメニューの装備欄に放り込んで、服を装着する。

 

「しゃらーん、魔法少女風早着替え!」

 

『魔法少女を気取るには野暮ったい服だ』『ヒスイさんいたら服に駄目出ししていたな』『ヨシちゃん服作りのセンスないよ』『いつもオシャレなのは、ヒスイさんのおかげだったんですね……』

 

 辛辣ぅ! 配信者って、もっと視聴者にちやほやされるもんじゃないの!?

 いいさ、今度は驚かしてやるから。そう、火起こしだ!

 

 サバイバルアクションをやるにあたって、ブッシュクラフトを予習してきたんだ。

 ブッシュクラフトというのは、文明の利器をほとんど持ち込まない原始的なアウトドアだ。未来のこの時代、自然は厳重に保護されていてブッシュクラフトなんてやろうものなら、高い料金を行政区に支払わなければならない。

 なので、ブッシュクラフトを楽しみたい人専用にシミュレーターゲームが存在する。俺はそのゲームで、システムアシストを使わない火起こしを経験してきたのだ。

 

 枯れ葉と枯れ枝を集め、焚き火の用意。

 火きり棒にする真っ直ぐな木の枝と、それとこすり合わせるための太めの枯れ枝を確保。

 枯れ草も確保して、キリモミ式の火起こしだ!

 

『ヨシちゃんまさか……』『やる気か!』『ヒュー』『サバイバルといえばこれだよなぁ!』『原始人が火を知るか……』

 

 視聴者が大盛り上がりだ。

 システムアシストによって補助を受けた俺は、手の平で火きり棒を回し、こすり合わされた枯れ枝に火種を作ることに成功する。その火種を枯れ草に着火し、燃え上がったところで枯れ葉と枯れ枝に火を移す。焚き火の完成だ!

 

『やったぜ』『原始人は火を獲得した!』『人類の夜明け』『文明人に進化する』『生命の神秘』

 

 いえーい、やったぜ。

 

『火魔法を習得しました』

 

「と、火魔法を覚えたので、原始的な火起こしはこれ一回きりだ!」

 

『マジかよ』『しょんぼり』『魔法とかあったのか』『まあいちいちこんなのやってられないよな』『もっとサバイバルして?』『ファンタジー要素のないサバイバル系ゲームも、プレイしてほしいなぁ』

 

 さて、この焚き火に、海岸線で確保したクラブシュリンプとかいう甲殻類を五個ほどくべて、食事の確保だ。

 甲殻類が焼ける匂いが周囲に立ちこめていく。

 

 そして、システムアシストの料理技能がほどよく焼き上がったのを知らせてきたので、焚き火からクラブシュリンプを取り出した。

 どれ、一個だけ味見だ。

 

 腕をもぎ、石で外殻を割って、口へと身を運ぶ。もぐもぐ。

 

「うみゃあ! ぷるんとしてエビの食感なのに、カニの味もして面白い味だぁ」

 

『美味そう』『味覚共有機能つけろよぉ!』『なんで共有しないのおおお!』『ずるい! ずるい!』『じらしおる……』

 

「いや、不味かったり、毒だったりしたら困るしさ。よし、共有機能オンにしたぞ」

 

 そうして俺達は、クラブシュリンプを一匹丸ごと食べきった。

 残りはアイテムボックス行きだ。弁当代わりだな。

 

 準備は整った。俺は、森の奥へと足を進める。

 出会うライガーは、全て殲滅してレベルアップへの糧とする。巨大な鹿と遭遇するが、襲ってこなかったのでこれはスルー。倒せる敵か判らないので、冒険はしない。

 途中でクラブシュリンプを食べて、ココナッツミルクを飲み空腹と渇きを満たす。

 

 ライガーを狩り続け、明らかに初心者の域を超えたレベルに到達した頃、俺はとうとう森を抜けた。

 一面の草原。凶悪そうな動物の姿は見えず、草食動物がのんびりと草を食んでいる。

 

 そして、箱舟と勝手に推測している赤く輝く建造物が、正面に見えていた。

 俺はそれに近づいていき、手に触れる。

 すると――

 

『よくぞ、ここまで辿り着いてくれました。我が子よ』

 

 赤い建造物の壁面に、人の姿が浮かび上がってきた。

 それは、うら若い金髪の女性。その女性が、こちらに語りかけてきている。

 

『私はリドラ。あなたの生みの親にして、滅びた古の都の女王です』

 

 ほーん、女王様。

 

『あなたは私達の希望の姫。私の話を聞いてくれますか?』

 

「いいよー」

 

 女王リドラが問いかけてきたので快諾する。ここで断って、ゲームの進行を妨げるのもなんだしな。

 そして、俺は女王リドラの話を聞く。

 

 かつて地上は神の愛で満たされ、人が繁栄していた。しかし、あるときを境に神は姿を消し、人は衰退し、そして、大洪水が文明を襲う。

 事前に予知されていた大洪水から逃げるために、女王はこの箱舟を作り、地上のあらゆる存在を箱舟の中に情報体として保存した。やがて、地上は大洪水に押し流され、世界の全ては海の底に沈んだ。

 それから長い時が過ぎ、海の上にようやく島が一つできあがった。それが、俺のいるこの島。

 

 箱舟に保存されていた存在を解き放ち、島に動植物が根付いた。その解放された者の中に、俺の存在があった。

 俺は、神と女王の間に生まれるはずだった半神の子。

 神の子ゆえに、最初から成長した姿で生まれ、それでいて何も知らない無垢な子供なのだと。

 

「なるほどなー。記憶喪失とかの定番の設定ではなくて、最初から何も知らないと」

 

『そうです。何も知らない状態で島に投げ出されて、不安に思ったことでしょう』

 

 いや、かなり楽しみながらここに来たけどね?

 

『あなたは自由です、私の子よ。しかし、私から一つの頼みがあります』

 

「ふむ、なんだろう」

 

『箱舟に保存されている存在の解放を手伝ってほしいのです』

 

「いいよー」

 

『ええと……説明は必要ですか?』

 

「あ、それはお願い」

 

 危ない危ない。チュートリアルをスキップするところだった。

 

『たまにある』『NPCとの会話方式だと気がつかないうちに飛ばしちゃうんだよね』『あるあるすぎる』『何も知らずに放り出されたときの辛さよ』

 

 あー、みんな経験しているのね。しかも、今回は高度有機AIサーバに接続しているので、NPCの会話がより人間っぽくなっている。ついつい話の流れで、重要な情報が流されていたりする可能性があった。

 

『箱舟に保存された存在を解放するには、神の奇跡が必要です。神に貢ぎ物を捧げ、神から返ってくる奇跡の力を神の子であるあなたが受け取り、箱舟から様々な物を解放していってください』

 

「神の奇跡ね……」

 

『あなたには、信仰ポイントという数値として見えていることでしょう』

 

「あー、これね。何回も死んだから、だいぶ消費しちゃったけれど……」

 

『信仰ポイントは、あなたが神の力で作成した道具や、あなたが育てた農作物、そしてそれを使った料理を神に捧げることで溜まります』

 

 急に話がゲームっぽくなってきたな。神の力で作成した道具というのは、アイテムクラフトでできるアイテムのことを指しているのだろう。

 

『箱舟には人も保存されています。島を人の文明で満たし、神を祀ることで、失われた神が復活するかもしれません。我が子よ、どうか箱舟の解放を頼みます……』

 

「おっけおっけ。任せて!」

 

『では、我が子に名前を授けます』

 

 視界に『名前を入力してください』との表示がされる。ヨシムネっと。

 

『偉大なる都市アトランティスの女王リドラの子、ヨシムネ。あなたには、ここからまだ出られない私の代わりに、守護妖精をつけます。きっとあなたの助けになることでしょう』

 

 彼女がそう言うと、目の前の箱舟から、小さな羽の生えた妖精が飛び出してくる。

 

『ヒスイ、後は頼みましたよ』

 

「お任せください」

 

「ヒスイさんじゃんッ!」

 

 俺は、思わぬ人物の登場に、そんな叫び声を上げていた。

 

『うわー! ヒスイさんだー!』『こんなとこにおったのか』『可愛い! 妖精可愛い!』『あざといなぁ』『AIとの二人プレイだとこうなるんだ』

 

 俺と視聴者の反応に、ヒスイさんはにっこりと笑う。

 

「箱舟までの到達、おつかれさまでした。情報なしでここまで辿り着くのがこのゲームの決まりでしたので、こちらからのサポートは控えました」

 

 そんなことをしれっと述べるヒスイさん。まあ、いいけどさ。

 

「で、守護妖精だとか言っていたけど」

 

「プレイヤーのサポートを行なうキャラクターです。主に助言役ですね」

 

「なんだ、いつものヒスイさんのポジションか」

 

「そうですね」

 

 実家のような安心感ってやつだ。俺の実家、時空の彼方に吹き飛んだけど。

 

「で、ヒスイさん。まずは何からやっていこうか」

 

「まずは信仰ポイントを溜めていきましょう。農作物を育てるのが近道ですね」

 

「おっ、とうとう農業が始まるのか」

 

『サバイバルから一転』『ギャップの激しいゲームだなぁ』『でも、きっと開拓からだぞ』『それはまたハードですね』『設定上、人の手の入った場所なんてないだろうからなぁ』

 

 ふーむ、開拓か。俺は元農家だが、開拓なんて経験したことはないぞ。元我が家の畑は、ご先祖様が切り開いたのだ。

 

「畑を作り、箱舟から種を取り出し、植えましょう」

 

 種、種かぁ。最初に育てる作物といえば……当然、あれだ!

 

「カブは? カブの種はあるのか? カブの種を見せてくれ!」

 

「……なぜそんなにカブ推しなんですか。ありますけれど」

 

「カブ奴隷はカブを育てて、地主様にカブを献上しなくちゃいけねえ……。間違って酢漬けになんてした日には……!」

 

「ええと……?」

 

 俺の言葉に、小さな妖精ヒスイさんは首を傾げている。

 

「すんません、21世紀のネタです……」

 

「21世紀ジョークですか。視聴者の方の教養が試されますね」

 

「教養って言ってもゲームネタなんだよなぁ」

 

「ゲーム史は知識人の必須科目と言われていますよ」

 

「うわあ、思ったよりもこの時代のゲームの重要性がすごい」

 

『ヒスイさん騙されちゃいけねえ』『ヨシちゃんの21世紀トークは、そんな高尚なものじゃないよ!』『妄言の類』『私達に理解してもらおうと思って言ってないよねー』

 

 くっ、視聴者め! いい感じでまとまりかけていたのに!

 そんな馬鹿みたいな会話をはさみ、俺は元カブ奴隷としてカブを育てることに決めた。

 さあ、開拓だ! 鉄器がないけど、どうにかなるだろう、多分!

 

「というわけで、本日の配信の時間はここまでです。続きはまた明日」

 

 と、ヒスイさんに言われて俺はがっくりとなった。いいところで中断するなあ、もう!

 


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