21世紀TS少女による未来世紀VRゲーム実況配信!   作:Leni

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9.-TOUMA-(剣豪アクション・生活シミュレーション)<6>

 気がつくと、俺は道ばたで寝転がっていた。身体を起こすと、そこはゲームの中の屋敷の前。

 屋敷は異界化を解かれ、建物が完全に崩壊していた。

 そして、その崩れた屋敷の上に、太陽があった。

 

「なんだありゃあ」

 

「おそらく、ラスボスの最終形態ですね」

 

 と、いつの間にか隣にヒスイさんが来ていた。彼女も爆発に巻き込まれてここまで吹き飛ばされたのだろうか。もし爆発すら回避したというなら、ミドリシリーズという物の評価をさらに上方修正しなければならない。

 

「空を飛ぶ妖怪も今までいくつか登場しましたが、あのような形をした妖怪は初めてですね」

 

 そのヒスイさんのコメントを聞き、改めてラスボスらしきものを見る。

 黒い炎をまとった、赤い太陽。それが屋敷跡の上空に、今も浮き続けていた。

 それを見上げて俺は言った。

 

「ありゃあ、空亡かなぁ」

 

「くうぼう、ですか?」

 

「21世紀の創作妖怪だよ。犬の姿をした神様を操作する和風ゲームで有名になって、その後いろんなゲームに登場するようになった、太陽の形をした妖怪だ」

 

「その時代の創作妖怪というと、都市伝説の類でしょうか」

 

「都市伝説とはまた違うんだよなぁ……元は大昔の百鬼夜行を描いた絵巻だったかな。それの百鬼夜行の最後尾に描かれた太陽。つまり、百鬼夜行が解散する時刻の太陽の姿があって、それを21世紀の人達が妖怪化した物だったはずだ。百鬼夜行の最後に出てくる妖怪になるから、つまり妖怪の大ボスってわけだ。くうぼう、そらなきともいう」

 

「なるほど。由緒正しい妖怪ですね」

 

「由緒正しいかなぁ」

 

「妖怪とは人々の誤認識や作り話から生まれる、架空の存在と認識しています」

 

「まあ未来の時代には、妖怪も実在するとか言われたらそれはそれで困るけど……」

 

 そんな会話を交わしていると、空亡がうごめきだした。

 そして、赤い太陽の部分から赤い液体のようなものが地面に向けて垂れてきて、地面に着いた途端それは明確な形を取り始める。

 それは、黒い炎をまとった赤い妖怪。その姿に、俺は見覚えがあった。

 

「チュートリアル! チュートリアルの妖怪じゃないか!」

 

 懐かしすぎる……。

 それを眺めていると、空亡からさらに液体がこぼれ続け、どんどんと赤い妖怪が地面に発生していく。

 

「野犬さんちいーっす! 当時はお世話になりました! あ、あっちは天狗の旦那! 泥田坊は水田ステージじゃないのに来て大丈夫? もうオールスターだな、これ」

 

 ラスボス最終形態空亡が持つ力は、百鬼夜行を作り出す能力だったようだ。

 

「あれ、これ俺一人で倒すの? 無理ゲーじゃん」

 

「それは大丈夫でしょう」

 

 俺が絶望していると、ヒスイさんがそんなことを言ってくる。なに? とうとうヒスイさん参戦? そう思っていると……。

 

『皆の者! けっして後ろに妖怪を通すではないぞ!』

 

『おおおおお!』

 

「って、これは、屋敷の周りに居たお侍さんと妖怪退治屋さん達か!」

 

 NPCの集団が、赤い妖怪に襲いかかる。赤い妖怪は生命力が少ないようで、すぐに散っていく。

 空亡はそれが気にくわないのか、地面に垂らす液体の量をどんどんと増やしていく。

 

『呪術師隊、あの汚れた太陽を地に落とすのだ!』

 

『おう!』

 

 呪術を使う妖怪退治屋の集団が一斉に呪術を使うと、空亡は地面へと叩きつけられた。

 

『今だ!』

 

 その号令で、侍達が空亡に斬りかかる。空亡は黒い炎を撒き散らしてその身を守ろうとしている。

 

「おお、今までにもない規模の総力戦だ。こりゃあ見物だな」

 

「ヨシムネ様も参加してください。主役なのですから」

 

「おっと、そりゃすまないね」

 

 俺は打刀を構えて、地に落ちた空亡を目指す。だが、赤い妖怪の集団が邪魔だな。

 

『助太刀いたす!』

 

「お前はイケメン侍さん! イケメン侍さんじゃないか! 生きとったんかワレ!」

 

 魔王の正体発覚イベントで、ここは俺に任せて先に逃げろをした人だ。

 

「ヨシムネ様は気づいていませんでしたが、彼は相当前から異界化した屋敷周辺の警邏隊に混ざっていましたよ」

 

「ええっ……」

 

 そして俺は、立ちはだかる妖怪を全てなぎ払い、空亡の下へと辿り着いた。

 空亡は呪術でその行動を縛られ、侍達によって斬りつけられその赤い太陽のような身体を鳴動させていた。

 俺も、侍に混ざり、空亡への攻撃を開始する。空亡は馬鹿でかいため、集団でかかっても人でぎゅうぎゅう詰めになる心配はない。

 

「本当はここで壮大なBGMが流れるんだろうな……」

 

「カット編集する都合上、BGMは切っていますからね。どの曲が使われているかはログにあるので、動画にするときに当てておきます」

 

「動画になって初めて知るラスボス戦BGMよ……」

 

「BGMは聞こえるけど動画には収録されないという、配信者向けのオプションがあればよかったのですけれどね」

 

 そんな無駄口を叩きながら、俺は空亡に打刀を叩きつける。

 ちなみにここまできてもヒスイさんは参戦しないようだ。

 

「ヒスイさん、最後の総力戦だし、攻撃一発入れてみたら?」

 

「そうですね……。せっかくですし記念に一太刀」

 

 ヒスイさんは万が一の時の援護用に購入していた打刀を構えると、するどい一撃を空亡に叩き込んだ。

 すると。

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 今の一撃がラストアタックになったのか、空亡はまばゆい光を発して消滅してしまった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 思わず二人で無言になってしまう。周囲ではNPC達が勝ちどきを上げている。

 そして、俺の周りに主要NPCなのか、イケメンや美少女のNPC達が集まってきた。

 

 口々に健闘をたたえてくるが、とりあえず今はなんとかしてヒスイさんにフォローの一言を投げかけなければならない。

 そして俺が絞り出せた言葉は。

 

「さすがヒスイさんです!」

 

 さすヒスさすヒス。

 

「ううっ、まさかこんなことになるなんて……!」

 

「ヒスイさん、ファーストアタックがラストアタックは、快挙だよ。『-TOUMA-』動画史に伝説として残るよ」

 

「私達以外ほとんどこのゲームの動画を投稿していないのですが……」

 

「俺達が開拓者だ!」

 

 マゾゲー扱いされているから、後追いが出るかは判別不能だけど。

 と、そんな会話をしている間に、主要NPC達の話も背後で終わったのか、視界に文字が表示され始めた。

 スタッフロールだ。この未来の時代でもエンディングはちゃんとスタッフロール。安心感がある。

 

「お、ヒスイさん、クリア特典だって」

 

「一周目クリア特典は難易度設定機能の解放、二十年モードクリア特典は時間制限無しモードの解放ですか……」

 

「時間制限無しかぁ。生活シミュレーションを名乗っているんだから、あってしかるべきか」

 

「今の二十年モードを時間制限なしにして、ずっと過ごすこともできるようですよ」

 

「NPCとの関係が一切成り立っていないのに、ここでこのままずっと過ごして何になるっていうんだよぉ……」

 

「基礎的な動きの鍛錬も、もう十分ですしね。次に配信用に選ぶゲームは、システムアシストの使い方を特訓できるものにしましょうか」

 

 システムアシストか。思考操作で発動して、勝手に身体を動かしてくれる機能のことだな。

 人類という設定のプレイヤーキャラクターでも超人的な動きを可能にすることから、システムアシストを使わないプレイヤーは、システムアシストを使いこなすプレイヤーとアクションゲームで対戦しても、勝つことは絶対にできない。

 

「次回を楽しみにしておこう。ところで、ゲーム内の期限が半年あまっているけどどうする?」

 

「ゲームクリア後は、NPCとの交流がメインで、期限が来たら特にイベントもなく終了らしいので、ここで終わりとしましょう」

 

「そっかー。じゃあ、締めるか。視聴者のみんな、マゾゲーと評判になってしまった『-TOUMA-』、どうだったかな? このゲームの動画はこれで最後だけど、動画配信はこれで終わりじゃないから安心してくれ。ゲームを変えてまた俺の挑戦は続く。また俺が四苦八苦しながら、ゲームの練習をする様をどうか見守ってくれよな!」

 

「サポート役は私、ミドリシリーズのヒスイでした」

 

「プレイヤー役は、21世紀おじさん少女ことヨシムネでした!」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 リアルに戻ると、いつもの時間ではなかった。

 普段の半分の時間で帰還したため、朝からゲームを始めてまだ昼時といったところだ。

 そこで俺達は昼食を取ることにして、その後、編集が終わった最終回の動画の確認をした。いつもは15分の動画二本だが、今回は最終回ということで四本に増量だ。

 それをヒスイさんと二人で見て、特に問題もなかったので動画配信サービスにアップロードをしてもらうことにした。

 なお、空亡戦のBGMはやはり壮大ないい曲であった。

 

 そしてその日の夕食、俺達は打ち上げと称して、いつもより豪勢な食事を取ることにした。

 豪勢といっても料理するのはいつもと同じ自動調理器なので、品目を増やすのと材料をオーガニックな物多めにすることくらいだ。

 

 食事の場では、自然と動画の話になった。

 

「早速再生数が伸びていますね。いつもと違う時間帯に投稿したので、驚いた人も多いようです」

 

「ここまで人気が出ると、コメントを全部読み切れないのが残念でならないね」

 

「私は全部確認しておりますよ」

 

「リアルでも思考を時間加速できるガイノイドはそのへん強いよな……」

 

 鶏肉を蒸して美味しいソースをかけた物を食べながら、そんな会話を交わす。

 そして、行儀が悪いがコメントにも目を通す。

 

『祝! ミズチ討伐』『俺達の水泳部がやってくれたぜ』『人魚なんておらんかったんや』『ボスが発狂しても不動のヒスイさんが怖い』『槍持っていけばいいのに、かたくなに打刀を使おうとするマゾ剣豪ヨシちゃん!』『呪術はどこいったんです?』

 

 これはミズチ戦のコメントか。もう『ミズチから逃げるな』と言われずに済むんだな……。もう二度とあれとは戦わねえ。

 最後の四本目の動画のコメントも見てみる。

 

『出てくるNPCみんな知らない人なのに、BGMで涙出てくるんですけど』『音楽の力はやはり偉大だった……』『あんな妖怪もいるんだな。かっけえ』『勝利確定』『さすがヒスイさんです!』『ラストアタック助かる』『さすがヒスイさんです!』『さすヒス吹いた』『さすがヒスイさんです!』『さすがヒスイさんです!』『さすがヒスイさんです!』『さすがヒスイさんです!』『さすがヒスイさんです!』

 

 うむ、やはりヒスイさんはすごいな。そして、次回作への要望も来ている。主に、このゲームをプレイしてくれというもの。だけどすまないな、みんな。ゲームのチョイスはヒスイさんに任せているんだ。

 

「次のゲームはいつやるかなぁ」

 

「まずはニホンタナカインダストリで髪色の変更をしませんとね」

 

「男性型アンドロイドっていつ届くの?」

 

「もう届いていますよ」

 

「え、マジで?」

 

「ゲーム中なのでボディの取り替えをすることはないだろうと思い、黙っていました。教えたらそちらに気が向いて、ゲームに対する集中が切れるおそれがありましたからね」

 

「そっかー。じゃあ明日早速、試してみるかな」

 

「となると、魂の消耗を防ぐため、次回の動画撮影はだいぶ先になりますね」

 

「…………」

 

「いかがなさいました?」

 

「いや、せっかく動画が人気になって、乗りに乗っている時期なんだ。男ボディへの換装は後の楽しみに取っておこう」

 

 よく考えたら、人前に出るわけでもないので女のボディでなんら不自由していないし、男に戻って何かやりたいことがあるわけでもない。

 男に戻っている間、動画撮影ができないというのは辛い。すでにライフワークになっている。

 

「そうですか。では、またしばらくはヨシムネ様も、まだミドリシリーズの仲間のままというわけですね」

 

 ヒスイさんがそう言ってにっこりと笑った。

 ヒスイさん的には俺が女ボディのままの方が嬉しいのかね。

 それなら、何か新しく外出の予定でもできない限り、家の中ではこのボディを使い続けることにしようかな。

 


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