我らが帝国に栄光を!   作:やがみ0821

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終わったと思ったら始まっていた

 ああ、良い人生だった――

 

 ゆっくりと彼はその両目を閉じた。

 走馬灯のようにこれまでの人生が駆け巡りつつ、意識は薄れていく。

 

 死ぬとはこういうものなのか――

 

 彼はそう思いつつも、それに全てを委ねる。

 

 先に逝ったヒトラーが迎えに来るのだろうか?

 あるいは両親か、兄か、それとも他の友人達か?

 

 もしも来世というのがあるのならば、今度こそ平和に、そして穏やかに過ごしたいものだ――

 

 

 彼はそう思い、その意識は完全に闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴェルナーは深く溜息を吐いた。

 家族構成やら名前など、そういう個人的なものは前とまったく変わらないが、世界情勢は大きく違っている。

 

 前世でいうならば二重帝国領域に幾つかのおまけも含んだ、大ドイツ。

 帝国あるいはライヒと呼ばれる国家にヴェルナーは生を受けた。

 

 平和に、そして穏やかに過ごしたい、という願いは残念ながら無理そうだった。

 

 

「……改めて思うが、詰んでるよな」

 

 二重帝国どころかベネルクスやデンマーク、ポーランドの半分くらいまで含む大ドイツ、大いに結構。

 しかし、どうやらそれを成し遂げる為に相当な無茶をやらかしたらしく、各国との間には根深い領土問題を抱えている状況だ。

 

 彼は幼い頃から情報収集に努め――幸いにも言語はドイツ語そのものであった――状況を把握できていた。 

 故に、コツコツとお小遣いを貯めて、勉学で優秀さを両親へアピールし、ワガママが通るように、これまで謙虚な態度を貫いてきた。

 

 いよいよ動くときがきた。

 前は1901年――16歳になってから動き出したが、今回はそれよりも2年早い。

 

 将来的に袋叩きにされる可能性がある為、前よりも早めに、そして効率的に動き、帝国の国力を底上げしておく必要があると彼は考えた。

 無論、それ以外にも内戦戦略に特化し過ぎた陸軍の改革やらなにやら、やるべきことは下手をしたら前よりも多いかもしれない。

 

 とはいえ、大前提となるのは国力だ。

 どんな国であれ、国力以上の戦争はできない。

 戦争を回避する術があれば良いが、外交的に無理である可能性を考慮しなければならないだろう。

 

 今のところ各国との関係は致命的な破局にまでは至っていない。

 現状の外交関係のまま、続いていけばいいが、必ずどこかで破綻するとヴェルナーは確信している。

 

 外征を全く考えていない帝国軍を見れば、こっちから手を出すことはまずないだろうが、何かの拍子で政府や国民がやる気になってしまうと、やらざるを得ない。

 

 そうなったときの為、問題なく戦争を遂行できるように整えておく必要がある。

 

「ヒトラーがいれば良かったのだが……」

 

 ヒトラーがいれば政治面は丸投げでき、また国力増強の為に各種法律を整えてくれるだろう。

 だが、それは望み薄だった。

 

「自前で何とかするしかない。しかし、一応、探してみるか……」

 

 ともあれ、最優先は前と同じように合州国にいるだろうヘンリー・フォードとライト兄弟、彼らの勧誘であった。

 そして、ヘンリー・フォードはまさに自動車会社を興すべく、エジソン照明会社を辞める直前であり、彼は自分の思い通りにやらせてくれるスポンサーを求めていた。

 またライト兄弟もフォードと同じくスポンサーを求めている状態だった。

 彼らの状況は、ヴェルナーにとって最高の結果をもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 1899年10月、ヴェルナーはフォード、ライト兄弟と共に帝国にてRFW社を設立した。

 

 今度は間違えなかった――

 

 ヴェルナーは前世における最大の失敗を回避することに成功していた。

 それは社名を間違えなかったことだ。

 

 ライト兄弟のファミリーネームはRではなくWから始まる。

 ヴェルナーはRFRとしてしまったという苦い経験があった。

 

 そして、ここからもやることは変わらない。

 これまでの知識と経験に基づいて、ヴェルナーは非常に生き生きと、業務に取り組み始めた。

 その傍らで、ドイツにてドクトリンとして採用された戦略理論の構築も同時並行で行う。

 とはいえ、彼は帝国における高級幼年士官学校の生徒であるので、そちらのアレコレもやらねばならない。

 

 エアランドバトルと大規模縦深突破を組み合わせたようなドクトリンであるが、その有効性は実証済みだ。

 フランス軍はこのドクトリンに基づいて計画され、そして発動された皇帝攻勢を止めることはできなかった。

 ロシア帝国軍相手にやっても、たぶん制空権は確保できるだろうから何とかなる――という結論が出ていた。

 とはいえ、ドイツとロシアが真正面からぶつかれば、最終的にロシアが勝利するという予想がされていた。

 勿論、勝者であるロシアはその後すぐに経済的に破綻し、漁夫の利を得るのは全く関係ない他国ばかり――という世知辛い結果だ。

 

 もっとも、『もし万が一、やらなければならなくなったら』という最悪を想定して動いた方が良いのは言うまでもない。

 

 その為には一にも二にも国力増強であり、産業界や物流網の強化、インフラ整備が必要だ。

 

 規格化されたコンテナもさっさと作らねば――

 

 彼は非常に多忙であったが、前もできたことなので、大変ではあったが問題はない。

 

 そんなとき、思いも寄らない人物が訪ねてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 RFW社の会議室にて、2人は対面していた。

 やってきた人物――アドルフ・ヒトラーはヴェルナーの知っている彼――ただし見た目は若く、子供と言っても過言ではない――であった。

 

 ヒトラーはRFW社の受付で、ヴェルナーとの面会を希望し、彼への伝言もあわせて行った。

 それを言えば彼ならば一発で理解すると、ヒトラーが判断した為に。

 彼への伝言はたった一言だ。

 

 RFRじゃないのか――?

 

 それを聞いたヴェルナーが慌てて飛んできたのは言うまでもない。

 

「ヒトラー、率直に言うが……またやってくれ」

「言われるまでもないとも。必要な手は全て打つ。だが、最悪の事態を想定していてくれ」

 

 長い付き合いだからこそ、互いに短い言葉でも分かった。

 ヴェルナーはヒトラーに再び政治家となるよう求め、それを彼は承諾したのだ。

 

「やはりそうなるか?」

「可能性としては高い。薄氷の上に帝国は立っている……やはり、大ドイツを実現するには無理がありすぎたのだ」

「だろうな。我々のときでも、オーストリアやズデーテンラントで精一杯だった。だが、帝国は既に二重帝国の全域に加えて、おまけまで抑えている。危険視されないほうがおかしい」

「だが、良い点もある。民族的な対立が火薬庫で起きていないことだ。帝国として、彼らもまた統一されている」

 

 ヒトラーの言葉にヴェルナーもまた頷く。

 国内における民族的な対立は帝国においては皆無に等しい。 

 

 この点に関してはヒトラーにしろ、ヴェルナーにしろ、気が楽であった。

 

 そもそもここは過去いた世界と似てはいるが、魔導師なんてものが存在していることから明らかに違う世界だ。

 そういう歴史を辿った世界であり、そうなったきっかけは目の前と、将来に起こるだろう多くの問題を片付けてから、じっくりと歴史学者にでも教えてもらえばよかった。

 

「ともあれ、最善を尽くすまでだ。君が動きやすいように整える」

「よろしく頼む。お互いに、前よりも早めに動いたほうがいいだろう」

 

 世界に冠たる大ドイツを――ではなく、ライヒに黄金の時代を、と2人は言葉を交わしあった。

 

 

 

 この邂逅から数ヶ月後、RFW社はマスコミをはじめ、多くの有識者、そしてヴェルナーの父親の伝手を使って軍人達を招いて、彼らが見守る中でライト兄弟による飛行実験を行った。

 実験は無事に成功し、帝国において世界初の魔力に頼らない有人動力飛行に成功した。

 

 この実験による世間へ与えた衝撃を利用し、ヴェルナーは父親を後ろ盾とし、大きく動いた。

 それは前と同じか、あるいはそれ以上に大胆なものだった。

 

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