我らが帝国に栄光を!   作:やがみ0821

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白銀と艦隊

 戦前より帝国海軍は主敵を連合王国海軍と定め、また欧州からアフリカ、東南アジア、太平洋にまで広がる植民地との海上交通路を防衛する為、沿岸海軍から外洋海軍へと転換することは急務であった。

 とはいえ、ここで立ち塞がったのは帝国本土の位置だ。

 直接的に本土へと侵攻してくるのは共和国をはじめとした陸続きの国々。

 植民地との海上交通路の防衛は重要であるが、そちらを重視するあまりに陸の備えが疎かになっては意味がないという当然の理由で、海軍は後回しにされていた。

 

 陸軍と比べて万年不遇な予算に泣き、それでもどうにか苦心して艦を揃え、人員を育成してきたのが帝国海軍だ。

 その状況をがらっと変えたのがヴェルナーの登場と彼の入れ知恵及び後押しだ。

 

 連合王国海軍と比べて、帝国海軍の歴史は浅い。

 ハード面はともかく、ソフト面においては一朝一夕で追いつけるものではない。

 だからこそ、せめてハード面では追いつこうと少ない予算でやりくりし、連合王国海軍の主力艦に引けを取らないものを揃えてきた。

 

 しかし、根幹たるドクトリンが定まっていなかった。

 巡洋艦以下の快速艦艇や潜水艦を使って通商破壊をして連合王国を枯死させる、という主張がある一方で、戦艦を多数揃えて連合王国海軍本国艦隊と決戦し、これを撃破することで制海権を確保するというものもあった。

 

 そこにヴェルナーが一石を投じた。

 

 平時に大艦隊を揃えておくことは政府も議会も予算的な意味で納得しない。

 だが、海軍だけでなく、公共事業も兼ねて民間の港湾も含めた施設の拡充や設備・機材の充実、人員の育成を進めるならば文句は出にくくなる。また、来たるべき戦時に備え、他国よりも良い兵器を配備する為の技術研究・開発を行い、工作艦・補給艦などの後方支援艦艇を充実させておくことこそが何よりも重要であると。

 戦時はこういったものを整備する余裕は皆無である為、戦時にできないことは平時にやっておくべしという主張だ。

 もっとも、代艦建造に関しては必要な範囲内で行うことを併せて主張している。

 

 陸軍軍人が口を出すな、というもっともな意見もあったものの、これまでの実績を考慮してヴェルナーの提案を受け入れることになった。

 また彼は様々なフネや艦載機を海軍側に何度もプレゼンし、遂には認めさせた。

 

 基本的に彼が持ってきたモノは実現できれば連合王国海軍を打ち倒せる可能性が高い、魅力的なものばかりであった為だ。

 

 実現できれば、とわざわざ海軍側が評価したのは、実現できないか、もしくはできたとしても中途半端なものに終わるだろう、という認識だった為だ。

 まさかそれが本当に実現できてしまうとは夢にも思わなかった。

 

 

 海軍側が予想しなかったことがある。

 それは帝国の国力と技術力が彼らの予想を超える程に著しい向上を果たしていたこと、そしてアーネンエルベにヴェルナーの働きかけで艦艇の兵装や機関をはじめとした諸々の研究開発も組み込まれたことだ。

 これにより民間だけでなく、陸空軍の協力も得られることになり、またアーネンエルベにおける研究設備は常にその時点で最新のものが十分用意された。

 率直に言えば最高の研究開発環境で、湯水のように予算が使えるようになった。

 

 

 その結果が今、連合王国に対して示されていた。

 

 

 

 

 

 空一面に黒い花が咲き誇る。

 放たれる無数の砲弾はまさしく、活火山が噴火したかのようなものであった。

 

 連合王国軍の攻撃隊は輪形陣の外側で叩き落されるか、あるいは損傷を受け、離脱を余儀なくされている。

 

 このとき攻撃を仕掛けていたのは、これまで温存されていたボーファイター及び合州国からレンドリースによって送られてきたTBFアベンジャーであった。

 彼らは少数の戦闘機の護衛を受けながら、北海を進む帝国海軍の艦隊を撃滅せんとしていたのだが――それは叶わなかった。

 艦隊直掩の敵戦闘機に邪魔されたというのもあるが、あまりにも対空砲火の密度が凄まじかったが為に。

 

 

 

「戦艦を対空砲のおばけにしてやがる!」

 

 とあるパイロットが叫んだ。

 四方八方から敵艦隊を取り囲むように接近しているのに、その輪形陣の内側に飛び込めた小隊はまだ存在しない。

 

 既に司令部には悲鳴のように敵艦隊の陣容が報告されている。

 戦艦は最低でも10隻以上で、うち4隻は大型主砲を3連装で4基搭載した通常の戦艦で、識別表に載っていたバイエルン級だ。

 しかし、残りはその4隻よりも小型の主砲を複数搭載し、ハリネズミのように対空砲を積んだ防空戦艦とも言うべき代物だった。

 

 よく観察すれば、その小型主砲を多数搭載した防空戦艦らしきものはバイエルン級よりも一回り小さいことが分かるが、戦闘の最中にそこまで観察しろというのは酷な話だ。

 

 そもそも対空砲の命中率はそんなに高くはない筈だが、最近の帝国軍の対空砲はよく当たる。

 何か原因がある筈だと攻撃隊のパイロット達は感じていたが、今この場で解答を出せる者など存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「面白い程によく落ちるもんだ」

 

 リュッチェンス中将はバイエルン級のネームシップであるバイエルンの戦闘指揮所にて、そんなことを呟いた。

 彼をはじめ、今回の作戦に参加した将兵はまさかここまでやれるとは予想もしていなかった、というのが正直な気持ちだった。

 

 彼らに与えられた任務は本命以外の上陸地点に対する砲撃だ。

 連合王国軍は帝国軍の上陸地点をアイリッシュ海沿岸か、もしくはアルビオン・フランソワ海峡沿いのどこかと想定しているようだが、本命ではない。

 

 本命はグレートヤーマス近くの海岸地帯だ。

 とはいえ、アイリッシュ海、アルビオン・フランソワ海峡に面した地点に上陸しないというわけではない。

 

 敵兵力をそちらに張り付けておく為にアイルランドや海峡沿岸部にも上陸部隊と輸送船が用意されている。

 もっとも、沿岸部に張り付いている敵部隊が移動によって減少したと判断された場合、この2方面からも上陸作戦が行われる。

 連合王国は上陸可能な全ての海岸に大部隊を張り付け、強固な陣地を構築するということは物理的に不可能であり、帝国軍はそういった海岸を避けて上陸することができる。

 

 主導権は帝国側にあり、連合王国は後手に回らざるを得ない。

 

 もっとも、リュッチェンスらは連合王国軍に発見された段階で猛烈な空襲を予想していたのだが――戦前から構築していた艦隊防空網は見事に機能を発揮した。

 

「しかし、噂ではどちらも高額と……」

 

 参謀長の言葉にリュッチェンスは苦笑する。

 戦艦よりは安いが空母よりは高いと彼は知っていたからだ。

 コストが増大した原因は過剰とも思える程の頑強な船体構造と巡洋艦の主砲――55口径20.3cm砲と50口径15.5cm砲にある。

 自動装填装置を備えたこの両主砲の性能は値段と重量を除けば文句のつけどころがない。

 昔から自動装填装置を備えた艦砲の研究はされてきたが、それが遂に結実していた。

 

 55口径20.3cm砲はどのような角度であっても再装填が可能で、なおかつ1門あたり最大で毎分10発の発射速度を誇る。

 装填角度が自由であることとその発射速度から、大型砲にもかかわらず限定的な対空射撃すらも可能であった。

 50口径15.5cm砲も同じく自動装填装置を備えており、こちらは対空・対水上のどちらもこなせる両用砲で、最大で1門あたり毎分12発の発射速度を誇っている。

 

「大きさも排水量も一昔前の戦艦並みだからな」

 

 リュッチェンスは呆れと感心が混ざったように、そう告げる。

 

 大型巡洋艦として20.3cm砲を3連装3基搭載したデアフリンガー級。

 巡洋艦として15.5cm砲を連装6基搭載したアドミラル・ヒッパー級。

 

 主砲以外にも、両用砲として前者は12.7cm両用砲や88mm両用砲――88mm高射砲を基に改良し、自動装填装置を備えたもの――を、後者は88mm砲のみを多数搭載し、共通しているのは補助兵装として40mm機関砲を単装にて備えていることだ。

 40mm機関砲でも航空機の進歩により、威力が不足するとヴェルナーに指摘されていた。

 その為、当初から機関砲を減らし、アーネンエルベで開発が進められていた近接信管を備えた砲弾を利用できる88mm砲に置き換える設計となっている。

 近接信管及びそれを備えた各種砲弾は今年の5月に量産が開始され、多くの部隊や艦船で使用されていた。

 

 また、それぞれの砲毎に射撃管制レーダーを備えた専用の射撃指揮装置によって統制されており、その威力は今この瞬間も証明し続けられている。

 デアフリンガー級、アドミラル・ヒッパー級による猛烈な弾幕により、敵機は殺虫剤を噴射された蝿のように落ちていくか、もしくは損傷して逃げており、輪形陣に近づけた敵機はいても、潜り込まれた敵機は今のところ確認されていない。

 

 更に、リュッチェンスが言う通りにデアフリンガー級は満載排水量21000トン、アドミラル・ヒッパー級は18000トン近くあり、排水量では巡洋艦に分類するものではない。

 なお、艦隊に随伴しているブレーメン級駆逐艦も一昔前の巡洋艦並みのサイズだ。

 だが、帝国海軍は主砲口径で戦艦、大型巡洋艦、巡洋艦、駆逐艦を分類しているので、サイズがどんなに逸脱していようが、巡洋艦は巡洋艦で、駆逐艦は駆逐艦である。

 

 艦隊はバイエルン級4隻を中核とし、デアフリンガー級2隻、アドミラル・ヒッパー級4隻、ブレーメン級駆逐艦14隻という陣容で、連合王国の目を引くには十分だった。

 

 

 そのとき通信が入った。

 

「U1030より通信。即応軍の203大隊が弾着観測を請け負うとのことです」

 

 通信士官からの報告にリュッチェンスは軽く頷いた。

 U1000番台の潜水艦は魔導大隊をはじめとした人員・物資の輸送を専門とする。

 事前に海軍総司令部より魔導大隊が弾着観測任務を行うと知らされていたが、驚くべきことはそれを請け負った部隊であった。

 普段、陸軍の即応軍魔導大隊はこういう任務を請け負わないからだ。

 

「203大隊はあの白銀が率いる部隊だったな。贅沢なことだ」

「エルギン基地の占領後、スコットランドは有利に進んでいるので、連中も暇なのでしょう」

 

 違いない、とリュッチェンスは参謀長に肯定する。

 

 エルギン基地は多少の抵抗があったものの、帝国軍は予定通り短時間で占領し、その後も輸送機でもって続々と部隊と物資を送り込んでいた。

 とはいえ、船と比べればどれだけ大量に輸送機を使用したとしても、その量は微々たるものである。

 故に降下猟兵及びブランデンブルク師団はターニャら航空魔導大隊と協力し、エルギン北部にある小さな港町であるロジーマスを占領している。

 

 連合王国軍及び合州国義勇軍は彼らを攻撃しようとしているが、南部方面の部隊は帝国空軍の爆撃により交通網が寸断されている。

 他方、スコットランドに展開している部隊も、エルギン及びロジーマスが帝国に占領されたことで独立を求める大規模デモがスコットランド各地で発生し、思うように身動きがとれていなかった。

 

 また今回、リュッチェンス率いる艦隊には連合王国軍の目をこちらに向けさせるという目的もあった。

 今まさに護衛と共に輸送船団がロジーマスへ向けて航行中だ。

 この街の近くには海岸があり、ここに増援部隊及び物資を揚陸する計画であった。

 

 

 

 

 一方のターニャは目を輝かせていた。

 彼女が弾着観測任務を部隊を巻き込んで――隊員達には任務終了後、酒と飯を奢ると買収してある――上層部にお願いした理由はたった一つ。

 

「見えてきたな」

 

 いつも通りに隊長としての威厳は崩さないようにしつつも、その内心は喜びに満ちている。

 

 既に空襲は終わっているようで、敵機の姿はない。

 

 そして、ターニャは目撃する。

 

 見事な輪形陣を組んで航行する帝国海軍の大艦隊を。

 思わず満面の笑みになってしまうが、幸いにも目撃したのは傍らを飛んでいたヴィーシャだけだ。

 

 彼女はびっくりしたような顔をしているが、今のターニャは艨艟達に夢中で気づいていない。

 

 バイエルン級は史実でいうところのビスマルク級を一回り大きくし、16インチ砲を3連装4基、前部後部に背負式で2基ずつ備えたものだ。

 それに随伴するデアフリンガー級とアドミラル・ヒッパー級は、見た目や兵装が若干異なるが紛れもなく史実におけるデモイン級とウースター級である。

 

 そして周囲を固めるブレーメン級は、12.7cm両用砲を主砲として連装3基搭載した駆逐艦だ。

 史実でいうところのヘッジホッグも積んでいるが、対空・対潜に特化している為、魚雷は三連装発射管を1つしか積んでいない。

 

 ともあれ、ターニャからすれば感無量であった。

 

 戦艦は勿論、所属も時代なども異なるがデモイン級とウースター級が実戦に参加して、その能力を存分に発揮している。

 

 

 軍オタとして、これほどに燃える展開があるだろうか、いやない!

 

 

 ターニャは内心そんなことを思いながら、いつも通りにシュルベルツ中尉へ写真撮影をお願いする。

 ずっと戦闘続きで、戦果も挙げているからこれくらいはいいだろう、と丁寧に上層部にお願いした結果、許可されたものだ。

 ただ、今回は敵がいないことから、趣向を凝らす。

 勿論、その趣向についても許可は取ってある。

 

 ターニャは帝国海軍の艦隊が後ろに程よく収まる位置まで飛んで、フレームの中に自分と艦隊を収めさせ、写真撮影を行った。

 

 艦隊と一緒に記念撮影という、今回の任務で彼女が目論んでいたことが無事達成された。

 

 

「よし、大隊総員、仕事をすぐに終わらせるぞ!」

 

 やる気満々のターニャであったが、ヴィーシャらは年相応の振る舞いが見られて、ほっこりとしたのだった。




デモイン級とウースター級、イチオシです。

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