我らが帝国に栄光を!   作:やがみ0821

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短めです。


赤い星が墜ちるとき

 連邦軍親衛機械化軍団。

 親衛の名の通り、装備・練度・士気、全ての面において優秀とされた部隊を集めて戦前から編成されていたものだ。

 

 総司令官はゲオルギー・ジューコフ元帥であり、彼は優れた指揮官としてジュガシヴィリをはじめ、共産党指導部からの評価は高い。

 

 だが、彼はルーシー人だ。

 その願いはルーシーの繁栄であり、共産党の繁栄ではない。

 加えて、ジューコフは現時点ではジュガシヴィリ書記長を除けば連邦軍における実質的な最高責任者と言える立場にある。

 

 そうさせるほどに能力を示し、精励してきた彼への期待は大きかった。

 だからこそ、ジューコフはもっとも困難な任務を実行しようとしている。

 

 通常の部隊なら問題なく帝国軍は投降を受け入れ、その後の扱いもマトモなものだろう。

 しかし、ジューコフが率いる軍団は親衛という名がそれを邪魔している。

 

 7月の間、彼は注意深く前線部隊の状況を分析・観察した。

 前線部隊が崩壊しているのは帝国軍の攻撃によるものか、それ以外によるものなのか知る為だ。

 6月22日の国境地帯における帝国軍の攻勢開始時は単純に甚大な被害を受けて、部隊が崩壊したというのを彼は把握していた。

 

 しかし、それ以降は部隊ごと帝国軍に投降している為だと分かったのだ。

 それだけではなく、多くの都市や街、村などで帝国軍は共産党からの解放者として迎え入れられ、また帝国軍が気前良く食料を配給していることなども加わって、民心は完全に共産党から離れている。

 

 ジューコフの故郷であるストレルコフカ村も数日前に帝国軍の占領下に置かれたが、現地に派遣した偵察部隊によれば村はお祭り騒ぎで、共産党が宣伝している帝国軍の脅威や横暴とやらはどこにもないらしい。

 

 ついでに偵察兵の数人がそこで行方不明(・・・・)になったそうだが、ジューコフはそれを黙認した。

 他に小うるさい政治将校も1人くっついていったのだが、敵の流れ弾に不運にも当たってしまい(・・・・・・・・・・・・・・・・・)、戦死したらしい。

 

 親衛機械化軍団は確かに装備・士気・練度の全ての面で優れていた。

 だが、それは1926年6月22日までの話で、それ以降は他の部隊と同じような士気の状態だ。

 派遣されている政治将校が革命思想にどっぷりと浸かった者ばかりであることから、表面化していないだけだとジューコフは見抜いていた。

 

「彼らはおそらく、我々のことを神に仇なす敵とでも思っているだろう」

 

 ジューコフ自身は幼い頃からルーシー正教の信者であるので、むしろ神を信仰している側だ。

 それはさておいて、彼が取り組んでいるもっとも困難な任務は、親衛機械化軍団の降伏を帝国軍にうまく受け入れてもらうことだ。

 

 その為に降伏は帝国軍の本格的なモスコー攻勢が始まる前に行わなければならず、また降伏が欺瞞だと思われない為にも手土産が必要だ。

 

 帝国が欲しがる手土産とは、モスコーという都市ではなく、そこに巣食う共産主義者達だ。

 

 そのとき、執務室の扉が叩かれた。

 許可を出せば参謀長だった。

 

 ジューコフは彼をモスコーにある連邦軍最高司令部――スタフカへと派遣していたのだ。

 

「スタフカのヴァシレフスキー元帥をはじめ、全員が賛同しました。ゴーリキーの方面軍のティモシェンコ元帥もスタフカ経由で協力を取り付けました」

 

 その言葉にジューコフは満足げに頷きながら告げる。

 

「うまくやらねばなるまい。あとは帝国軍とのやり取りだが……神の御加護があることを祈ろう」

 

 彼は早速、帝国軍に対して書状をしたためることにした。

 

 とある存在が彼に微笑んだかどうかは定かではない。

 だが、彼が幸運であったことは確かだった。

 

 

 

 

 

 帝国陸軍中央軍集団は、北方軍集団や南方軍集団よりも多数の装甲師団及び歩兵師団が配備され、また他の軍集団よりも優先して補給が受けられる権利を有している。

 

 共産主義体制の打倒が連邦との戦争における目標で、それはモスコー占領によって成し遂げられると判断されていたからだ。

 

 より正確にはモスコー占領後、そこでアナスタシアが戴冠式を行い、ルーシー帝国の再興を内外に宣言するというものがあるのだが、そのあたりは政治の仕事であり、軍が関与するものではない。

 

 中央軍集団の総司令官であるクライスト元帥の下に、書状が届けられていた。

 モスコーにもっとも近い部隊――それでもまだ70km程の距離があったが――が連邦軍の特使から受け取ったものだ。

 

 差出人の名前から、前線部隊では判断できかねるとどんどん上へと回されて、最終的に中央軍集団の司令官であるクライストの下までやってきた。

 

「どう考える?」

「欺瞞という可能性が高いかと……」

 

 クライストの問いに参謀長は答える。

 

「もっともな判断だが……本当にそうなのだろうか?」

「……昨今の情勢を鑑みればこの書状の通りである可能性もありますが、敵は精鋭です。士気も、これまでの敵とは違うでしょう」

「どちらにせよ、参謀本部へ報告しつつ相手の出方を見よう。欺瞞だと切り捨てるのは簡単だが、もしも本当であったなら無駄な犠牲を出すことになる」

 

 クライストが受け取った書状、その差出人は親衛機械化軍団の司令官であるジューコフ元帥だ。

 

 

 モスコーを我々で抑え、共産党指導部を全員拘束し、引き渡す――

 彼らはゴーリキーへの逃走を企てているが、ゴーリキー方面軍のティモシェンコ元帥とは協力関係にある――

 連邦軍最高司令部における軍人もまた、全て賛同している――

 実行は9月10日までに行う――

 

 クライストからの報告を聞き、陸軍参謀本部はクライストに進撃停止を命じつつ、空軍へ事情を説明し、9月11日まで空爆を遅らせるよう要請した。

 空軍はそれを承諾し、万が一欺瞞であった場合に備え、投入する航空機の数を増やすことにした。

 

 そして、1926年8月28日。

 ジューコフは帝国軍に消耗を強いる市街戦を実行する許可を得る為、モスコー市内の防衛体制強化をジュガシヴィリへと直談判した。

 ジュガシヴィリはこれを承諾し、必要な兵力をモスコー市内に配置したいというジューコフの要望もまた受け入れた。

 

 ジューコフの提案は誰でも理解できる程に明快で合理的であった為だ。

 

 直談判後、すぐにジューコフはスタフカのヴァシレフスキー元帥に書記長の承諾を得たことを報告し、必要な協力を要請した。

 ヴァシレフスキー元帥は承諾し、万が一の場合に備えて脱出路を確保する為、ゴーリキー方面軍のティモシェンコ元帥にモスコーからゴーリキーに至る全ての街道の警備を命じた。

 

 ティモシェンコ元帥はすぐさまスタフカからの命令通りに全部隊に対し、街道警備を命じた。

 また、モスコーからやってくる輩は全員例外なく調査し、共産党党員は別命あるまで保護(・・)するよう彼は命じた。

 

 

 準備が整い、ジューコフは防衛線から戦車師団1個と自動車化狙撃兵師団3個を引き抜いて、モスコーへと入城した――

 

 1926年9月7日のことだった。


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