我らが帝国に栄光を!   作:やがみ0821

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ターニャの苦労 英国のやり口に詳しいおっさん2人

 

 ターニャはこの3ヶ月で疲れていた。

 参謀本部直轄の戦技教導隊。

 新兵器のテストとかそういうものもあったが、あくまで教官側であると任務内容から彼女は予想していた。

 

 それは正しかった。

 正しかったのだが――ちょっと何かがおかしかった。

 

 その困惑の始まりは異動初日、戦技教導隊の所属する基地へやってきたときのことだ。

 

 やってきてすぐ、ターニャは参謀本部の戦務参謀次長、ゼートゥーアに出迎えられた。

 最初こそ、労いとかそういうものだと思っていたのだが、話すうちに、今後の戦争はどういう形態となるか、あるいは士官学校卒業論文として提出した「戦域機動における兵站と諸課題及びその改善」について尋ねられ、そしてしまいには部隊運用などそういった実務的なものに発展した。

 

 ターニャは良い評価を得るチャンスとあれこれと話し込み、その話し合いは2時間に及んだ。

 そして、最後にゼートゥーアは言ったのだ。

 

 君に良い知らせを届けられるだろう、と。

 

 ターニャはその意味を正確に理解することになったのは、翌日、ゼートゥーアが寄越してきた遣いから知らされた。

 

 軍大学へ推薦しておいた――と。

 

 彼女は戦技教導隊の新米として、古参兵から扱かれる一方で、軍大学入学の為、試験勉強に励むことになってしまったのだ。

 

「サラリーマンをやっていたときよりも、しんどいぞ……」

 

 思わずそんな言葉が漏れてしまう程に、彼女はハードワークであった。

 日中は戦技教導隊の仕事と訓練をこなし、その後に軍大学入学の為に試験勉強を行う。

 

 当然ながら、軍大学の試験は難関であり、士官学校で学んだことが出題範囲となってはいるものの、優しい問題は皆無だ。

 幸いであるのは、推薦されたのは参謀課程ではなく、通常課程だった。

 

 参謀課程は魅力的であり、そこに合格し、無事に卒業すればターニャが望む後方勤務となる。ほぼ間違いなく。

 ゼートゥーアもその課程を落第することなく卒業し、順調に出世して今の地位にある。

 

 だが、ターニャはもし参謀課程に推薦されていたとしても、それこそ3年くらいは完全に受験生として勉強漬けにならなければ合格は難しいと判断していた。

 

 通常課程は択一式と論述問題であったが、参謀課程はこれらに加えて口頭試問が加わる。

 士官学校卒業論文の内容に関して1時間、そして基礎的な戦略・戦術知識について1時間という計2時間だ。

 

 卒業論文について問題点を指摘され、それに対する改善点を述べなくてはならず、また戦略・戦術知識についても、その場で問題が口頭で出題され、それに対する問題点と改善点を簡潔にまとめて述べなくてはならないだろう、と彼女は予想している。

 

 本当に通常課程で良かったとターニャは安堵したのだった。

 

 

 

 

 

 

 ターニャが試験勉強と仕事で疲れている頃、空軍省の大臣執務室でヴェルナーとヒトラーが今後の予想を行っていた。

 

「次にやってくるとしたら、自作自演だろうな」

「ああ、そうだろう。間違いない」

 

 ヴェルナーの言葉にヒトラーは頷く。

 

 2人共、英国のやってきそうなことは大抵、分かっていた。

 伊達に前世で半世紀近く、英国と裏でやりあっていない。

 世の中にある問題、その大抵の黒幕は英国だと2人共確信している。

 そして、協商連合もどうやら連合王国が焚き付けたらしい、という情報がちらほらと2人のところへと上がってきていた。

 

 協商連合との外交的解決は2ヶ月前に終わっており、それに伴って捕虜も返還されていた。

 結局、ノルデンを正式に帝国領土であると協商連合政府が認めるという形で落ち着いている。

 

 安易に軍事力に頼ったが為に云々と協商連合政府は国民から責め立てられており、現政権は程なく崩壊するだろう。

 

 そんな協商連合政府を連合王国が焚き付けたという明確な証拠はない。

 証拠はないが、確信している。

 

 前世にて英国が色々と引っ掻き回してくれた為に。

 名前が違っていようが、英国は英国である。

 今度はノルデンを帝国から奪還しようとかいって、協商連合を焚き付けそうだ。

 

「周辺国と共謀して、帝国軍に偽装した連中が越境して、国境の街や村で略奪をすると個人的には予想する」

「その予想ならば、残酷なる帝国軍という国内向けに宣伝しつつ、帝国内では濡れ衣を着せるような悪逆非道な共和国や連合王国を許すまじ、という扇動工作をするだろうな」

「最終的に世論に押されて開戦。連中がやりそうなことだ」

 

 ヴェルナーとヒトラーが互いに予想を披露し、溜息を吐いた。

 

「もっとスマートにやるとしたら?」

 

 ヒトラーの問いにヴェルナーは告げる。

 

「誰も乗っていないか、もしくは訓練された軍人が民間人に扮して、乗船している客船を大西洋あたりで撃沈し、帝国軍がやったと言い張る。君はどうだ?」

「連合王国や共和国に宣戦布告する為、必要な準備をされたし……みたいな内容を公表して、反帝国感情を煽り、一気に開戦までもっていくというのはどうだろうか」

 

 ヒトラーはそう答え、更に言葉を続ける。

 

「出処は大使館と本国の暗号通信を解読したというものでもいいし、あるいは諜報活動によって手に入れたでもいいし、もしくは良心の呵責に耐えきれず、連合王国や共和国へ知らせてきた良心的な役人とやらでもいい」

 

 それもありそうだ、と思ったヴェルナーは頷いてみせ、口を開く。

 

「最悪を想定した準備として、空軍だけでなく陸海軍も備蓄はしている。燃料から部品まで様々だ。だが、それは3ヶ月保てばいいほうだ。派手にやれば1ヶ月で無くなるだろう」

「国家備蓄として石油をはじめとした各種資源を4ヶ月分貯めてある。完全に植民地からの輸送が途切れても、4ヶ月は問題ない。民間備蓄も1ヶ月分は法律で義務付けてある」

「軍が使えるのは国家備蓄だけだろう。4ヶ月は平時でのものか?」

 

 その問いにヒトラーは重々しく頷いた。

 ヴェルナーは更に問いかける。

 

「戦時で4ヶ月は無理か?」

「無理だな。戦時は消費量が桁違いに跳ね上がる。戦時で考えれば保って1ヶ月。最悪半月だ」

「半月で終わらせろ、なんていくら何でも無理だぞ。最低でも2ヶ月、できれば3ヶ月は欲しい」

「分かっているとも。どうにか増やす……実際のところ、例えば最悪の想定である各国から袋叩きにされるという状態で、植民地から輸送などはできるか?」

「前のように、奇襲的に宣戦布告された場合は難しい局面になる。それに加えて資源という時間制限はあるが、初動対応がうまくいけば問題はない。2ヶ月以内には何とかする」

 

 ヴェルナーの言葉にヒトラーは頷きながら、口を開く。

 

「戦時の消費量は平時の5倍と仮定し、平時で15ヶ月分、戦時では3ヶ月分。これが限界だ。これ以上は予算的にも、何より場所的にも無理だ」

「仕方がない。ああ、分かっていると思うが、ちゃんと分散して備蓄してくれ。破壊工作とかそういうのもありそうだ」

「勿論だ。そこらは警察に加えて、陸軍にも要請しておく。最低でも半年、現状のまま動かないで欲しいものだ」

 

 ヒトラーの言葉にヴェルナーもまた同意とばかりに頷く。

 そして、彼はカレンダーを見ながら思う。

 

 今日は9月12日で、半年もあれば遅延があったとしても馬力向上型を投入できる――

 

 2000馬力に届いていない現在のエンジンは、あくまで繋ぎだ。

 本命は既存エンジンの馬力を向上させ、2000馬力超えとしたものであり、その後には3000馬力級エンジンが控えていた。

 そして、2000馬力級エンジンは来年2月には量産開始の予定となっており、現在のところ遅延するような問題は無かった。

 

 

 

 

 


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