炎々と生きる   作:たぬきち祭り

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鬼殺隊の隊士はどのくらいいるのだろう。


宇髄天元 上

「君の目で、あの子を見定めてほしい」

 

宇髄天元が産屋敷耀哉に言い渡された任務は【観察】だった。

 

#

 

耳を澄ませる。

 

 

 

音を拾う。

 

 

 

声を、砕く。

 

 

 

「で…そう言ったらよ「奥さん今日は鮭が「明日は晴れるとい「漁に出るには「そういや三軒「ゆい、あーそーぼ「なあもう少し負け「なんだよそ「でも分かるなぁ」

 

 

 

 

 

 

自身の背後の男、近くを走り回る子供、魚を品定めする女。ありとあらゆる音を聞き、有用無用を判断する。

 

気配を薄めて、死角から死角へ移動して町の【流れ】に身をまかせる。逆らわず、目立たず、また認識されず、どこまでも薄い男は、だが誰よりも奇異な格好をしていた。

 

まず上背がかなりあり六尺六寸近い、類い稀なる大男である。体は厚く、筋肉に覆われている。また所々に金石を使った装飾品を身につけ、極め付けは背に大刀を二本背負っている。

 

有り体に言えば男は派手だった。まごうことなくこの場にいる誰よりも派手だった。

 

だが人々は彼の存在を認識してはいない。意識の外へとするりと潜り込み、違和感を感じさせることなく空気へ溶け込む。

 

耳を澄まし、音を拾い集め、その大小様々な情報をその男__宇髄天元は選別していく。

 

結果は白。不穏な話は一切聞こえなかった。

 

__鬼に関する情報はなしか。

 

 

こうして【ぬらり】と大通りを歩き、周囲の観察を終えた天元は一人愚痴る。

 

「遅いな……どこほっつき歩いてんのかねぇ、炎柱様は」

 

約束の時刻はとうに過ぎており、連絡用の鎹鴉すら来てはいない。試しに民家の屋根へ登り辺りを見渡すもそれらしき人物はいなかった。

 

空を見上げると雲が陽光を遮り、時刻は昼だというのに辺りはどこか薄暗い。

 

__一雨来そうだな。

 

「動き易くはあるが…捜査には不向きだな」

 

海が近く、潮の香りが漂う風を天元は手で払う。

 

溜息を吐きながらも周囲の感知は怠らない。今は日中とはいえ何が起きるかは分からないからだ。鬼は暗がりならば活動できる。

 

__しかし……平和なもんだ。

 

曇天は気分を憂鬱にさせるがあくまで空模様。その下で暮らす人々は反対に賑やかしいものだった。

市場は賑わい、様々な素性の人間が思い思いに過ごしている。

 

_だからこそ、居るだろうな。

 

町は活気に満ちている。ならば出入りは激しく、多少の人の【減り】は気にも留められないだろう。それは鬼にとって理想的な環境である。

 

「嫌な気配がしやがる」

 

天元は顔をしかめて今回の任務内容を再考した。

 

_炎柱煉獄景寿郎及び甲隊士宇髄天元は件の港町へ調査へ赴き、可能ならば鬼を討つべし。_

 

それが今回天元に課せられた表向きの任務である。

 

【港町で毎夜人が消えている】

 

上記の噂を鬼の仕業と断定した鬼殺隊はその町へ隊士を送り討伐を目論むも三度失敗に終わっている。

 

_前回は俺と同階級の甲が二人。まあ、括りが同じだからって実力が拮抗しているとは限らないが……

 

 

いくらなんでも三度目ともなれば相当に腕の立つ隊士達を向かわせたはずだ。

 

だが討伐報告は上がっておらず、隊士も行方知らずのまま。暫定ではあるが死亡扱いとなっている。

 

故に今回は下手な隠より余程隠密行動に長け、戦闘力のある自身が選ばれたのだろうと天元は当たりをつける。

 

__俺が事態の把握、索敵を主として、件の炎柱が事の収拾にあたるってところか?

 

炎柱 煉獄景寿郎。

 

未だ顔を合わせたことは無いが、かねてより噂は聞いていた。

隊士達が話す噂話に本気で傾倒するわけではないが、情報収拾が半ば癖になっている天元の耳には嫌でも話が入ってくる。

 

__大抵は根も葉もない噂。取るに足らんものだったが……記録は嘘をつかねえ。あの【内容】も改竄したにしては意味がないだろうしな。

 

耀哉より裏の目的を聞かされていた天元は、この任務に出る前に煉獄景寿郎についてある程度は調べていた。

 

表立って人となりを聞いて回る訳にもいかず、さりとて主観が混ざった情報はその対象の見方を曇らせる要因になりえる。したがって本部に保管されている任務記録に目をつけたのだ。

 

調べたのは柱後の記録。

 

そして記録にはある噂と似通った一文が載っていた。

 

__あの柱と任務に出た者は生きて帰ってこられない。

 

__現在、炎柱煉獄景寿郎との合同任務において、柱以下一般隊士における殉職者は百二十五名。

 

鬼殺隊の特性上、人死には避けられないが凄まじい数字である。

 

無論、柱が請け負う任務の難易度は一般隊士に比べ高い。だがいくらなんでも死に過ぎだろう、と天元は思った。

 

__担当した隊士が下手を打ったにしては数が多い。かと言ってそれ程までに任務が苛烈なのかと思えばそうでもねえ……現にほかの柱における合同任務の死亡率はここまでじゃあない。遡って計算してみれば九割超えてるじゃねえか、こいつは明らかに異常だ。

 

疑念が天元によぎる。だがそれはあってはならないモノであり、ともすれば最大限の侮辱である為に口には出さない。

あくまで客観的、好悪も何もなく、ただ純粋に冷静にその可能性をはじき出す。

 

__万が一にも無い話だとは思うが…鬼に仲間を売っている?

 

それは半ばこじつけ、言い掛かりに等しいものだったが事実として無くはない、と天元は考える。

 

自身が助かる為、あるいは窮地に陥った時に盾として使った。

 

__………阿呆か、俺は。柱がそんな真似するかよ。

 

 

飛躍が過ぎる、もはや妄想の類だ。だが天元の素性がその考えを消すことを許さなかった。

 

宇髄天元は元忍である。

 

今ではこうして鬼殺隊として鬼狩に勤しむ日々ではあるが、通常の隊士とは異なり天元の任務はどちらかといえば隠よりだ。

 

事後処理こそしないものの通常の隠には任せられない鬼殺隊のほの暗い部分を一手に請け負っていた。

 

__『ごめんね、天元。本当はこんなことは君にさせたくはないのだけれど』

 

__会う度にあの方はそう俺に謝ってくださるが、なに…慣れたもんだ。

 

_こんな殺伐とした組織だ、そりゃあ大なり小なり出てくるさ、裏切り者なんてな。

 

 

宇髄天元は知っている。

 

 

人は、弱い生き物であり、脆く、儚いから強いのだと。

 

 

 

#

 

__手前や親しい誰かが死にそうだと分かればなんだってするのが人間だ。善かれ悪しかれ潔くなんてのはどこかしら大事なモンが壊れてんだよ。

 

いつだったか、天元は共に任務を終えた帰りに煉獄杏寿郎に語ったことがある。

食事を済ませ酒も入った天元は普段見せない自身の内をほんの少しだけ晒した。杏寿郎という気持ちの良い男にあてられたというのもある。

 

__『ならば俺の兄上はやはり狂っているのだろうか!』

 

__いや、お前の兄貴とやらは知らないが…

 

__『兄上は母上の葬儀で泣くこともなく、別れは済ませていたなどと言って表情一つ変えることはなかった!』

 

__ならそれが答えだろ。

 

 

__『どういう意味だ?』

 

 

__別れは済ませたってことは薄情とかじゃねえんだろうし、当人同士で納得がいってたんだろ。

 

__『俺は納得いかない!』

 

 

__お前の問題じゃねえのさ、それは。

 

__潔いってのはな、狂ってるとかじゃなくて他に選択肢がないってことだ。なんていうかねえ……狂えもしないんだよ、笑っちまうくらいに諦めてんだ。

 

__『宇髄殿の話はよく分からん!』

 

 

__まあ聞けよ。

 

__『何をだ!』

 

 

酔い痴れた頭で思考はおぼつかず、半ば独白じみた天元の言葉にも律儀に杏寿郎は返してくる。

思わず笑った。そういう杏寿郎の明るさと生真面目な性格に好感が持てるのだ。

 

__全てを、だ。あるがままにただ受け入れる。ああどうしようもない、ならばそれが事実であるってな。

そこでお前さんみたいに我武者羅に遮二無二突っ走って勝ち筋探すようなやつは【まとも】だぜ。誇っていい。

 

__『ううむ…それは褒めているのだろうか!まあ賛辞ならば受け取っておこう、ありがとう!』

 

 

__だからよ、痩せさらばえて死期を悟った爺さん婆さんが妙に眩しく見えるのは潔いからなんだよ。

 

__『………母上は、どうだったのだろうか。宇髄殿の話だとその、壊れているということになるのだが納得できないぞ!あの人は素晴らしい人だった‼︎』

 

__知らねえ奴をぽんぽん出してくんじゃねえよ!ったく、大体壊れてるってのは悪い意味じゃないんだぜ。

生きているならば人はいずれ死ぬ、例外なくな。劣化ってのは避けられないことだ、老いで、あるいは病か事故か。いずれにせよ何かが欠けて人は死ぬんだ。

 

__『………ふむ』

 

 

__ようやく俺様の有難い話を聞く姿勢になったな。

だからな死ぬ間際の人間は皆壊れてんだよ、そこで喚くやつはしぶとく生きる。静かに散るのは覚悟してんだよ。

 

__『覚悟、か』

 

__どういう母親だったか知らねえけどな、お前みたいな愚直な奴を育てたんだ。さぞかし芯の通った人だったんだろ。喚かず、慌てず、失望させず、息をひきとる事の難しさが分かるか?

 

__『それは、分かるような気がするぞ!母上は立派な最期だった!』

 

__だから、悪いことじゃねえよ。お前の中に、確かに残るものはあっただろうしな。

 

__『しかしやはり兄上の振る舞いは納得いかない!俺は正直嫌っている!』

 

 

__………煉獄。ひとつ助言だ。

 

 

__『なんだ?』

 

 

__兄弟の縁ってモンはな、意外に細いんだよ。お互いどこかで妥協しなけりゃぷっつりと切れるぜ。

 

天元(おれ)がそうであったように。

 

__『妥協はできない!……が、宇髄殿の言う通りこのままでは良くないことは分かっている!』

 

__なら答えは一つだろ。どうせ同じ腹から産まれたんだ、根っこは似通ってると思うぜ。

 

__『と、すると?』

 

 

__話せよ、お互い。そんで気に入らなけりゃ殴り飛ばしてやれ。

 

 

__『乱暴すぎやしないだろうか!』

 

 

__そんでもって殴られろ。そこまでして初めて見えてくるものがある…と俺は派手に考える。

 

 

__『……もしや宇髄殿は相当に酔いが回っているのではないだろうか?』

 

 

__俺がそのことに気づいたのは随分と後だった。手遅れだったさ。

 

 

 

__『うん?』

 

 

 

__まあ、頑張りな。弟さんよ。

 

 

 

 

__『なにがなにやら!』

 

 

#

 

「……今にして思えば、後悔してんのかねぇ」

 

__だが、今は無用の感情だ。

 

再び気を引き締め、場所を変えようと腰を上げると雨粒が天元の頭に落ちた。

 

「降ってきやがったか」

 

ぱらぱらと小雨だったのは数秒で次第に豪雨へと変化する。肌に雨粒は確かな痛みとなり、空は黒く覆われていく。

 

「おいおい……これじゃ、任務どころじゃねえぞ」

 

待てども炎柱は現れず、人々は軒先を求めて家路へ急ぐ。雷鳴轟き、女子供の甲高い悲鳴が一瞬聞こえた。

 

「……とりあえず、宿に戻って今後の方針を「甲隊士、宇髄天元殿だろうか?」っ‼︎」

 

____。

 

それは身体に刻まれた、反射行動だった。完全に意識外から声をかけられた天元はしかし虚を突かれたとは感じさせない速さで迎撃に移行する。

 

振り向きざまに抜刀し、そのまま遠心力で斬りかかる。足は後ろに、瓦が割れるほど力強く踏みしめ。大きく下がり距離を空ける。

 

それでもなお、柄同士が鎖で繋がった天元の独特な日輪刀は対象へ斬撃が届きうる。

 

__しくじった!背後を取られるなぞ元忍の名が泣くぜ!

 

しかし天元の日輪刀は同じく日輪刀によって弾かれる。無意識の内に迎撃行動に移った天元の視界に入ったのは隊服を着た一人の男だった。

雨に濡れた髪は光を吸い込まんばかりに黒く、鈍く、風に揺らめいている。

 

「………どうか、したのだろうか?」

 

天元を見つめる眼は微動だにしない。

 

「あんた…炎柱様か?ったく遅いぜオイ!地味に登場しやがって肝が冷えたわ‼︎」

 

どすどすと音を上げながら天元は炎柱、煉獄景寿郎へと近づく。

 

「大体どこほっつき歩いていやがった連絡の一つくらい寄越しやがれ!」

 

「此処に向かう途中、急な任務が入った。連絡を怠ったことは謝ろう」

 

「当たり前だわ馬鹿が!あやうく味方殺しになるところだったわ‼︎」

 

___こいつが、煉獄景寿郎か。

 

天元は一見腹を立てて怒鳴っている風に装っているがその実思考はきわめて冷静に眼前の男に回していた。

 

___アイツとは似てねえな。むしろ真逆だ。

 

派手な髪色と快活な【さま】の杏寿郎とはうってかわり一言で表すならば【しじま】だろうか。

 

__妙な静けさと、浮世離れした存在感。なるほど此奴は【俺向き】だ。

 

大抵の者はこの男の異様さにあてられたじろいでしまうだろう。それは畏怖か嫌悪かは分からないが何れにせよ心の隙間にするりと入り込んでくる【怖さ】がある。

 

__舐めるなよ。あいにくとその手の輩は見慣れてるんでね。

 

魑魅魍魎が何するものぞ、宇髄天元は元忍、先程は遅れをとったが摩訶不思議な人外じみた者は【前職】に腐るほどいた。

 

眼を合わせるだけで人を狂わす者。

 

 

火や水を口から吐く者。

 

 

骨格をいじり、凡ゆる他者に変化する者。

 

 

果てはいくら傷を負っても死なぬ者。

 

 

天元こそ技術の高い通常の忍だったが自身のいる場所より更に奥、深淵にはそういう鬼と見まごう化け物達が棲まうことを知っていた。

 

__今回の任務は派手なことになりそうだ。

 

「………さっきは悪かった。改めて、宇髄天元だ。まあ、よろしく頼むぜ」

 

天元は破顔する。それは知ってか知らずか。

 

「……煉獄景寿郎。状況を聞こう」

 

 

___見定める。お前という男をな。

 

 

二人の影を雷が照らす。雨はしばらく、止みそうもなかった。

 

 

 

 

 

 




余談ですが他の方の作品を読んでいると原作キャラが会話していても違和感がないのですが、自分が文字で起こすとどうにも違う気がしますね……特徴を掴みきれていないのかな、と。なんだか半オリキャラ化しているというか…
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