炎々と生きる   作:たぬきち祭り

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小噺などと言っておきながら長くなってしまっているのは作者の力量不足と遅筆によるものです、申し訳ない。

なんだが文がごちゃごちゃになってしまった…


宇髄天元 中

鬼は元人間である。

 

決して理解に遠く及ばぬ妖の類ではないのだ。ならばその性質は人間であった頃よりそう変わりはない。

 

理外の存在に在らず。

 

したがって超常たる力を手に入れた場合の行動は大方が力の誇示だった。我、人を超えし者なりと声高に主張し、凡その鬼は無駄な自己顕示に陥りやすい。

通常、大体の鬼はその段階で狩られる。

なにかの偶然か、あるいは鬼になって尚疑り深く、慎重なモノが鬼殺隊の障害足り得る存在へとなっていく。

 

__割に合わねえ仕事だよ。

 

此方が必死に鍛える間にただ食らうだけで鬼はより強く、より硬く、より凶悪になっていく。

 

__だが、それでいい。

 

と、宇髄天元という男は思っている。

 

__化物の特権なんざ糞食らえだ。おお、おぞましい。地に足つけて当たり前に生き、当たり前に死ぬのが人間よ。

 

生まれがどことは知れず、物心ついた時には忍びとしてどっぷりと浸かっていた。

そんな天元が求めたものはその生き方に反して【平穏】だった。あるいはそういう半生だったからこそなのかも知れない。

 

__妻を娶り、子を成し、次代へ紡ぎ、そして死ぬ。

 

それが願い。それでだけで己は満たされる。

 

が、どういうわけか天元には悪癖ともいうべき衝動がある時を境に内に生じた。

 

【派手】

 

言葉に表すならばこの文字だった。

それは己という個を消し、一人の忍びとして生きる事を強いられた故の反発であった。

 

より鮮烈に。より強烈に。我が【さま】を目に焼き付けろ。

 

そうして生きて鬼殺隊としての今がある。

 

死は近く、仲間は次々に消えていく。

 

__だからどうした、俺は生きている。

 

鬼は強く、戦いは辛く激しい。

 

__委細承知、さあさここが地獄の手前だ。

 

 

人が死んで心が悲しまないわけではない、鬼との戦いで恐怖を抱かぬわけでもない。

だがそれ以上に天元は楽しんでいた。

 

__俺は結局、つまるところはこういう人間だ。

 

殺しが、ではない。人を守ることでもない。その【人生】がである。

 

宇髄天元は酔っている。己という存在に心底惚れ込んでいるのだ。

持ち前の冷静さを失わないまま、正気のまま狂っている。

 

どこまでも冷めていて、際限なく己に酔っている。

才は限りあり、頂点に届かず。だが何より自身の【身の丈】を知っている男は誰よりも人生を楽しんでいる。

 

泣き、笑い、猛り、叫び、また笑う。

 

それが宇髄天元という男だった。

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

ぱちぱちと、火の粉が爆ぜる。

 

「……現状、市井に鬼に繋がる情報はないと?」

 

天元が手配した宿へと戻り、各々火鉢にあたって暖をとる中、景寿郎はそう呟いた。じっと明滅する火花を見つめている。

自身の火鉢に被さるような姿勢で天元は応える。

 

「ああ。不穏な噂は無かった」

 

冷えた身体にじわじわと熱が広がる。気を張っていた所為か【くあ】、と欠伸が出た。

 

「よほど隠形に長けた鬼か……成り立てらしい、ひけらかしも無いとくれば…さて、どうするんだ?」

 

天元からは景寿郎の顔は見えない。若くして柱になった眼前の男は天元に背を向けて火鉢にあたっているからだ。

 

__後ろ姿だけ見れば女と間違えかねん。

 

男しては長い髪は水分を含み、時折水滴が畳へと落ちる。てらてらと光る黒髪は下手な女人よりも艶がある。

 

「どう、とは」

 

景寿郎が振り向かぬまま応答する。

特に気にすることもなく天元は上体を起こし胡座をかく。

 

「八方塞がり、とは言わないがとっかかりがない。先に入った隊士は消息不明、近隣住民から探りはできねえとくれば、って話よ」

 

頬杖をつき外に目を向けると依然として雨はざあざあと降っていた。

 

「隊士は順に庚、丁、甲。計五人」

 

景寿郎の声に陰りは無く、あくまで淡々と話を進める。

 

__今更何の確認だ?

 

視線を外へ向けたまま聞き入る。

 

「その隊士達の中に見知った者はいただろうか?」

 

「……いたぜ」

 

丁に一人、知り合いがいた。過去に何度か合同で任務にあたっており、それなりに相手の事は知っている。

 

丁隊士 東雲大吾郎(しののめだいごろう)齢三十にして鬼殺に勤しむこと十年。年月のわりには良い意味で風格を感じさせない男だった。

 

__宇髄さんは(つよ)かねぇ、安心して背中を任せられるわ。

 

よく笑い、場を和ませるのが得意で酔うとよく腹芸を披露する剽軽(ひょうきん)なところがあった。水の呼吸の使い手である。

 

__あの人がなぁ。

 

と、報せを聞いた時天元は思った。

 

いつも多少訛りの入った口調で話す東雲の戦い方は質実剛健といったふうで、慌てず無理をせず堅実に勝ちを狙うものだ。

それ故に殉職が絶えない鬼殺隊において十年もの間生き延びてきたのだろう。

 

__分からねえもんだ。

 

けれども良き人ほど往々にして亡くなりやすいものだ。

 

などとぼんやりと天元が想いを馳せていると冷や水を浴びせられるような言葉が飛び込んできた。

 

「何の痕跡も残せぬほど弱かったのか?」

 

___こいつ。

 

天元は思わず刀の柄に手が伸びそうになった。だが間を置き、首だけを景寿郎へとやる。その視線は鋭い。

 

「…………あのよ、炎柱様。俺はあんたに会ってまだ一日と経っちゃいねえが早くも嫌いになりそうだよ」

 

「そうか」

 

炎柱は動じない。

 

留めたのは景寿郎の聞き方があまりにあっけらかんとしたものだったからだ。表情は分からないが、その声色に侮蔑や嘲笑の類は宿っていない。

 

__頭ばかり回る奴は迂遠な会話を好むというが、こいつは違う。気配で分かるが大真面目に聞いてやがる、只の馬鹿だ。

 

阿呆だ、とも思う。この短い間で天元が理解したことは景寿郎はとてつもなく会話が下手だということだった。

 

「会敵したのは間違いない。では何故何の痕跡も見つからない」

 

「大方鬼が隠したんだろ、血だの死体だのが見つかれば騒ぎになって【食事】どころじゃない。ただの失踪に見せかける為に隠蔽したってところだな」

 

「出来ると思うか?」

 

「言っておいて何だがちと厳しいものがあるな。戦闘の後を隠すってなると死体だけとはいかねえ。辺りにもそれなりの痕跡が残るし、誰かが見聞きしてもおかしくはないな」

 

気づけば、お互い面と向かって話していた。

 

両者、といっても剣呑だったのは天元だけだがそんな雰囲気はなりを潜め、滔々と今回の事態の可能性を探っていく。

 

「犠牲者の共通点は?」

 

「ない。強いて言えば子供が多い程度だ、だが単純に後ろ暗い事情で失踪した輩もいるだろうから正確な数は分からねえ」

 

「遺族は鬼を見ていないのか?」

 

「口を揃えて出掛けていったきり帰ってこない、だと。唯一姿を捉えたってのが此処の主人だ」

 

天元はくい、と親指を畳へと下げる。

 

「……私達が日輪刀(これ)を持って宿に入っても文句一つ言われないのはそのためか」

 

「流石に他の宿泊客には見せるなって釘を刺されたがな。…もう一週間ほど前になるらしい。文太というそうだ、歳は五歳になるらしい」

 

「……さぞ無念だったろう」

 

___悪い奴ではないと思うんだがな。どうにも惑わされていけねえ。

 

天元はこの名状しがたい感覚に戸惑いを覚えていた。景寿郎のクセというべきか、人としての種類が分からない。

 

__神経を逆なでする発言をするかと思えばこの態度、どうにもちぐはぐだ。

 

常識がないわけではないだろう、受け答えもはっきりしている。だが奇妙な違和感が常に纏わり付いている。

 

__どこか演技くさい。芝居じみてやがる。

 

それが天元の率直な感想だった。

 

__だが取り繕ったり、騙してどうこうってそぶりじゃない。此奴はこれが素なのか?

 

「その主人はなんと?」

 

「いや、ちらりと見えただけらしい。口の端を血で濡らした人型の化物(なにか)をな」

 

__煉獄…お前の兄貴ははかり難いな。

 

過去のどの手合いとも違う、この妙な齟齬。今だってこうして話しているというのに何かが致命的にずれている気がする。

 

__まあそれはおいおい分かっていけばいいさ。

 

しかしその不安を天元はぱたりと心の底に封じ込めた。

その意識の切り替えの早さこそが宇髄天元の優れたところである。

 

「不意打ち、あるいは共謀か」

 

「なくはない、か?」

 

しばし議論は続き、鬼の全容を探っていたところで景寿郎が一言。

 

「……少々心当たりがある」

 

といった。

 

 

「心当たりだと?」

 

たまらず腰を浮かして詰め寄ろうとする天元に対し、景寿郎は身を引き壁に寄りかかって目を閉じた。

 

「雨が上がり次第、確認する」

 

そして手元の日輪刀を腕に抱くと動かない。

 

「えらく勿体ぶるじゃねえか」

 

天元は悪態をつきそうになるも堪え皮肉げにそう告げる。

 

するとその言葉に薄眼を開け、景寿郎は一言呟いた。

 

 

 

 

 

__私の予想が正しければ、今日はもう出ない。

 

 

 

 

 

結局雨が上がったのは日をまたいだ明朝だった。

 

#

 

あたりはまだ薄暗い。空は暗く、相変わらず雲が覆っていたがちらほらと太陽が見え隠れしている。周囲を探るのにそう苦労はしないだろうと分かると二人は宿を発った。

 

「……随分降ったな」

 

ぐじ、と地面を踏んだ足が沈む。どうやら昨日の雨で随分と泥濘んでいるようだった。天元は泥がついた隊服を憎々しげに見つめながら口を開く。

 

「で、確認ってのはなんだ?散々待たせたんだ、さぞ重要なことだろうな」

 

路地を通りやがて大通りに出ると景寿郎は立ち止まって地面に視線を落とした。

 

足跡(あしあと)だ。ソレが分かれば確信となる」

 

「なに?」

 

訝しげに景寿郎を見やり、習って下に目線を這わすとそこには大小様々な足跡が地面に残っていた。

 

「こいつがどうしたって………」

 

__まて、足跡だと?

 

天元には何か引っかかるものがあった。景寿郎を無視して思索に耽る。

 

「鬼と人との違いを考えたことがあるか?」

 

景寿郎が天元へ語りかけるもその言葉は入ってこない。

 

「不死身の如き再生力、摩訶不思議な異能たる血鬼術、だが最も単純で脅威なものはその【膂力】だ」

 

__思い出せ、昨日のことだ!

 

「一度腕を振るえば凶器に成り、蹴りの一撃でもまともに喰らえば大抵の生物にとっては致命傷だ」

 

 

__で…そう言ったらよ_奥さん今日は鮭が__明日は晴れるとい_漁に出るには_そういや三軒_ゆい、あーそーぼ__なあもう少し負け__なんだよそ_でも分かるなぁ_

 

 

「ではその力の源は何か。実に単純なことだ」

 

__俺は確かに聞いた筈だ。

 

 

「鬼は人に比べ、筋肉の内包量が遥かに多い」

 

__魚屋の主人ではない、酒屋の娘ではない、値切る主婦、立ち話をしていた男女、明日晴れることを祈っていた老婆全て違う!

 

 

「宇髄殿と合流する前に私は一人の童を見かけた」

 

__あの走り回ってた子供。

 

「その子を【視る】とその身長体格からは不釣合いな程の筋繊維の密度だった」

 

__その時の足音は子供にして酷く重く、大きくはなかったか?

 

 

「以前に甘露寺に稽古をつけたことがあったが、あいつの比ではなかったな」

 

 

__ゆい、あーそーぼ__

 

 

「あいつか」 

「要するに鬼は重いのだ」

 

奇しくも声は重なった。導き出した答えは共に同じである。

 

二人が見つめる視線の先には一際目立つ足跡があった。他より深く、ざっくりと窪んだ地面にはなみなみと雨水が入っており、その大きさは年端もいかぬ子供のものだ。

 

油断するわけだ、こんな町中、夜中だろうと子供に会えば即座に刀を抜くわけにはいかないだろう。

 

___そこを突かれたか。

 

 

「辿るぞ、付いて来られるか?」

 

仔細(しさい)ない」

 

まだ人影がない大通りを二人は駆ける。

 

「大体分かってたんなら昨日のうちに何とかしろや!」

 

「昼間の市場で刀を抜けと?それにあの時は確証が持てなかった」

 

「そんなもんは斬ってから考えろ、兎にも角にも目標は定まった。ここからは派手に行くぜ!」

 

「いや、討伐に派手さはいらない。迅速に頸を狩るのが肝要だ」

 

「てめえは真面目か、アホ助が!なんか悩んでたのが馬鹿みたいだぜ、お前らやっぱ似た者同士だわ」

 

「何の話だ」

 

「五月蝿え、いいから俺に付いてこいっ!」

 

 

悪鬼との邂逅まで、あと僅か。




どれだけ先になるかは分かりませんが、この後は久々の戦闘回と無一郎の話を予定してます。

毎回裏テーマみたいなものを考えているのですがお館様との語らいが【始動】で天元回が【青春の始まり】なんですけど少しでも伝わってくれれば幸いです。
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